★フラット撮影の度に思っていた事世の中には賢い方々がいらっしゃって、天体写真撮影におけるフラット補正の方法も色々な手法が編み出されています。
基本的には「本番撮影と同じ」機材状況でフラットフレームを撮るのが重要なのですが、どうしても本番と異なる条件になる要素があります。それは『光源までの距離』です。
理想を言えば、完全にフラットな超巨大光源を無限遠方に配置して、それを望遠鏡で撮影するのが望ましいんでしょうが、現実的ではありません。
・・・で、(光害の影響が軽微ならば)筒先に拡散板などを配置してLEDなどのフラット光源を当ててフラットフレームを撮影することが多いんですよねぇ。
でも、少し考えると、光源上の任意の一点と撮像素子上の任意のピクセルとの距離が様々なので、色々と不具合が出そうな気がしてきたりして・・・・。
★そう言えば・・・
いつぞや冷却CMOSカメラのノイズ特性を調べようと思って、下記のような極端なセットアップでLEDトレース台を撮影したことがありました。
ええ。カメラにはレンズを付けずに、減光用のNDフィルタを装着しただけの状態でフラットを撮ってみたんですよ。
これなら望遠鏡などの特性を拾わないので、結構フラットな像が撮れるだろうと思っていたのですが・・・・・。
これが思いの他『汚い』像でして、周辺減光が結構強烈なんですですよー。
16コマコンポジットしたものをマカリで測定してみると、対角線上の輝度はこんな感じです。
うわー。
すんごい周辺減光・・・・。
しかも形があんまり美しくないような気が・・・・。
なんというか、「ピーク付近が思いの外フラット」で「周辺部は直線状に減光している」という印象。減光が出るにしてももっとサインカーブっぽい形になると思ってたんですが、カメラとNDフィルタだけというシンプルな構成でも色々と厄介なことが起こってるっぽいです。
・・・気色悪いなぁ。もう!
★というわけで、新企画♪
高等数学とプログラミング言語を封印し、三角比以外は中学数学だけを用いて「EXCELのみでシミュレーションしてみよう」という無謀なチャレンジに取り組んでみました。なにしろ光学のど素人がやることですから、思い切ってモデルを簡易化してみます。
フラット光源については・・・
こんな感じで、
小さな点光源が49×49のマトリクス状に展開しているというモデル。
撮像素子に関しては・・・
こんな感じで、
観察者が19×13のマトリックス状に整列しているというモデル。
それで、ある観察者から見た49×49個の光源の明るさを全て計算して、それを合計したものが1ピクセルが受けた光の総量と見なします。
★推測①:ケラレの影響
49×49の光源マトリクスは正方形なのですが、実際は約50mmの口径のNDフィルタによって円形に切り取られています。光軸からの距離を求めてこれが25mmを越えたセルは殺すことにします。
厄介なのはカメラのスリーブ内に存在している遮光リング(絞りと考えてもいい)の扱いです。
このように、
光源上の1点と撮像素子上の観測者を直線で結び、その上に遮光リングがあるかどうかで判定しました。
すると、例えば、
撮像チップサイズ:19.1×13mm
光源サイズ:50×50mm
NDフィルタ口径:50mm
絞り口径:30.5mm
撮像素子から絞り:39mm
絞りからNDフィルタ:16mm
評価ピクセルのX座標:- 8 (mm)
評価ピクセルのY座標:-+6 (mm)
という条件で判定してみると
このように49×49の光源のうち、
該当ピクセル上にいる観測者から『見えない』のはどれか(赤のセル)が評価できました。
★推測②距離の影響
先にお断りしておきます。
このあたりの議論ができるほどのスキルはあぷらなーとにはありません。あくまでも1つのモデルに過ぎません。
懐中電灯の光が、遠くになればなるほど拡散して暗くなるのと同様、マトリクス上に展開している個々の点光源から出た光は到達距離が遠くなればなるほど『薄れて』いきます。要するに、固有の光量が半球面上に分散するイメージですね。したがって
単位面積あたりの光量は、距離の2乗に反比例すると推測できます。
さきほどと同じ条件で試算してみると
『観測者』からは光源がこんな風に見えていることになります。
※緑:明るい 赤:暗い(ケラレの影響は加味していません。)
★推測③クロスセクションの影響
やってくる光に対して撮像素子が傾いていた場合、光から見た各ピクセルの面積が小さく見えるという効果が生じます。これをクロスセクションと呼ぶことにします。
このように、同じ撮像素子であっても光の到来方向によって有効な面積が変わることになりますので「斜めから入ってきた光は暗く写る」と考えられます。
これも同じ条件で試算してみると
『観測者』からは光源がこんな風に見えていることになります。
※緑:明るい 赤:暗い(ケラレの影響は加味していません。)
★推測④パスレングスの影響
光を吸収する材質内を光が通過する場合、下記のように入射角によって光が通過する厚みが異なりますが、この通過する距離のことをパスレングスと呼びましょう。
当然分厚いフィルタを通過した場合は減光率が大きくなると考えられますので、その効果も試算してみます。すると
このように・・・・というか、これはクロスセクションによる効果と全く同一のものになることが分かります。
★①~④の効果を合算する
上記の試算においては、全て「効果無し」が「1」になるように規格化しましたので、それぞれの計算結果をかけ算するだけで実際の総合的な効果が計算できます。
長くなったので初期条件をもう一度書きますね。
撮像チップサイズ:19.1×13mm
光源サイズ:50×50mm
NDフィルタ口径:50mm
絞り口径:30.5mm
撮像素子から絞り:39mm
絞りからNDフィルタ:16mm
評価ピクセルのX座標:- 8 (mm)
評価ピクセルのY座標:-+6 (mm)
という条件で判定してみると・・・・
ででん!!
1つのピクセルに置いた観測者から見たフラット光源は、このように『見えて』いるんですねぇ・・・。
で、この数値を49×49セル分合計してやると・・・・
はい。これでようやく、たった1ピクセル分の輝度がシミュレートできるという訳です。
あとは、任意ピクセルについて繰り返し♪
え?
「おいおい、正気の沙汰ではないぞ!」
ですと?
ふはははは
そういうこともあろうかと
我がEXCELシートにはスタンド能力「マクロレコード」を駆使した「自動計算ボタン」を備えつけておるのだッ。
では・・・・
「ポチッとな」
見よ!
ボタン一発で、ピクセル座標をサーチして自動集計して表にまとめつつ、ASI1600MMを用いた実測データとの比較グラフまで完了だッ!
ででん!!
ベクトルすら用いずに幼稚な数学のみで組んだシミュレーション。実測値とこれだけ一致すれば、もう立派なものじゃないかー。
というわけで、久々の連休初日はこんな作業のみで1日潰れましたとさ(笑)
疲れた・・・もう二度とやらねぇ・・・
★★★お約束★★★
①あぷらなーとは光学のど素人なので理論的裏付けはありません
②どこかにバグが残っている可能性も否定できません
③CMOSセンサー上のマイクロレンズの効果は加味していません
④各種の内面反射やガラス面反射は考慮していません
⑤各種寸法(や位置関係)が結構シビアに効くことが分かりましたので、他のユーザー様のセットアップだと全く異なる結果が出る可能性があります。
⑥レンズ無しのカメラを用いているので、いわゆる「コサイン4乗則」云々との関連性はありません。
⑦こんなこと調べてどうするの?という残酷なツッコミはご容赦ください。
単に、天気が悪かったのです。