※ご注意※
ヘビのように長いエントリーですが、前半部分は、これまでの旅の「振り返り」です。
『邪道』には『邪道なりの真理』があるわけで、あくまで『別解探しの旅』だという主旨をご理解いただければ(笑)。
「なんで、こんなことにこだわってるの?」
と不思議に思われてる方以外は後半部分にワープしてOKです♪
------前半------
★何をそんなに悩んでいたのかというと
「ふっふっふ。往生際の悪いやつだ。『三連装BORG』とか『ビームスプリッタ』とか『クールファイル補正法』とか『リバースパレット法』とか妙ちくりんなことばかりやってないで、潔く王道(長時間露光・オートガイド・ディザリング・シグマクリップ)に墜ちちゃえよー。幸せになるぜ。」
などと、天上から『王道の悪魔』が囁いてくるのですが、どうも沼の奥から『邪道の天使』が励ましてくるんですよねぇ。
「だめ。短時間露光・ノータッチガイド・ノーディザリング・ノーシグマクリップ・・・これこそが清く正しい邪道でしょ?王道に惑わされることなく自分の信じた道を進みなさいな。」
ええ。これまでなんだか釈然としなかったのですよー。だって、フィルム時代と異なりデジタルの時代なら色んな『別解』があっても良いじゃないですか。(演算の過程や順番が異なっていても、同等の結果が得られるという意味で)・・・だったら自分の好きな(自分が楽と思う)流儀で処理したいと思っちゃうんですよねぇ。所詮は趣味だもの。
というわけで、王道に墜ちたい欲求をぐっと堪えて、邪道を成就させるための『研究ごっこ』を続けてきたわけですが・・・・。
★短時間露光でもコンポジットすれば長時間露光と大差ない筈
細かいことは置いといて、大局的には「60分露光×1コマでも15秒露光×240コマコンポジット」でも大きな差は出ないはずで、むしろ高輝度部分がサチる可能性やガイドエラーの危険性、そしてシーイングの影響を考えると、むしろ短時間露光+多数枚コンポジットの方が(自分に)有利だと信じてた訳です。・・・で、まずやってみた『検証ごっこ』が
冷却CMOSカメラASI1600MC-COOLを用いた「15秒×40コマ」VS「30秒×20コマ」VS「60秒×10コマ」の対決。
それぞれの描写は大差ないことを確認♪ 原理的に段階露光の必要性がなく(ビット数が小さな冷却CMOSカメラの弱点を補い)階調が豊かになる短時間露光・多数枚コンポジットを極める方向に舵を切りました。
★冷却CCDと異なり、冷却CMOSのビット数は微妙
今でこそSharpCapに輝度分布データのテーブルが保存できる機能が実装されましたが、当初は完全にブラックボックス。
無い知恵を振り絞り「素の輝度分布がどうなってるのか」を解析ツールを自作することで『解析ごっこ』をしてみました。
結局、16ビットFITSモードで撮像した場合は、12ビットの輝度データの間に15カウント分のスキマを入れて『散らしている』ことが判明。
また、理論上ありえない値(16の倍数になっていない数値)も(非冷却時には)散見されることも発見。理論上、長時間の1枚撮りよりも短時間の多数枚コンポジットの方が最終的なビット数(階調)を増やせる方向に寄与するだろうと判断しました。(枚数をN倍にすると撮像素子のビット数を log2 N だけアップするのと同じ効果を生むという解釈。)
※最新のSharpCapではこの「スキマ」を詰めた形(下位ビットにスキマを作らず上位ビットに空白を残す)での出力も可能となってます。
★ショットノイズは消しちゃいけない
短時間露光時に画面がザラザラになるのは仕方ないのですが、このザラザラには各種のダークノイズ以外にも貴重なシグナル(ショットノイズ)が含まれているので消しちゃダメな筈だ、というのが持論でした。つまり、ショットノイズは天体から飛んでくるフォトン(光子)の統計的揺らぎを捉えた物であって、多数枚コンポジットした際には像を構成する貴重な部品だという解釈です。この仮説が正しいかどうか確かめるために『考察ごっこ』してみたのが
結果、M27亜鈴状星雲から飛来していると思われる光子のフラックスをオーダーレベルで一致する精度で検出することにも成功しましたので、この仮説は概ね正しいと判断しました。
★ベイヤー配列カラーCMOSカメラでは本来の解像度は出ない
まあ、これはデジカメ黎明期に「フィルムカメラと異なり、デジカメの像はシャッキリしない」と言われていた件と同義なのですが、その要因の1つであるローパスフィルタの影響を避けたとしても(ローパスレスカメラであっても)原理上、画素数通りの解像度は得られない筈。それを確かめるために行った『考察ごっこ』がこちら。
結果、カラーカメラでは画素数の1/4とまでは言いませんが相当な解像度ロスが生じていることを予想。モノクロCMOSカメラとの「サイド・バイ・サイド」で実写テストする『検証ごっこ』を敢行します。
その結果、同じ画素数であっても圧倒的にモノクロカメラの方が解像度が高いことを確認しました。そこから、モノクロCMOSカメラとカラーCMOSカメラを同時稼働させてLRGB一気撮りへと方向性を定めます。そのため、『ビームスプリッタ同時露光装置』や『多連装BORG』などの珍システムを構築するのですが・・・。
★モノクロCMOSカメラの『クールピクセル問題』勃発
カラーCMOSカメラの運用時にも気がついてはいたのですが・・・
このように、いわゆるデッドピクセルに類似した黒点:『クールピクセル』が高輝度部分にも生じていて、これが『黒い縮緬ノイズ』(黒い縞ノイズ)の原因になっていることが推測されました。もっとも、幸か不幸かカラーカメラの場合は先述のベイヤー配列に起因する像のボケが生じますので、それほどの実害は出ていません。ところが、ベイヤーボケが生じないモノクロカメラの場合、像があまりにもシャープであるが故、クールピクセルの影響が露骨に現れます。・・・で、その挙動を『解析ごっこ』してみると・・・
ダークファイル減算でもフラットファイル除算でも回避できそうにない事が示唆されました。
悩みに悩んだ挙げ句、その解消法として苦肉の策:『クールファイル補正法』の開発に至ります。
これにより、クールピクセルによって生じる黒い筋状の『縮緬ノイズ』を押さえ込むことに成功し、降臨した「救世主」:ぴんたんさん がFlatAideProに実装までしてくれたのですが・・・・。
★『白い縮緬ノイズ』が消せないって根本的におかしい!
『クールファイル補正法』によって『黒い縮緬ノイズ』は退治できたのですが、今度は『白い縮緬ノイズ』が目立つようになって、頭を抱えます。(ASI1600MM系の個体差にもよってどちらが目立つかは異なります)その認識論的解釈は『心理的エントロピー』の減少にあるとの珍説を公開し、ディザリングがなぜ効くのかを『考察ごっこ』しましたが・・・
そもそも、『白い縮緬ノイズ』自体が「ダーク減算後に残っている」こと自体が『気色悪い』んですね。だって、これってダーク補正に失敗してるってことじゃないですかー。・・・で、初心に返ってダーク減算処理の過程で何が起こっているのかを『解析ごっこ』してみることに・・・。
その結果、ステライメージ(あくまで6.5のケースですが)のバッチ処理における「ダークファイル補正」には、そもそも原理的な問題点(悪いと言っているのではなくて留意すべき点)があって、ダーク減算時に生じた負の値がカットされていることがダークノイズを消しきれない原因であることが推測されました。
はい。
ここまで律儀に読んでくれた方は、お疲れさまでした♪
ここからがいよいよ「本題」ですよー!!
----------後半-----------
★『よく効く』ダーク補正とは?
あぷらなーとが『邪道』を成就するために、どうしても越えないといけない壁、それが「オートガイドもディザリングもシグマクリップも一切使わずに、ダークファイル減算だけで『白い縮緬ノイズ』を退治する」という難問です。
・・・で、ようやく結論が出ました。やはり、「マニュアル操作でダークファイルを引く」が正解のようです。
前にも少し書きましたが、以下にステライメージ6.5の場合の処理詳細を紹介します。
①撮影画像(ライトフレーム)と同じ条件でダークファイルを撮像する
ゲインや露光時間や撮像温度をライトフレームと同じにして暗闇でダークファイルを撮影します。
撮影枚数は「最低でも」ライトフレームと同数、可能なら多ければ多いほど良好な結果を得ます。
※少ない枚数だとランダムノイズの影響やホットピクセルの時間変動の影響を受けて画質が急激に悪化します。
(ライトフレームのコンポジット効果が帳消しになるという意味)
②ダークファイルを加算平均コンポジットする
ステライメージ6.5のバッチ処理メニューからコンポジットを実行します。
撮影したダークファイルをロードし、パラメータをセット
※
合成方法は加算平均、位置合わせは無しにします。シグマクリップは特に使いません。
出来上がったコンポジット画像を保存します。
※
ファイル形式は実数32ビットのFITS形式を指定します。
(本当は整数16ビット型にしたいところですが、これで上手く行ってます。まあ、ステライメージの仕様でしょうね。)
③撮影したライトフレームを1コマだけロードする
※1コマだけならどのコマでも大丈夫です。
④②で作製したダークファイルをロードする
⑤ライトフレームのウインドウをクリック(フォーカス)する
※上の図では左がライトフレームなので、これをフォーカスしてアクティブにします
⑥設定メニューからワークフロー指定する
※この前に必ずライトフレームをフォーカスしておくことに注意してください。
⑦ワークフローにダーク減算処理を記憶させる
まず、ワークフローウィンドウから記録開始を実行次に合成メニューからコンポジットを指定する コンポジットのパラメータを設定する
※ウィンドウはダークファイルを選択
※合成方法は減算に
※レベル調整は「使わない」
※0以下は「切り捨てない」(これ、最重要♪)
「ワークフローに追加」ボタンを実行すると処理内容が記憶されます。
「記録終了」ボタンを押すとワークフローが完成です。
⑧ワークフローをバッチ処理として実行する
「バッチ実行」ボタンを押す
対象ファイルリストに出ている2つのファイルをリストから削除する
「ファイルから追加」ボタンを押してライトフレーム全てをロードする ファイル追加の処理後保存先を「別のフォルダに保存」にチェックを入れ、「参照」ボタンで任意フォルダを指定する。
「OK」ボタンを押す。
おしまい♪
後は、出来上がったダーク補正済みのライトフレームを位置合わせコンポジットします。
え?
「で、効果の程はいかほどか?」
ですって?
★手動ダーク減算の威力
これはBORG89EDで撮影した北アメリカ星雲のハイライト部分(ASI1600MM-COOL・撮像温度0℃・ゲイン300・30秒露光・ノータッチガイド)を120コマコンポジットしたものですが、従来の手法(自動でダーク補正した場合)の効果はこんな感じです。
※左:ダークファイル補正無し 右:自動でダークファイル補正 ノータッチガイドによる被写体の流れを補正するように位置合わせした結果、『背景』として存在していたダークノイズが流れて盛大な『白い縮緬ノイズ』が発生します。従来の自動ダーク補正でも相当軽減されていますが、それでもまだまだ白いスジが目立ちますね。・・・本来なら撮影時にディザリングしてノイズ自体を拡散させたり、コンポジット前にステライメージの「ホットピクセル除去フィルタ」を作用させたりして軽減すべきものだと思っていたのですが・・・。
今回紹介した『手動ダーク補正法』(って命名するほどのものじゃなくて、単にダーク減算時のマイナス輝度データを大切にした処理)で、それらの処理の代替になり得るかチェックしてみましょう。
では、行きますよ・・・
ででん!!
※左:自動ダークファイル補正 右:今回の手動ダークファイル補正
ぬおーっ!
「ステライメージのホットピクセル除去フィルタ」や「NikCollectionのDefine」や「シルキーピクスのノイズ整列」などを一切使わずしてこの低ノイズっ!!
わ、我ながら・・・・信じられん。
よーし、ではチョッピリNikCollectionのHDR+Defineを掛けて・・・と
うひゃー! このカット、実はこんなに良く写っていたのかー。
ふはははは
長時間露光もオートガイドもディザリングもシグマクリップも一切いらぬ!
『邪道』成就の道
見えたわ!
あ、ごめんなさい。調子に乗りすぎました。
あくまで『別解』ってことで・・・(笑)
★★★★お約束★★★★
①あぷらなーとが保有する3台のASI1600MM系冷却CMOSカメラには色々と個体差があって、それぞれに適した(キモとなる)処理は微妙に異なります。
※MM1号機は『クールファイル補正法』、MM2号機は「バイアス補正」、そしてMMーProは『手動ダーク減算』が今のところ重要なようです。
②例によって、なんらかの勘違いをしている可能性は否定できません。
③本エントリーはステライメージのダーク減算機能を否定する主旨ではありません。
④ステライメージ8は残念ながら持っていません。7は・・・処理が遅いので大量コンポジットには使いたくありません(小声)。
⑤さらなる『別解』として、「撮影時のオフセット設定で輝度を底上げ」「ダーク減算前に輝度値を引き上げ」「ダークファイル作成時だけシグマクリップ」などなどが思いつきますが、まだ実戦していません。
⑥ステライメージ6.5は『神』♪