天体写真

『遠征生え』した12cmアクロマートで干潟星雲を撮る

★インスタ映えならぬ『遠征生え』
天体観測のため機材満載で遠征した際、現地から帰ってくると出発前よりも機材が増えてるという不可思議な現象について、「帰りの車内で望遠鏡が勝手に生えてきた」というネタをブログやTwitterでつぶやいていたのですが、これを天文リフレクションズの編集長さんが『遠征生え』と表現されていました(笑)。

今回生えてきた鏡筒はケンコーのSE120なのですが、天文ファンの方々にはよく知られているように本来は「観望専用機」です。
120mmという(屈折望遠鏡としては)大きな口径に600mmという非常識とも思える短い焦点距離を有する『特殊な』望遠鏡・・・これは、短焦点化・大口径化に伴う色収差の増大を犠牲にする代わりに低倍率が容易に得られるようにして、特に星雲星団などの観望に適した設計思想といえます。

当然、この望遠鏡で天体写真を撮影しようとすると(明るさはともかく)盛大な色収差が発生して悲惨な像になることが容易に想像されますので、普通は撮影用には使いません・・・・・が、


★ナローバンドだと事情が異なる
さて、そもそもアクロマートとはなんでしょう?
あぷらなーとは光学設計に関して素人ですが、おおむけ下記のように理解しています。(昭和の知識なので今がどうかは知りませんが)
<アクロマートとは>
特定の波長2色について色消し(焦点が一致する)。かつ1色についてアプラナート(球面収差もコマ収差もない)
<セミアポクロマートとは>
特定の波長色について色消しかつ1色についてアプラナート
<アポクロマートとは>
特定の波長3色について色消しかつそのうち色についてアプラナート

まあ、実際は何をもって「消し」とか「ない」とかと定義するのかは疑問なのですが、要するにアクロマートは色収差については不利なものの、特定波長における像のシャープさを決める球面収差に関しては決して粗悪とは言い切れないわけです。ですから、星雲の撮影に用いられるナローバンドフィルタで透過する波長を1色に制限してしまえば見違えるようにシャープに変身する可能性があります

実際、一例として安価な対物レンズ代用品であるケンコーのACクローズアップレンズについて、ノーマル状態とナローバンドフィルタを併用した場合で撮り比べてみると
f0346040_00355039.jpg
 ※左から、それぞれ「フィルタ無し」「OⅢ使用」「Hα使用」「SⅡ使用」

このように、ボケボケのレンズがナローバンドフィルタによってバリバリシャープなレンズに変身することが分かります。
そこで・・・・



★「アクロマートの逆襲」企画

クローズアップレンズ転用の自作アクロマート望遠鏡『にせBORG』で、ナローバンド撮影を試みたり

ケンコーのアクロマート望遠鏡MILTOL200を用いたナローバンド撮影を試みたり

色々と試行錯誤した結果、口径50mm前後の対物レンズに関する限り、ナローバンド撮影はアクロマートで十分事足りるとの結論に至りました。

ええ。いつぞやのギャグ広告↓も、水面下では案外本気だったんですよー(笑)
f0346040_00532481.jpg

★問題は大口径でも通用するか?

詳細なお話は割愛しますが、天体望遠鏡と写真撮影装置との関係って、結構「いびつ」なんです。
本来は、似た設計の対物レンズを用いる場合・・・
 ①対物レンズの口径をN倍にする
 ②焦点距離もN倍にする
 ③フィルムサイズ(現代なら撮像素子の直径)もN倍にする
という3つの条件がそろうと、得られる像の大きさはもちろんのこと、実用上の収差量までもが一致すると推測されます。要するに、収差による像のボケが2倍になってもカメラのフォーマットサイズが2倍になれば、写真にした際の引き延ばし率(画面に映した際の拡大率)が1/2倍になって、見かけの収差量が相殺されるという原理です。

ところが実際には、口径50mm・焦点距離200mmの望遠鏡を口径100mm・焦点距離400mmの望遠鏡にスケールアップしても、肝心のカメラを変えずに流用するケースが多いものですから、増大した収差がそのまま写ってしまう計算になります。(もちろん得られる像も大きくはなりますが)

すると、小口径の場合に好結果が出たとしてもそれをそのまま大口径にスケールアップした場合は破綻するかもしれないという訳です。

あぷらなーとが、大口径のアクロマート購入を躊躇していた理由がここにあります。もちろん軍資金の問題も重要で、1枚1600円前後のアクロマートレンズで遊ぶのと、1本3~5万円もする10~12cmクラスのアクロマート屈折望遠鏡を試すのとは必要とされる覚悟の桁が異なりますので・・・。



★生えてきたものは仕方がない
しかし今回、ケンコーの12cmアクロマート屈折望遠鏡が『勝手に生えてきた』んですから仕方ありません。早速ナローバンド撮影における『性能テストごっこ』を始めるとしましょうか。

f0346040_07202071.jpg
今回は、できるだけシンプルな構成で行きます。
SE120にBORGのアダプタを介してPro1D・ACクローズアップNo3を組み込みます。
モノクロ冷却CMOSカメラASI1600MMproには、Hαナローバンドフィルタを装着します。

厳密な位置合わせをした訳ではないのですが、周辺部の等倍星像チェック結果はこんな感じです。
f0346040_01254304.jpg
周辺部に円周方向の流れが若干生じていますが像面は平坦そうです。クローズアップレンズによるフラットナー効果も悪くないようです。


★大好きな干潟星雲を撮影する
撮像温度:-15℃ ゲイン:390 露光時間:30秒
という条件で撮影した干潟星雲の一コマ画像はこんな感じです。
f0346040_01304689.jpg
 左:全体像 右:一部拡大

悪くない写りですが、中心部がサチってしまってますね。
ああ失敗。もっとゲインを下げておくべきでした。
実はゲイン390で120コマも撮影した後でしたが、急遽ゲインを200と260にした画像もそれぞれ60コマ撮り増しします。

さて、240コマの画像をそのままコンポジットしてしまうと・・・
f0346040_01381200.jpeg
ああ、出ました。ホットピクセルによる白いスジとクールピクセルによる黒いスジが無数に出てますね。『縮緬ノイズ』の発生です。
これらを回避するために、ダーク補正とクールファイル補正を施してからコンポジットしなおします。

すると、
f0346040_01420196.jpeg
f0346040_10553649.jpg
おおー。期待以上に良い像が出てきました。ノイズもかなり軽減できましたので、これを元に強めの画像処理を掛けてみます。
今回は、解像度を上げるためにレジスタックスのウェーブレット処理ストラクチャを強調するためにNikCollectionのHDRを用いることにします。これらを用いながら画像処理を続行すると・・・・・。

ででん!!
f0346040_01534724.jpg
うひゃーこりゃスゴい。
気味が悪いほどディテールが出てきました。

ちなみに全体像はこんな感じですが、
f0346040_01520710.jpg
これ、拡大してみないとスゴさが実感できませんね。


★折角なので、無理矢理カラー化を
過去にIR改造D5000で撮影していた干潟星雲の画像(ボケボケですが)がありますので、これをRGBチャンネルとし、今回のHα画像をLチャンネルとしてLRGB合成で無理矢理カラー化を狙ってみましょう。

すると・・・

ででん!!
f0346040_02014790.jpg
ふはははは。
アクロマートの逆襲、成ったわッ!

うーん。あとはOⅢやSⅡの撮り増しだなぁ。
いや、BORG89ED×2本とSE120×1本の三連装化っていう手もあるなぁ。

ま、とにかくアレだ。
『遠征生え』の元は取ったぞ♪


★ちょっと気がかりなこと
『決戦兵器』として組み上げた『フルアーマーBORG』↓と焦点距離が同じなので『共食い』しないか・・・・?
f0346040_02085429.jpg
これまでで自己ベストの干潟星雲画像を叩き出していたVMC260L+D810Aの『贅沢コンビ』が喰われてしまわないか・・・?
f0346040_02150718.jpg
 ※左:VMC260L+D810Aコンビで撮影したもの(普通のカラー撮影だが、コンポジット枚数は400コマ)
  右:今回の画像

・・・悩みは尽きませんねぇ。


★★★お約束★★★
①前半でお話しした口径をN倍したときに・・・・云々は、あくまで同等光学系における収差量のお話で、よくある「フルサイズ一眼+400mmF5.6 と マイクロフォーサーズ一眼+200mmF5.6の写りは同じか違うか」云々の議論とは別視点です。
ちなみに、後者の場合は「無収差」を前提に、ボケ味やデプス(被写界深度)やパースペクティブ(遠近感)の差異を問う議題です。
この場合は結果が事なり、「口径が同じ」+「焦点距離がN倍」+「フォーマットがN倍」の3つがそろったときに全く同じ像が得られる計算になります。

②SE120について、その個体差の有無は不明です。

③実際にシャープな絵が出せるかどうかは画像処理手法によって大きく左右されます。
全く異なった条件で撮影したVMC260LとSE120の絵が(ある程度)似通っているのは、機材の特性というよりも、あぷらなーと個人の画像処理のクセの影響が大きいかもしれません。

④SE120の鏡筒にほとんど手を入れずに運用できたのは、「ノータッチガイド+多数枚コンポジット」という撮影法によるところが大きいかもしれません。もしも真面目にオートガイドしたり長時間露光した場合にどの程度の不具合が発生するかは不明です。

⑤SE120による像は、あくまでもHαナローバンドフィルタの効果が大きく、素通しの撮影では盛大な色収差でボケボケになると思われます。

⑥VMC260Lによる干潟星雲がナローバンドに匹敵する写りだと解釈することも可能ですが、そもそもこちらは5等星以上が見える遠征地で撮影したもので、今回の様な「北極星すら視認しづらい」という環境下で撮影した画像と直接比較できるものではありません。

⑦SE120のLRGBカラーは、L画像としてHαナローを用いていますが、これは今回の対象のように全面にHαが分布している場合のみ可能です。本来はブロードバンドで撮影したL画像を用いるのが定石です。







Commented by せろお at 2019-05-05 11:24 x
SE120はKENKO ジャンク(最近B級に改め)で2万円ちょっとで出てきますね。
ってことはトリプル化も可能か!
まぁ、気付いたときにはだいたい売り切れなんですけどね・・・

うちにも15cm F5のアクロマートが転がっていますが、出撃の機会が有りません。
お手軽な小口径アポクロマートばかり使ってしまいます。
Commented by にゃあ at 2019-05-05 11:43 x
まさにアクロマートの逆襲ですね。コツコツと研究を重ねて、ここまでたどり着いているところが素晴らしいです。いよいよハンドルネームを「あくろま〜と」に変えるときが来たかもしれませんね(笑)
Commented by noritos1047 at 2019-05-05 12:47 x
いやはや、ここまで来ると画像処理の神様だなぁ。
一連の処理をボタン一つで実行できる統合ソフトでも作って欲しいですね。
このGW、奈良の山奥に遠征しましたが、こちらは何も生えて来るものは無かったのですが、お隣のベテランさんから「露出せめて60秒にしたら」とか、「これからの季節、フードがいる」とか貴重な助言を頂き、とっても有益でした。深夜にも車が行き交うし、煌々とランプを点ける人もいて快適とは言えませんでしたが、にわか観望会になって楽しかったです。
Commented by supernova1987a at 2019-05-05 14:50
> せろおさん
ううっ、ヤフオクとケンコーB品サイトを巡回する日々がバレてましたか。
今回、あえてスコーピオさんで新品を買ったのは、接眼部のガタとかアリガタの止め方(すごく独特です)を手で触って確認したかったからでした。想像してたよりもしっかりしていて『即決』でした。(その前に15cmアクロに目移りしてへばりついてたのは内緒)

ちなみにレンズの面積から考えるとBORG89を用いた場合の約1/2の露光で済んでしまう計算になります。当面は、SE120×1+89ED×2の混成三連砲での運用を考えますが、いつの日か・・・・。
Commented by supernova1987a at 2019-05-05 14:55
> にゃあさん
天リフ編集長さんが要約コメントでアクロマートを「あくろまーと」と表現されてたので、一瞬にゃあさんと同じ事を考えました(笑)。
ブログやツイートのアクセスが結構伸びてきてるので、今後同じ事をやる人が増えてくるかもしれませんね。子供の頃に書いた内輪向けの記事『アクロマートの逆襲』(ココからかよ!)の実現が着々と・・・。
Commented by supernova1987a at 2019-05-05 15:09
> noritos1047さん
残念ながらプログラミングスキルに乏しいので、人様にお出しするソフトは作れませんが、ぴんたんさんのFlatAideProが拙作『イーブンオッド・コンポジット法』や『クールファイル補正法』を実装していただいてるので、非常に助かっています。

奈良の山奥遠征では何も生えてきませんでしたかー。
でも同業の方と情報交換できるのは有益ですね。私の場合『王道に反する』ことばかりやってるので、あんまりガチンコで情報交換するとケンカになっちゃいそうなんですが、こちらの観望会では「相手の価値観を否定せずに自分の主張をする」紳士な方ばかりだったので、楽しかったです。
某:「SharpCapの極軸合わせ、良いですよぜひ」
私:「あうー。でもPoleMasterを買っちゃったので、認めたくない・・・」
某:「わははは。」
みたいな感じで。
Commented by 是空 at 2019-05-05 15:12 x
カラーもいいけど、白黒でも十分に楽しめますね。
好みの問題ですが、屈折派としては十字の輝線がない今回の画像に軍配をあげたい。
あくまで自分の好みです。

「生えてきたものは仕方がない」
そう仕方ないよね、笑った。^^
Commented by supernova1987a at 2019-05-05 16:14
> 是空さん
昔は天文ガイドのコンテストでも「白黒の部」があったように、白黒写真にも味があると思っています。(カラーと比べると画像処理が恐ろしく楽ですしね。)

ちなみに、私はスパイダーの十文字も嫌いではないのですが、これが災いして複数鏡筒の画像合体が難しい事も多いので、怪しい処理をするときは屈折望遠鏡が楽だなぁと感じています。

Commented by te kure at 2019-05-05 16:51 x
私もソフトとまではオネダリしませんが、マニュアル本を作っていただければな〜
速攻でポチります!(笑)
Commented by supernova1987a at 2019-05-05 18:37
> te kureさん
そ、それならば・・・・
あ、ダメだ。ステライメージの「6.5」を使わないとダメな処理が多すぎる・・・。
それと、多分、私の画像処理はコンテスト向けではないので一般ウケしないと思います。なんというか着目点が違いますので・・・。

自分の備忘録にもなるので、いつか記事にしてみたいとは思いますが、期待せず気長にお待ちくださいませ。まだまだ釈然としないことが多々残ってますので。(先人達の知恵を学ぼうとせず、全部自力で謎解き自体を楽しむ性分なのでこうなっちゃうんですが・・・ねぇ。)
Commented by オヤジ at 2019-05-06 05:51 x
寝不足でも、明るく・煩くて、昼間寝る事の出来ない不器用なジジイなので、昨日、FlatAide Pro.でクールファイル補正を何度か使ってみました。(初めてです)
生画像20枚位ですが、これを通すと、確かにノイズ(と、言って良いのか)が減りました。
が、画像処理全体では、手順と言うか、枝分かれする作業が多くて、何時も頭ポリポリです。(笑)
ま、少しづつですが、生画像を増やして、梅雨+夏を乗り切りたいと。(笑)
Commented by supernova1987a at 2019-05-06 09:57
> オヤジさん
おお『クールファイル補正法』チャレンジされたのですね。ありがとうございます!

本来は「オートガイド無し」もしくは「オートガイドしてるけどなんかズレる」で「ディザリング無し」の条件下で、「オートガイド+ディザリング」に匹敵する効果を得るために開発したものですので、真面目にオートガイドされているオヤジさんの場合には効果が見えにくいかもしれません。

もしノータッチガイド(オヤジさんの言うところのオフガイド)で多数枚撮影した画像があれば、ダーク減算処理をした後に、『クールファイル補正』をお試しくださいませ。
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by supernova1987a | 2019-05-05 02:40 | 天体写真 | Comments(12)

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