天体写真

ショットノイズの考察ごっこ②

★やはりドタバタして実写できないので・・

年度末は元々忙しいのですが、今年はさらに色々と重なったので毎日ドタバタで天体観測できません。
・・・というわけで、前回の(意外なことに反響が大きかった)考察ごっこを進めることにしました。

★前回のまとめ
ショットノイズの考察ごっこ②_f0346040_22523585.jpg
VMC260L+ASI1600MCで撮影した場合を想定して、M27亜鈴状星雲から飛んで来る光子の粒々の到来フラックスを色々と考察ごっこした結果、
ゲイン400で15秒露光すると、1ピクセル当たり約2030カウントの輝度値が得られることが予想されました。
さらに過去の実写データを解析すると、バックグラウンドが約4300カウントでM27上の値が約7200であることから、M27から飛来した光は約2900となり、オーダーレベルでの比較的良い一致を見ました。

★ということは・・・

前回のシミュレーションのロジックは、あながち間違ってはいないと言えそうです♪
・・・で、いよいよショットノイズの正体に一歩迫ることにしてみます。

前回仮定したのは、明るい天体からは間断なく、暗い天体からはパラパラと光子が飛んできており、その飛来頻度は光子がポアッソン分布にしたがっているというものです。
その仮定に基づき実写データと比較した結果として前回得たバックグラウンドの明るさを元にして、どのように光度分布しているのかをシミュレートしてみました。

ショットノイズの考察ごっこ②_f0346040_00334318.jpg
バックグラウンド(天体が無い夜空の明るさ)を元に、実際の撮像素子上に飛来する光子数がどのように分布したのかをシミュレートしたのが上のグラフです。
これは、F7.1の光学系にマイクロフォーサーズ1600万画素のカメラを用いて、15秒露光した場合に相当します。
(背景光は面積体なので、光学系の口径は関係なく、F値のみで光子数が決まります)


★ショットノイズをシミュレートするために

「単位時間当たりの光子数が一定ではなく、揺らいでいることがショットノイズの原因」だという仮定の下で、実際のノイズが再現できるかを試みてみます。
私がまだ『理系』だった頃、ランダム性を持つ事象のシミュレーションにはモンテカルロシミュレーションを用いていたはずなのですが、ポアッソン分布のモンテカルロのやり方を完全に忘れてしまっていたので(すでにアホになった頭で)泣く泣く考えてみることに・・・。

ショットノイズの考察ごっこ②_f0346040_23124409.jpg
ポアッソン分布を規格化(全イベント数の合計が1になるように調整)した場合には、上の図のようにA~Fの事象が起こる確率を示すグラフになります。
そこで、下の図のようにそれぞれのグラフを短冊のように切り出して・・・・・
ショットノイズの考察ごっこ②_f0346040_23145239.jpg
こんな風に下から繋げます。
すると、ちょうどポアッソン分布の確率密度関数を積分した事になるはずので・・・・・

ショットノイズの考察ごっこ②_f0346040_23164244.jpg
0~1までの数値を乱数を用いて与え、その値に相当する高さの短冊の名前を読むことにします。
そうすると、各事象の短冊の長さは発生確率に一致しているため、乱数から得た事象の登場頻度はポアッソン分布に従うはずです。

・・・・うーん。『理系』だった頃は、これを「積分モンテカルロシミュレーション」とか「1次元化モンテカルロシミュレーション」とか呼んでたっけなぁ・・・。
本当は、確率密度関数を積分したものについてその逆関数を求めてから乱数をぶち込んでいたはずなのですが、今回のような離散的な関数の逆関数は厄介なので、短冊接続方式で行きます♪


★ここに来て、壁に・・・

さて・・・と。どうやって各短冊に該当したかを判定するかなぁ・・・・。
コーディングはしたくない気分なので、できるだけ手抜きしたいなぁ・・・。
・・・という訳で、
ショットノイズの考察ごっこ②_f0346040_23300866.jpg
こんな演算テーブルをEXCELで作って各セルから参照し、ヘビのように長~いIF文で条件分岐させるという、ベタベタな方法で行ってみます。

★背景光の揺らぎ推算結果は・・・・
ショットノイズの考察ごっこ②_f0346040_23331357.jpg
量子効率の補正、ゲインの補正、16ビット変換補完、などなどを行った結果として、
ゲイン400で背景を15秒露光した場合に50×50ピクセルの撮像素子から得られる出力イメージは上記のようにシミュレートされました♪

★でもASI1600MCはベイヤー機なので

実写データと見比べるために、このシミュレーションデータをRAW画像として、以前作ったデモザイク(ディベイヤー)処理ツールに通してカラー画像化を試みます。
ショットノイズの考察ごっこ②_f0346040_23410084.jpg
左がRAWデータのシミュレーションで、右がデモザイク後のシミュレーションです。
なにやら、実際の撮影画像でよく見る感じのモヤモヤしたノイズが再現できていそうですね♪

★実写データと比較してみる

最後に、実写データの中から、天体が写っていない領域を強トリミングしてシミュレーションと見比べてみましょう。

・・・すると・・・

ショットノイズの考察ごっこ②_f0346040_18540284.jpg

左がシミュレーションで、右が実際にASI1600MCで撮影した背景ノイズです。
一応、ダークファイル減算のみ行っています。
ガンマ補正を考慮していなかったり、カメラ側のリードノイズなども考慮していないので、全く同じとまではいきませんが、
どうでしょう?
いつも背景に現れるモヤモヤした雲状のカラーノイズらしきものが、バッチリ再現できたのではないかと、自画自賛♪

・・・という訳で、
ASI1600MCで短時間露光撮影した画像に見られる「背景のモヤモヤ」は、主として、飛来する光子の揺らぎを捉えたショットノイズだと結論づけられそうです。

★注★ このノイズはあくまで自然現象に起因するノイズなので、ディザリングの有無を問わず、コンポジットのみで改善します。

P.S.
今後、相変わらず天体観測できなかった場合は、さらに、

「明るい夜空から対象天体を弁別できるスレッショルド(閾値)はいかほどか」
「カメラのビット数はどのように寄与するか」
「短時間露光×多数枚コンポの利点はなにか」
「リードノイズ、ゲインノイズを考慮した場合のスレッショルドは?」

などなど、「考察ごっこ」を継続してストレスを発散させます。

普段の本業では、超文系作業(生徒の小論文の添削や、大学入試予想問題としてオリジナルの評論文とか小説とか随筆とかの執筆)ばかりやってるので、たまに理系『ぽい』ことをやると疲れが取れますねぇ。



Commented by けむけむ at 2017-02-28 05:13 x
うっへー。また大作ですねぇ
いやいやいやいや。毎日ドタバタな人、これ書けないはず (^o^)
これ書いて疲れが取れるって... どんだけドMなんすか (^o^)
ムアムラはポアソン分布でしたか~(と分かった風な事書いてみたけど、分かってません)
Commented by kojiro-net5 at 2017-02-28 05:13
面白い結果ですね(^^)
人間の知覚的にはこのモヤモヤ模様に何か隠れたパターンを感じてしまいますが、完全なランダムから生まれる造形なんですね。
さらなる深掘に期待です(^^)

しかしこれがEXCELベースというのがまたステキ。EXCELは文系と理系の交差点ですね(^^)
Commented by オヤジ at 2017-02-28 08:35 x
>いつも背景に現れるモヤモヤした雲状のカラーノイズらしきものが、バッチリ再現できたのではないかと、自画自賛♪
このカラーノイズは、何時も見るノイズそのままですね。(笑)
ここだけは、理解できます。(爆)
ストレスの発散方法は、人、色々なんですね。(汗)(汗)
Commented by supernova1987a at 2017-02-28 10:34
> けむけむさん
はい。
もやもやムラムラの正体はポアソン乱数とベイヤーボケの合わせ技だと(ほぼ)判明しました。
本業での執筆は客観的に答が出るような仕掛けを組み込む必要が有るので神経をすり減らしますが、趣味のブログ書きは無責任に書けるのでストレスフリーです。取りあえずモンテカルロシミュレーションのやり方を思い出せてスッキリ♪
Commented by supernova1987a at 2017-02-28 10:42
> kojiro-net5さん
シミュレーションの結果、思いの外パターンが偏ると言うか、変な模様めいた物が出てきてビックリ。コレを複数回再帰させれば、(ハード側にノイズが無い場合での)コンポジット枚数の必要条件も出せそうです。
それにしても、最近のPCは速いのでExcelだけで簡単なシミュレーションなら事足りてしまいますね。
Commented by supernova1987a at 2017-02-28 10:49
> オヤジさん
実はかねがね悩んでいたのですよぉ。このモヤモヤ。
初めはカメラ側が出してるランダムノイズかと思ってましたが、どうやら完全無欠なカメラであっても出ちゃう現象の様ですね。
私はオヤジさんのように手先が器用ではないので、工作ではなく考察でストレス発散ですね♪
Commented by にゃあ at 2017-02-28 17:55 x
「1年あたり平均0.61人の兵士が馬に蹴られて死ぬ」軍隊において、「1年に何人の兵士が馬に蹴られて死ぬかの確率の分布」???

以前からでしたが、完全に私の理解を超えています。何を求めているのかさえ分かっていません(汗)

それでもあのモヤモヤが自然現象だということだけは分かりました。ありがとうございます!
Commented by supernova1987a at 2017-03-01 08:44
> にゃあさん
それですね。
完全にランダムな事象について、実際にどのような分布が得られるかを推測するのに便利な公式です。例えば1秒露光で平均的0.61個の光子が飛んでくるような光害地で撮影した画像に2の明るさの点が写った場合、それがノイズではなく星である確率を求めたりできる訳ですねー。
ともかく、良い感じにモヤモヤノイズが再現できて面白かったです♪
Commented by けむけむ at 2017-03-01 08:59 x
明るい星はなぜ大きく写るのか?ってのが疑問です
望遠鏡の問題なのかカメラ側なのか
HSTでも、似たような感じだから大気の影響ではなさそうですし
Commented by supernova1987a at 2017-03-01 09:58
> けむけむさん
正しいかどうかは自信ないですが、(いわゆる)イラジエーションの影響が大きいと思います。イメージとしては、ある素子に大量の光子が入るとその表面で乱反射して周りの素子に飛び散る感じですかね。
厳密にはイラジエーションは銀塩写真用語で、フィルムを通過している途中で拡散するイメージですからデジタルでは発生しないとされてます。そこで星座の撮影ではわざとソフトフィルターで拡散させるのが流行ってますね。
デジタルではハレーションと呼ぶ方が良いのかも?


Commented by けむけむ at 2017-03-01 18:18 x
なるほど、CCDの表面か裏側からの乱反射ってトコでしょうか。それなら、なんとなくわかります
フォトンって、CCDにぶつかったら、消滅して、原子を励起して、エレクトロンが飛び出してるって感じなのかなぁ?
そうなると、表面の乱反射ですよねぇ
Commented by supernova1987a at 2017-03-01 22:57
> けむけむさん
そうですね。撮像素子の表面には集光用のマイクロレンズやらゲートやら色々な「構造物」が有りますし、裏面照射型でない限りは感光部に到達するまでに配線やら何やらが有るので、跳ね返される光子も多々有ることでしょうね。
もっとも、CMOSの場合は発生した電子が近隣の素子に溢れ出す「ブルーミング」や「スミア」が無いのでCCDよりはマシでしょうが。
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by supernova1987a | 2017-02-28 00:01 | 天体写真 | Comments(12)

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