天体写真

SE120は1本でも実用になる

★いきなり ででん!!
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みんな大好き『網状星雲』ですが、これ、眼視用アクロマート屈折SE120にIDASのNB1フィルタを装着してカラー冷却カメラASI294MC-Proで撮った画像なんですよー。
どうです?
結構『度肝を抜く』写りじゃないですか?

ちなみに今回は真面目にフラットも撮影したので、ノートリミング画像もお見せできます。
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★今回の撮影データは
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○望遠鏡:ケンコーSE120
※周辺光量改善のため接眼部は換装
○カメラ:ZWO ASI294MC-Pro
○レデューサ:笠井0.8×
○フィルタ:IDAS NB1
○赤道儀:EQ6-Pro
 ※ノータッチガイド
○撮像温度:ー10度
○ゲイン:390
○露出:20秒
 ※360コマをコンポジット
○ダーク:240コマ
○フラット:240コマ
○フラットダーク:240コマ

詳細に見ると画面左側の星像が流れちゃってるんだけど、アクロマートの単筒としては画期的な写りなのでは??

ちなみに、オートガイド無し・ディザリング無し・シグマクリップ無し・星消しとか星マスクも無し・・・っていう『邪道流』全開です。フラットはLEDトレース板をダイレクトに撮影しただけですがドンピシャ当たりました。
今回はシーイングが『酷くはなかった』ので、あまりにもシャープに写ってしまい、最大エントロピー法とかレジスタックスの出番すらない始末。(ウェーブレットを掛けるとかえって悪くなるという・・・)
ついでに(ASI294は優秀な機体なので)『クールファイル補正法』も無し(笑)。・・・なんだか、拍子抜けするくらい簡単に処理が完了しました。
ええ。ライトフレーム・フラットフレーム・ダークフレーム・フラットダークフレーム、合計980コマの処理がたった30分程度で完了という手軽さでした。

「なんで、馬鹿みたいな枚数をコンポジットしてるの?」
という声が聞こえてきそうなので、念のため比較画像を晒します・・・・。
あぷらなーとにとって「ノータッチガイド+短時間露光」の撮影では、枚数が命なんです。
数の暴力でディテールを出してしまうと言うベタベタな作戦ですねぇ。
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 ※左:1コマ画像から処理 右:360コマから処理


★アクロマートでどうして写せるの?
さて、ここからが本題です(おい!)

SE120を3本も買ったり(1本での運用も見越して)NB1をポチったりしたのは、あまりにも無謀のように見えて、実は少しだけ勝算はあったのですよー。

そもそもアクロマートの設計に用いるパラメータは・・・
・メインの屈折率ndはd線(ほぼナトリウムの輝線)基準
アッベ数νdは (nd-1)/(nF-nc)
 ※nFはF線(OⅢに近い)の屈折率
  ncはC線(Hα)の屈折率
2つを用いるのが基本です。

このうち、d線に対してはアプラナート化(球面収差もコマ収差も無い)するようにして、F線とC線のピント位置を一致(色消し)させます。

例えば、BK7とF2を用いて10cmF8の典型的アクロマートを設計ごっこしてみると・・・
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こんな感じです。
これをたたき台にして、ベンディング(焦点距離を変えないように微妙にレンズの曲率を変化させていく調整法)していくと、最終設計値と収差曲線がこんな感じになりました。
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この設計値だと、スポットダイアグラムが下の様になって
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巨大な青ハロが出てしまい、星雲撮影には辛いのは周知の通り。
実際、SE120でも普通に撮ると、こんなふうに盛大な青ハロに襲われます。
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ところが、ここにHαとOⅢ付近だけを通すNB1フィルタを加えると事情が変わります
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このように、NB1フィルタが通す波長は、ちょうど典型的アクロマートで色消しになるポイントに一致するのです。
結果として、波長によってピント位置が大幅にズレると信じられているアクロマートでも(Hα付近とOⅢ付近に限り)色収差が無くなります。
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 ※左:SE120+LPS-D1 右:SE120+NB1


スポットダイアグラムを見る場合でも、本来のピント位置(d線の焦点)ではなくC線やF線の焦点にズラして評価してみると

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上の図のように、赤(C線)と緑(F線)が同時にエアリーディスク内に収まっていることが分かります。
※周りに散っている光はd線(黄色)とg線(青色)で、これらはNB1が撃退してくれます。


★全てのアクロマートで成り立つか?
先日、クローズアップレンズを用いた望遠鏡制作遊びの盟友:にゃあさんが、
「『AstroNier』(にゃあさん自作のカッコいい望遠鏡)でLPS-V4を使って撮影してみると、赤い光と青い光が分離してしまってピントが出ない」
とのレポートをブログに書かれていました。

NB1ほどスペクトルの弁別がタイトでないLPS-V4ですが、普通は白~黄色い星の周りを青ハロが取り囲むように写ると予想されますよねぇ。
でも、赤と青が完全に分離してしまう・・・とのこと。

実は、ちょっぴり『イヤな予感』はしてたんです。ごめんなさい。

以前、本物のアクロマート(正確にはフォトビジュアルアクロマート?)であるミニBORG50アクロと、ACクローズアップレンズNo4で作った『にせBORG』の焦点外像(前ボケと後ボケ)を比較テストした際に、どうもクローズアップレンズの軸上色収差の出方が独特である点に違和感を感じてたんですね。
本来なら、黄色と青色のボケ(収差曲線の両端)が現れる筈なんですが、クローズアップレンズでは赤色とシアンのボケ(本来は色消しになるポイント)が出てしまってるんです。要するに「C線とF線について色消し」という定石を外して設計しているのではないか・・・と。

可能性はあります。デジタルカメラは青ハロに敏感ですので、少しでも青ハロを軽減しようとすれば、C線とF線について色消しにせずにd線とg線について色消しにする手もあるわけでして・・・・。

では、先ほど設計してみた10cmF8アクロマートをd線とg線で色消しになるように設計し直してみます。
すると・・・
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例えばこんな感じですね。(コマ収差の補正条件は計算してないので、点線は無視してください)
先ほどの典型例とは逆に、d線(黄色)とg線(青色)がクロスしていて色消しになっていることが分かります。

スポットダイアグラムで評価してみると
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このように、F線(OⅢ付近)をエアリーディスク内に納めると、C線(Hα)が全面に散ってしまうことが分かります。
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逆にC線(Hα)をエアリーディスク内に納めようとすると、こんどはF線(OⅢ付近)が大きく散ってしまうことが分かります。
要するに、C線とF線の両方にピントを結ぶ焦点位置が存在しないというわけです。



★デュアルバンド系フィルターを使う場合は
このように、NB1などデュアルバンドナロー系のフィルタは観望専用と思われてきたアクロマートを写真鏡に変身させてしまう魔力を持っていますが、あくまでそれはC線とF線について色消しになるよう設計された古典的なアクロマートの場合であって、青ハロを軽減させるなどの目的で、色消し条件を変えて設計されたアクロマートには適用されない恐れがある点には注意すべきでしょうね。

だが・・・な

三連装なら、それも関係なくなるのだよ。
ふはははは。

失礼しました。


★★★お約束★★★
①あぷらなーとは光学の素人です。光学をちゃんと学んだ経験はありません。
②SE120の収差曲線は全くの不明です。
③設計例がF8なのは、あぷらなーとの技量不足です。実際にはF5前後のアクロマートの設計は色々と難儀します。
④焦点内外のボケ像に生じる軸上色収差から収差曲線を推定するのは、正直『乱暴』なお話なので、参考程度にとどめておいてください。
⑤「下手に青ハロを補正してしまうとNB1と相性が悪くなる」とも解釈できる文言が並んでいますが、セミアポやアポクロマートとの相性は一切不明です。
⑥フローライトやSD(FPL53)を否定する主旨はありません。そりゃ、ホントはフローライトが欲しいんですよぉ。でもお金がぁ・・・(泣)

Commented by にゃあ at 2019-08-12 10:35 x
詳細なレポートありがとうございます! 同じアクロマートでも、2色の色収差を消せばいいんだから、色の消し方に何種類かがあると。何気ない普通のレンズだと思っていたACに設計思想が現れているのが分かって面白かったです。ちなみにACを対物に使った場合は、NB1でもピントが合わないということですよね? ほかのアクロマートレンズも試してみたくなってきました。
Commented by kem2017 at 2019-08-12 10:43
高尚過ぎてついていけないのですが、
1. 「網状星雲」もみんな大好きだったんだ
2. Vパワー接眼部すげー
ってのは理解しますた。
Commented by 是空 at 2019-08-12 12:34 x
すげぇ~、最初の画像は細い繊維まで見えてる。

アッべ数(←調べているとよく出てくる奴^^)や計算式はよくわからなけど、内容は理解できた。^^v
なるほどなぁ、アクロマートと言っても望遠鏡の定石と異なるものもあるということなんですね。

>逆にF線(Hα)をエアリーディスク内に納めようとすると~
c線ですね。^^;
Commented by UTO at 2019-08-12 13:52 x
網状星雲、素晴らしいですねー。ネビュラブースターの威力も抜群ですね。
アクロはあと10年は戦える!
Commented by supernova1987a at 2019-08-12 14:12
> にゃあさん
そうですね。
恐らくNB1でもピント出ないと思います。
実は、密かに気になっているのが「ACクローズアップレンズシリーズ」で唯一像が甘くて特性が異なっていた「No3」なんです。
ひょっとして・・・???
まさかねー。
Commented by supernova1987a at 2019-08-12 14:15
> kem2017さん
網状星雲、みんな好きっぽいですよ?
特にAOOナロー好きの方は。

でも、ここまで立体的で鮮明に写っちゃうと、
もはや「レース」じゃなくて「恐竜の首」みたいですけど。

Vパワー、本来はVMC260Lのミラーシフト回避のために買ってたんですが、BORG89に装着されたり、SE120に装着されたり、住処を転々としてます。
Commented by supernova1987a at 2019-08-12 14:17
> 是空さん
ああッ、しまった!!
「F線(Hα)」とはもう無茶苦茶ですね。
訂正いたしました。

しかし、細かいところまでお読みいただいたようで、感謝感激です。
Commented by supernova1987a at 2019-08-12 14:22
> UTOさん

まさに
「考えても見ろ…我々が『邪道』本国に送り届けた変態機材の量を!」
ですね。

もう、今後アクロマートばかり運用してしまいそうです。
なんというか、ビーム攪乱膜を展開された戦闘宙域でのジャイアントバズ的な。

Commented by noritos1047 at 2019-08-12 15:10 x
アクロマートは2波長まではなんとかなりそうてのは分かったような気がしますが、RGBだのHα、OIII、SIIさらにはF線とかC線とか言われるとその相互関係がサッパリです。
ま、初心者は宝の持ち腐れASI294MC-Proのピント出しの練習でもしましょうかねぇ。
ASi airまで生えてきてもうぐちゃぐちゃです。
Commented by supernova1987a at 2019-08-12 20:39
> noritos1047さん
このあたりは、ややこしいですね。
太陽のスペクトル中に見られる黒い筋(フラウンホーファー線)を長い波長から順にA線、B線、C線、・・・等と呼んでいたものがベースになっていますが、その中の主要な位置にある波長の光がレンズ設計の基準にされています。

C線 赤色 Hα (SⅡも近い)
d線 黄色 ナトリウム灯の光害付近
e線 黄緑色 水銀灯の光害付近
F線 青緑色 Hβ (OⅢも近い)
g線 青紫色 水銀灯の光害付近 

あたりが良く出てきますが、あまり気にすることは無いと思います。
ええ、とにかく写したい天体が写れば、それが正解なのですよ♪
294MCPは本当によく写るのでバンバン撮影して楽しんでください!




Commented by 通りすがり at 2019-08-12 21:35 x
手軽さを考えるとニコンやキャノンのMFの200mmF4が思い浮かぶんですけど、フロントに干渉フィルターは怖いので、誰かが試してくれるのを待ってる。NB1、一度は注文したんだけどね。
誰かが試してくれるのを待ってる。
誰かが・・・
Commented by supernova1987a at 2019-08-12 22:16
> 通りすがりさん
あいにく、200mmF4級の単焦点レンズは持っていないんです。
こればかりは設計値(特に色収差の補正方針)が分からないため、やってみないと不明ですね。
私も、誰かがやってくれるのを待つことにします(笑)

MILTOL200ならば6本保有しているので色々と一気に試せるんですが・・・。
Commented by 是空 at 2019-08-13 19:53 x
↑のレス内の「実は、密かに気になっているのが「No3」なんです。」
”まさかねー”は、まさかではないと思うなぁ。(←根拠なし)

近いうちに検証しましょう。push^^
Commented by supernova1987a at 2019-08-13 19:58
> 是空さん
うわあ、Pushされてしまった。

ええ、何かが苦手な物は別な用途に転用すると化ける可能性がありますものね。
とりあえずNo3はレデューサに転用した場合の性能が優秀なのでそれで十分なのですが、もうひとつくらい活用の路を見い出したいので・・・。
Commented by タカsi at 2019-08-13 21:03 x
こんばんは。
SE120が売り切れになる日が、また近くなりましたね(笑)
いま、網状星雲の画像処理をしていて、こちらの2枚目の画像をプレファレンスにさせていただいております^^
AOO専用機として割り切っても、SE120とNB1の組み合わせは良いですね!
周辺の星像も悪くないと思います。
う~ん、恐るべし悪路魔筒~。
Commented by supernova1987a at 2019-08-13 23:12
> タカsiさん
おお、網状星雲の画像処理をさらに進めているのですね!
今回網状星雲を久しぶりに撮影してみて、よく見かけるフィラメントバリバリの絵と異なり、まるでカリフォルニア星雲のように立体感溢れるモコモコの絵(うーん、語彙力が・・・)が出てきて、ちょっと驚いています。
タカsiさんの最新作にも期待します♪

SE120、笠井のレデューサとの相性がイマイチなので、元通りACクローズアップNo3に戻そうか思案中ですが、ホントに良く写ります。まさに悪路魔筒おそるべしです(笑)
Commented by te kure at 2019-08-14 01:47 x
NB1はもう有りますし屈折は55FLだけだし・・
んっ?これってお安いSE120買えってこと?
さて赤道儀をどうしましょうか(笑)

閑話休題、実はレデューサーの位置付けがまだよくわからないのです・・
焦点距離を短くするだけ?それともフラットナー的な役割も!なのでしょうか・・?
Commented by supernova1987a at 2019-08-14 02:19
> te kureさん
55FLは超優秀な筒なので、NB1でも威力を発揮すると思います。
一連の記事は、高品位の星雲写真撮影が不能だと思われていた大口径アクロマートを『変身』させてしまう変態ネタなので、はじめから高級アポをお持ちの方はアクロマートに手を出されることは無いかと思います♪

さて、レデューサに関しては、メーカーさんのシステムチャートを忠実に真似るのが得策かと思いますが。天体用CMOSカメラを接続する時は、レデューサからCMOSカメラまでの間隔を根気強く調整する必要があります。

なお、レデューサは本来焦点距離を縮めて像を明るくするためのパーツですが、高級なレデューサほ、これに周辺像を改善するフラットナーやコマコレクターの機能(場合によっては色収差補正機能も)も実装させています。価格が安いタイプのレデューサは単に焦点距離を縮めるだけしかできないことが多いようですが・・・。
Commented by te kure at 2019-08-14 03:00 x
ガッテン!✌️
ただ口径と600mmの焦点距離は魅力にも思えますが・・?
Commented by supernova1987a at 2019-08-14 03:16
> te kureさん
まさに仰るとおりで、(あくまで個人的見解ですが)日本の悪シーイング下では600mmくらいが絶妙な焦点距離だとは思っています。ただし、ガイドミスが出てしまうとこれも無意味になってしまうので、悩みどころです。赤道儀も大きくなってしまいますしねぇ。
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by supernova1987a | 2019-08-12 07:27 | 天体写真 | Comments(20)

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