天体写真

モノクロ冷却CMOSカメラは難敵?

★★★ご注意★★★
今回は、自分への覚え書きの意味合いが強いエントリーなので、「ヘビのように長い」です。

 
★今回のお休みも曇ったので・・・

 お恥ずかしながら、ウン十年も天文やっているくせに、一度も「フラット撮影」なるものに手を出していなかったという『汚点』を解消すべく、フラット撮影に初挑戦してみました。
 といっても「フラット初心者」ですから高尚なことには手を出さず、(これじゃダメ『らしい』ことは承知の上で)PCのモニターに白色を表示させたものをティッシュペーパー付きのBORG60EDで撮影するという「いい加減な」ヤツです。

 ・・・でも、その前に、気になっていることが・・・・



★モノクロ冷却CMOSカメラで気になること

これまでデジカメやASI1600MC-COOLで撮影していたときにはあまり気にならなかったのに、MMを使うようになってやたらと目立ってきた現象に『縮緬ノイズ』があります。

『縮緬ノイズ』とは、例えばこんなヤツですね。
モノクロ冷却CMOSカメラは難敵?_f0346040_03075542.jpg
強めの画像処理で暗部を持ち上げようとしたときに必ず現れる筋状のノイズ。上の画像なら右上から左下にかけて無数の黒っぽい筋が写っています。

この正体を明らかにするために、ダークやフラットを補正する前の素のデータを「位置合わせ無し」で加算平均コンポジットしてみます。

モノクロ冷却CMOSカメラは難敵?_f0346040_03121555.jpg
 ※BORG60ED+RD+ASI1600MM-COOL+LPS-D1 ノータッチガイド マイナス10度・ゲイン300・30秒露光×60コマコンポジット 

元画像は同じものですが、左は「位置合わせ無し」で右が「位置合わせ有り」です。
左右の画像を見比べると分かるように、いわゆる「ホットピクセル」があると白い筋に、いわゆる「クールピクセル」があると黒い筋になるようです。
そしてシマシマの方向は、ガイドエラーの方向に一致します。要するに『対象』(天体)を追いかけた結果『背景』(ノイズ)が流れて写ったのが『縮緬ノイズ』の正体というわけです。



★ちなみにカラーCMOSの場合は

 この「ノイズ」のうち、現在頭を抱えているのが『黒い方』です。
ちなみに、ASI1600MC-COOLなどカラーカメラの場合はそれほど致命的ではありません。

モノクロ冷却CMOSカメラは難敵?_f0346040_03200680.jpg
 ※左:MMの画像 右:MCの画像 ともにダークやフラット補正なし+位置合わせ無し
どちらも マイナス10度・ゲイン300・30秒露光×60コマコンポジット

上の画像のとおり、カラーカメラの場合、クールピクセルよりも目立つのはホットピクセルです。この要因を推測してみると

 ①たまたま私のASI1600MMが『外れ個体』で欠陥ピクセルまみれ
 ②カラーフィルター有無により生じるベイヤー素子と非ベイヤー素子の差
 ③画像生成ロジックの違い(デモザイクの有無)による差

といったところでしょうか。

このうち、①は『考えたくない』ので除外して(笑)、今のところ②と③の効果が大きいのではないかと解釈しています。
たとえば、モノクロ素子の場合、1ピクセルが無信号だった場合、明らかな「黒点」として認識されますが、ベイヤー素子の場合は、GRBGのうちたまたま1色が欠けただけに過ぎません。また、各ピクセルの輝度がそのまま現像されるのではなく、近隣素子との補完処理で明るさが決まりますので、輝度の差というようりはむしろ色の差として現れやすいのではないかという仮説です。(そのうち、シミュレーション計算してみますが・・・)



★白い筋を軽減するには

 輝点ノイズ(ホットピクセル)は、主にダークノイズと考えられますので、ダークを撮って後から補正すれば軽減できます。
先ほどの例なら、ダークを引くことによって、下記のように改善します。

   ○ダークの有無を比較(位置合わせ無し) 
モノクロ冷却CMOSカメラは難敵?_f0346040_03380412.jpg
        ※左:ダーク減算なし 右:ダーク減算有り            
 
   ○ダークの有無を比較(位置合わせあり)
モノクロ冷却CMOSカメラは難敵?_f0346040_03382754.jpg
       ※左:ダーク減算なし 右:ダーク減算有り

このように、真面目にダークファイルを引けば、白いノイズは軽減します。

ただし

当然ながら、これでは『縮緬ノイズ』は解消しません
黒い筋が残るからです。
それどころか、「ダークの過剰補正」による黒筋が増加するケース(上画像の画面下部)すら見られます。


★フラット画像を観察してみる

「クールピクセル」(黒点)が常に出ているのかどうかをチェックするために、初挑戦した簡易フラット画像(PCモニタ+ティッシュ)を超拡大して調べてみます。

モノクロ冷却CMOSカメラは難敵?_f0346040_03500627.jpg
 左は今回M31を撮影した無補正の画像を位置合わせ無しで60コマコンポジットした画像です。右は後日撮影したフラット画像(ゲイン300・10msec×120コマ加算平均・シグマクリップあり)です。

それぞれ画面中心の座標を慎重に読み取りながら、1200%で切り出していますので、撮像素子の同じエリアを観察していることになります。これを見れば明らかなように「クールピクセルは恒常的に存在している」ことが分かりました。しかも、ものスゴイ数が・・・・です。


★・・・ということは!?

本来、周辺減光やゴミの影などを補正するのがフラット補正の主目的でしょうが、せっかくクールピクセルがフラット画像中に正確に再現できているのですから、これがフラット補正を行うことによって、どう寄与するか試してみました。

   ○フラットの有無を比較(位置合わせ無し)
モノクロ冷却CMOSカメラは難敵?_f0346040_03570874.jpg
       ※左:フラット補正なし 右:フラット補正あり

   ○フラットの有無を比較(位置合わせ無し)
モノクロ冷却CMOSカメラは難敵?_f0346040_04030035.jpg
       ※左:フラット補正なし 右:フラット補正あり

残念!

今回のケースでは、フラット補正は黒点の解消には無力なようです。
恐らくは(勘違いかも知れませんが)「引き算と割り算の違い」が原因と思われます。
ダーク引きの場合は「信号の上に乗ったノイズを引く」ために減算しているのに対して、フラット補正の場合は「減光などによる信号の出力低下を補う」ために除算(各ピクセルごとの露出倍数を掛けているイメージ)しているからと思われます。

したがって、黒い点の部分が「本来の明るさの何%に低下しているのか」が正確に分からないと除算しても無駄な訳で、もしもフラット補正によって黒点が消えるのだとしたら、フラットフレームの輝度レベルとライトフレームの輝度レベルが完全に一致した時だけでしょうね。(これ、解釈としてあってるのかなぁ??)

 今後、撮影時に同じ条件でフラットを撮影できたら、『検証ごっこ』してみます。いや、それ以前にステライメージの「フラット補正」のロジック(ソース)が分からないと、堂々巡りになる気がしますが・・・。


★ステライメージのクール除去

まあ、以前から使ってはいたものの、ここでステライメージのクールピクセル除去機能を使ってみることにします。
一般的なデジカメやカラー冷却CMOSの場合は、このクールピクセル除去機能はあまり必要性が無いとされていますが、黒点が盛大に発生するモノクロCMOSカメラの場合は重宝しますね。・・・あと、ダーク引きのしすぎで生じた黒点の除去にも使えます。


   ○オリジナル VS ダーク・フラット・クール除去 の比較(位置合わせ無し)
モノクロ冷却CMOSカメラは難敵?_f0346040_04220926.jpg
       ※左:各種補正無し 右:ダーク・フラット・クール補正あり


   ○オリジナル VS ダーク・フラット・クール除去 の比較(位置合わせあり)
モノクロ冷却CMOSカメラは難敵?_f0346040_04233127.jpg
       ※左:各種補正無し 右:ダーク・フラット・クール補正あり

位置合わせ無しの画像を比較すると分かりますが、ステライメージのクール除去を閾値0で適用しても、黒点は完全には消せませんね。

恐らくその要因は、(ガイドズレを含む多数枚画像はコンポジットする前にクール除去を実施する必要がありますが)元の1枚画像データにはクールピクセルの周辺にショットノイズに伴う輝度のバラツキが存在するため、ソフトがクールピクセルの位置を特定できない(黒点だと認識できない)ことにあると推測します。

それでも、位置合わせ有りの画像を比較すると分かるように、相当に『縮緬ノイズ』が軽減されていることは分かります。


★短時間露光+多数枚コンポの唯一の弱点??

 ・サチる心配が無い
 ・シーイングの影響を受けない
 ・オートガイドの必要が無い
 ・階調が豊富になる

などなどのメリットと「不精者に最適」という理由でこれまでこだわってきた「短時間露光+多数枚コンポジット」ですが、こと、クールピクセル除去に関しては、致命的に弱い可能性が浮上してきました。
「天体画像はあとからコンポジットすることによりシグナルを強めらる」のですが「クールピクセルは短時間露光によるショットノイズに埋もれる」のでソフトが位置を認識できずに放置されてしまうからです。(これはある程度ホットピクセルにも通じる弱点です。)

 これが、長時間露光の場合だとクール除去処理一発で消せそうに思えます。

降参!


★・・・・ともあれ

せっかく初挑戦したフラット画像は、本来の目的である「周辺減光の軽減」や「ゴミの影の除去」に対して、一定の成果を得ましたので、M31アンドロメダ銀河の画像をフラット補正ありで再処理してみました。

BORG60EDツインにASI1600MM-COOL+ASI1600MC-COOLで30秒のLRGB同時露光した画像の合計240コマコンポジットです。
フラットで消しきれない減光があったので、少しだけトリミングしてます。

モノクロ冷却CMOSカメラは難敵?_f0346040_04460140.jpg
うむ。
なかなか良い感じです。


★★★今後の抱負★★★ 

 ①さらに良質なフラット画像を撮る方法を考えたい
 ②クールピクセルの位置を特定してピクセルマッピングしたい(コード書いちゃう?)
 ③ある程度の長時間露光も視野に入れなきゃ
 ④そろそろオートガイドも再開しよう
 ⑤鏡筒のタワミをなんとかしなきゃ
 ⑥放置したままのAPT・・・・
 ⑦死蔵しているオフアキ・・・
 ⑧一度も登場させてないナローバンドフィルタ・・・
 ⑨夢想中の「光害チョッパー装置」実現するのか??

・・・・それにしても、曇ったからといって、PCの前にへばりついて30時間以上画像処理してたら疲れちゃった・・・・ふう。

★★★追記★★★

寝ている間に夢の中で妙案(?)を思いつきました。
フラット画像をA
フラット画像にクール除去フィルタ処理したものをB
B-Aの減算処理したものをC
とすると、Cがクールピクセルのみを反転した画像になるので
ライトフレームにCを加算すれば・・・・・・。
あとで試してみます。

Commented by オヤジ at 2017-09-05 08:14
相変わらずの低レベルで申し訳ありません。

>フラット補正は黒点の解消には無力
激減してるのにと、思ったら、上下比較ではなくて左右の比較ですね。(汗)
中々、難しい世界ですが、クールピクセル除去は、MMには効果がある所、ノートにメモしました。
画像処理、30時間連続ですか!!!。お体大切にしてください。
フラットと言えば、LEDジェネレーターを使って(まだ数回)ますが、どの位のレベルが良いのか、理屈は理解できないので、ゲインを増やして行った時のフラット補正後のグラフで比較したいと思っているのですが、連続でやらないと忘れてしまうので、まだ、出来てません。
明らかに、周辺減光は減るのは確認してますが、頃合いが良くわかりません。
涼しくなると、少しは脳味噌集中できる鴨なので、頑張ります。
例の物、10時頃には到着です。(笑)
Commented by kojiro-net5 at 2017-09-05 09:33
興味深い考察です。「クールピクセルはフラット減算では消せない」って、目から鱗でしたが考えてみたら当たり前ですね・・
対処法はσクリップとディザリングですかね。ガイドエラーが大きいときはσクリップであらかた消えますが、私は15分単位で撮影位置をわずかにずらしてやっています。2時間露出して8回ずらせばまあまあ見られるレベルになっています。
Commented by supernova1987a at 2017-09-05 10:20
> オヤジさん

特に長時間露光した場合のクールピクセルはクール除去フィルタで一発解消しそうです。
短時間露光時の場合は、現在『妙案』を実験中です♪

例のもの、楽しみですね!!
レポートお待ちしております!!
Commented by supernova1987a at 2017-09-05 10:28
> kojiro-net5さん

当初、ディザリングの目的はホットやクールを「分散させて目立たなくさせる」ことにあると思っていたのですが、よく考えると「同一ピクセルにおける再現性を低下させて」シグマクリップで「ハジきやすくする」ことが効きそうですね。

ガイドエラーを残した『天然ディザリング』の場合にシグマクリップの効果が薄いのは、隣接コマが重なるために「ハジきにくい」ことにあるのかもしれません。

現在、『天然ディザリング』を使った場合の後処理(『イーブンオッド法』の発展型)方法と、フラット画像から『クールマスク』を構築する方法の2方向から新たな活路を検討中です。失敗したら、おとなしく王道(ディザリング)に行きます(笑)。
Commented by kem2017 at 2017-09-05 20:07
爬虫類は好きなのでヘビのような長文ありがとうございます。

大人しく王道(ティザリング)で縮緬とオサラバ出来ましたが、ディザリングすると、各コマで1分くらい増加してしまうので(APTの場合)、彗星だと恒星が線でなく、点々になっちゃいます...

フラットは、夜空で撮影してますが、フラットを施すとノイズが増える事があって、それは何故?とか追及してませんが、フラットをダークとホット&クール引いてσクリップでコンポジットした後、若干ぼかしをいれてやると解決する事がありました。
フラットはゴミの後が消えてくれる効果を期待してるので、多少ボケててもいい事にしてます (^o^;
Commented by にゃあ at 2017-09-05 23:42
立体感のあるアンドロメダですね! 今回の検証は、高度な世界に突入していて、(いつものことながら)理解が及びませんでした(汗)。フラットをネットで調べていたら、バイアスフレームというのがあって、ステライメージでは取り切れないとか、なんとかで、奥が深すぎです。
Commented by HIROPON at 2017-09-05 23:45
フラット補正が割り算であることを考えると、輝度が特に低い部分については誤差も大きくなるはずで、そのあたりがフラット補正でクールピクセルが消えない原因の1つなんじゃないかという気がします。思いつきでモノを言ってるので正しい保証は全くないですが(^^;

あと、ステライメージの「ホット/クールピクセル除去」は、該当するピクセルの検出方法や修正方法がイマイチ謎で、全幅の信頼を置きかねるのが惜しいところです。最近では「致命的なところにない限り、後からレタッチで修正すればいいや」とサボり気味だったり……( ̄w ̄;ゞ

それにしても、フラット補正は本当に奥が深くて泥沼にはまりがちです。光害地での撮影だと避けて通れない課題で、色々と手練手管を弄した結果、ここ1年ほどでようやくある程度満足のいく結果が出せるようにはなりましたが、不満点もまだまだ。こちらの「考察ごっこ」はいつも大変刺激になるので期待してます(^^)
Commented by supernova1987a at 2017-09-06 12:53
> kem2017さん

遠からず「王道」に進みそうな予感・・・いやいや、ここは失敗しても独自路線を貫くのです(強がり)。たぶん、まだCMOSの仕様が十分理解できていません。たとえば、「リードノイズ」「ダイナミックレンジ」「オフセット」あたり・・・。そろそろ観念してEMVA1288(撮像素子の統一規格)仕様をちゃんと読むことにしようかなぁ・・・・。
Commented by supernova1987a at 2017-09-06 13:03
> にゃあさん

ああ、バイアスフレームというのがあったのですね。し、知らなかった・・・・。
ええと・・・「露出ゼロで取得したフレーム」ですかー。ということはリードノイズのこと?
なになに?「製造プロセスにおける各ピクセルのバラツキとかが見える」ですと?
しかしこのあたりに首を突っ込むとなると、オフセット値のことが分かってないと危険そうですね。こりゃさっそく勉強しないと・・・・。

たぶん、このあたりは「冷却CCD全盛期」に語り尽くされていて、最近ではベテランさんの間では『常識すぎて』語られてもいないことなんでしょうね。でもそんな現在だからこそ、バイアスフレームだけでひとネタ書けそうですね♪
Commented by supernova1987a at 2017-09-06 13:12
> HIROPONさん

たぶん、おっしゃっていることが正しいと思います。

素人頭でフラット補正のロジックを推測すると、
「画面全体の平均値で各ピクセルの値を割ることで比感度を求め、それを元画像から除算する。」というものではないかと。するとフラットフレームの中で真っ黒けの部分は、ほんの少しでもカウント値がばらつくだけで補正係数が何倍にも変動しちゃいますものね。

ともかく、詳細は「手動でフラット補正」してみないとなんとも言えませんが。今度「手動」で遊んでみます。
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by supernova1987a | 2017-09-05 05:05 | 天体写真 | Comments(10)

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