撮影技法考案

本当にオススメできるネタ!?

★潮流と逆行するのが好きなので
ここ数年来、怪しげな機材や考察ばかり展開しているのですが、その大半は単に自己満足のためであったり好奇心を満たすためだったりするもので、一般的な天文ファンの方にオススメできるようなネタはごくわずかでした。
しかし・・・・
今回ばかりは、ちと違いますぜ!
恐らく、数多くの天文ファンに『ちょっとした幸せ』をもたらすであろう、あぷらなーとにしては珍しく『有益』なネタ、行ってみましょう♪



★アクロマートの逆襲
念のため補足説明ですが、アクロマートとは「2色について色消し(色収差が無い)で、1色についてアプラナート(球面収差と色収差が無い)」レンズを指します。
たいていの場合は、目の感度が高い黄色であるd線(ヘリウムの輝線ですがナトリウムの輝線に近いです)スペクトルに対してアプラナート化し、それをはさんだ赤いC線(Hα線)と青緑のF線(Hβですが、OⅢに近いです)について、その焦点を合わせるような設計をするようです。

ただし、高級なアポクロマートとは異なり、特に青色のg線の色収差を『放棄』した設計のため、実際に天体を撮影すると目障りな青ハロが盛大に出ます。そのため、主として安価な眼視観望用として位置づけられることが多いのですが・・・。

さて、あぷらなーとは、学生の頃に簡単なレンズ設計ごっこをやってよく遊んでいたのですが、下記は実際に設計してみた典型的アクロマートの収差曲線例です。まあ、設計も何もハルチングの解通りに計算しただけですが、ここで注目すべきは、HαそのものであるC線とOⅢに近いF線が『良い感じにクロス』していて、恐らくはこの2波長だけを通すような工夫をすれば、アクロマートの一発撮りで色ニジミのない鮮明な画像が得られそうな気がするということです。
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ええ、要するに
「Hα+OⅢだけを通すフィルタがあれば、アクロマートはAOOの一発撮りが可能では?」
と推測されるわけですね。


★デュアルバンド・ナロー系のフィルタ
ところで、最近、普通の光害カットフィルタとナローバンドフィルタの中間的立ち位置のデュアルバンド・ナロー系のフィルタが複数発売されています。
たとえば、IDASのNebulaBoosterなどがそれです。

・・・で、思ったわけですよ。
アクロマートを三連装化すれば、Hα・OⅢ・SⅡを一気撮りできて、アポクロマート顔負けのハッブルパレットとかが撮影できそう(実際に成功しました)なんですが、もしAOOパレットで良いなら、「アクロマート+デュアルバンド」って絶妙な相性なのではないか?・・・と。


★というわけで・・・・

ででん!!

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ZWOのカラー冷却CMOSカメラASI294MC-Proに笠井トレーディングの0.8倍レデューサ+IDASのNebulaBoosterを装着ッ!!
これを12cmF5アクロマートであるケンコーSE120に装填して、AOOパレットの一発撮りを試してみようという作戦です。

ちなみに、SE120+自作レデューサ+LPS-D1で撮影すると
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こんな感じで盛大な青ハロが発生します。これが本来のアクロマートの性能です。

では、上の画像と同じ日に秘密兵器NebulaBoosterを併用して撮影するとどうなるでしょう?

行きますよ・・・・

ででん!!
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 ※SE120+0.8倍レデューサ+NebulaBooster
ASI294MCP -10℃ ゲイン300 露出30秒×20コマコンポジット
  ダーク・フラット無し 画像処理はデジタル現像とレベル&トーン修正のみ

な、なんとかーッ!! ※讃岐弁で「ま、マジかよー」の意

これ、スゴくないですか?
いや、実際何度もデータを見直しちゃいましたよ。
1本のアクロマートにフィルターを入れただけなのに、カラーカメラでアポクロマート級の鋭像がサクッと撮れちゃうという、にわかに信じがたい事実。
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 ※左:LPS-D1 右:NebulaBooster

とても、これが同じ望遠鏡で撮影したものとは思えません。


★『変態さん』じゃなくても
12cm三連装『ギルガメッシュ』とか
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89mm三連装+スプリッタ『フルアーマーBORG』とか
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これらの多連装望遠鏡は非常に良く写るものの、あくまで『変態さん』専用機のようなもので、どう考えても一般的ではありません。

それに対し、色収差でボテボテの短焦点アクロマートに1枚、たった1枚フィルターを入れるだけという、今回の手法・・・・。
これはもう『変態さん』以外にもオススメできる有効な手段と言えるのではないでしょうか?


ふはははは。
全国の誇り高きアクロマート戦士達よ、今こそNebulaBoosterを手にアポクロマート軍を痛撃するがよいッ!!


すんません。喜びのあまり、調子に乗りすぎました(笑)


★★★お約束★★★
①今回のレポートは、SE120+NebulaBoosterのみの『検証ごっこ』であって、他の鏡筒やフィルタでの成果を保証するものではありません。
②あくまでアポクロマート「級」の像に感じただけで、これはあぷらなーと個人の主観です。
③SE120はその仕様上、鏡筒本体が短かくドローチューブが長いため、下記の概算により、APS-Cやフルサイズでの運用は厳しいと思います。
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実際、各種パーツを取り付けるとマイクロフォーサーズでもケラレが生じます。




Commented by kem2017 at 2019-08-05 03:34
おおお、これはアレやアレに比べると容易に可能なアイデアですね!
アクロマート持ってないけど (^o^;
Commented by supernova1987a at 2019-08-05 08:54
> kem2017さん

でしょ?
これなら、観望用に保有しているアクロマートが撮影用に変身可能ですよー。

えっ、アクロマートをお持ちでない?
この手法だと、理論上、EDアポよりもアクロマートの方が良く写るケースがあってですねぇ、1本いかがですか?
・・・うひひ。
Commented by にゃあ at 2019-08-05 10:17 x
フィルタ1枚でここまで写るんですね!なんだかうちにもディア●スティーニから届いたアクロマート望遠鏡があったような。今度、試してみます!
Commented by 是空 at 2019-08-05 11:46 x
c線とf線のクロスしてる部分の着眼点もすごいけど、この結果に驚き。
完全に青ハロが消えてる。
”すげぇー!”としかいえない、自分のボキャブラリの乏しさが悲しい。
Commented by at 2019-08-05 12:11 x
これはすごいいい。
SE120であれば、一本所有しているのですが、眼視にせいても撮影にしても、今ひとつ使いどころが定まっていなかったのでどうしようかと思ってたところでした。
さすがにギルガメッシュにチャレンジする魔力は持っておりません…

でも、x0.8のレデューサーも何故か持っているし(^^;
…フィルターをまず手配しなければッ!
Commented by supernova1987a at 2019-08-05 16:26
> にゃあさん
いよいよ「Astro Nier」望遠鏡が大活躍する日がやってきた!?
今回のネタは単にフィルタを付けるだけのお話なので、すぐに実践できるかもです。
Commented by supernova1987a at 2019-08-05 16:30
> 是空さん
まあ、本来アクロマートとは「こういう設計」の筈なんですが、不思議なことにその特性を利用した運用法がこれまで成されていなかったようなので、人柱実験してみた次第。

光害と青ハロが完全に消えて、痛快です♪

・・・HαとSⅡは近いところにあるので、ひょっとすると、三連装化などしなくてもフィルターホイールが使えるのかもしれません。
Commented by supernova1987a at 2019-08-05 16:37
> 玄さん

ありがとうございます。
SE120を観望用として保有している方は結構多いと思いますが、
今回の『人柱記事』で撮影にチャレンジする方が増えてくれると嬉しいです。

笠井の0.8倍レデューサは先端に48mmフィルタが付くのでフィルタ併用が楽ちんですね。
Commented by タカsi at 2019-08-06 17:52 x
こんにちは。
これは素晴らしいアイデアですね!
悪路マート望遠鏡が欲しくなるじゃないですか(笑)
冗談抜きでNBフィルターありきでアクロマート望遠鏡が流行るかもしれませんね。
構想としては、NB+1ショットカラー、Ha、O3のトリプルで光害地仕様の定番化を狙う、みたいな^^
Commented by noritos1047 at 2019-08-06 18:57 x
うちにあるアクロマートというと対空双眼鏡しかありません。
双眼鏡の片方だけ使うと言うのも変態らしくて良いかもしれませんが、デカすぎて赤道儀に載りそうにない。

Commented by supernova1987a at 2019-08-06 21:38
> タカsiさん
一見、アクロマートだと波長ごとのピントズレが大きくてワンショットカラーは無理なように見えて、実はそもそもC線とF線の2色で色消しにしているのが典型的アクロマートなのだという『盲点』を突いてみました。NB1+カラーとSⅡナロー+モノクロで、二連装でSAO一気撮りという手もありますよ♪
悪の路に誘う魔性の筒、それが悪路魔筒(アクロマート)。
Commented by supernova1987a at 2019-08-06 21:41
> noritos1047さん
対空望遠鏡の片方でAOO撮影!
それは変態っぽくて面白いですね。
はっ!
いけない。今回は『変態さん』以外にも有益なネタという企画だった(笑)
Commented by せろお at 2019-08-06 22:49 x
な、ん、だ、と・・・!
フィルター1枚で性能が変わるとは、まるでマグネットコーティングかサイコフレーム・・・
(無理矢理ガンダムネタしつこい)

アクロマート鏡筒ねぇ、MILTOL 200mmくらいしか・・・
あ!15cmがどこかに有ったような気が・・・
デカすぎて運用できてないですが。
Commented by te kure at 2019-08-07 14:20 x
NB1買っちゃいました。(笑)
Commented by せろお at 2019-08-07 22:14 x
光害カットフィルターやナローバンドフィルターについて検索しましたが、
NB1が一番良さそうですね。
買ってしまいそうだ・・・
Commented by supernova1987a at 2019-08-08 21:53
> せろおさん
思った以上の効果にビックリです。
何というか、まるで旧ザクにサイコフレーム積んだらゲルググを凌駕したような気持ちです。
MILTOLへの適正もチェックしてみますが、こちらは(単純なアクロマートではないので)失敗するかもしれません。
15cmアクロは多連装が難しい筒なので、効果的かも??
Commented by supernova1987a at 2019-08-08 21:53
> te kureさん
す、素早い!
恐らく良い結果をもたらしてくれると思いますよ。
ぜひ実写してみてください♪
Commented by supernova1987a at 2019-08-08 21:55
> せろおさん
思っていたよりも後処理が楽でした。
オススメですよ。ぜひぜひ♪
Commented by otabou at 2019-12-26 13:51 x
hp拝見いたしました。今まで、アクロマートの屈折は、いただいたオズマ80だけでした。もっぱら撮影は、25cm 反射でした。最近、念願のタカハシのfs-60cb を購入し屈折での撮影に驚愕した次第です。もっと大口径のFSQシリーズが良いなーと思っても、何せ高いので、天を仰ぐ日々でした。還暦を過ぎ、25cm 級の鏡筒の持ち運びに不安を感じておりましたので、アクロマートでここまで出来ることを知り、眼から鱗でした。
早速、SE120とNB1発注してしまいました。今後ともよろしくお願いします。また、成果が上がりましたら自分のフェースブックにアップしたいと思っております。まさに、救世主🦸‍♂️。何せ、タカハシさんの10分の1以下ですから。
Commented by supernova1987a at 2019-12-26 23:24
> otabouさん
コメントありがとうございます。

SE120は姉妹機のSE102やBK150750と比べてもコストパフォーマンスが高い名機だと思っています。
厳密にはHαとOⅢとでピント位置や球面収差量が異なるので、できるだけHα優先のピント出しをするのがコツです。ぜひ色んな星雲で試してみて下さい♪
Commented by アンタレス at 2024-05-10 07:59 x
FMA180で電子観望の世界に足を踏み入れ、ASI224MCや178MCでお手軽に電子観望(撮影目的では無い)を楽しんでいます。
貴殿の記事に触発されて、SE102の良品をオークションで格安で入手してしまいました。
ですが、安いフォーカルレデューサーから試したところ、結果は惨敗(QBPフィルター使用)でした。
本記事で試されているのは、
http://www.kasai-trading.jp/edreducer.htm
ですか?
私のようにSE102で安いCMOSカメラで電子観望という目的にも、合致するものでしょうか。
ボーグのレデューサーをおすすめされている方が多いようですが、鏡筒より高額なものにトライする勇気が今まではありませんでした。
素晴らしい撮影作例を残されている方に、初心者で撮影目的でも無い者が、失礼かと思いましたが、思い切ってコメントさせていただきました。
Commented by supernova1987a at 2024-05-12 23:38
> アンタレスさん
コメントありがとうございます。
SE102はStarQuest102SSと同等の光学系でQBPとの相性も良好です。レデューサに関しては、個人的にクローズアップレンズの転用が最も好きです。
https://apranat.exblog.jp/32955106/

また、市販品なら笠井のED屈折用0.8xレデューサ(旧製品ですが)や同等と思われるSVBONYのSV193などでも良い結果が得られています。

なお、電視観望等で小サイズセンサー利用なら、サイトロンジャパンのアメリカンサイズレデューサも良いかもです。
https://apranat.exblog.jp/33868893/
※リンク先記事中の動画でも述べた通り、似たようなコンセプトの他社製の小型レデューサでは痛い目に遭いましたが(笑)

Commented by アンタレス at 2024-05-15 15:12 x
詳細な回答ありがとうございます!
アメリカンサイズのフォーカルレデューサーは、ほぼ真ん中しか使いものにならず、プレセペ等はぼやけた丸の集まり状態でした。
自動導入やオートフォーカスには何とか成功するのですが。
という訳で、次はACクローズアップレンズを試すべく、borg7425と7506をさっそくポチリました。
また、ご報告します!
Commented by supernova1987a at 2024-05-17 07:47
> アンタレスさん
クローズアップレンズは大きいので、例えばSE120との組合せならAPS-Cセンサーまでなんとか実用になると感じました。なお、カメラによってセンサー面までの距離が異なるので、(クローズアップレンズとセンサー面までの)簡易的な距離合わせは、下記の記事が参考になるかもしれません。ぜひ、色々とチャレンジしてみてください。
https://apranat.exblog.jp/33332133/
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by supernova1987a | 2019-08-05 02:01 | 撮影技法考案 | Comments(24)

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