★少しずつ、でも確実に前進
MATLABを用いたASI1600MMのノイズ解析ごっこの第三弾です。
これまでに、
「比較的高エネルギーの放射線がヒットした」と思われる群
「常に最大値を吐くホットピクセル」&「常に死んでいるクールピクセル」
については、ほぼ判明しました。
お次は・・・・
★比較的低エネルギーの放射線ヒット?

今回
解析を試みるのは、上の図の赤いラインで囲まれたピクセル群の挙動です。
解析ごっこ①で、最上部にアーク状に分布するピクセルについては、「1回だけ最大輝度値32768を吐いたピクセル」だということが判明しました。また、その場合、グラフがアーク状になることもシミュレーションで確かめることができました。
問題は、まっすぐ上に伸びている途中の群です。直感的には、エネルギーが小さいために放射線がヒットしたピクセルが最大輝度よりも小さめの値を吐いたのではないかと想像できますし、ASI174MCにトリウムレンズの放射線を被曝させたデータを解析してもそれを示唆していたのですが、今回は「解析的に解く」+「モンテカルロシミュレーションする」+「実測値を解析する」の三段構えで検証ごっこしてみます。
あぷらなーとは解析的に解く(数式から解く)のが苦手なんですが、今回は仕方なく計算してみました。
標準偏差や分散の定義式から・・・

こんな感じで、
分散値(もしくは標準偏差)と平均値とデータ数だけが分かっている正常な群に1個の放射線ヒットによる異常高輝度値が混入した場合に標準偏差がどう変化するかが求められました。
ただし、元々数学が苦手な身ですから計算ミスしているかもしれませんので、『得意』のモンテカルロシミュレーションで、致命的な計算ミスをしていないかどうか確かめてみます。

むう。
ちと計算値の方が小さめに出ちゃうなぁ。
でも大まかには合ってそうなので(細かいチェックは後日の課題として)とりあえず進みます。

数値計算の結果、
輝度平均値が350・標準偏差が300のピクセルで撮影したダークファイル32コマの内、1コマだけ放射線がヒットした場合、その異常コマの輝度値と全コマの標準偏差の相関は、概ね上の図のようになることが予想されます。
要するに、標準偏差が3000~4000となったピクセルについては、1回だけ17500~22500の輝度値を吐いたハズだということになります。
最初のグラフでアーク状になったピクセルは1コマだけ最大輝度値32768を吐いていることは確かめましたので、それよりも低いエネルギーの放射線がヒットしたのだと考えるとつじつまが合いそうです。
★実測データを弁別してみる
では、いよいよMATLABの出番です。
解析した32コマのダークファイルの各ピクセルについて、輝度標準偏差が3000~4000の範囲に該当するピクセルのみを弁別し、統計処理してみます。

※追記:上記のコードにミスがあります。
87行のコードは
誤:Ab1(fno,abno)=val;
正:Ab1(fno,pno)=val;
です。スクリーンショット用に読み出したコードを取り違えただけなので、解析結果(上記のグラフなど)は正しいです。
おお、なかなか良い感じです。
これは予想が的中した可能性濃厚ですなぁ。
では、さらに該当するピクセルの座標と、その32コマ間の輝度推移を拾ってみます。
すると・・・・
ででん!!

該当するピクセルは30個で、
どのピクセルも1コマだけ20000前後の輝度値を吐いていることが判明しました。
推定値とピッタリとはいきませんが、正常値の基準として想定した輝度値や標準偏差の値に依存しているのだと思われます。
とにかく、「横軸を輝度中央値・縦軸を輝度標準偏差」にした場合に「上に伸びる途中」のピクセルは、(最大輝度を吐くほどには)エネルギーが強くない放射線がヒットしたものだと言えそうです。
★よく見るとさらに面白そうな事象が・・・
さて、さきほどの表をよく見ると、興味深い2つの事象が見つかりました。
整理番号2番のピクセルは全体的に輝度値が低すぎます。これは広義のクールピクセルだと言えるかもしれません。
また26番のピクセルは最低輝度値である16をやたらと吐いています。目下捜索中の『酩酊ピクセル』だと言えるかもしれません。
※水色:整理番号8番ピクセル(正常) オレンジ:整理番号26番ピクセル(酩酊)
真の『酩酊ピクセル』がどれほど存在しているかは不明ですが、各ピクセルにおける最大輝度を吐いたフレームをカットした上で再解析すれば放射線ヒットによる影響を排除して問題のピクセルを弁別できる可能性が出てきました。これは今後の課題とします。
また、下図の25番~30番ピクセルは、その座標が極めて近い上に全く同じフレームで異常高輝度値を吐いています。

該当フレームの中から上記の座標を探してみると・・・・

このような
横に長く伸びたノイズ像が該当していることが分かりました。恐らく
放射線中の荷電粒子入射角が大きい(水平に近く)例なのではないかと推測されます。
★と言うわけで・・・
ASI1600MM-Proをー10℃・ゲイン300・露光30秒で取得したダークファイルを解析して判明したピクセルの種別として・・・・
ここまでは解決しました。
次回は、いよいよ中央下部の『カタマリ』の中身に切り込んでみようと思います。
いやー、この部分は相当に『邪悪そう』なのですよ・・・。
たとえば、撮像温度をー10℃から+10℃に上げて、露光を30秒から120秒に延長すると・・・・
ぎょぇぇ!?
ほらもう、奇々怪々なことが起こりまくってます。もちろん高温下ですから、いよいよダークカレントの影響が出るだろうというのは想定の範囲内ですよ。
でもね・・・・
上に伸びてた群が3つに分裂!
アーク状の群が右下まで延長!
計算上の上限値であるハズのアーク部分をぶち抜いて上に伸びる群が出現!
高輝度部分に標準偏差が小さすぎる群と、大きすぎる群が同時出現!
これは・・・
お気軽アマチュア天文界隈初の新たな『泥沼』に足を踏み入れてしまったのかも・・・・。
全くもう・・・・厄介・・・もとい、面白くて仕方ありませんなぁ。
★★★お約束★★★
①珍しく数値計算めいたものを載せましたがミスタイプしてるかもです。
Texとか使わずにパワポだけで適当に書いたので(汗)
②各ピクセル群の解釈は、あくまで個人的な意見です。
③撮像デバイスに強い現役理系の方だと、常識として『答え』を知っているかも知れません。
でも、あぷらなーとは苦しんでる振りをして実は『謎解き』の過程を楽しむタイプなので、まだ答えは言っちゃダメ、絶対(笑)