★フラット撮影の便法として・・・あぷらなーとは不精者なので、薄明フラットとか曇天フラットなどの高度な技は習得していません。高速シャッターでパパッと百~数百枚撮影して、サクッとコンポジットして終わりにしたいですし、できれば撮影後に室内で気楽にフラット撮影したいのですね。
という訳で、昨年度からLEDトレース台を利用したフラット撮影を試行中です。
★お困りの方もいらっしゃる?
個人的にLEDトレース台を転用したフラット撮影はあくまで『邪道』だと思うんですが、思いの外反響が大きくて、上記のエントリーを見て購入された方も多いみたい。でも、実際の運用ではお困りの方もいらっしゃる様なので、念のため補足記事を書くことにしました。
ええと・・・
お困りの方は「奇妙なムラが発生してお手上げ!」ということだと思うんですが、
では、その時、トレース台では何が起こっているのでしょう?
★変なムラが生じた時、トレース台では・・・
恐らく「変なムラが生じる」であろう条件下で、カメラに広角レンズを付けてトレース台自体を直接撮影してみたのが下記の画像です。
光源:「日本製 トライテックのトレース台 トレビュアー LED B4 薄型 8mm 7段階調光可 保護シート付 B4-500-01」光量:最低輝度
カメラ:ASI1600MC-Cool
レンズ:ニコン18-35mmF3.5-4.5
主な撮像データ:
Output Format=SER file (*.ser)
Binning=1
Capture Area=1160x880
Colour Space=RAW8
Hardware Binning=On
High Speed Mode=On
Gain=232
Exposure=0.000406
すごいことが起こってるでしょ?
これは酷いですよねぇ。
こんな画像でフラット補正しちゃったらとんでもないことになりそう。
さらに分かりやすくするために動画にしたのが下記です

※75FPSで撮影したものをトリミングしてGIF動画化
実際のフラットファイルはこのように『シマシマが流れていく』画像を何コマかコンポジットしたものだと思いますが、よほど走査タイミングとコンポジットの開始点と終了点が合わない限り、どこかにムラが残るのは必至ですね。
★原因は複雑
これ、いわゆるフリッカー現象そのものなんですよー。
フィルム時代でもフォーカルプレーンシャッター搭載の一眼レフで蛍光灯照明の室内を撮影するとき、うっかり高速シャッターを切ったときに生じてたアレですね。蛍光灯の点滅周波数ギリギリの中速シャッターを切った際でも意外とムラが残っていたのは、フィルムの全部分について上記動画の白スジと黒スジの通過本数が一致するのが難しいからです。
ただ、これ、LEDトレース台だけが悪いのかというと、そうでもなくて、実は共犯者がいます。
それは「カメラ」なんです。
良く知られているように一般的なデジカメや冷却CMOSカメラはローリングシャッターを搭載しています。
このシャッターは画面全体を一気に露光するのでは無く、ライン毎に順次露光する仕組みになっています。まさにフィルム時代のフォーカルプレーンシャッタの動作と似ていますね。つまり、画面の位置によって露光される時刻が微妙にズレてしまうため、ある画素ラインでは「LEDが発光」している時に露光されたのに、別な画素ラインでは「LEDが消灯」している時に露光されちゃった結果、シマシマのムラが生じてしまうわけで、トレース台自体がシマシマに発光しているわけではありません。
では、実際の発光の様子はどのようなものでしょうか?
★出でよASI174MC!!
最近ユーザー様をお見かけしなくなりましたが、ZWOの冷却CMOSカメラASI174MC-COOLは驚くべき機能を有したカメラです。このカメラ、なんとグローバルシャッターを搭載しているのです。要するに、画面の全画素を一気に露光できるのですね。
そのため、ミルククラウンの撮影など超高速度動画を撮影した場合にも被写体が歪みません。
では、先ほどと同様の条件でLEDフラット台を撮影してみましょう。
すると・・・
ででん!!

ね?
実際は発光面全体が点滅しているのだということがハッキリ分かりましたね♪
※点滅周期が不規則に見えるのは、ASI174側のFPSとLEDの点滅周期を厳密に一致(というか整数倍に)させられないため。
★回避法はLEDの光量設定にあり!?
このように、グローバルシャッターを搭載したCMOSカメラであれば、ある程度のコンポジットを施すことで光量ムラの少ないフラットファイルが得られそうです。
・・・でも、あぷらなーと自身も含め大多数のユーザーさんは(ASI1600シリーズのような)ローリングシャッター搭載機をメインに据えていますよねぇ。
でも諦めるのは早すぎます。
実は、LEDトレース台の光量を最大輝度にセットすることでたいていの場合解消するんですよー。
これを見てください。

光源:「日本製 トライテックのトレース台 トレビュアー LED B4 薄型 8mm 7段階調光可 保護シート付 B4-500-01」
光量:最大輝度
カメラ:ASI1600MC-Cool
レンズ:ニコン18-35mmF3.5-4.5
主な撮像データ:
Output Format=SER file (*.ser)
Binning=1
Capture Area=1160x880
Colour Space=RAW8
Hardware Binning=On
High Speed Mode=On
Gain=139
Exposure=0.001033
ね?不愉快なシマシマが見事に消えました♪
実は(特に光量が多段階調整できるタイプの)LEDフラット台の光量は発光量自体を調整しているのではなくて、「目にもとまらぬスピードで点滅させることで光量が減ったようにみせかける」PWM制御方式を採用していることが多いのです。この場合、光量を減らすにしたがって「点灯している時間が短く」&「消灯している時間が長く」なっていきます。
要するに、光量を少しでも減らす設定にすると点滅が避けられません。
ところが、フル発光の場合は「常に点灯」になる機種がほとんどのため、不愉快なフリッカーが発生しないというわけですね。
★中には変わり種も存在していて・・・
冒頭のリンク先で言及した(現在はディスコンの)A3版のLEDトレース台が本当の『オススメ』だったのは、光量ムラが少ないだけでなく、不思議なことに最小輝度まで下げてもフリッカーが発生しないからなんです。
恐らくPWM制御ではなく抵抗値で電力制御しているのではないかと推測するのですが、こういう機種が弁別できるようなカタログ表記が増えると助かりますね。
・・・まあ、美術用具を天文機材に転用するのはメーカーさんの『想定外』でしょうから、配慮されることはないのでしょうが・・・・。
とりあえず、暫定的な結論としては
LEDトレース台は最大輝度で使うべし!
というところですね♪
P.S.
「それだと明るすぎるので減光するためにフィルターや紙やアクリル板が沢山必要じゃないかー」
というご意見が大多数だとは思いますが、個人的にはダークファイルと異なりフラットファイルの撮影には「露光時間をライトフレームに揃える必要はない」と解釈しています。
だって・・・ダークのように減算処理するわけではなく除算処理するデータですから、露光の絶対量ではなく相対輝度情報だけが必要だと考えられるからです。その証拠に、いつもフル発光のLEDをティッシュかトレーシングペーパーをかぶせた望遠鏡で撮影するとき、数百~数千分の1秒という高速シャッターで露光してますが、今のところは不具合は生じてないし・・・・。
え?
こ・・・これって、単にあぷらなーとの画像処理が未熟なためにアラが見えてないだけ??
そんなー(泣)