注:昔運用していた個人HPのデータをサルベージしたものです。執筆当時とは20年ほどタイムラグが有りますので、現在の状況とは異なります。また、内容的に正しいとは言い難い部分もありますが、あえて手を加えてありません。あくまでタイムカプセル感覚でお楽しみください。
前書き
新聞広告などでよく見かける、「なんと最高倍率280倍!1km先のものを3mまで引きよせるパワー!!云々」。ど派手なパフォーマンスの割には値段も安く、こんなうまい話があるのかな?と思ったことがあるでしょう。さて、この広告、インチキかと言えばそうとも言えません。確かに「倍率280倍」は事実なのです。それにも関わらず、おそらく購入した大半の方は失望することでしょう。それは次のような理由によります。
○販売者の主張:最高倍率が280倍である!
○購入者の期待:最高倍率280倍で細かいところが鮮明に見えることだろう
このように、購入者は販売者の主張以上の要素を求めているためがっかりするのです。実は、細かいところが鮮明に見えることと倍率が高いことは全く関係ありません。分かりやすい例で言えば、望遠鏡の倍率はラジカセの「再生音量」の様なものです。いくら大音響の再生をするラジカセでも、肝心の音質がノイズバリバリでは誰も買いません。ラジカセで大切なのは、音量よりも音質であるはずです。同様に、望遠鏡にとって大切なものは、倍率ではなく画質なのです。たしかに小さな望遠鏡でも高い倍率は出せます。しかし、それでは満足のいく観望はできないでしょう。
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1.鏡筒本体について
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1-1.倍率が高い望遠鏡がいいの?
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望遠鏡の性能を決める3要素として
○倍率(これが全てでないにしても、倍率1倍では誰も買うまい。)
○明るさ(目に見えないほど暗い星や星雲がくっきり見えるかどうか?)
○画質(シャープさ。こればかりは広告からは分からない。)
が考えられます。
このうち「倍率」はアイピース(接眼レンズ)と呼ばれる部品を後で買い足すことで、いくらにでも変更できます。アイピースは通常3000円から5000円程度で手に入りますから、本体を買う際にはほとんど気にとめる必要がありません。むしろ、必要のないアイピースがついているとその分値段が張りますから、自分の必要なアイピースを後から買う方が賢いのです。
次に「明るさ」ですが、どのような望遠鏡でも倍率を元の2倍にすると明るさはもとの4分の1になってしまいます。
○口径50mm倍率50倍の時○
○口径50mm倍率100倍の時○
そのため、倍率が高い像は倍率が低い像にくらべて、非常に暗くて見にくいのです。これを防ぐためには、よりたくさんの光を集めるしかありません。望遠鏡のうち光を集めるレンズを対物レンズ(もしくは主鏡)といい、その直径を「口径」といいます。一般的に口径が2倍になれば、光を集める量が4倍になるため、倍率を上げても明るい像が楽しめます。上の口径5cmでは暗くて見づらかった100倍の像も下の口径10cmでは明るく楽しめます。
○口径100mm倍率50倍の時○
○口径100mm倍率100倍の時○また、光学理論上は口径が大きいほど分解能(パソコン用のスキャナーで言えばdpiに相当する)が高いため、像が明るいだけでなく、より細かい部分がくっきりと見えてきます。つまり、望遠鏡の性能は倍率ではなく口径で決まるのです。
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1-2.口径が大きい望遠鏡がいいの?
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新聞広告に載っているような望遠鏡はみな口径が6cmクラスのものばかり。もっと口径の大きい望遠鏡にはどんなものがあるのかを探すためには、まず、天文ガイド・月刊天文・スカイウォッチャーなどの天文雑誌を見ることです。この3誌のうちでも特に天文ガイドはイヤミで「広告ガイド」といわれているほど(?)広告が多いので、望遠鏡の品定めをする上では唯一無二の情報源となります。
さて、初めて天文ガイドを見た人は「こんなにたくさんの望遠鏡があるのか?値段も3000円くらいから300万円くらいまであるぞ!?」と驚かれるはずです。そして、それぞれの広告を比較しているうちに奇妙なことにも気づくはずです。それは、口径が全く同じなのに値段が全然違うものがあるということです。
先ほど、望遠鏡の3要素として、倍率・明るさ・画質の3つがあるといいました。このうち、倍率は性能と関係なく、明るさは口径で決まると述べました。問題は最後の「画質」です。もちろん光学理論上は口径が大きければ大きいほど分解能がよいのですが、望遠鏡もあくまで人が作るもの。実際の性能は理論より性能が悪いのが常です。そこで、より理論値に近づけて高性能が出せるように、様々な望遠鏡の形式が作られました。同じ口径ならば、より高い値段の望遠鏡の方がシャープな像を結びます。しかしそれだけの値段を出せるのであればもっと大きい口径の望遠鏡が買えます。ここで、本格的な悩みが始まります。
たとえば、同じ10万円で口径8cmのものと口径15cmのものがあったとすれば、口径8cmの方がシャープな像を結ぶことでしょう。しかし、口径15cmの方が明るい像を結びます。どちらを選ぶのか?値段が同じなのですから、それなりのメリットがあるはずです。つまり、自分にとってどちらの方が適しているかをしっかりと考えることが必要になるのです。
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1-3.F値の大きさはどう関わるの?
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レンズの中心から焦点までの長さを焦点距離といいます。望遠鏡の倍率は以下の式で計算できます。
倍率=対物レンズの焦点距離/接眼レンズの焦点距離
安い接眼レンズを色々買いそろえておけば、好きな倍率に変更できるわけです。では、焦点距離が様々な望遠鏡が売られていますが、どのような観点で選択すればよいのでしょうか?
焦点距離を口径で割ったものをF値といいます。
F値=対物レンズの焦点距離/対物レンズの口径
たとえば、口径100mm焦点距離800mmの望遠鏡のF値は800/100=8となります。
望遠鏡のF値は、カメラのレンズについているFと本来同じものです。
実は、望遠鏡にとってF値は非常に大切な性能の一つなのです。口径が同じ望遠鏡のF値についてまとめると、以下のようになります。
たとえば、同じ口径10cmの望遠鏡で、F値が10のものと5のものがあったとします。月面や惑星の観測が主ならばF10のものがよく見えますが、これで星雲星団を撮影しようとすると膨大な時間がかかり大変です。星雲星団の撮影が主ならばF5のものを選ぶべきですが、これで惑星を観測しようとすると、どうしても少しぼやけた像しか得られません。中には、短焦点のくせにやたらと高性能で、惑星の撮影も可能なものもありますが、非常に高価です。
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1-4.同じ口径でもいろんな形式がある?
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口径13cmクラスの望遠鏡を購入しようとカタログをひもとくと、まず、その機種による価格差に度肝を抜かれるはずです。一例を示すと
全部口径13cmクラスの望遠鏡本体の価格です。口径が同じなのですから、光学理論上はどれも同じ性能を持っているはずです。一体どこからこの価格差が生まれてくるのでしょうか?注目すべきは、その形式とレンズ構成です。表を見ると反射式よりも屈折式の方がはるかに値段が高いことが分かります。また、同じ屈折式でも使用しているレンズの構成によってずいぶん価格が異なっています。実は望遠鏡には収差という像の乱れが必ず伴うもので、それを極力少なくするために、様々な形式の望遠鏡が誕生したのです。当然高い望遠鏡の方がある種の収差が少なくなっているはずです。
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1-5.反射と屈折どっちがいいの?
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一般的には、屈折式と反射式の性質は次のように言われています。
屈折式:対物レンズとして凸レンズを使用しているもの
長所:非常にコントラストが高く、常に安定した像を結ぶ。
調整が不要で扱いやすい。半永久的に性能が保たれる。
短所:色収差といわれる色にじみが生じる。
レンズを何枚か使うので非常に重たい。
大口径化・小F値化が難しい。
反射式に比べると非常に値段が高い。
反射式:対物レンズとして凹面鏡を使用しているもの
長所:原理的には色収差は皆無。
大口径化・小F値化しやすい。
屈折式に比べて大変安い。
短所:非常にデリケートで、調整の必要がある。
コンディションによって性能が変わりやすい。
10年ぐらいを目安にして再メッキの必要がある。
屈折式よりもコントラストが低く像が安定しない。
上記をまとめると、口径が小さいものでは屈折式、口径が大きいものでは反射式が優れていることが分かります。また、同じ予算であれば屈折式の方がシャープな像が得られ、反射式の方が明るい像が得られます。つまり、月面用には屈折式、星雲星団用には反射式が優れています。なお、両方の要素が求められる惑星用には、意見が分かれるところです。もちろん、持ち運びの不便さを気にせず、お金に糸目をつけないのであれば、質の良い屈折望遠鏡に勝るものはありません。
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1-6.カタディオプトリックって?
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反射式と屈折式の長所ばかりを集めて望遠鏡を設計できないか?そんな目的で開発された望遠鏡をカタディオプトリック式と呼びます。具体的には、レンズと鏡の両方を組み合わせた光学系を指します。最近人気のシュミットカセグレンなどはその代表です。
では、カタディオプトリックが究極の望遠鏡かと言えば残念ながらそうではありません。長所だけを拾おうとすると、その副作用として両方の短所も拾ってしまうからです。結果的に、反射式と屈折式の中間的な性能を有していることになります。また、カタディオプトリックはその性質上、レンズ構成が非常に複雑になっています。そのため、製造過程において非常に高度な技術が要求され、製品ごとのばらつきや設計値とのずれも大きくなってしまいます。私が中学1年の時に全財産をなげうって購入したアルテア15(\218,000)では、光学理論上の性能にばかり目を奪われたため、現物を使用したとき悲惨な目に遭いました。どのような目的のために開発された光学系なのか、そして設計値を実際の製品に反映させうる力量のメーカーなのか(※)をしっかりと見極めることが大切です。
<※2019年追記:メーカーさんが最近公開した資料によると「アルテア15の像が甘いという意見があるが、これは光軸調整不足か温度順応不足によるものである」という説明がなされています。>
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1-7.屈折望遠鏡の色々
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一口に屈折望遠鏡といっても、様々な形式のものが存在します。

すべて口径10cmクラスですから、光学理論値は同じはずです。注目すべきはレンズ構成です。当然高級なガラス材を使用している方が(光学理論値ぎりぎりまで)性能が高められています。大ざっぱに言って屈折望遠鏡の性能ランクは次のようになります。(下に行くほど高級)
①シングルレンズ
文字通り1枚のレンズでできた対物レンズ
現在これほどの粗悪品はファインダー以外製品化されていない
↓
②色消しレンズ
とりあえず2色の波長について色収差を補正したレンズ。
色のにじみは少ないがシャープな像とは限らない
↓
③アクロマート
2色の波長について色消し、1色についてはコマ収差も球面収差もないレンズ
現在の主流で、普通の望遠鏡はこのタイプ。BK7とF2を使う場合が多い。
↓
④フォトビジュアルアクロマート
アクロマートよりも色収差を少なくした改良品
実際の使用感はセミアポに近い
↓
⑤セミアポクロマート
3色の波長について色消し、そのうちの1色についてはコマ収差も球面収差もないレンズ
現在見かけることはまれ。もっと普及してもよいバランスのとれたレンズ。
屈折率や分散がの面で有利な重クラウンや重フリントが使われる。
↓
⑥アポクロマート
3色以上の波長について色消し、そのうちの2色以上についてはコマ収差も球面収差もないレンズ
通常ガラスを3枚程度使用する必要があることから俗に3枚玉アポともよばれる。
↓
⑦EDアポクロマート
「EDガラス」(Extra-low-Dispertion)を使用したアポクロマートレンズ。
色収差のほとんどない超アポクロマート的な像が得られる。
↓
⑧SDアポクロマート
CaFK95と呼ばれる特殊なガラス(ホタロンともよぶ)を使用したアポクロマートレンズ。
ガラス材でありながらフローライトとほぼ同等の性能を有する。
↓
⑨フローライトアポクロマート
ガラスではなく、CaF2(フッ化カルシウム)の人工結晶を用いたアポクロマートレンズ。
蛍石の名でも知られ、現在最高の眼視性能が得られるレンズ材。
↓
⑩3枚~4枚構成の新種ガラス使用の特殊なアポクロマート
目的に応じて、レンズの枚数を増やした超高級望遠鏡(アナスチグマートとも)
望遠鏡と言うよりは望遠レンズに近く、写真性能を重視するあまり、見え味は犠牲になっている場合もある。
<※2019追記:上記の分類とその評価は、当時のあぷらなーとの主観です。正確には2枚玉のED『アポクロマート』は理論上存在し得ません。(3枚以上無いと3色の焦点を一致させる解が存在しないから)ただし、実際の使用感から『アポクロマート』と称されることが多く、むしろ通常の3枚玉アポよりも高性能のため、この件について異論を唱えるものではありません。>
以上の通り、高価な屈折望遠鏡は安価な屈折望遠鏡よりもよく見えるのです。ただし、ある種の目的のみに特化したタイプの望遠鏡は、他の性能を犠牲にしている場合もあるので注意を要します。たとえば、口径10cmクラスの望遠鏡の中ではペンタックスの100SDUFが星雲星団撮影において圧倒的高性能をはじき出しますが、この望遠鏡で月面を観察しようとすると悲惨な結果になります。また、月面だけが目的なら、ビクセンのFL102Mが圧倒的高性能ですが、この望遠鏡で星雲星団を撮影するのは難しいでしょう。
<※2019追記:上記の評価は、フィルムカメラを前提とした、当時のあぷらなーとの主観です。デジタル機材が普及した現在では、必ずしもあてはまるとは限りません。現在のあぷらなーとは、むしろ『定説』を覆す運用法こそが醍醐味だと感じています。>
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1-8.反射望遠鏡の色々
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屈折望遠鏡が対物レンズとして凸レンズを使用しているのに対して、反射望遠鏡には凹面鏡が使用されています。
反射望遠鏡には使用する鏡の形状と枚数によって様々な形式のものが知られています。
①ニュートン式
主鏡として放物凹面鏡、斜鏡として平面鏡を使用するもの
非常に単純な形状のため、市販の反射望遠鏡の大半を占める最もポピュラーな形式。
反射望遠鏡といえば、まずこの形式だと思って間違いない。
②カセグレン式
主鏡として放物凹面鏡、副鏡として双曲凸面鏡を使用するもの
ニュートン式と比べて、鏡筒本体の長さが短くてすむという利点がある反面、周辺部の部の像は崩れやすい。副鏡の研磨が困難なため、小型のものはほとんど市販されていないが、タカハシから、口径20cmニュートン・カセグレン切り替え式のものが発売されている。
③グレゴリー式
主鏡として放物凹面鏡、副鏡として楕円凹面鏡を使用するもの
正立像が得られるのが特徴だが、市販品にお目にかかったことがない
④ドールカーカム式
主鏡として楕円凹面鏡、副鏡として球面凸面鏡を使用するもの
カセグレン式と同じような形式だが、特に副鏡の研磨がやりやすい形状なので、高精度のものが安価に制作可能。
市販品では、タカハシのミューロンシリーズが有名。
⑤ナスミス式
主鏡として放物凹面鏡、副鏡として2枚の平面鏡を使用するもの
天文台用の大型望遠鏡の形式として近年よく採用されている。
⑥リッチークレチアン式
主鏡・副鏡ともに高次非球面鏡を使用するもの
球面収差・コマ収差ともに完全に補正されたアプラナート光学系。像面の湾曲をのぞけば完全無欠の光学系だが、製作は非常に困難なため大変に高価。
反射望遠鏡の場合は、屈折望遠鏡のように形式だけでランクが決まるようなことはありません。理論上どの形式であっても、画面中心部の像は完全無欠なシャープ像を結ぶように設計されているからです。そこで、選択のポイントは、「画面周辺部の像の善し悪し」と、「鏡筒自体の使い勝手」の2点になります。一般的には、見え味が優れているのはのニュートン式、使い勝手の優れているのはカセグレン式というところです。
なお、反射望遠鏡の場合に最も大切なポイントは、どれだけ理論曲面に近く鏡面を作られているかを示す「鏡面精度」です。一般的に必要とされるニュートン式の鏡面精度はλ/8といわれています。これは光の波長の1/8の誤差内に鏡面が仕上がっていることを示しています。中にはλ/20を売り物にしている望遠鏡もありますが、これは0.027ミクロン(0.000027ミリ)以内の誤差で鏡面を磨いているという驚異的なものです。とうぜん鏡面精度がよい望遠鏡ほど理論値に近いシャープな像が得られますが、実際にはメーカー表記の精度が出ていない場合が多いものです。
<※2019追記:海外製の安価な製品が発達した現在では、上記の評価とは異なる可能性があります。たとえば、この時代のニュートン反射よりも安価なリッチークレチアンが複数存在します。また、現在では鏡面精度(λ/○が性能の指標として用いられることは希になりました。屈折望遠鏡の色消しの定義と同様、「何をもって一致(ずれがゼロ)と見なすのか」自体が曖昧なもので、安直な評価は危険です。>
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1-10.あぷらなーとの場合
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「いつの日か一生使えるような天体望遠鏡を買って、ものすごい天体写真を撮りたい!」
当時小学6年生だったあぷらなーとは、好きなプラモデルもマンガもひたすら我慢して貯金をしていました。そして、中学生になったら念願の望遠鏡を買おうと、天文ガイドをボロボロになるまで読み返し、カタログスペックを理解するために光学用語を少しずつ覚えていきました。そしておぼろげながらに以下のことが分かりました。
・以前使っていた屈折望遠鏡で月面を観察すると目障りな色のにじみがあったが、この正体が色収差であること。
・コマ収差があると、画面の中心はシャープでも画面の周辺部が流れるような像になってしまうこと。
・虫眼鏡で作った自作望遠鏡は何となくぼんやりとして見え味が悪かったが、その原因は球面収差であること。
・像面湾曲があると、写真を撮ったとき、周辺部のピントがずれること。
そして、これらの弊害が全てクリアーされている機種としてミザールのアルテア15(¥218,000)を選択しました。口径150mmF10のカタディオプトリックカセグレンです。
・・・・・・・果たして、私の選択は正解だったのでしょうか? こたえはNoです。
全くうかつだったとしか言いようがありません。当時の私は、設計値と実際の性能が異なることなど夢にも思わなかったのです。たしかに、この望遠鏡の設計は非常に優秀でした。ただし、非常に複雑な形状になる主鏡面を安定した精度で量産する技術が無かったようです。あるいは、たまたま私の製品が「はずれ」だったのかもしれません。2万円足らずの60mm屈折よりもあきらかに月面などの見え味が悪いのです。ただし、色収差・コマ収差・像面湾曲は非常によく補正されていましたから、直焦点写真撮影には大活躍しました。結局、球面収差だけが補正しきれずに残っていたようです。
がっかりしたのは、見え味だけではありませんでした。この望遠鏡には以下のような欠点があったのです。
1.球面収差が残っており、見え味は60mm屈折にも劣る
2.補正レンズの影響で、写真を撮ったとき巨大なゴースト(光の斑点)が出現する
3.F10では、実質直焦点撮影で星雲星団を撮影するのは不可能に近い
4.接眼部(ドローチューブ)が細すぎるために、ケラレが生じ、写真の中央部しか像が写らない。
ただし、一度購入してしまったものを気安く手放すわけにはいきません。そもそも、全財産をなげうって購入したものですから、なんとか工夫して使うことを考えました。そこで、
1.球面収差で甘い像なのは我慢する。つまり、月面や惑星の拡大撮影は潔くあきらめる。
2.ゴーストが出るのも仕方がない。できるだけ画面の中に明るい星が入らないように構図を工夫する。
3.F10なら、一般的なF5クラスの望遠鏡に比べ、露出時間が10倍くらいかかるので、暗い星雲星団の撮影はあきらめる。できるだけ感度の高いフィルムを用い、明るく小さな対象を大きく写すことに専念する。
4.ドローチューブを改造する。
以上の方針により、そこそこ満足のいく天体観測ができました。以後、12年以上愛用してきましたが、今回買い換えを行いました。
以前の反省を元に、全く逆の発想で作られた望遠鏡を選択しました。ビクセンのR200SS。これは、口径20cm、焦点距離800mm、F4のニュートン式反射望遠鏡です。
予想される弊害として
1.F4のため、製作が困難。したがって、鏡面精度はあまり出ていないだろう。
2.F4のため、強烈なコマ収差が発生し、写真撮影が困難だろう。
以上2点が懸念されたため、コマ補正レンズを併用した星雲星団撮影専用機にすると割り切って購入したのです。
ところが、これが予想以上によい望遠鏡でした。F4にもかかわらず、惑星などの見え方がアルテア15よりも数段よいのです。コマ収差のため、月面観望時に周辺部が崩れますが、中心部はピリッとシャープな像を結びます。これならば、惑星用にも使える・・・・・感激です。球面主鏡にメッキをする際にトーン修正をかけるというハイブリッド製法と聞いたのですが、予想以上の加工技術を持った会社のようです