機材

あらたなる可能性の模索・その②

★天気が悪いので・・・
昼間の『電柱テスト』でNB1フィルタとの相性が良さそうな気配がしてきたケンコーの10cmアクロマートSE102。
それなのに天候が悪くて星空での実写テストができません。
仕方が無いので、人工星を用いた焦点内外像テストごっこをしてみることに。

★今回のセットアップは
SE102に笠井の接眼部と自作ビームスプリッタを装着し、2台の冷却CMOSカメラでSAOを一気撮りするという邪悪なセットアップです。
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では、早速それぞれの焦点内外像をチェックしてみましょうか。


★・・・と、その前に
まあ、本ブログは光学や天文の素人が『王道にとらわれず・邪悪な手法で遊ぶ』主旨(に、いつの間にか なってしまった)なのですが、一応、基本の基本は押さえておきたいので、あぷらなーと なりの解釈で焦点内外像の見方を紹介しておきます。
ちゃんとした光学理論レベルとなると(幾何光学以外に波動光学の要素も入ってきて)数式が難解になり、私には理解不能なので、あくまでイメージ的なお話で勘弁してください。
なお「アクロマートなんて、古来より全て大差なし」との言説もあります。たしかに眼視レベルでは一理あるのですが、アクロマートでナローバンド撮影などという『邪悪な運用法』では、どの波長をどのように補正したかがとても効いてくるため、設計の細かい差が重要になると考えます。

さて、理想的な対物レンズの場合は、
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このように、レンズに入射した全ての光が同一ポイントで収束します。これが「焦点」ですね。(ちなみに中学と高校の物理で習う「凸レンズ」なるものは、全てこのタイプを指します。)

ところが、実際の凸レンズでは、

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図のように入射位置によって収束位置が異なります。これが「球面収差」ですね。このようにレンズに球面収差が残っている状態負修正と言います。
この場合、上の図のようにレンズの中心(光軸)に近いところを通過した光は焦点距離が伸び周辺部を通過した光は焦点距離が縮みます。要するに、焦点が1カ所に定まらないためピントの合わせようがありません。天体写真の場合であれば、ボケボケの像しか得られないことになります。

この状態をグラフに表す
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このような曲線が得られます。これがお馴染みの「収差曲線」です。
つまり「収差曲線」が公開されていれば中心像の各波長におけるシャープさはスポットダイアグラムを見るまでも無く推測できるのですが、安価なアクロマート望遠鏡の場合、収差曲線が公開されることは少ないようです。

では、簡単なテストで収差曲線を推測するにはどうすれば良いのでしょうか?
今回は(一般的なロンキーテストやフーコーテストあるいはハルトマンテスト以外の方法として)焦点内外像に注目してみたいと思います。

焦点(ここではトータルとして1番マシな像が得られるピント位置の意)よりも撮像素子を対物レンズ側にズラした際に得られる像を「焦点内像」と言います。合焦位置よりドローチューブを縮めた状態ですね。
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この場合、上の図のように、光軸から離れるに従って光束の間隔が狭くなっていくことが予想されます。


逆に、焦点よりも撮像素子を対物レンズから離れる方向にズラした際に得られる像を「焦点外像」と言います。合焦位置よりドローチューブを伸ばした状態ですね。
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この場合、上の図のように、光軸から離れるに従って光束の間隔が広くなっていくことが予想されます。

このように考えると、ザックリ言って焦点内外像は下記のようになると推測されます。
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ひょっとすると、実際に焦点内外像を観察したことが無くても一般的な写真撮影が趣味の方なら、この図を見て「あっ!見たことあるぞ、このボケ味!」と思われるかも知れません。

そうです。天文界における「焦点内像」は(一般の写真用語では)「前ボケ」と言われる物に相当し、「焦点外像」は「後ボケ」と言われる物に相当するのです。また、負修正の焦点内像のようなボケは「二線ボケ」、負修正の焦点外像のようなボケは「とろけるボケ」と表現される味付けに相当します。
このように、一般写真用のレンズでは球面収差を意図的に制御することによって、個々のレンズの「味」を演出します。
例えば、ニコンのマイクロ60mmF2.8には、新旧2タイプのモデルが併売されていますが・・・

<旧マイクロ60mmF2.8>
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<新マイクロ60mmF2.8>
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あぷらなーとの勝手な推測では、このうち「新モデル」が負修正気味の設計だと判断します。

実際に両モデルでテスト撮影してみると、後ボケ(焦点外像)の傾向が全く異なります。
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このように、旧タイプは「二線ボケ」傾向が強く、新タイプは「とろけるボケ」になります。そのため実際の撮影では
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このように、背景のボケ描写に雲泥の差が出ます。要するに、一般の写真においてはあえて球面収差を残す『負修正』は背景のボケをなめらかにする『味付け』のためには極めて有効なのです。


話を元に戻します。


★球面収差修正の場合
さきほどとは逆に球面収差が過修正のレンズを想定すると、
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このように、負修正の場合と全く反対の傾向が現れます。
さきほどと同様に考えると、
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このような収差曲線になることが推測されますね。

この場合の焦点内外像を考えると
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このような傾向が予想されますので、焦点内外像のイメージは
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ちょうど負修正の場合と全く逆になることが推測されます。

実際、さきほど例に挙げた新旧2モデルのマイクロ60mmF2.8で前ボケをテスト撮影してみると、
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このように、新旧各モデルの優位性が逆転します。焦点内像を見ていることに相当する「前ボケ」がなめらかになるのは、球面収差が過修正気味である(と推測される)旧モデルの方だからです。

このように、後ボケをなめらかにするには「負修正」、前ボケをなめらかにするには「過修正」気味の設計をするのが一般用途のレンズです。極端な例だと、調節リングを回すことによって「負修正」「過修正」のどちらのタイプにも変身させられるDC105mmF2.8やDC135mmF2.8なんていう変態レンズもニコンには存在します。またかつてのミノルタの85mmF1.4には、負修正・過修正両方のモデルが併売されていました。(より正確には、ノーマルタイプがフルコレクション型でリミテッドタイプがアンダーコレクション型ではないかと推測します。)


話を元に戻します。
★SE102のC線について
さて、ここからが本題です(笑)
SE102の特性を占うために、SⅡフィルタを装着したモノクロCMOSカメラで人工星を撮影し、焦点内外像を比較してみましょう。

すると・・・

ででん!!
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  ※左:焦点内像 右:焦点外像

分かります?
これ、かなり理想的な補正状態に近い像と言えるのでは・・・。
収差曲線風に表現すると、「C線がまっすぐ立ってる」状態に相当すると思われます。
要するに、HαやSⅡのナローバンドフィルタを使うと無茶苦茶にシャープに写るパターンっぽいです!!

※厳密にはC線はSⅡではなくHαで調べないといけないんですが見逃してください。波長が近いのでほとんど差がないと思います。



★SE102のF線について
次に、NB1を付けたカラーカメラで焦点内外像を観察してみます。
星雲以外の撮影ではC線よりもF線の方が支配的ですし、ベイヤー構造を持つカラーカメラの場合、75%のピクセルがF線付近に感光しますから、ザックリ言ってF線の傾向を見ている事になります。
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 ※左:焦点内像 右:焦点外像

さきほどSⅡフィルタでテストしたように、C線付近(赤い光)がほぼ一様に分布している(理想的球面収差補正状態)のに対して、シアン色のF線付近の像は明らかな過修正傾向を示しています。
厳密には、レンズ中心からある程度のところまでは良い感じに補正できていて、周辺付近で一気に収差曲線が曲がる感じでしょうか。ただし、ボケの総量として見たときにC線とF線とでそれほどの差が無いことも考慮に入れると、下記のことが推測されます。

①C線の収差補正は完璧に近いのでは?
②F線の収差補正は過剰気味(過修正)か?
③色消しターゲットはC線とF線と考えてもおかしくない?

よって、SE102のC線とF線についての収差曲線を大胆予想してみると・・・・
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こんな感じなのではないか???

以前『考察ごっこ』した、NB1によるデュアルナローバンド撮影に理想的なタイプ
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とは少し違うけれど、悪くないのではないか・・・・・・と♪


★というわけで
前回の記事で、『勝てる気配』とうらなった際のあぷらなーとの脳内における『邪推』の流れを晒してみた・・・という『誰得?』な記事でした。

もし、最後までお読みいただいた酔狂な方がいらっしゃいましたら、お疲れ様でした♪
本当にありがとうございます。



★★★お約束★★★
①あぷらなーとは光学の素人ですし、今回は文献などを一切調べていないので、致命的な勘違いが存在するかも知れません。
②校正してません。いつもよりミスタイプが多いかも知れません。
③まともなテストをしたわけではなく、あくまで数少ないテスト画像を大胆に解釈したもので、いわば『NB1で一発AOO』作戦成功を願うための希望的観測だと捉えてください
④ドローチューブの内径不足の件も含め、勇者の方以外は「早まって」はいけません(笑)
⑤ニコンのマイクロレンズの場合は、無限遠撮影時のテイストと近接撮影時のテイストとで大きな差が生じます。今回掲載したテスト画像は、近接撮影におけるテイストです。
⑥ボケ味に関して、何を優秀とするかは撮影者個人の主観です。たとえば、いわゆる『玉ボケ』において輪郭がハッキリした二線ボケを好む方もいらっしゃると思います。
⑦天体撮影においては無関係な「ボケ味」という概念も重視される以上、一般的なレンズは天体望遠鏡よりもシャープさに欠けるとしても仕方のないことだと考えます。
⑧今回のテストには、ビームスプリッタによる効果が加味されています。幾何光学的な簡易シミュレーションにより、おおむね下記のような作用がはたらいたと推測されます。 
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 ※収差曲線グラフにおいて、C線は左に約0.04mmシフトしF線は右に約0.1mmシフトしている。
 ※収差曲線グラフにおいて、C線F線ともに若干(最周縁で0.01mm程度)右にカーブ(過補正)するように作用している。

⑨下記の某90mm天体望遠鏡の例のように、アクロマートであってもNB1併用でかえって悪化するケースもあります。通常の眼視観望で色収差が少ないと感じられる機種だと逆に危険な気がしています。

<某望遠鏡+LPS-D1>
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※青ハロが比較的少ない代わりに、それとほぼ同量の赤ハロが見られる

<某望遠鏡+NB1>
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※NB1で黄色や青色を除去したことで、赤色とシアンの色収差が強調されてしまった。
 シャープネスも低下し、AOO一発撮りには全く役に立たないと思われるケース。
 しかし、普通の眼視なら良く見える望遠鏡。

Commented by タカsi at 2019-10-02 10:48 x
こんにちは。
明解!悪路マート講座、じっくり読ませていただきました。
先日購入した人工星テスターで焦点内外像での収差の判断ができるのですね!
カメラレンズでは後ボケがざわつかないように、あえて内外像に味付けを施しているあたり、興味深いです。
サンニッパのO3がズレる原因もこのあたりに由来するのかもしれませんね。。。
Commented by te kure at 2019-10-02 12:55 x
"邪悪"でないあぷらなーとさんの初心者向け講座第1弾ですね!(笑)
なるほど〜 かなり分かったつもりです・・
光軸からの距離で焦点が違うのは全くの新知識でした!(今になって球面収差を・・😅)
それ故焦点内外像のパターンが異なることも。
ツイッターでの、SⅡでの焦点内外像が対称的である事からC線は立っているらしい・・
は、かなりのインパクトでした。(謝)
時々はこういった講座も・・ 受講料もお支払いしまっせ!(笑)
Commented by 是空 at 2019-10-02 16:20 x
SIGMA85㎜ f1.4Artの時だったと思うんですが(記憶が曖昧)、その設計者が「わざと収差を残した。」と言っていたのを思い出した。
たぶん、今回紹介されているようなボケ(味)を狙ったものなんだと思う。
この辺が地上戦向きと天体向きとの相容れない部分なんでしょうね。
Commented by にゃあ at 2019-10-02 21:45 x
ボケというのは、不完全を美とみなす日本人の侘び寂びなんですね。英語に相当する言葉がなく、そのまま英語になったのも分かる気がします。青ハロが美しいと感じる心もそれに通じるのでしょうか。天体写真(のフォトコンとか)は何かと精密さが要求されますけれど、侘びや寂びを取り入れた星野写真と言うジャンルもありのような気がしてきました。主題とは関係のない話でスミマセン。
Commented by noritos1047 at 2019-10-02 21:47 x
こ、これが初心者向けですか、ハードルが高い。
「入射高」って、なんぞ?
って思ってしまいました。
Commented by supernova1987a at 2019-10-02 22:52
> タカsiさん
ありがとうございます。数式を用いた定量的表現は苦手なので、今回は定性的イメージのみで考察ごっこしてみました。
本来は、レーザーコリメータを用いて焦点内外像を調べるべきなんでしょうが、ナローバンドフィルターと人工星でも、なかなか興味深いテスト結果が出ます。ぜひ遊んで見てください。
例のサンニッパのOⅢズレの件、ひょっとすると設計段階での味付けなのかもしれませんね。焦点内外像を撮影してみると何か分かるかもです。
Commented by supernova1987a at 2019-10-02 23:00
> te kureさん
仰るとおり、光軸からの距離によって焦点が異なるのが球面収差です。ちなみにネット上で検索かけてみると、歪曲収差(直線が曲がって写る)や像面湾曲(画面の中心と周辺でピントがズレる)と球面収差を混同されている方も多いようです。たしかに、それらも『球面』っぽい印象を受けますものねぇ。

さて、この手のゆるーい『考察ごっこ』ネタは好きなので、また書きますね。
Commented by supernova1987a at 2019-10-02 23:07
> 是空さん
「わざと収差を残した」これこそが設計者の腕の見せ所なのだと思います。
その点、望遠鏡は無収差こそが正義なので、面白みに欠けるかも。・・・いや、ナローバンド撮影専用のアクロマートっていうジャンルが確立したら、面白い機種があらわれ・・・ないか(笑)
Commented by supernova1987a at 2019-10-02 23:19
> にゃあさん
ボケの美しさに興味が向いてしまって、DC135mmF2とか買っちゃった時期もあるんですよ。たしかに、球面収差の量を自由に調整できる神レンズだったんですが、あまりにも軸上色収差が多過ぎて手放しちゃいました。

いくつかのメーカーからは、球面収差ではなく、アポダイジングフィルターによってボケ味を柔らかくするレンズが出てますね。これ、回折リングを軽減するような効果も期待できるため、網戸を使った「なんちゃってアポダイジングマスク」が惑星愛好家の間で流行った時期もありますね。
Commented by supernova1987a at 2019-10-02 23:24
> noritos1047さん
すみません。言葉足らずでしたー。
入射高とは、光軸からどれだけ離れた位置を通過した光なのかを表す用語です。
たとえば口径10cmの望遠鏡において、入射高ゼロがレンズ中心で、入射高5cmがレンズの周辺部となります。
Commented by オヤジ at 2019-10-04 04:04 x
何時も、難しい話題が多く怖いもの見たさで拝見してますが。
球面収差の絵!良くわかりました。
フィルタによってピント位置が変わるのも、こう言う理由が有るんでしょうね。
リハ、頑張ってますか。
かなり重そうな器材ですから、砂袋より効率は良いかもです。
お大事にしてください。
Commented by supernova1987a at 2019-10-04 22:39
> オヤジさん
そうですね。フィルターごとにピントが変わるのは、
①色収差の影響
②波長による球面収差の違い
③フィルター本体による屈折
の三点が、主要因だとおもいます。
色々と厄介ですが、頑張ります。

右肩は、お陰様で力を取り戻しつつあります。
こちらも無理せぬ程度に頑張りますね!
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by supernova1987a | 2019-10-02 06:30 | 機材 | Comments(12)

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