考察ごっこ

ずっと気になっていたこと

★今、巷で大流行の・・・
衝撃的な価格と多機能性で、ネット上でよくユーザーさんをお見かけするようになりました。
・・・ええ、スカイウオッチャーの自動導入経緯台AZ-GTiのお話です。
自動追尾、自動導入、WIFIリモート制御などなど、これだけの機能を搭載して3万円台なのですから、まさに価格破壊です。
残念ながら、あぷらなーとはこの手の経緯台の実機を触ったことがないのですが、ふと気になったことが・・・・。


★ピリオディックモーション
一般的に赤道儀の(ノータッチガイド撮影における)追尾精度を表す指標のひとつにピリオディックモーションがあります。ウオームホイルの機構上、原理的に回避できないこのエラーにより、大抵の赤道儀は正しい位置を中心としてジグザグ運動をして「ふらつき」ます。そしてこの数値が小さい赤道儀ほど高精度な追尾ができる反面、高価になる傾向にあります。入手した新しい赤道儀の性能チェックを兼ねて、このピリオディックモーションを測定される方も多いのではないでしょうか。

もっとも、実写画像からこのピリオディックモーション値を測定するのは意外に厄介で、極軸が意図せぬ方向にズレていたり、天の赤道から離れた天体を撮影した場合などには、色々な補正を施さないと正しい値が出ません。そこであぷらなーとの場合は

このエントリーで書いたような手法で、ピリオディックモーションの『測定ごっこ』を行っています。
実際には、オートガイダーを用いることでこのエラーは補正できるので、ピリオディックモーションが大きい赤道儀がダメな訳ではありませんが、とにかく不精者のあぷらなーとは「できることなら、オートガイドしたくない」のですよー。


★ふと思い悩んだこと
さて、赤道儀の場合はよく知られているように、極軸を中心として回転する赤経軸のみの駆動で(理想的には)天体を自動追尾できます。したがって赤経軸のピリオディックモーションが小さければ『優秀』な赤道儀だということになります。
では、そもそも回転軸が天の北極とズレている経緯台が自動追尾する場合は、どのような追尾エラーが発生するのでしょうか??

・・・というわけで、『考察ごっこ』してみた。

<大前提条件>
①観測地の緯度は35度
②仮想経緯台の歯数は水平垂直ともに144枚
③仮想経緯台のピリオディックモーションは水平垂直ともに100秒角
④撮影対象天体は赤緯0度(天の赤道上)
⑤撮影は子午線通過直後から2時間
⑥経緯台の水平軸は正確に天頂を向いている
⑦アライメントは誤差無く完了している

さて、みなさん。
この条件で天体をノータッチガイド撮影すると、どのような追尾エラーが写るか想像できますか??

え?
「赤道儀のようにジグザク運動が写る」
ですか?
いえいえー。話はもっと複雑なハズのですよー。
なにしろ天体の位置によって水平軸と垂直軸の回転速度が変わりますし、双方のピリオディックモーションが合成された動きになるんですもの・・・。

では、EXCELくんを用いて上記の条件でシミュレーションした追尾エラーの様子をご覧に入れましょう。


・・・ででん
ずっと気になっていたこと_f0346040_16074935.jpg
おおー
面白れー!!
へー、経緯台ってこんな複雑な追尾エラーを起こすんだ。

しかしコレ、なかなかに興味深い動きですね。短時間露光の多数枚コンポジットを行う際に『縮緬ノイズ』を軽減する便法としてディザリング撮影が多用されていますが、単純な往復運動を示す赤道儀と異なり、経緯台の場合は色んな方向にエラーが出て、まさに『天然ディザリング』の様相を呈していますね。
これは・・・ある意味赤道儀よりも有利とも言えるのでは??


★あいや、ちょっと待て
ベテラン天文勢の皆さんは、昔ミードから販売されていた「フィールド・デローテーター」というアイテムを覚えてらっしゃいますでしょうか?経緯台は鏡筒を向ける方向が変わってもカメラの傾きが変わりません。ところが天体は天の北極(と南極)を中心として円を描くように回転しますので、時間がたつと傾きが変わります。それで、経緯台で自動追尾しちゃうと写真が回転して写ってしまうんですね。ここではこの現象を「写野回転」と呼ぶことにします。
前述の「デローテータ」はこれを補正するために接眼部に装着する物で、時間の経過とともにカメラを回転させるというスゴい装置だったわけです。残念ながら近年それに類する装置は見かけませんが・・・・。

コンポジット時に回転補正を加えることで、この「写野回転」を補正するとすれば、先ほどの追尾エラーの様相も大きく変化するはずです。
そこで・・・。

エラーの値を計算する座標を、地平座標(水平と鉛直)ではなく赤道座標(赤経と赤緯)に変換するとどうなるでしょうか?
さっそくやってみます。

すると・・・

ででん!!
ずっと気になっていたこと_f0346040_16075579.jpg
おお、さらに星の軌跡が複雑になって、面白いですねぇ。

要するに、天の赤道上にある天体を子午線通過から2時間かけて短時間露光のノータッチガイドで多数枚撮影し、位置&回転補正コンポジットを施すと、ホットピクセルやクールピクセルなどのノイズが上記の様な軌跡を描いて写るという訳ですね。

なんだか面白くなってきたので、他の条件でもシミュレーションしてみましょう♪



★条件を変えると?
<条件変更箇所>
①観測地の緯度は35度
②仮想経緯台の歯数は水平垂直ともに144枚
③仮想経緯台のピリオディックモーションは水平垂直ともに100秒角
④撮影対象天体は赤緯30度
⑤撮影は子午線通過の1時間20分後から3時間20分後まで
⑥経緯台の水平軸は正確に天頂を向いている
⑦アライメントは誤差無く完了している


<地平座標における追尾エラー>
ずっと気になっていたこと_f0346040_16121370.jpg

すげえ!
まるでリサージュ図形みたいだー。
うーむ美しいッ!!
(いや、そういう問題じゃないって)

ちなみに、このとき時間(時角)変化とともに水平軸と垂直軸の追尾エラーがどのように推移したのかをシミュレートしたのが下記の図です。
<回転軸毎の追尾エラー>
ずっと気になっていたこと_f0346040_16155376.jpg

このように、位相や周期がズレた2つのエラーが合成されて上記のような美しい図が描かれた訳ですね。
では、実際にコンポジット後に生じるノイズの像をシミュレートしてみましょう。


<赤道座標における追尾エラー>
ずっと気になっていたこと_f0346040_16123987.jpg
どうです?
これなんか、とても良い感じのディザリングになってるような気がしないでもないですねぇ。
ちなみにこのときの追尾エラーを赤経・赤緯別にシミュレートしてみると、こんな感じです。
ずっと気になっていたこと_f0346040_20554438.jpg
かなり複雑なエラーになっていることが分かりますねぇ。


では、もうひとつやってみます。


<条件変更箇所>
①観測地の緯度は35度
②仮想経緯台の歯数は水平垂直ともに144枚
③仮想経緯台のピリオディックモーションは水平垂直ともに100秒角
④撮影対象天体は赤緯40度
⑤撮影は子午線通過の1時間前から1時間後まで
⑥経緯台の水平軸は正確に天頂を向いている
⑦アライメントは誤差無く完了している

<地平座標における追尾エラー>
ずっと気になっていたこと_f0346040_16231037.jpg

<回転軸毎の追尾エラー>
ずっと気になっていたこと_f0346040_16243935.jpg

<赤道座標における追尾エラー>
ずっと気になっていたこと_f0346040_16231621.jpg

ふむー。まるで蜘蛛か蛾みたいな絵になるなぁ。
『経緯台の鬼門』とされる天頂近くをかすめて移動する天体を追いかけている訳ですからねぇ。
下記の赤経赤緯別エラーシミュレートを見てみると
ずっと気になっていたこと_f0346040_21084978.jpg
結果として相当に複雑なエラーになるのも納得だなぁ。

しかしこれ・・・・実際に経緯台で撮影した画像からピリオディックモーションを測定するのは至難の業だってことにもなりそう・・・・。

たとえば、赤緯30度の天体を子午線通過直後から2時間露光した場合の追尾エラーは・・・・
ずっと気になっていたこと_f0346040_16385384.jpg
こんな風に、露光時間の経過とともに不規則に変化することが予想されるためです。



さて、人気の自動導入経緯台を入手した直後に赤道儀モードに移行されている皆様方、たまには経緯台モードを見直してみませんか??
当然、画面の4隅は捨てることになるでしょうが、ノータッチガイドで『なんちゃってディザリング』が生まれる「かも」しれませんぜ??


★★★お約束★★★
①素人の試算につき、計算ミスしてるかもしれません
②短焦点で撮影した場合は、回転補正が不能なケースが出ると考えられます。
③そもそも経緯台で撮影した画像のコンポジットが上手く行くのかどうかが不明です。
④実際には各種パーツの製作誤差やバックラッシュなどにより、さらに複雑なエラーが加算されると思われます。

Commented by 是空 at 2019-06-30 17:20
昔、スピログラフというものを買ったことを思い出した。
頭が文系でないので「美しいッ!!」とはならないが、なかなか面白い絵になりますね。
オイラーの等式がすごいのはわかるが(本当に成り立っているのかは理解してない)、「美しい」という感覚ではないのと同じ。

対象天体が赤緯40度の回転軸毎の追尾エラーはFM波だなと。^^;コンナカンジ
Commented by 是空 at 2019-06-30 17:24
↑ 間違え
  誤 頭が文系でないので
  正 頭が文系なので
Commented by supernova1987a at 2019-06-30 18:50
> 是空さん
「スピログラフ」??って思ってググってみたら・・・
ああ、アレですかッ。ええ、買いました、買いました!!
懐かしいです♪

『元』理系の言うことですから、ホントに『美しい』のかどうかは怪しいですが、対称性とか相似形とかが潜んでいると単純に美しい図だなぁと思っちゃいます。白状すると、元々が理論系ではなく実験系なので、数式を見たときの美しさまでは分からないです(笑)あえて言えば『単純な式ほど美しい」ですかねぇ・・・。
Commented by noritos1047 at 2019-06-30 21:24
ビクセンのAXJエンコーダーがPMを劇的に減らすなんて聞いたことがあります。
とても高価で手が出ませんが、一般的なガイドより優秀なら、その手間とかを考えれば導入を考える人もいるんじゃないかと思います。
ガイドはPM以外の追尾エラー(あるとするなら)も修正できそうな気もしますが、一般的な赤道儀が理想的に設置されたとした時、PM以外の追尾エラーはあるのでしょうか?
Commented by supernova1987a at 2019-06-30 22:14
> noritos1047さん
自分はメカには弱いのですが、ノータッチガイド運用する赤道儀の追尾エラーについては、主として下記の通りと思います。
①極軸設定エラー
②ウオームネジの偏心などによピリオディックモーション
③その他ギア系の誤差によるエラー
④バックラッシュによるエラー
⑤各部のたわみによるエラー
⑥大気差(空気による屈折)による天体の見かけの位置のズレ

理想的な設置では①が、エンコーダによって②③④が、それぞれ解消されますので、あと残るのは⑤と⑥ですね。これらはオートガイドするか、短時間露光の多数枚コンポジットするしかありませんが、それだとそもそも高精度な赤道儀が不要だということにもなりかねません。⑤の解消のために各部の補強、⑥の軽減のために低空の天体を避けるなどすれば赤道儀のエンコーダやPECが活きてくると思います。

ちなみに、私は①~⑦の全部が残っていることを前提で撮影してます。
Commented by にゃあ at 2019-06-30 22:54
ピリオディックモーションというくらいなので、たまにひょこっと現れる曲線なのかと思っていたら、赤緯と赤経を組み合わせると、おどろくほどグネングネンなのですね。どおりでAZ-GTiで撮影した写真の背景は30分程度でも思ったほど荒れてないのかも。しかもいつも15秒とか短時間露光だし。写野回転のトリミング前提で大きめのセンサーで撮影しておけば、パンの耳は気にならないかもですね。フォーサーズ復活させてみようっと。
Commented by noritos1047 at 2019-06-30 23:17
丁寧なご返答、ありがとうございました。
Commented by supernova1987a at 2019-07-01 01:05
> にゃあさん
今回真面目にシミュレーションしてみて分かったのですが、経緯台モードだとホントにグネングネンの追尾エラーになるみたいですね。でもそこがとても面白そうで、条件をうまく選べばかなり高品質な『天然ディザリング』が可能かもしれません。
蜘蛛みたいな追尾エラー図(スパイダー図と名付けたい♪)実機で実写してみたーい。
Commented by supernova1987a at 2019-07-01 01:09
> noritos1047さん
どういたしまして♪
実際には鏡筒や接眼部の撓みの影響が非常に大きいと感じています。
しっかりとした鏡筒補強改造かオフアキを利用しないと、超高精度の赤道儀を用いても、超高性能のオートガイダーを用いても、長時間露光自体が難しいのかなぁ・・・と。
大気差の軽減には恒星時駆動をやめてキングスレート駆動を行うという選択肢も残されていますが、こちらはどうも好みが分かれるようです。
Commented by オヤジ at 2019-07-01 07:15
>たまには経緯台モードを見直してみませんか??
何時もの事ですが、技術的なことは分かりませんが、興味深いですね。
AZ-GTiだと、軽い鏡筒なので、F値も明るく、短時間多数枚を経緯台でやるべきですね。

以前、ディザリングがなんて、スマホの機能になってるんだと調べたことがあります。(爆)
tetheringでした。(汗)
Commented by せろお at 2019-07-01 09:11
難しい解説は理解できそうに無いので読み飛ばして、結論だけ読みました。

>たまには経緯台モードを見直してみませんか??
赤道儀モードにチャレンジしましたが、回転軸の構造や固定方法、
そこかしこがフニャフニャだったりで、早々に諦めました。

>③そもそも経緯台で撮影した画像のコンポジットが上手く行くのかどうかが不明です。
電視観望のスタッキングでは大丈夫なので、露出を切り詰めれば行けると思います。
周辺は捨てて、円形写野になりますが。
Commented by supernova1987a at 2019-07-01 09:52
> オヤジさん

色々と使い道がありそうで梅雨明けが楽しみです。

「ディザリング」と「テザリング」紛らわしいですよね。
私の場合は、天体写真の「ディザリング」を初めて耳にしたときは、色数の少ないPCで擬似的に色を増やして画像表示する処理の方を思い浮かべました。
Commented by supernova1987a at 2019-07-01 10:01
> せろおさん

元々の構造が経緯台ですので、できるだけこのままのスタイルでの活用法を模索してみたいです。本当に蜘蛛のような追尾エラー図が得られるのか興味津々です。(なにやってんだか)

フィールドデローテータが市場から無くなってしまった背景には、そもそも経緯台でのコンポジットでは「回転中心と写野中心が一致しない」という原理的な問題点があったのではないかと推測しています。ソフト的な回転補正の場合はこの点が(回転移動と並進移動を組み合わせることで)回避できそうなので、トリミング前提で写野周辺さえ捨てればなんとかなるかもしれませんね。
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by supernova1987a | 2019-06-30 15:17 | 考察ごっこ | Comments(13)

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