★『オート』ガイダーとは言うものの
近年では天体写真愛好家の多くが使っていると思われるオートガイダー。赤道儀の追尾エラーを補正するために実際の恒星の動きを追尾するこの装置はもはや必需品といっても過言ではありません。それにも関わらず、天邪鬼なあぷらなーとは「男は黙ってノータッチガイド」とうそぶいて、オートガイダーを使っていません。実際には、スタンドアロン機M-GENや、汎用ソフトPHDとガイド用カメラなどを保有しているにも関わらず・・・です。
実はこれには理由があって、
①セットアップがめんどくさい
②期待するほどの追尾精度が得られていない
③かえって撮影効率が下がる
④多連装に向かない
などなどです。
要するに、オートガイダーを使っても不思議なことにエラーが発生して天体が流れてしまうので、
「それなら最初からノータッチガイドでいいや」
と諦めていた訳です。
★撓みという諸悪の根源
一般的には、撮影に用いる望遠鏡の上とか横に同架したオートガイド用望遠鏡(ガイド鏡)に天体の動きを監視させて赤道儀の追尾誤差を修正します。
ところが、ここには大きな落とし穴があって、撮影鏡筒もしくはガイド鏡のどちらかが撓んでしまうと、結果として追尾に失敗します。
撓みの発生部分は、まず鏡筒を取り付けているマウント(ガイドマウントなど)の強度不足、そして接眼部の強度不足と思われます。
また、あぷらなーとの主砲:ビクセンVMC260Lのように「ミラー駆動型」の望遠鏡はピント合わせのために主鏡が前後に動く仕組みになっている関係上、どうしても露光中に微小な鏡の傾き変化(ミラーシフト)が発生して追尾に失敗します。
これを解消するためには、
①鏡筒とガイド鏡を微動だにせぬほど強固に固定する
②オフアキシスガイダーを用いて撓みごと補正してしまう
のどちらが取られることが多いようです。また、M-GENなどはセンサーの性能を上げて比較的撓みが出にくいような小型のレンズを使用可能としています。
さて、ミラーシフトを伴う望遠鏡や接眼部の撓みが回避できない望遠鏡で撮影する場合は、事実上②のオフアキシスガイダーを用いるしか方法が無さそうです。ところが、オフアキシスガイダーにも弱点があって、ガイド鏡に届く光量が少なく視界も狭いためなかなかガイド星が見つからないことが多いようです。
★たかが3分の1の光なぞ、くれてやるわッ!
本音を言うとあぷらなーとだってオートガイドしたいわけです。それも数十分くらい微動だにしないほどの精度で。
そこで3年ほど前から、色々と無い知恵を絞って構想を練っていたのですが・・・・・。
いきなりででん!!
今こそ降臨するがいい『テレサ』よ!
どうです。この禍々しくも神々しいメカメカしさこれが、ガイド撮影における、あぷらなーとの決戦兵器
「TELESA」(TELEscope・Stabilize・Assistant)
なのじゃーッ!!
仕組みは、ごく単純なものです。

このように、
反射光:透過光が3:7になる仕様のプレート型ビームスプリッタを介して、望遠鏡から入射する光を分割し、撮影カメラとガイドカメラに同等の視界を与えるという物です。一般的なオフアキと異なりガイドカメラが光軸上にありますので『オンアキシスガイダー』とでも言うべき物です。(※過去に同様のパーツが販売されていたような記憶がありますが、定かではありません。)
※今回使用したプレート型ビームスプリッタ。要するにハーフミラーです。
※併用した汎用ハウジング。スプリッタが60×85mmと大きいので、結構巨大。
ポイントは、ガイドカメラと撮像カメラが全く同じ像を見ているということで、これならば、撮像カメラが影響を受ける鏡筒の撓みやミラーシフトなどをひっくるめて探知できるはずです。
★予想される「低い勝算」
今回用いたビームスプリッタは1万円弱の廉価版です。もしもこんな単純な装置で正確なオートガイドができるのならば、どうして今まで見かけなかったのでしょうか?
実は、超初歩的な幾何光学的に考えてみると、ちと勝算が低そうなのです。
☆弊害① 色収差の発生
これは容易に想像できます。今回用いたビームスプリッタは厚みが1mmもあります。一般的なフィルタと異なり、これが45度も傾いているのですから、下記の図のように光が分散してしまうことが予想されます。
☆弊害② 隣接ゴーストの発生これもビームスプリッタが大きく傾いていることにより生じるのですが、下記の図のようにビームスプリッタ内部で「本来の光路」以外にも反射光や屈折光が生じるため、たとえば像が二重写しになるなどの弊害が危惧されます。
☆弊害③ 非点収差の発生こちらは詳細な図を省略しますが、光軸に対して対称性が崩れたエレメント(光学パーツ)が存在する場合、サジッタル面(イメージとしては横方向)とメリディオナル面(イメージとしては縦方向)の焦点位置が異なるという「非点収差」が発生します。今回の装置の場合は45度傾けたビームスプリッタが、まさにこの対称性を崩す犯人となり得ます。この場合、本来同心円状に変化する恒星の焦点内外像が下記のように変化することになり、要するにピント位置が物理的に無くなります。
その他、ビームスプリッタのコーティングが廉価版仕様のため、普通のゴーストが出る危険性、面精度が4~5λ(分の1ではなくママ)もあるため波面誤差が生じる危険性、もちろん厚みのあるエレメントを挿入するのですから負の球面収差も発生することでしょう。
でも、実際にやってみなければ何が起こるか分かりません。
失敗しても、ブログの『あほネタ』として笑いを取ることができるではないか!
というわけで・・・・
★テレサ出撃!!
いざニワトリ出撃です。
3年振りに復活した我が主砲VMC260Lに『テレサ』装着ッ!!
ねらうは(星ナビ初入選などで)『縁起の良い』いて座のM8干潟星雲!!

思えば右肩の腱板断裂という大事故から2年と数ヶ月、その間泣く泣くドック入りしていた「あぷらなーと邪道艦隊」の旗艦VMC260Lがテレサのパワーを得てついに出航です!

ちなみに撮像カメラはASI294MC-Pro、ガイドカメラには贅沢にもASI1600MC-Coolを充てます。それぞれ約0.6倍のレデューサを装填して明るさも十分。
そして、サイトロンジャパンさんからご提供いただいた評価用QBPフィルタで光害対策も万全。
数年ぶりに触るPHDのガイドグラフも順調のようです。
セットアップに実に4時間もかかってしまいましたが、ついに決戦の時がやってきました。
ゆけ『反物質姫』テレサ!
地球を侵略する憎きピリオディックモーションを対消滅の渦に飲み込んでしまえッ!!
★隣接ゴーストはどうか?
シーイングが悪かったことと、QBPとの相性チェックの目的も兼ねて、今回は珍しくバーティノフマスクを使ってピントを探ります。

実はこの時点で、赤とシアンの点が別な光条に分離することを懸念していました。以前も考察ごっこ↓したように、
デュアルナローバンド系のフィルタの場合、色収差がイエローとブルー主体の場合は期待が高く、レッドとシアン主体の場合は相性が悪いのですが、VMC260Lは結構シアンのハロが大目に感じていましたので、少々不安だったのです。ただ、上記のとおり無問題のようです。つまり色収差不適合による色ズレは大きくないと予想されます。
では、いよいよ撮像開始です。
いつもは露出15~30秒ばかり選んでますが、今回は60秒行ってみます。撮像温度はー10度、ゲインは300です。
最大の懸念事項、隣接ゴーストの影響はどうでしょうか?
まずは1コマ撮影して、その様子を探ります。
すると・・・
ででん!!
※ASI294MCP+QBP ー10度 ゲイン300 60秒露光 1コマのみ(ダークフラット無し)
おおお!
変なゴーストは皆無!
QBPの色ズレ軽微!
ガイドミスも大気差より少ないレベル!!
第一段階、クリアッ!!
★オートガイドで何分もつか?
フィルム時代と異なり、デジタル時代には長くても数分から10分程度の露出に止め、コンポジット時に位置合わせするのが主流です。また、この比較的短時間露光である点を逆手にとって、意図的に画像のズレを与えてノイズを『散らして』目立たなくするディザリング法が大人気です。
でも、今回の新兵器『テレサ』の最終目的は「数十分単位の一発撮り」、あるいは多数枚コンポジット時に「位置合わせ不要」とすることです。
その性能の限界を見るため、60秒露光を90コマ連写してみました。
さて、この90分間の追尾精度はどうでしょうか? いつものようにデモザイク(ディベイヤー)した画像を1コマずつ位置合わせをした場合と、デモザイク前のFITSファイルをベイヤー構造を保ったまま位置合わせ無しコンポジットした場合とで比較してみます。
すると・・・
ででん!!
※左:位置合わせ無しコンポジット 右:位置合わせ有りコンポジット
なんとなんと、90分間もの長時間に渡りコンポジット時に位置合わせが全く不要なレベルでの追尾ができていることが実証されてしまいました!!
実はこれは個人的に画期的なことです。
すこし計算してみましょう。
★画像処理がワープ速度に!?
100コマのRAW画像があったとして、最低限の画像処理をするのに必要な処理時間を考えてみましょう。
ここで「最低限」とは、
①ベイヤー画像にダーク減算を行う
②ホット・クール除去フィルタ処理を行う
③デモザイク(ディベイヤー)する
④位置合わせ加算平均コンポジットする
の処理工程とします。
あぷらなーとのCorei-5-6600PC上でステライメージ7を用い、100コマのデータについて上記の処理を行った場合の実測値は、
①:176秒
②:1658秒
③:207秒
④:650秒
の合計2694秒を要しました。
ところが
今回の『テレサ』の導入で、処理工程が大きく変貌します。
①ベイヤー画像のまま位置合わせ無しコンポジットする
②ダーク減算を1回行う
③ホット・クール除去フィルタを1回かける
④デモザイクする
位置合わせコンポジットが不要になったため、上記のようにベイヤー構造を保ったままでコンポジットが可能となったからです。
この場合は、計算コストが劇的に下がり、100コマの画像を処理するのに要する時間は、
なんと合計80秒になってしまうのです。
つまり、同じ露出時間で・同じ100コマを確保した場合でも画像処理の時間が1/33に短縮されるのです。
まるでワープ!
『テレサ』の最大の能力は画像処理戦線におけるワープ能力であったか!!
★かくして
珍妙なアイディアから生まれたネタ同然の邪道兵器『テレサ』は十分実用域に達したらしい。
作例として、ファーストライトで得たM8干潟星雲の写真を載せておこう。
※60秒露光×90コマ
これ、画像のダウンロードから最終仕上げまでの総処理時間は、わずか5分である。
うーん、今回ばかりは目論見が上手く行きすぎて、ちょっと怖いわー。
・・・と思っていたら
ノートパソコンが2台同時に死んだ。
・・・凹んでいたら、
翌日、M51用に撮った数百コマを越えるフラットファイルやフラットダークファイルが全部FITSでなくSer動画になっていた
・・・やっちまったと思っていたら
突然、ASI294MCPのフラット中央部に謎のクールピクセルの大群が写るようになって撮り直し不能
さては、浮かれすぎて『反物質姫』の逆鱗に触れたか?
ごめんテレサ。ちょっと調子にのってたわ。
★★★お約束★★★
①オートガイドは超初心者につき、PHD2の詳細はよく分かりません
②ビームスプリッタは単体では無く、組み合わせる光学系により毒にも薬にもなります。
汎用性の高いパーツではありません。
③宇宙戦艦ヤマトは、オリジナルも実写版もリメイク版も全部ひっくるめて大好きです。