★ネタから出たマコト
安物プレート型ビームスプリッタによる自作オンアキシスガイダー『テレサ』(TELEscope・Stabilize・Assistant)が、ファーストライトでまさかの大成功。
「あ~あ、やっちまったよ。無茶しやがってw」
などというお笑いネタ提供のハズが、俄然「本気モード」にシフトすることになってしまいました。
★ところがどっこい
テンション上がりまくりで、セカンドライトとサードライトを敢行したのは良いのですが、

※VMC260L+純正RD+QBP+ASI294MCP ー10℃ ゲイン300 120sec×64コマ
『テレサ』+ASI1600MC-Cool+PHD2によるオートガイド
位置合わせ無しコンポジット ダーク・フラット補正あり
ん?なんぞこれ!
ファーストライトの時に気がつかなかった点状ゴーストが明瞭に出ているではありませんか。
しかも、本来「丸」の筈の恒星像が「楕円形」に歪んでいます。
本来、順番が逆ですが、当初起こりうる弊害として想定していたプレート内の多重反射によるゴーストと、光軸に対して非対称(傾いている)光学エレメントが挿入されて事による非点収差(?)が、後から発覚したという形となりました。
★いや、ちょっとまて
ファーストライトではほとんど目立っていなかったケースであるため、それ以後加えた変更点を洗い出してみると
①ガイド側にレデューサを追加したか否か
②露出が60秒か120秒か
の2点が主な違いです。
これら2点については、当初出ていないと判断されていたファーストライト時のピント合わせ動画をよく見てみると
このように「最初から出ていた」ことが発覚。どうやら当初の心配が杞憂では無く、本当に的中してしまったようです。
いや、ちょっと待て。こりゃおかしい。
下記はガイド側カメラのライブビュー動画なのですが、ゴースト像が上下2つも出ています。でも、簡易的な作図をしてみると分かるように、本来は片側にしか出ないハズなんです。
もしや・・・・・
一度『テレサ』から心臓部のプレートビームスプリッタを取り出し、表面のホコリを観察してみます。これ、ガイドマーク(どちらが表かを示すマーク)が付けられていないプレートビームスプリッタでは表裏を判別する唯一の(?)方法なんですが・・・・・
※左:裏面(ホコリが2重に写る) 右:表面(ホコリが2重にならない)
げげっ!
表裏逆に取り付けてしまってた!!
たしかに、これならばガイド側カメラのゴーストが上下2つになる理由が説明できます。
★『テレサ』組み直し
というわけで、『テレサ』のビームスプリッタの表と裏を逆になるよう組み直しです。
といっても、構造上スプリッタを固定したマウントを180度回転させてハウジングにセットするだけですから30秒もあれば作業完了です。ついでに、懸案事項だったハウジング内のテカテカ部分に植毛紙を貼り貼りします♪
さて、これらの作業と同時にTwitterのタイムラインには、「ビームスプリッタ・撮像側RD・ガイド側RD」について、それぞれの有無、そしてプレートビームスプリッタの表裏による差などの比較が、『対テレサ検証専用仕様』のBORG45EDによって敢行された結果が垂れ流された訳ですが・・・
結局、昼間の電柱テストでは有意な結果は何も出ず、あらためて天体写真のシビアさを思い知らされることとなります。
★一撃離脱戦法で決死のテスト撮影
さて、『テレサ』の改修工事も完了しその成果を確認したいところですが、あまり天気が良くありません。
しかしGPVによれば1時間だけ晴れ間が訪れるとの予報。このチャンスを活かすべく昼間の内から入念にセットアップします。

一時の晴れ間を突きアライメントやピント出しを行うため、
VMC260Lのファインダーは2本体制に。また、撮像用PCには
どこからでもプレビューが可能なように外部モニターへのミラーリングを用意します。
そして訪れた貴重な晴れ間!
速攻で初期設定を済ませて、スピカでピント合わせと一点アライメントを敢行。
この時点で、スプリッタの表裏を正した状態でも、星像の歪みとゴーストがガイド側のレデューサの有無によらず発生することを確認しました。
(ガイド側のレデューサの凸レンズに反射した光が撮影側カメラへ飛んだ危険性が無いことの確認)
※左:ガイド側カメラにRD有 右:RD無し
さて、このゴースト、プレート型ビームスプリッタが犯人であることは状況証拠から明らかなんですが、念のため計算しておきましょう。
<追記:>Twitter上で、Rambさんから計算ミスのご指摘を頂きましたので図を訂正しました。Rambさんありがとうございました!!光軸上に斜め挿入された平行板で生じるゴーストについては、上記のような初等的な幾何光学でその位置が推測できそうです。

ビームスプリッタの材質に関しては、メーカー公称で「フロートガラス」としか判明しないため、屈折率は1.5と仮定します。
すると上記のように、光軸上の恒星をASI294MCで撮像した場合、その像から約160ピクセルほど離れたところにゴーストが発生する計算になります。

さて、ゴースト像の位置については、上記のように
実測で約105ピクセルと測定されましたので
「オーダーレベルでの一致を見た」と考えて良いでしょう。
もう、これはプレート型ビームスプリッタの宿命。悩んでも仕方ないですね。
では、気を取り直してM101を導入し、メンテ後も「位置合わせコンポジットが可能なレベルのオートガイド」が可能なレベルのままで『テレサ』が生きているかチェックします。

120秒露光を8コマ確保した段階で、GPVの予報通り、全天曇りになりました。ギリギリセーフでなんとか切り抜ける事ができました。
★転んでもタダで起きたとは思いたくない
さて、ビームスプリッタの表裏を正しても、問題は解決しないことが判明した可哀想な『テレサ』。
しかも、夜空は完全に曇天で一面の雲が月光に照らされています。
なんとも中途半端なニワトリ出撃です・・・・・が、
そうだ。アレをやってみよう!
天邪鬼ゆえ、今まで一度も試したことの無かったスカイフラットなる奥義。
いや、一応理由はあるんです。
①拡散板を付けて夜空を撮像するのなら、LEDトレース台とあまり変わらないはず。
(周辺部からの光路長変化と拡散板内部のパスレングス変化の問題)
②拡散板を付けないのであれば、星を消す作業で生じる誤差が不安。
③光害による輝度勾配を取得するのであれば、そもそも除算演算が不能。
(ライトフレームをA、光害フラットをB、真のフラットをCとするなら、適切なフラット補正は、A÷Bではなく、A÷C-B÷Cのハズ)
※あくまでも私見です。安易に信じてはいけません。
しかし、今なら月光により全天の雲が薄明るく照らされているため拡散板無しの無限遠フラットが撮影できるのではないか?
というわけで、『月光曇天フラット』撮影敢行。要するに、PHD2だけ止めて「雲に隠れたM101宙域をそのまま撮影続行する」という作戦です。ほどなく120秒露光×32コマのフラットをゲット。早速今回撮像したM101に当ててみます。
すると・・・
ででん!
※左:フラット無し 右:LEDフラット有り
※左:LEDフラット有り 右:月光曇天フラット有り
うわー。
こ、コイツ・・・効くぞ!
やはり、「無限遠方にフラット光源がある」場合は、それを使うのが賢い、ということですなぁ。
うーむ。あぷらなーと邪道流・LEDトレース台フラットの術、完敗。
ふっ、
認めたくないものだな。自分自身の天邪鬼ゆえの過ちというものを。
★で、『テレサ』はどうなったのだ?
いやね、とんと記憶に無いのだけれど、いつの間にか「反射率:透過率=70:30」という真逆仕様のビームスプリッタがカートに入っていたんだ。
おかしいなあ。・・・Twitter上で悩んでいたら、「スタンド攻撃により時間が飛ばされたのではないか」との有力なリプを得た。
なるほど、スタンド攻撃なら仕方ない♪
★★★お約束★★★
①あぷらなーとは光学の素人のため、各種テストとその考察は全て『ごっこ遊び』に過ぎません。
②プレート型ビームスプリッタの像悪化に関しては、今後「反射:透過=70:30」仕様のスプリッタに換装して再検証予定です。
なお、この場合は、反射側で撮像、透過側でガイドをさせることになります。
③今使用しているスプリッタは面精度が4~5λ(何度も言いますが、分の1ではなく、ママ)のため、反射面を用いることで波面が荒れる危険性があります。
酔狂な方も、まだマネをしてはなりません。危険がいっぱいです。
④ビームスプリッタを用いた自作オンアキシスガイダーは、決してコスパの高い物ではありません。
あぷらなーとが自作した例だと(カメラやレデューサを除き)小型のEDアポ1本分くらいのパーツ代にはなります。
⑤本来は、各種の不具合を避けるために、プレート型ビームスプリッタではなくペリクル型ビームスプリッタを用いるべきです。
ただし、サランラップのようにペラペラのペリクルをどのように安定した平面として保持するかを解決しないと実用には至らないと考えます。
⑥LEDトレース台によるフラットが合わない件については、フラット撮影時にカメラの回転角が90度ズレた可能性が浮上しています。
※途中で雨に降られてパニクっていたため
<0510追記>
やはり上記の⑥の予感が当たっていたようです。
再度LEDフラットのみ撮り直してみると、月光曇天フラットと顕著な差はありませんでした。
※上:月光曇天フラット 下:LEDトレース台フラット