★邪の道はHeavy
先日来取り組んでいる「コンポジット時に位置合わせが不要になるほどの高精度ガイド」を実現するオンアキシスガイダー『テレサ』の開発ごっこですが、非点収差の発生やらゴーストの発生やらで色々と難儀。
結局、透過面よりも反射面を撮像に用いた方が良い像になるのでは無いかと考えて、「反射:透過=70:30仕様」のプレート型ビームスプリッタを新たにポチって換装してみることにしました。
ええ、『テレサ改』開発プロジェクト発動です。
★新スプリッタ開封の儀

新スプリッタの入手先は、いつもお世話になっているエドモンド・オプティクス・ジャパンさん。ヨダレが出るほど多彩な光学パーツを個人相手にも1個から販売してくれる貴重な存在で、これまでもキューブ型ビームスプリッタや回折格子や各種ハウジングなどを入手するときに利用させてもらってます♪

前回失敗した教訓を元に、
ハウジングにセットする前にホコリの反射像をよく観察して表裏を判定します。(ホコリが二重に写る方が裏面)干渉フィルタの場合は表裏どちらでも問題無いとされていますが、ビームスプリッタの場合は透過率に若干の差が出ることと、
反射面で生じるゴーストの数が2倍になってしまうという不具合がありますので、表裏判定は重要ですね。
★オンアキシスガイダー『テレサ改』

ハウジングのガイド側と撮像側のパーツを逆にし、いよいよビームスプリッタをフェードイン!!
前回マウントに取り付けた「取っ手」が良い仕事してくれます♪

あっという間に『テレサ改』が完成です!!
★実写の前にテストを・・・
いきなり天体を実写して失敗するとダメージが大きいので、今回は実戦投入の前に人工星でテストを行うことにしました。
BORG45EDを対物レンズにして、人工星テスターで非点収差の様子とゴーストの様子を観察します。
ちなみに『テレサ初号機』を用いた考察ごっこでは、
①ゴーストの原因はスプリッタ内の多重反射
②非点収差の原因は光軸に対する光学エレメントの非対称性
だと推測されましたので、今回は反射側を撮像用途にする仕様です。理論的には透過面ではなく反射面なら45度傾けていても非点収差が発生しないハズだからです。(これで非点収差が発生するなら、世の中のニュートン斜鏡や天頂ミラーなどは全てアウトです)
テスト前の予想としては
①撮像側の非点収差は解消されるだろう
②撮像側のゴーストは悪化するかもしれない
というものです。
さて、うまく行くでしょうか??
すると・・・・
でで・・ん?
※左:初号機 右:改造後
か、改造前よりもひでぶッ
こ、こんなハズでは・・・。
いや落ち着け。すでに1ヶ月近くプレート型ビームスプリッタと戦っている身だ。知恵を絞れ!!
ええと、考えられる要因は・・・
①スプリッタの表裏をまた間違えた
②対物レンズが悪さをしている
③カメラの撮像センサーが悪さをしている
④重力の影響でスプリッタ面が歪んだ
⑤人工星ピンホールが悪さをしている
⑥スプリッタを固定した際にテンションをかけ過ぎて歪んだ
⑦反射面の精度が悪い
笑止!!
片っ端から検証ごっこしてくれるわ!!
★要因①の検証ごっこ

反射面を撮像用途に用いる場合、上記のようにゴースト像の挙動を調べると表裏が判定できます。
今回はスプリッタ保持部に取っ手を取り付けたのでワンタッチで表裏を逆に変えられます。早速やってみましょう。

はい。左が裏面で右が表面ですね。(第1ゴーストが出る方向と第2ゴーストの有無で判定)
やはり、表裏をミスるとゴーストが酷いことになりますね。
しかし!!
非点収差はむしろ表面の方が酷くないか??
とりあえず、表裏ミスの線は消えたな・・・。
★要因②③④の検証ごっこ
これは簡単です。こういうこともあろうかと、『テレサ』には各所に回転装置を組み込んであるのだッ!!
まず、対物レンズのみを回転させながら像が変化するか観察。
次に、カメラのみを回転させながら像が変化するか観察。
そして、『テレサ』丸ごとを回転させながら像が変化するか観察。
すると・・・
むう。全部シロか・・・・・。
★要因⑤の検証ごっこ
ま、回折像を見る場合には、そもそも「人工星のピンホールが真円である」ことを前提にしてますので、ホコリとか錆びとかの影響でピンホールが歪んでいたら、アウトです。
そこで、人工星のピンホール径を「50μmと250μmのツイン」でテストしてみます。
※左:焦点内像 右:焦点外像(人工星ピンホールは50μmと250μmの2穴)
ああ、ピンホール径に依存せず、非点収差のお手本のような焦点内外像。
この線も無しか・・・。
★要因⑥の検証ごっこ
ま、厚さが1mmしかないスプリッタですからね、マウント部の締め付けが強すぎると歪んでしまう可能性があります。

『テレサ』のスプリッタ保持マウントは、そのテンションを自在に調整できる仕様なので
「脱落しないギリギリのゆるゆるテンション」に調整してみます。
すると・・・・
ああ、なにも変わらない・・・・orz
★ということは・・・・まさか
残る犯人は、「面精度不足」です。
しかし、面精度が不足したために非点収差が出るなんて話は聞いたことがありません。
・・・いや、まてよ。
「面が荒れている」というレベルでは無くて、そもそも「平面になってない」という状態だったら、45度傾斜したエレメントは光軸に対して非対称になるではないですか!!
よし、こうなったら光線追跡でシミュレーションするしかない!
★対物レンズの設計ごっこ
今回はテスト用対物レンズとしてBORG45EDⅡを用いたので、光線追跡シミュレーションを行うために、『それっぽい』対物レンズを設計するところからスタートです。

まずは、EXCELで作った自動設計シートに、FK01(FPL51系のED)と適当なフリントガラスの諸元をぶち込んでハルチング解を求めます。ここで得た設計値を愛用の光線追跡ソフトLensCalに入力して、ベンディングをするという作戦です。

そもそもハルチング解はアクロマート設計用の便法なので、EDアポだと上記のように球面収差が酷くなります。
そこで、全体的な諸元(口径とか焦点距離とか)を変えないように各エレメントの曲率を微調整(ベンディング)すると・・・・

おお、なかなか良い感じになりました。無意識のうちにC線とF線が入射高70%でクロスする「RGBではなくデュアルバンドナロー向き」のテイストになっちゃったのはご愛敬(こんなEDアポがあれば即ポチですね、ははは)。ま、今回はBORG45EDⅡの仕様を推定する遊びではないので、コレで良しとします。そもそも『テレサ』にはQBPやNB1を用いますしね。
★45度傾斜ミラーのシミュレーション
まずは、面精度が完璧な平面鏡を光路中に挿入した場合を光線追跡してみます。
本来これが『テレサ改』で目論んだスペックですね。

当たり前ですが、
非点収差は発生しません(笑)
★もしもスプリッタ表面が『球面』なら?
次に、この45度傾斜ミラーの表面がごく緩い球面になっていたらどうなるのかをシミュレーションしてみましょう。
想定した曲率半径は100mです。そもそも今回用いたビームスプリッタのメーカー公称面精度は6~8λなので、ザックリ言ってこれくらいの曲率を持っていても『仕様範囲内』です。
すると・・・
ででん!!
で、出たー!!非点収差じゃあーッ!!
しかも歪み方が実写とよく似てるぞ!?
では、仕上げとして、波動光学的シミュレーションによる像と実写テスト像を比較してみましょう。
※左:シミュレーション 右:実写像
ちなみに像面の拡大率も揃えていますので、ほぼ完璧にシミュレーションと一致したことになります。
要するに、メーカー公称値とオーダーレベルで一致する程度の緩い曲面を有している個体の場合は、このように反射面で撮像すると盛大な非点収差が出るということが判明したことになります。
★面白くなってきた
たいていは、新しいパーツを作ってその性能が悪いと落胆するものなんですが、もともと『邪悪な遊び』と割り切っているあぷらなーとの場合は、困ったことに、こういう本題から逸れた成果も大好物なんです。だって、素でこんなことやる奇特な方は少ないでしょうから・・・ネタ的にも面白いでしょ?
では、このスプリッタ表面の歪み(面精度)を目視で確認するために、アレを行ってみましょうか。
ええ、ニュートンリングの観察です!!

今回は「オーダーレベルでメーカー公称面精度を検証ごっこする」のが目的ですので、平面原器が無くても平気です。手持ちのスプリッタ2枚を重ねて、そこにニュートンリングが観察できるかどうかを試みます。
本来ニュートンリングの観察のためには(効率よく干渉させるために)単色光が有利です。一応白色連続スペクトルのLEDトレース台で観察してみたのですがニュートンリングは視認できませんでした。そこで輝線スペクトル成分が多い蛍光灯型のライトボックス(懐かしのポジチェック用アイテム)を光源としました。
撮影はニコンD7000+マイクロ40mmF2.8Gで行い、それをベイヤーのまま10枚コンポジットしてからデモザイクし、デジタル現像で濃淡を見やすく画像処理してみました。
すると・・・・
ででん!!
出たー。美しいニュートンリングだ!!

ちなみに、ニュートンリングの中心からの距離をr、暗環数をm、波長をλとすると、推定される曲率半径Rは
R = r^2 / mλ
となりますので、波長を550nmと仮定した場合の曲率半径はおよそ77mということになります。
また、このビームスプリッタはTマウントで使用することを想定した仕様なので、半径約20mm周辺での平面からのズレを見積もると14λ程度となり、面精度を平面からのズレの真ん中と解釈しても、その精度は7λとなりますので、メーカー公称精度の4~6λという値は充分に出ている計算になります。もっとも、2枚のスプリッタそれぞれの誤差が重なったものを見ていることになるので、あくまでもオーダーレベルの見積もりごっこに過ぎませんが、悪くない結果です。

ちなみに、2枚のスプリッタの相対角度を変えてみると、上記の用にニュートンリングの形状が変化します。全体としての『縦縞傾向』が維持されているということは、上に乗せたスプリッタ1号よりも下に敷いたスプリッタ2号の方が面精度が悪いであろうことが予想されます。
★結局どうするの?
いろいろと考察ごっこした結果、
①撮像は反射側ではなく、透過側で行った方が良さそう
②スプリッタの精度は初号機の方が優秀そう
という2点に加え、
ビームスプリッタから撮像チップまでのバックフォーカスを短縮すると、下記のように劇的に像がシャープになる事が予想されました。
※左:バックフォーカス100mm(現状機) 右:バックフォーカス40mm
したがって、非点収差による像の乱れは
『テレサ初号機』のバックフォーカスを詰める
ことで、なんとか実用域に達しそうです。ゴーストに関しては、輝星の近傍にのみ点像で生じるだけなので、その挙動を解析すれば演算処理で軽減することも、撮影の前後でスプリッタを180度回転させて比較暗コンポジットすることも可能かも知れません。
というわけで・・・・
まだ終わらんよ。
★★★お約束★★★
①あくまで遊びです。ビームスプリッタの精度を検証する目的ではありません。
②シミュレーション、解析ともに、正しい結果である保証は全くありません。
③プレート型ではなく、より高性能のキューブ型ビームスプリッタはすでに運用中です。非点収差もゴーストも出ません。
④現有のキューブ型ビームスプリッタでオンアキシスガイダーを構築すると、下記の不具合があります。
・仕様上レデューサが使えない
・光量損失が50%になる
・上記2点を回避する仕様のビームスプリッタだと市販のハウジングが存在しない