★ファーストライトには成功したものの
構想(妄想)から数ヶ月を費やして完成したLRGB同時露光用の「ビームスプリットシステム」ですが、
なんとかファーストライトにも成功して、まずまずの成果を得ました。
ただ、どうしても「気色悪い」。
40mmもの厚さのガラスが光路中に割り込むんですから、直感的には、かなり弊害が出ると予想してたんです。
・・・・と言うわけで。
★少し真面目に『考察ごっこ』してみる
作成記事を書いたときにも記載したとおり、どう考えても
○負の球面収差が発生してしまうハズ
○軸上色収差が発生してしまうハズ
なのです。
・・・・ちと、考えてみます。
空気面とビームスプリッタとの間では下記の図のように
対物レンズから焦点に集まろうとしている光束が屈折して光路がズレてしまいます。
その結果、
このように、
ピント位置が後ろにズレる現象が起きます。
また、この現象は対物レンズの周辺部になればなるほど(入射高が大きくなればなるほど)効いてきますので、レンズの周辺部を通る光ほど近くに焦点を結ぶという「一般的な球面収差」とは逆に、「負の球面収差」が発生してしまいます。
また、長波長の(赤い)光ほど遠くに焦点を結び短波長の(青い)光ほど近くに焦点を結ぶという「一般的な軸上色収差」とは逆の方向性を示す特殊な色収差も発生してしまいそうです。
★FORTRANやDelphiを持ち出すのはイヤなので
若かりし頃(理系だった頃)なら、ここでプログラミングしてレイトレーシング(光線追跡)してみるところですが、今はそんな元気はありません。
ただ、収差曲線を描くだけなら結構シンプルに(せいぜい高1レベルの基礎的数学だけで)計算できるハズなので、得意の「EXCEL君に頑張らせる」方向でシミュレートしてみることにしました♪
ええと・・・
メーカーさんによると、今回のキューブ型ビームスプリッタの素材はBK7です。
むう・・・中学生~高校生の頃は、望遠鏡光学にハマってた時期で、主要な光学ガラス(BK7はもちろんF2とかSF2とかBaK4とかKzF5とかCaF2とかFK01とか・・・・ね。)の波長ごとの屈折率やアッベ数は5~7桁くらいの精度で全部暗記していて、関数電卓片手にハルチング解を解いて対物レンズの設計ごっこをしていたものだけど、もはや何も思い出せないなあ。(いや、今思い返すと当時の自分、アホです。そんなことやってるから学校の数学で赤点ばかり取るんですねー。ああ、他に頑張るべき事があったろうになぁ・・・・。)
よし、昔の勉強ノートや教科書が見つからないので、ガラスメーカーのデータシート以外「カンニング無し」という条件で頑張ってみます。
★・・・小1時間ほど悩んで
「ビームスプリッタの仕様と設置位置と撮像素子の位置を打ち込むだけで収差曲線を自動作成するEXCELのワークシート」
ほどなく完成♪
早速、今回自作したビームスプリットシステムによる弊害を定量的に「検証ごっこ」できる収差曲線を計算させてみましょう。
想定した初期条件は下記の通り
○望遠鏡はVMC260Lと同等の口径260mm・焦点距離3000mm
○望遠鏡は無収差であると仮定(色収差も球面収差も)
○ビームスプリッタを構成するガラスはホウ珪クラウンガラスBK7
○用いる光は、C線(赤)・d線(黄)・e線(緑)・F線(青)・g線(紫)
○ビームスプリッタから撮像素子までのバックフォーカスは100mm
すると・・・・
・・・ででん!
おお!
なんか、直感的に考えていたとおりの収差曲線が出てきましたよ♪
ふむ。
計算の結果、やはり負の球面収差は発生していますねぇ。いわゆるオーバーコレクションってヤツですなあ。
天体とは関係ないけど、これ後ボケが二線ボケ起こして汚くて、前ボケはフンワリ滑らかになるレンズになりますなあ。
ええと、
色収差は思ったよりも少なめだなあ。
感覚的には口径10cmF10程度の屈折望遠鏡を素人が設計した場合、ざっくり言ってアクロマートならd線からg線までの二次スペクトル(色収差)量が2mm程度、EDレンズを用いた場合でも0.5mm程度はあるはずなので、口径260mmのF11.4 なら単純にその2.5倍程度、すなわちアクロマートの場合で5mm程度、EDアポの場合でも1.2mm程度の色収差は発生するはずです。
今回のシミュレーションではd線~g線までの色収差量として0.2mm以下に収まっていますので、ある意味「EDアポよりは高性能」と言えますね♪
★というわけで・・・
収差の発生する「方向性」は予想通りだったけれども、心配したよりもその「絶対量」が少なかったため、ほとんど影響なしと考えて良さそうです。
・・・そりゃまあ、実際に木星があれだけ写ったんですものねぇ。
★あっ!そういうことか!!
本題とは関係ないですが、今、気づきました。子供の頃、何かの本で
「屈折望遠鏡に天頂プリズムが付いている場合、天頂プリズムを使った方が、素の状態よりも良く見えることがある」
という感じの記載を見つけたことがあって、
「そんな馬鹿な・・・・」
などと思って笑っていたのですが、今回真面目に計算してみて「分かり」ました。
平面ガラスって、実は一般的な望遠鏡の収差の出方と逆の方向性を持っているのですね。
とすると、ビームスプリッタ(をはじめ天頂プリズムなどの『分厚いガラス』)を通過させると「素の屈折望遠鏡」よりもよく見える可能性、アリアリですね。
さて。
もしも、数日後に天気が悪かったら、さらにEXCEL君に頑張ってもらって『なんちゃってレイトレーシング』することでスポットダイアグラムまでシミュレートしてみましょうかねぇ??
★★★ お 約 束 ★★★
本記事はあくまで考察『ごっこ』です。
現在のあぷらなーとは理系と言うよりも文系のため、多々間違いが含まれている可能性があります。
結果は鵜呑みにしないことをオススメします。