★なんぞ、これ?

なんだか分かります?
これ、結構レアでしょう?
正体は、激安アイピースやコスパの高い双眼鏡などで話題のSVBONYから販売されている「デジタルアイピース」SV105。
名称から分かるとおり、月面や惑星の電視観望用と思われるCMOSカメラです。
1/3インチの200万画素カラーセンサーov2710搭載のCMOSカメラで、USB2ケーブルでPCとつないでSharpCapで撮像する仕様です。
ADCは10bit。FITSやSerでの出力も可能です。

ちっちゃくて可愛らしい外観ですが、意外としっかりとした造りです。
★色んな人から・・・さて、ある意味「星もと」で1番ウケたのが、自称『ゴルゴ・アタッシュケース』。
『赤缶』と主要パーツを「これでもか!」と詰め込んだケース。

想定したシチュエーションは、
「そ、創造の柱を、ででん!と写して頂きたいのです・・・・。」
と依頼人が吐露したところで、
「・・・。やってみよう。」
とニヒルに呟いてケースをパカッと開ける、というものです。
パカッと開いた実物をご覧になった方がもれなく笑ってしまうという、この邪悪なケース。大口径アクロマートやクローズアップレンズで楽しい成果が出せるのも、この『赤缶』セットあってこそなのですが、要するに「赤缶に軍資金を使いすぎて、対物レンズに資金が回せなくなった」とも言えるわけです。
少なくとも、健全な天文少年が真似してはいけない『狂気の沙汰』です。
★ならば、逆路線を・・・
ある意味、カメラ側の『暴力』でアクロマートを活用してきた訳ですが、ここらで、少し別ルートを探ってみましょう。
ええ。ある程度まともな対物レンズに格安カメラを組み合わせるという作戦です。

シャープさで定評のある
BORG45EDⅡにSVBONYの格安デジタルアイピースSV105を装着!!
一気に邪悪さが消えて、健全な香りがしますね(笑)。
では、さっそく、お約束の『電柱テスト』を・・・。
すると・・・
ででん!!
※BORG45EDⅡ直焦点 補正レンズ無し SV105 240コマスタック レジスタックスで軽くウェーブレット
な、なに!
ピクセル等倍で、この鮮明さ・・・・だと?
出力はSerファイルで行いましたが、ZWOのCMOSカメラのようにRAW出力されている訳ではありません。(FITSで出力しても同じです)
カメラ側でディベイヤーして、いきなりカラー画像が吐き出されます。
それなのに、日中とは言えなかなかの鮮明さです。
ちなみに、同条件下でASI294MC-Proで撮像した画像と(ほぼ同縮尺で)比べてみると
※左:SV105 右:ASI294MC それぞれスタックのみ。シャープ処理は無し。
このように、あきらかにSV105の方が鮮明です。
以前、Samさんに触発されて、画素ピッチとレイリーリミットについて、考察ごっこ↓を行いましたが
BORG45EDⅡの理論上の回折限界は、撮像素子上でおよそ4μmとなります。
ASI294MCのピクセルピッチはおよそ4.6μmなので、一見十分に見えますが、上記の記事でも言及したようにカラーベイヤー構造を持つ撮像素子の場合は、ディベイヤー処理に伴う解像度低下が無視できないので、ザックリ言って理論値の半分くらいのピクセルピッチが欲しいところです。
・・・で、SV105のピクセルピッチ約3μmが効いたのではないかと推測されます。
★昼間の撮影で鮮明ならば・・・・
フィルム時代に活動していた天文少年達は、ASA(ISO)感度とF値が与えられれば、即座に月面の適正シャッタースピードを暗算できていましたよねぇ。でも、よく考えれば月面だって直射日光を浴びて光ってる訳ですから、要するにピーカンの日中撮影の露出計算と似たようなものに過ぎません。
つまり、日中の撮影で好結果を叩き出したカメラは、そのまま月面撮影に活かせそうだということになります。
というわけで(少し構成は変えましたが)月面にてSV105のファーストライト、行ってみましょう♪

鏡筒は、
ビクセンのED70SS(口径70mm焦点距離400mmのEDアポ)。
これだと明るすぎるのでBORGのコンパクトエクステンダーメタルで焦点距離を約2倍に延長。
架台はAZ-GTi経緯台をチョイス。1点アライメントして、月時駆動させます。
ところが・・・・
あ、ダメだ。
明るすぎてサチる!!
そう、SV105の弱点の1つは、露出制御の幅が狭いことなんです。
素の状態だと約15msec~500msecまでしかシャッター速度を変更できません。
早速ゲインを1(最低感度)まで下げたのですが、それでも露出オーバーになってしまうので、仕方なくNB1フィルタを組み込んでみました。本来はカラーカメラでAOO一発撮りをするためのデュアルナローバンドフィルタですが、色収差の低減にも使えるスゴいフィルタです。今回は、それを減光目的で使用してみました。
さて、128コマをスタックして、レジスタックスや最大エントロピーに掛けてみると・・・・・・
ででん!!

うむ。
悪くないではないか。
月面全体がユラユラする悪条件下ではありましたが、これだけ写れば立派。
中高生のお小遣い感覚でポチれるSV105、その仕様が特殊であるためにSharpCapでの制御には色々とクセがありますが、工夫次第では月面や惑星のお気軽電視観望や撮影に活用できそうなアイテムです。
★★★お約束★★★
①SE120との組み合わせが良好だったNB1ですが、ED70SSの月面撮影時には赤い色収差が目立つ場合がありましたので、作例では彩度を下げています。
②SV105の最大露出時間は、「ファームアップにより1000msecまで伸ばせる」との情報があります。
③なんらかのミスかもしれませんが、ZWOのCMOSカメラと比べると、SharpCap上のパラメータ設定が上手く反映されない場合がありました。
(ある一定値以上にゲインを上げると、逆に輝度が低下する、など)
④SV105が吐き出すFITSファイルやSerファイルはディベイヤー後のカラー画像であり、RAW画像ではありません。
⑤暗い対象に関して、下記の通りダーク減算やコンポジットの効果は認められましたが、ASIシリーズに対してあぷらなーとがいつもやっているような強力なダークノイズ補正処理方法は未だ見いだせていません。(クールファイル補正法や手動ダーク減算法が通用しない・・・)

※SV105で街灯の背景を炙り出そうとした画像。
左:1コマ撮影 右:ダークファイル減算+120コマコンポジット
⑥短時間露光+多数枚コンポジットに必要な条件は「高ゲイン下でリードアウトノイズが低下する」こと。
とりわけ、微弱な天体の光がまばらでも良いので『ノイズの壁』を越えて『頭を出し』てくれないと、処理できません。
⑦月面の作例中、暗部の落ち込みが『急』である点は見逃してください。口径を絞るなりNDフィルタを入れるなりして適正な光量にしないと、本来の階調は得られないと思いますので・・・。
⑧撮影パラメータの設定方法は、まだ模索中です。上手い方法が見つかれば紹介します。