★アイピースを使った『なんちゃって顕微鏡』前回のエントリーで、望遠鏡のアイピースとnikon1V3を用いて自作した『なんちゃって顕微鏡』でASI174MCのベイヤー構造を撮影に成功したよーという自慢話をしました♪
ただ、本来の目的は『謎』が多い冷却CMOSカメラASI294MC-Proのベイヤー構造を実写するということでした。にもかかわらず、前回の『お約束』で「ASI294MCの撮影リクエストには応じられない」と書いたのは、技術的に非常な困難が伴うからでした。
★困難その①:Bピクセルが写らない!
前回の撮影では、ビクセンのLV20mm+BORGエクステンダーメタルの組み合わせを逆付けして対物レンズに仕立て上げたのですが、これがなかなか上手く行きません。どういうわけかBピクセルが写らないんですね。
そこで、ダメ元で撮影用カメラをニコン1V3から(お気軽電視観望用にポチっておいた)SVBONYのSV305に換装してみました・・・。SV305は非常にお安いカメラですが、撮像チップはASI290MCと同じIMX290が奢られているので、その性能に期待を掛けた訳です。
すると・・・

かなり解像度が上がったものの、
まだB素子が写りません。
このあたり、望遠鏡用アイピースでは何らかの限界があるのかも知れません。
★困難その②:ワーキングディスタンスが短すぎる!
一般的なマクロ撮影において、レンズ先端から被写体までの距離を「ワーキングディスタンス」と呼びます。対象を大きく写すためには被写体に接近することが重要ですが、あまりに近づきすぎると対象の昆虫などが逃げたり、レンズ面が対象と接触したり、隙間が小さいために照明に難儀したりします。
ちなみに、理想的条件下(無収差の薄肉単レンズ)では、下記の関係が成り立ちます。
a:レンズから被写体までの距離
b:レンズからカメラの撮像素子までの距離
f:レンズの焦点距離
m:撮像倍率
とするとき、
1/a+1/b=1/f・・・①
m=b/a・・・②
ここから計算すると、たとえば、10mmの単レンズで倍率5倍を得ようとすると、レンズから被写体までの距離がたったの12mmとなってしまい、CMOSセンサー面を撮影する際には(接近するために)保護ガラスを外すなどのリスキーな作業が必要となります。
また、焦点距離が長いレンズ、たとえば100mmの単レンズで倍率5倍を得ようとすると、被写体までの距離が120mmとなりますが、副作用としてレンズから撮影用カメラ素子まで600mmも離さないといけないことになります。
以上をまとめると、
高倍率撮影時において
短焦点レンズの欠点:ワーキングディスタンスが短くなる
長焦点レンズの欠点:バックフォーカスが遠くなる
となります。
そこで、フィルム時代から多用されてきた方法が「カメラレンズのリバース接続」です。ちなみにリバース接続とは、レンズの前後を逆にしてカメラに接続する手法です。
★なんでリバースが有利なの?
はじめに白状しておきます。あぷらなーとは光学の素人です。以下の説明はあくまでイメージ的なものだと解釈してくださいね。(お詳しい方はいじめないで)。
さて、一般的なレンズを簡単のため無収差の薄肉単レンズであると仮定します。
すると、下記のように大きな被写体が(フィルムとか撮像チップ面とかに)縮小投影されることになります。

ところが実際には
広角レンズに良く用いられる「レトロフォーカス」タイプのレンズでは、下記のように、同じ大きさの像を得る場合でも
バックフォーカスが長くなるように設計されています。
その意義は一眼レフカメラにおいて、ミラーが稼働する空間を確保することですが、これがリバース撮影時に効いてきます。
たとえば、一般的なレンズをリバース接続しても

このように、
普通に装着したレンズで被写体に接近したのと変わりません。
ところが、先述のレトロフォーカスタイプのレンズの場合は、

このように、(正接続の際にバックフォーカスを伸ばす機能が逆に作用して)
ワーキングディスタンスが長くなることが期待されます。
多少語弊があるかも知れませんが、
広角レンズのリバース接続の場合は
「どんなに倍率を高くしても、カメラのフランジバック程度のワーキングディスタンスが確保される」
と考えて良いでしょう。
★というわけで、リバース接続第一弾
まずは、ニコンの35mmF2をリバース接続してみました。

アイピース転用の場合と比べて、被写体であるASI174MCの
チップ面までの距離(ワーキングディスタンス)が非常に長くなったことが分かります。
これなら、保護ガラスを外す必要も無くなりますし、照明光を当てるのも楽ちんです。
では、リバース接続の威力を見てみましょう。
ででん!!

きたー!!ついにASI174MCのベイヤー構造を難敵のBピクセルも含めて鮮明に写し出すことに成功です♪
ちなみに、Samさんが「ピクセルの色が出ない条件がある」と悩まれていたのですが、あぷらなーとの場合は、光源を正面ではなく撮像チップの対角線上に照射すると上手く写すことができました。
※左:素子短辺側上方から照明 右:素子対角側上方から照明
なぜ、こうなるのかは謎ですが、とにかく照明は対角側から照射するのが良さそうです。
では、ASI294MC-Proの撮像チップの謎に迫ってみましょう♪
★ところがどっこい
35mmF2のリバース接続でワーキングディスタンスを稼げたので、早速『ラスボス』:ASI294MCのベイヤー構造撮像に挑んでみました。
ところが・・・・

ああ、なんということでしょう。
強烈なモアレが発生して、悲惨な像になってしまいました。
撮像に用いたSV305は当然ローパスフィルターレスなのですが、いかんせん解像度が足りなかったようです。要するに拡大率が足りないのですね。
でも、ちょっと待ってください。
よく見ると、なんだか不思議な構造が見えませんか?

なんというか、
通常のベイヤーとは異なる非常に細かい構造めいたものがあるように見えます。
これはひょっとして『異質なベイヤー構造』が捉えられ始めたのかも知れません。
★拡大率をさらにアップしてみる
さて、前述のように、超拡大マクロ撮影においては「できるだけ広角レンズが有利」です。
そこで、撮影レンズをニコン35mmF2からシグマ28mmF1.8 に換装してみます。
さらにSV305にはBORGのエクステンダーメタルを装着。このこのセットアップで撮像倍率10倍に挑む作戦です。
理想的な単レンズを仮定して計算すると、28mmレンズを用いた場合の撮影倍率とワーキングディスタンスの関係は、下記のようになります。

倍率10倍だと、ワーキングディスタンスが約30mm・・・相当苦しいですね。
しかし、リバース接続の威力で・・・・
どうです!?撮像倍率10倍なのに、余裕のワーキングディスタンスです♪
では、いってみましょう・・・。
★ところがどっこい2
しかし、さすがは難敵ASI294MC、そう易々とピクセル構造を見せてはくれませんでした。
像の大きさが増したことでモアレは全て解消したものの、ピント位置により見えるピクセルが異なるのです。
要するに、Gピクセルにピントを合わせるとRピクセルやBピクセルが消失し、Bピクセルにピントを合わせるとGピクセルやRピクセルがボケて消えてしまうのです。
さらに、Rピクセルはどんなに頑張ってもボケボケのままです。
あくまでも推測ですが、拡大率が大幅にアップしたために、レンズの色収差の影響や保護ガラスの色収差の影響などが出てきたのでは無いかと思われます。(回折系・干渉系のなにかも関係していそう)
★作戦変更
ここまで頑張って無収穫では悲しすぎるので、作戦を切り替えます。特にフィルターなどを用いる訳ではありませんが、各色の素子毎に特化したピント位置で撮像を試みます。
すると・・・・
ででん!!
おお、み、見えるぞ!!4つのB素子がグループを構成している様子がッ!!
同条件でASI174MCのチップをBピクセル優先ピントで撮像したものと比較してみましょう。
※左:ASI174MCのBピクセル 右:ASI294MCのBピクセル
あきらかに構造が違うことが分かりますね。
では、次にGピクセル優先ピント位置で撮像した画像を比較してみます
※左:ASI174MCのGピクセル 右:ASI294MCのGピクセル
おお、これもハッキリと差が出ました。
残念ながらASI294MCのR素子については、どう頑張っても鮮明なピントが得られずその構造を写し取ることは断念しました。
★ASI294MCのピクセルサイズを推算する
では、ピクセルサイズが5.86μmとして既知のASI174MCの像を基準として、ASI294MCの『真の』ピクセルサイズを推算してみましょう。
この計算には、もっともシャープに写せたBピクセル像を用いました。
ASI174MCのBピクセルは14個のピクセル間距離が744ピクセルでした。
また
ASI294MCのBピクセルは28個のピクセル間距離が590ピクセルでした。
それぞれ、その間にGピクセルやRピクセルが隠れていることを考慮に入れて計算すると・・・・・
ででん!!
公称値4.63μmとされるASI294MCのピクセルサイズは2.28μmと推算されました!!
実際には公称値の約1/2のピクセルサイズだったという訳です。
ああ、これでハッキリしました。
ASI294MCの撮像チップは
本当に、このようなクワッドベイヤー構造をしているようですね!
これを、実際にはRGBそれぞれ4ピクセルをハードウェアビニングして、1/4の画素数として出力しているのだと推測されます。
しかし、これ・・・・
今MATLABでやっているノイズ解析とか、以前から悩んでいる『サッポロポテト現象』とか、相当に難儀しそうな気がするなぁ。
★★★お約束★★★
①今回の結果は、あくまでも『遊び』です。正しい結果を示しているとは限りません。
②カラーフィルタが透過しているハズの『色』が相対したカメラに写る仕組みについては、よく分かりません。
※配置位置から考えてGピクセルが緑に発色していることは確かめられたため、単純な反射光ではないと推測します。
③ピクセルアレイの対角線上方から照明しないと色が写らない理由も不明です。
④実際の撮影においては、ピント調整・照明角度調整などが非常にシビアです。
※同じ装置を用いても容易には写らないと思います。
⑤ASI294MCのRピクセルが分解しなかった要因としては赤の波長が長いことが考えられますが、詳細は不明です。
⑥撮影時にはかなり明るいLEDライトを用いています。
電源がOFFの状態でもCMOSセンサーに強力な光を当てることは、なんらかのダメージを与える可能性があります。真似をしてはいけません。