★数年前から温めていたアイディア
自称『天邪鬼』・他称『ど変態』あぷらなーとは、『妙ちくりんな』アイディアを思いつくことが多いのですが、いざアイディアを実行に移すとなると時間がかかるものですねぇ。
それでも、ここ1~2年は、これまで「あたためていたアイディア」が色々と実現できていて嬉しい限り。
・比較明コンポジットの軌跡の途切れを解消する『イーブンオッド法』
・L-RGB同時露光を実現する『ビームスプリッタシステム』
・モノクロCMOSカメラのクールピクセルを軽減する『クールファイル補正法』
・複数の輝線が混合している領域を鮮やかに写す『リバースパレット法』
・250円で宇宙線などの自然放射線が目視できる拡散霧箱
・・・そしてついに!
『大物』(難敵)と向き合う時がやってきました。
いやー、学生時代から落雷時にパチパチと明滅する空を見る度に妄想してたんですよねぇ。
「光害は大気(中の塵など)に地上の光が反射(や散乱)してるもの。・・・とすれば、夜空がフリッカー現象起こしてるかも??」
もしそうなら(フィルターワークによる)「波長成分の弁別」以外にも『時間成分の弁別』で光害を軽減できるのではないか?
という訳です。
★フリッカー現象を正確に捉えるのは意外に困難
フィルムカメラ時代から室内を撮影する際に縞状の色ムラを生じることでアマチュアカメラマンを悩ませてきた「フリッカー現象」。
蛍光灯などを交流電源下で点灯すると、電源の位相変化に伴って点滅するのが原因です。
ただし、よく考えてみると『シマ状』にムラが出るのは奇妙なことです。
実はこれ、光源にムラがあるんじゃなくて、カメラのシャッターにも問題があるんですね。
フィルム時代のカメラなら、フォーカルプレーンシャッターで高速シャッターを切る時に幕速が追いつかないので、スリット状のスキマを走行させることで「見かけ上」高速にシャッターが切れるように見せかけています。
また、近年の主流であるCMOSカメラの大半は、電子シャッターとして「ローリングシャッター」が実装されていますが、これも撮像素子全体を一気に露光するのではなく、1列ずつ順次露光する仕様になっています。ちょうどスキャナーのヘッドが動いていくイメージですね。
これらのカメラで高速移動している物体を撮影するとグニャリと曲がって写る「コンニャク現象」が有名ですが、これと似たような現象がフリッカーを撮影したときにも起こっています。ローリングシャッターは、画素列ごとに撮影タイミングがズレているので、蛍光灯が光っているときに作動する列と、蛍光灯が消えているときに作動する列が生じてしまうのです。その結果、シマシマ状のムラが写ってしまうわけで、別にフリッカー現象自体がシマシマになっているわけではありません。フリッカー現象自体はあくまで「画面全体の明滅」です。
★ASI174MC-COOLの最大の長所は
ZWOの冷却CMOSカメラASI174MC-COOLは、アンプノイズ(アンプグロー)やライン状のノイズなどが盛大に出るジャジャ馬ですが、他のカメラにはない機能を有しています。それが、全画素を同時に露光できる「グローバルシャッター」です。
ASI174MC-COOLは、このグローバルシャッターのおかけで、ASI1600などと異なりコンニャク現象が起きません。
という訳で、以前ミルククラウンの高速撮影を試みた際には、ASI174MC-COOLが大活躍しました。
さて、今回は、『夜空のフリッカー現象』が実在するか確かめることに挑戦してみます。
★街灯のフリッカー現象を捉える装備
夜空がフリッカー現象を起こしているかどうかを確かめる前に、そもそも、町中の街灯が『同時に』点滅しているのか?
を確かめるのが先決ですね。むろん、街灯の仕様(水銀灯?蛍光灯?LED?)によって点滅タイミングが異なるのは予想できますが、同じ仕様の街灯なら同時に点滅しているのかどうか見てみようというわけです。
実は数年前に試みたことがあるのですが、その際はローリングシャッター仕様のデジカメを使ったので、画面内の位置によってタイムラグがあったので確かめられませんでした。
そこで・・・
ででん!
ASI174MC-COOL「街灯フリッカー調査装備仕様」出撃♪ほぼ1インチフォーマットなので、20mmF1.8 レンズを装着すると、だいたい標準レンズくらいの画角になります。
適宜ROI(クロップ)を併用して8bitRAWのSER動画で撮影すると、1秒間に500コマ以上の超高速連射が可能です。
★LED街灯のフリッカー
まずは、近所のLED街灯のフリッカーを580FPSのハイスピード動画で捉えて、スロー再生してみます。
おおー、ハッキリと点滅してますなー。
正確な計算をしたわけではありませんが、1秒間に120回の周期で点滅しているようです。
次に、遠くのLED照明を撮影してみます。
やはり1秒間に120回の周期で点滅しています。
さて、面白いのはここからです。

上記画像の右端は近所のLED街灯、左上隅の光群が遠景のLED照明です。
おおっ!
同時に点滅しているではないか!
よし、やる気が出てきた♪
※見づらいですが画像右の上方にも遠方のLED照明が同じタイミングで明滅しているのが分かります。
★蛍光灯照明のフリッカー
さて、次に近所の蛍光灯照明のフリッカーを観察してみます。
なぜLEDから蛍光灯に話を移すかというと・・・
先日、回折格子を用いた自作『なんちゃって分光器』で夜空を撮影してみた結果、あぷらなーとの自宅周辺の光害は、LED照明よりも蛍光灯(など)の影響が大であることが判明したからです。
残念なことに、点滅タイミングはLED街灯とは異なっていました。

※ちなみに、ご覧の通りシマシマ状ではなく全体が同時に明滅していることが分かりますね。
★さて、いよいよ核心に迫ってみます♪
自宅周辺の(光害の主要因であることが判明した)蛍光灯系の明滅と、実際の夜空の光害が『同期』しているのかどうかを見るため、次のような解析を行いました。
①1/1000secの高速シャッターで蛍光灯と夜空を同時に露光する。
②仕様上、1秒間あたりの撮像コマ数は正確に設定できないので(揺らぎはでるが)可能な限り高速に連写する。
③撮影したSER動画をSerPlayerで現像し、TIFF出力する。
④TIFFファイルを目視でチェックし、蛍光灯が明滅のピーク(最も明るい)とボトム(最も暗い)であるコマを手動で弁別する。
⑤両者を別々にコンポジットし、夜空の輝度分布を比較する。

※左:蛍光灯明度が最大の時 右:蛍光灯明度が最小の時 (いずれも画面右が天頂方向です)
輝度グラフを重ねて比較すると・・・
ででん!!

※赤:蛍光灯明度最大時 青:蛍光灯明度最小値
左の大きな山は、蛍光灯が直接照らしている建物の輝度を拾ったものですが、右側に伸びるグラフは夜空の明るさを見たものです。
劇的な差とは言えないまでも、十分に有意な差が出たと思いませんか??
というわけで、
今回の『実験ごっこ』の暫定的結論は:
(少なくとも、あぷらなーと自宅周辺の)
光害は蛍光灯と同期して点滅しているっ!!
さあ、いよいよ画期的変態アイテム『光害チョッパー』の制作に入るとしますか!
★★★お約束★★★
<今回の検証ごっこについて>
①蛍光灯と同期している光害は、自宅のごく近傍のみかも知れません
②輝度グラフで拾った差異がゴースト・ハレーションに起因する可能性も捨てきれません
③コンポジットした枚数は高々30枚程度ですが、手作業ではこの辺が(忍耐の)限界でした。
<「俺も測定してみよう」という酔狂な方へ>
①街灯の明滅が写っても、それが正しい周期とは限りません
②たいていは『何周期かに1回』うまくカメラと同期しただけですので注意が必要です
例:1秒に5回点滅する光源を毎秒2コマ連写のカメラで撮影すると、原理上1秒に1回点滅しているように写ります
③シャッタースピードは極力短くしておかないと、同じFPSでも明滅は写りません
※すくなくとも1/250sec、できれば1/1000secの高速シャッターが望ましいです。
※これは残光の影響を避けるための工夫です
④高速連写が不可能な場合、②を逆手に取ることにより点滅周期を推定できます。
※バーニア(ノギス)の原理と同じです。(モアレの様子から素子間隔が推定できるのとも似てますね)
<『光害チョッパー』について>
①正確にインターバルを制御できる装置があればライブスタックで事足りますが、現実にはムリそうです。
②正確に位相操作できる液晶シャッターがあれば、それをカメラの前にセットするだけで良さそうですが、あまりに高価です。
③(流星撮影などに用いる)回転シャッターはまさに『ローリングシャッター』なので成功しないと思います。
④『軍拡終了宣言』した身なので、手持ちのパーツ以外の出費は「2000円以内」での開発を目論んでいます。
⑤『光害チョッパー』は、単にあぷらなーとの造語です(最近、こんなのばっかり・・・汗)
⑥たぶん光害カットフィルタほどの効果は出ないと思いますので、期待は禁物です。
⑦次回記事から制作に入りますが、失敗したら、元気よく笑い飛ばしてください(これ、重要)。