★結局、ディザリングに勝るもの無し?
お恥ずかしながら、ディザリングはおろかオートガイドすらほとんど経験の無い「ひよっこ」あぷらなーとなのですが。ディザリングって不思議なんですよねぇ。
ええ、固定位置に居座るホットピクセルやクールピクセルを『散らす』ことによって希釈するのがディザリングだというのは理解しているつもりですよー。
でも考えてみると「ピリオディックモーションをあえて補正しないノータッチガイド」とか「極軸を少しズラしてノータッチガイド」で短時間露光したコマを多数枚コンポジットしても固定ノイズは『散る』はずだと考えるとなんだか訳が分からなくなりませんか??
・・・と言うわけで、今回はディザリングについて『考察ごっこ』してみることに
★まずは、論より証拠
ま、本来はここで実際にディザリングの有無をテスト撮影するべきなんでしょうが、ディザリングってやったことないんですよー。
でも、原理は理解しているつもりなので、シミュレーションしてみようじゃないか。
素材はASI1600MC-COOLで撮影したダークファイルに決定。ゲイン400で15秒露光したダークファイルを20コマ用いて実験。
ノータッチガイドやディザリングで被写体のみが動いた結果、本来固定位置で発生するダークノイズが流れるはずなので、これを再現してみようじゃないかという遊びです。

想定したモデルは上の図の通り。
20コマのダークファイルをコンポジットする際に、その位置合わせをコマごとにズラしていくという方法です。
すると・・・
※左:①シフトなし 中:②追尾エラー再現型 右:③ディザリング再現型
①「シフトなし」について
固定位置でコンポジットしたものです。普通のダークノイズ(いわゆるホットピクセル)が観察されますね。
②「追尾エラー再現型」について
ピリオディックモーションの大きな赤道儀で短時間露光ノータッチガイドを行い、コンポジット時に被写体に合わせた位置合わせを行うというシミュレーションです。見事な『縮緬ノイズ』が再現されましたね。
③「ディザリング再現型」について
ディザリングの1方法であるスネーク型の駆動を行った結果をシミュレーションしたものです。この3種の中では最もノイズが目立たないことが分かります。
★被写体の画像と合わせるとどうなる?
では次に、ノイズが目立たない素材(先日再処理したM42)にシミュレーションしたノイズを加算してみます。
これは同じ被写体を3種類の方法で撮影し、それぞれコンポジットすることに相当します。
すると・・・
ででん!
※左:①シフトなし 中:②追尾エラー再現型 右:③ディザリング再現型
うむ。予想通りのイメージが再現できたぞ♪
①は完璧な精度でノータッチガイドした場合
②はノータッチガイドした場合
③はディザリングした場合
にそれぞれ相当しますね。
やはり、ノイズが取り切れないカメラの場合にはディザリングの効果は大きいようです。
★でもどうしてそうなるの?
さて、ここで疑問が生じます。
だって、不思議じゃないですか?
①はともかく、②と③はノイズの輝点が「動いた道のり」が等しいので、原理的には全く同等の希釈がなされたはずなのです。
でも、全く結果が異なる・・・と。
そこで、ちょっとこの図を見てください。
左の図は固定ノイズの模式図で、全てのノイズが固定されている場合です。それに対して
右の図は全てのノイズがランダムノイズだった場合の模式図で、ノイズから生じる総電子数が等しくても各ピクセル位置でそれが累積されるかどうかでその濃度が異なることを示しています。要するに、コンポジットもしくは長時間露光でランダムノイズが減少する原理ですね。
さて、固定ノイズを伴うカメラで短時間露光のノータッチガイドした場合はどうなるでしょうか。

極軸エラーやピリオディックモーションの効果で、(被写体に位置合わせをすると)固定ノイズが移動して写る事になります。
これが『縮緬ノイズ』ですね。ノイズ自体は薄まったのに非常に不愉快な写真になります。
では、尾を引くように流れるのがダメなのかというと、そうではなくて

もしも、このようにノイズの流れが「縞目状」だと、そんなに不快感を感じませんよね?
ディザリングも同様で、

直線上に流れるよりも渦巻き状(あるいは格子状)に流れた方が不快感が少ないのですね。
要するに、ディザリングはノータッチガイドに比べてノイズが軽減された訳ではなく、写真を見る人の違和感を軽減する方向に作用するという解釈です。
★違和感(不快感)の正体は何なのだ?
ところで、物理学にはエントロピーという概念があります。その定義は色々なのですが、概ね『乱雑さ』を表すパラメータだと解釈していいと思います。
個人的には「エントロピーは状態数の対数に比例するもので、言わば『確率』のようなもの」と解釈しています。つまり、ありふれた状態・頻発する現象は「エントロピーが大きい」と表現でき、特殊な状態・レアな現象は「エントロピーが小さい」と表現できるわけです。
ところが、ここで問題となるのは「何をもって『特殊』と判断されるか」です。例えば、こんなケースはどうでしょう?
太郎くん「おい聞いてくれよ!俺、『あぷらなーとクジ』で一等100万円が当たったんだ。」
花子さん「ええっ!マジで?そのクジ見せてよー。」
太郎くん「見ろ、33組の3333番だ。」
花子さん「もう、そんなバカなー。そんな番号が当たるはずないでしょーが!」
数学の確率で出てきそうなお話ですが、たとえ「23組の1764番」であろうと「33組の3333番」であろうと、当たる確率は同じはずです。(そうでないと、インチキ抽選です。)
でも、心情的には「33組の3333番」が当たりって『気色悪い』ですよね。
あぷらなーとは、これを『心理的エントロピー』または『主観的エントロピー』と呼んでいます。
つまり無機質な観測者(コンピュータやセンサーなど)から見ると同じ確率(等しいエントロピー)であっても、人間から見るとそうではないケースが多々あるということです。これは人間個人の個性によっても変動する現象です。
たとえば、
「0のカード×1枚、2のカード×3枚、3のカード×2枚、4のカード×5枚、7のカード×1枚、8のカード×1枚」
があって、それをシャッフルして並べてみると「4243434202478」という順に並んだとします。
それを見ている人が一般人なら「普通のケース」(エントロピーが大きい)に見えるでしょうが、我々アマチュア天文家なら
「貴様!なにか細工しただろう?オリオン座大星雲・馬頭星雲・燃える木星雲・ウルトラの星・・・ってオリオン座の名所が並んでるなんて話がうますぎるぞ」
と『違和感』(エントロピーの小ささ)を感じるかもしれません。
話をノイズに戻します。
下記の画像を見てください。
「上下が一致していない画像は左・中・右のどの列でしょう?」

恐らく、ほとんどの人は左の列の上下が異なることはハッキリと認識できたはずです。だって3本だけ線が横倒しになってますもの。目立ちますよね。少し注視すれば真ん中の列も模様が異なることに気づきます。それに対して、右の列は一見同じに見えます。
でも実は3列とも同じ数のピクセルを別な場所に移動させているのです。
「ノイズとはランダムであるはず」という先入観から、その配列が「キレイすぎる」ノイズは『心理的エントロピーの低下』すなわち心理的な違和感を生みます。縮緬ノイズが持つ『違和感』の正体はこれだと考えられないでしょうか。それに対して、ディザリングはノイズ配置のランダム性を殺さないようにその濃度だけを希釈する作用を持ちますので『心理的エントロピーの低下』を招きません。何気ない風景の中に人の顔状のパターンを見出してしまう「シミュラクラ現象」(心霊写真とか火星の人面岩とか)と同様、「自然現象っぽさ」を鑑賞者に与えるノイズ以外は嫌われるのかもしれませんね。
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うむー。
やはり、ディザリングって偉大なんだなぁ。
あぷらなーとの撮影環境だとディザリングできないけど(笑)。
だってー、多連装・複数カメラでディザリングする方法って思いつかないよぉ・・・
やはり、ここは『くるりんぱ撮法』開発プロジェクトを進めるしかないか・・・・。
★★★お約束★★★
①『心理的エントロピー』『主観的エントロピー』は単にあぷらなーとの造語です。
②各ノイズの模式図は適当に描いたので雰囲気程度に捉えてください。
③ディザリングのみを賞賛する意図はありません。恐らく、撮影対象の明るさ・ダークノイズ量・撮影コマ数の組み合わせによって、「ダーク減算やホットピクセル除去処理」と「ディザリング」のどちらが効いてくるかの閾値がありそうな予感がします。
④現在のあぷらなーとは数式処理能力が著しく劣化してるので正確な議論はご容赦ください。今回の文字ばかりの記事を書くにも(20数年前の記憶を忘却の沼からサルベージするため)教科書(キッテルの熱物理学)を読み返す始末です。
⑤20数年ぶりに読んだが、キッテルは良い♪
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