★最近、ちっとも天体写真が出てこないな
みなさんこんにちは。ええ、なんだか最近「カメラのノイズ解析ごっこ」やら「センサー面の拡大撮影」やら、マニアックな記事ばかりで、綺麗な天体写真の撮影記事がちっとも登場しません。これ、記事を書くのをサボってるんじゃなくて「ホントに撮れていない」んです(涙)。11月に15cmアクロマートBK150750による星雲撮影レビューを書いた後、お休み(の前夜)と晴天が全く噛み合わなかったので・・・。
★希にしか撮影できない身だからこその『多連装』
近年のあぷらなーとは多連装好きなんですが、その第1目的は、滅多に巡ってこない撮影チャンスを最大限利用し「一晩でなんとかする」というものです。乱暴に言えば三連装なら3夜分の戦果を1夜で得ることができますから・・・ね。(第2目的は「禍々しい機材」を組んで笑ってもらおう、という遊び)
さて、この多連装望遠鏡の活用方法は主に3つあります。
①総露出時間を稼ぐ
②複数の波長を同時露光する
③ノイズを低減する
面白いのは②でして1本の望遠鏡に対してフィルターを次々と交換して撮影する従来の手法よりも効率的で、しかも波長変化によるピントずれの心配もありません。(だからこそアクロマートがナローバンド撮影の主力になり得る訳ですね)
③については、色々と難儀しています。いわゆる固定ノイズは個体毎にその場所が異なるので、複数のカメラを投入することでノイズが相殺するハズだと目論んではいたんですが、ASI1600MM-Coolの2台目をポチッたところ、ノイズ特性がまるで異なるほど個体差が大きすぎて頓挫しました。(でも、おかげでクールピクセルの挙動について気がつくきっかけになり『クールファイル補正法』のアイディアが生まれたので良しとしています)
で、今回は数ヶ月振りに①を狙って活動を再開してみることに♪
★騒いじゃダメというものの
天文には「世間が騒ぐと、天文現象は空振りに終わる」という有名なジンクスがあります。だから超弩級の彗星がやってきそうでもあまりはしゃぐとバチが当たります。でも、百武彗星やヘールボップ彗星の雄姿を目撃した身としては「あの感動をもう一度!」と期待してしまいます。
というわけで、手持ちの機材を「対彗星用」にアレンジしてみることに。もちろんターゲットは、明るくなることが予想されている(いた)アトラス彗星C/2019Y4です。
今回は、星雲ではなく彗星が相手ですからナローバンド系フィルタによる色収差撲滅作戦がとれません。よって、近年の主力『アクロマート兵器群』は封印。SE120の降臨によって主役の座を奪われたBORG89EDを復活させることにしましょう。珍しく今夜は数ヶ月振りのニワトリができそうだからです。
すっかり腕は鈍っているでしょうが、ワクワクします。
★三連装BORGよ蘇るがいい
今回の装備は、次のような物です。
①対物:BORG89EDアポ
②接眼部:笠井DXマイクロフォーカス接眼部
③補正レンズ:BORGマルチフラットナー
④カメラ:ASI1600シリーズ
これを3セット組んで三連装化します。
すると・・・・
ででん!!
おお、なかなか禍々しく組めたぞ。
「素晴らしい。まるで変態の精神が形になったようだ」
よし、今後このセットアップは『ノイエジール』と呼ぼう。
さて、今回こだわったのは、撓みの軽減でした。
重量級のビームスプリッタなどは全て外したんですが、それでもクレイフォード系の接眼部は結構撓みます。
そこで、これまで色々と試行錯誤して辿り着いた長めのL字ステーで鏡筒とドローチューブを固定する方法を用います。重めのカメラや重量級のビームスプリッタを用いるときには重宝しているやり方です。
そして、これをEQ6Pro赤道儀に三連装同架します。
さて、この装備で見事アトラス彗星を捉えることができるでしょうか??
★暗いぞアトラス
早速数ヶ月振りのニワトリ出撃したのは良いのですが、薄雲と月光と光害の影響で肉眼では2等星が見えるか否かというコンディション。無精してファインダーを一本も付けなかったので、さっそくアライメントで苦戦します。やはり数ヶ月のブランクが効いているようです。たかが600mmで基準星のノーファインダー導入ができないとは・・・・。苦闘15分、なんとかズーベを導入し、1点アライメントを完了させました。
問題は、どうやってアトラス彗星を導入するかです。本来はPCなどに彗星の位置推算ができるアプリを入れておき自動導入させれば良いんですが、今回は赤道儀に比較的近傍の既知天体を導入させ、あとはその周囲の星の並びを見ながら望遠鏡が向いている位置を推測し、アトラス彗星がいると思われる宙域を探します。言わば『人力プレートソルビング』ですな。
すると・・・・ああ、いました!アトラス彗星です!!
しかし・・・モノクロ冷却CMOSカメラで30秒も露光してコレかぁ・・・。
空のコンディションが悪いこともありますが予想以上に暗いです。
ともかく、撮影に入りましょう。
今回の撮影では、
2台のモノクロCMOSカメラでL画像を撮り、1台のカラーCMOSカメラでRGB画像を撮るというものです。撮像制御は2台のノートPCで行い、撮像したデータは有線LANで直接屋内の処理用PC内に保存できるようにしています。
追尾はいつもの通り、ノータッチガイドです。
一度撮像が始まったら、あとは屋内のPCからリモートデスクトップで屋外のPCを監視しながらのんびりと待つだけです。
撮像データは下記の通り。
◎ASI1600MMP&ASI1600MM-Cool
撮像温度:ー10度
ゲイン:300
ブライトネス(オフセット)10
露光:30秒
◎ASI1600MC-Cool
撮像温度:ー10度
ゲイン:300
ブライトネス(オフセット)10
露光:30秒
WB:R52・B95
途中で電線が掛かったり明るい雲が通過したり、いろいろとトラブルがありましたが、なんとか撮像には成功したようです。
★画像処理開始
まずは、なにも補正していない状態の画像仮処理(位置合わせ無しコンポジット+デジタル現像のみ)して様子を見てみます。
ダークもフラットも処理していませんが・・・・
おお、写ってる写ってる・・・
けど酷いなこりゃ(笑)
北天だと実視角相当のピリオディックモーションが小さくなるのでノータッチガイドでも結構良い追尾をするんですが、ホコリの影響と周辺減光が酷いです。また左下方向に相当なカブリが見られますね。
他のカメラも似たようなものでしたので、それぞれのカメラについて
ダークフレーム:120コマ
フラットフレーム:120コマ
フラットダークフレーム:120コマ
をそれぞれ撮り増しして、本処理に移りましょう。
①ステライメージ7でダーク・フラット・フラットフレームそれぞれを加算平均コンポジット
②『手動ダーク減算法』でダークフレーム減算
③ステライメージ7の処理でフラット補正
④『クールファイル補正法』でクールピクセル排除
⑤ステライメージ6.5で彗星核基準位置合わせ加算平均コンポジット
⑥FlatAideProで簡易的にカブリ補正
⑦微調整
といったところです。
なお、カラーカメラであるASI1600MCだけ上記の④と⑤の間にGRBGデモザイク(ディベイヤー)処理を挟みます。
フラットはいつもの通りLEDトレース台を最大輝度で発光させて1/3000秒という高速シャッターを切って得たものですが、悪くないですね。
彗星核を基準としたコンポジットもまずまずの精度で実行できたようです。
では、モノクロカメラ2台で得た画像112コマをL画像に、カラーカメラ1台で得た画像61コマをRGB画像として、L-RGB合成してみましょう。
すると・・・
ででん!!
ふむ。なかなか美しいぞアトラス彗星よ。 数ヶ月振りの天体実写としては悪くないなぁ。
★今後の課題
色々と怪しい補強工事を行ったことで、以前に比べるとだいぶ鏡筒の撓みによる追尾エラーは減少してきたようです。
でも、今回惜しいことに3本のBORG89EDのうち、1本だけ残念なエラーが残りました。
※左:ASI1600MM-P 中:ASI1600MM-C 右:ASI1600MC-C
これは、3本の鏡筒で得た画像をそれぞれ位置合わせ無しの比較明コンポジットしたものですが、カラー画像だけエラー方向が異なっています。
実はこの鏡筒だけ(ガイドマウントを介しないためアリガタプレート取り付け位置の関係で)補強方法が異なっています。素人なりに考えると、上記の写真のように
接眼部の固定リングの回転自由度が1軸分だけ殺しきれずに残っているのが原因かもしれません。
追尾エラーの画像を強拡大して重ねて比較してみると、
このように、
6~7ピクセルほどのズレが生じています。ASI1600シリーズのピクセルピッチは3.8μmなので、これは
23~27μm程度のズレが撓みによって撮像面に生じた計算になります。この鏡筒については、補強方法をさらに改善しないといけないなぁ。
どうするかなぁ・・・・・あ!閃いたぞ♪
以下続く・・・のか??
★★★お約束★★★
①カラーカメラのWBが極端な設定になっているのは単にミスです
②あぷらなーとは工学的知識を持ち合わせていないので、撓みの推算とかは適当です
③クレイフォード系接眼部が撓みやすいというのは単に個人的な感想です
④K-ASTECの接眼部補強リングは、本来片面につき2本のネジで固定する設計です
これを1本のネジで固定すると今回の様な不具合が起こります
⑤笠井のDXマイクロフォーカス接眼部はピントロックによってドローチューブが撓みますが、
他社製の「ピントロックするとピントがズレる」欠陥を持つ某接眼部よりは扱いが楽だと感じています
⑥ATLAS彗星の今後の光度予測については諸説あります