ソフトウェアレビュー

ステライメージ9がやってきたよ!

★いまさら浮気できない?
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ええと・・・皆さんの中にはいらっしゃいませんか?
いまだにWordよりも一太郎じゃなきゃ嫌とか、せめてFEPだけはATOKを・・・とかのコダワリをお持ちの方。

あぷらなーとの場合は、1つのアプリや環境に慣れるのにとても時間がかかるので、苦労して一度慣れた環境からは離れたくないんですよねぇ。
思えば、人生初の冷却CCDカメラ:ビットランのBJ30C(たった30万画素で30諭吉くらいしたっけなぁ)を入手したのが1998年の頃。
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コイツを「ペルチェ冷却+水冷ポンプ」でガンガンに冷やして星雲や銀河を撮り始めるにあたり、ステライメージ2を購入しました。
途中でしばらく天文界から離脱していたブランクはあるのですが、ステライメージ6の頃からデジタル一眼や冷却CMOSカメラで天文熱が再燃。
以来、メインの処理ソフトはずっとステライメージ一本槍です。思えば22年間もステライメージを愛用してきた事になります。
だから、よほどのことが無い限り他のアプリには浮気しません。

・・・・で、上記の写真の通り、念願の最新バージョン「ステライメージ9」が到着しました!!


★なぜSI8が無いの?
実は、ステライメージ6.5から7へバージョンアップした際に非常にショッキングな出来事があったため、泣く泣く8は見送ったんです。
今だからこそ声を大にして言えます。SI7は基本的な画像処理があまりにも遅すぎて、全く使い物にならなかったんです。
例えば、Core-i5 6600+メモリ16GBのデスクトップPCでASI294MMの画像200コマを基準星で位置合わせして加算平均コンポジットしたとします。(ホットクール除去フィルタとかシグマクリップとかは一切無しの素の処理です)

SI6.5では総処理時間がたった37秒で完了するのでネット界でささやかれる「ステライメージでコンポジットすると時間がかかる」という声を理解できませんでした。ところが(D810AのRAWファイルを読むために)SI7を購入してみてビックリ仰天。
コンポジットの根本的なアルゴリズムがまるで異なるために、SI6.5でたった37秒の処理がSI7だと690秒もかかってしまうではないですか!!
素人なりに邪推すると、その根本的原因はコンポジットそのものの処理順序にあるのでは?と思っています。

たとえば、SI6.5で位置合わせコンポジットする際の最速方法は下記の手順です。

①対象画像のうち最も早い時刻に撮影した1コマを開く
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②基準星を指定する
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③バッチ→コンポジットを選択する
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④時系列順(重要)に全ファイルを「ファイルから追加」する
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⑤パラメータを設定する
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 ※ここで重要なのは、探索範囲なるパラメータの解釈です。
 色々と実験してみた結果、この値は全コマの最大ズレ幅ではなく各コマ間の最大ズレ幅であることが判明しました。
 ですから、ファイルを指定するときに時系列順に並んでいないと画像をロストして位置合わせが失敗します。

⑥「OK」を押し出力画像名を指定する
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⑦「OK」を押せばおしまい♪
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これで、あっという間にコンポジットが完了します。
SI7やSI8を愛用の方はお気づきかと思いますが、上記の作業工程には「全画像を開く」という作業がありません
つまり、全画像をロードしたように見えて、実際には「基準画像1枚」「次に重ねる画像1枚」「合成先画像1枚」の合計3コマ分しか展開されていません
そもそも「アクティブ画像から指定」というパラメータは「今開いている1枚を基準にして次の画像の基準点を次々とサーチする」という意味ですから当然です。
結果として、たとえ何百枚コンポジットしようとも実際に消費されるメモリは3コマ分に過ぎません。言い換えると、SI6.5の加算平均コンポジットでは1コマを加算する毎にメモリを解放し、次の画像をロードするということを繰り返していると推測されます。恐らくSI6.5が爆速な理由がココにあります。

ところが、SI7を触ってみて仰天しました。

SI6.5の時とほぼ同様の操作をしたハズなのに・・・・・
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いざコレを実行すると・・・・
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このように叱られて先に進めません

結局、SI7でSI6.5と同等の処理結果を得たければ
①コンポジット対象の画像を全コマ開く
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 ※ここでメモリが枯渇すると落ちます。この時点で十分なメモリを積むかSSDなどの高速デバイス上にスワップファイルを設置しないと進めません

②撮影時刻が最も早いコマを選択し、基準点を指定する
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③バッチ→コンポジットを選択する
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もし、事前にパラメータが適切に設定されていればこの時点で勝手に全コマの位置合わせが終わっています。位置合わせができていない場合は、下記のように位置合わせの「詳細」ボタンを押して・・・
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「アクティブ画像から指定」にチェックを入れてから「OK」で抜け、「位置合わせ実行」を押すと全コマの位置合わせが終わります。
※もしこの時点でメモリが枯渇してスワップが発生している場合は、この位置合わせの処理に相当な時間がかかります

④コンポジットを実行する
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これで完了です。
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まあ、コンポジットの後で大量の残骸画像をポチポチ閉じるか、コンポジット画像を保存してから一度SIを終了させる必要があるのはご愛敬として、問題はメモリの枯渇による処理速度の低下です。

実はこの不具合がSI8で解消されていることを期待していたのですが、ネット上の情報を見る限りSI7と似たようなアルゴリズムのようだったので、SI8へのバージョンアップは泣く泣く見送ったという訳です。


★SI9は救世主たりえるか??

さて、12月21日に新発売されたステライメージ9は、アストロアーツさんが「速度向上」を謳っているだけあって、期待が高まります。

公称では、特にマルチコアなどへの適応力が増したことで高速化されたようですが、個人的に最も興味があったのは、前述のメモリ消費量の改善がなされているかどうかです。

早速、コンポジット速度がどうなったのかを見てみましょう。

①まずは1コマだけ開いて基準点を指定してみる
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②バッチ→コンポジットを実行してみる
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③詳細→パラメータを設定する
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④残りの画像を指定する
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さて問題はここからです。

⑤位置合わせを実行する
では、ダメ元で「位置合わせ実行」を押してみます。
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すると・・・・・

ででん!!
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おおおおお!?
SI7とインターフェースが変わったように見えないのに、ちゃんと位置合わせができるじゃないか!!

⑥コンポジットを実行する
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できた!!
位置合わせ時に全画像を開く必要が無かったので、SI7のように「コンポジット後に残骸画像をポチポチ閉じる」などというギャグのような操作は不要です。

少し挙動は異なるものの、この雰囲気はSI7よりもSI6.5に近い印象です。
当然、かなり高速です!


★色々な条件で速度比較してみる
<共通条件>
ASI294MM-Proで撮影したFITS画像200コマを位置合わせ加算平均コンポジットする。
ホットクール除去フィルタやシグマクリップなどは一切行わない。

<ケース1>
CPU:Core -i5 6600(4コア4スレッド)
メモリ:16GB
デ-タ:SSD上
スワップファイル:SSD上に16GB確保

SI6.5の処理時間:37秒
SI7の処理時間:690秒
SI9の処理時間:79秒

メモリの枯渇が解消されたことにより、SI7の約9倍という素晴らしい速度です。
さすがに『神バージョン』6.5には及びませんが、この速度なら充分です!!


<ケース2>
CPU:Ryzen7 3700X(8コア16スレッド)
メモリ:96GB
デ-タ:SSD上
スワップファイル:SSD上に96GB確保

SI6.5の処理時間:43秒
SI7の処理時間:88秒
SI9の処理時間:33秒

ここで注目すべきは下記の2点です。
①メモリを96GBも積んだためスワップが解消し、SI7も相当に高速化された。
②メモリが充分足りている条件下ではSI9本来のマルチコア特性が活かされ、SI6.5よりも高速になる。


<ケース3>
CPU:Core-i5-7200U(2コア4スレッド)
メモリ:8GB
デ-タ:SSD上
スワップファイル:SSD上に16GB確保

SI6.5の処理時間:73秒
SI7の処理時間:1292秒
SI9の処理時間:146秒

メモリが8GBしか無いため、SI7もSI9の双方でメモリが枯渇しスワップが発生しましたが、SI9の方が消費量が少ないためSI7の約9倍高速化されました。


★まとめ
①SI9の位置合わせコンポジットのアルゴリズムはSI6.5とSI7の中間的な挙動を示す
②メモリが少ないPCだとSI9のコンポジットはSI7の約9倍速い
③メモリが潤沢でCPUも優秀なPCだとSI9のコンポジットはSI6.5よりも高速になる
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メモリが少なめのPCをお使いの方で、SI7や8のコンポジットが遅いとお嘆きの方は、SI9を検討する価値がありそうですね。


★★★おまけ★★★
色々と触ってみて挙動を調べて見た結果、SI7もSI9も、その内部にコッソリ『SI6.5と同等のコンポジット処理ルーチン』が眠っている(らしい)ことを見つけました。
実は、通常のコンポジットではなく「比較明コンポジット」のメニューの中身とその挙動が『まるでSI6.5』なのです。
当然、比較明コンポジット用のメニューですから加算平均コンポジットなどは不能です。
しかし・・・・・
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もしも、上の図のメニューの中に「加算平均」を復活させるパッチが出たら、たとえ有料でも買うんですけれどねぇ・・・・惜しい。


Commented by kem2017 at 2020-12-27 02:11
SI6.5って優秀だったんですね...
SI7は、それを捨てて別ロジックにしたってのを池井戸潤が小説にすると面白いことになりそうです。
(なんだそれ)
Commented by のんた at 2020-12-27 09:14
あぷらなーとさん、お久しぶりです。
今更浮気できない....気持ちよく分かります。
でも今回のSi9は今のところ見送り状態です。今年PixInsightを購入したこともありますが、コンポジットの正確性、ディストーション補正が優れているので、ピント位置の異なるフィルターでの撮影ではPIでないと周辺部が合わないんです。でもまだ慣れていないのでたまにSi8の助けが必要なのでSi9はどうしようか迷っています。バージョンアップなら12000円程度で買えるしなぁ...って。次バージョンのSi10だと16000円になるしなあ...悩みは尽きません。
 ところで、バッチコンポジットですが、今まで全画像を開いて全画像に対してポチポチと基準星を選択していました。えー、そんなやり方知らなかったと今更ながらびっくりです。10枚程度なら良いのですが20-30枚となるとポチポチするだけでいやになります。 良いこと教えて頂きありがとうございます。
Si9どうするかもう少し迷ってみます。
Commented by supernova1987a at 2020-12-27 10:16
> kem2017さん
いまだにSI6.5から離れられなかった理由がそれですね。SI7を入手するまで「コンポジットが遅すぎて終わらねぇ!」と苦しまれている方をお見かけしても「え?コンポジットなんてすぐ終わるだろ??」と不思議に思っていました。SI7を入手してから「うわー、皆さんコレで苦しんでいたのか!」とビックリ。でもSI9でかなり改善されましたね♪

なぜSI7からSI6.5方式のロジックを捨てたのか、小説で読んでみたいものです(笑)
Commented by supernova1987a at 2020-12-27 10:23
> のんたさん
各バージョンのSIのコンポジット手順はあくまで自己流なので、コレが最善なのかどうかは自信がありません。ただ、全画像を開いてポチポチ指定はしんどいでしょうから、お役に立てて幸いです。

ちなみに、異なるフィルタで撮影した画像の周辺部をSIで位置合わせする方法も見つけてはいるのですが結構ややこしいので、この辺りは全部自作のプログラムでやっつけようと企んでいます。PI行けば一気に解決しそうですが、天邪鬼キャラなので♪
Commented by にゃあ at 2020-12-27 13:27
ステライメージって、20年以上の歴史があるんですね! パッケージングの移り変わりも興味深いです。浮動小数点演算が実装されたことを売り物にしていたり、フロッピーディスクで供給されていたとか言うカキコ(死語)もネットに見つけました。6.5でもUIが昔っぽくて素敵です。それを捨てずに持ってらっしゃるあぷらなーとさんが凄すぎて!
Commented by UTO at 2020-12-27 14:17
FEP FrontEndProcessorでしたっけ。懐かしス・・。IMEってなんの略か判らないくせに昔のこういう単語は案外覚えてるモノなんですねえ、、(それだけ真面目にやってたのかもしれません ^^;)
ATOKも一太郎dashからの付き合いでしたが、一太郎8買ったのが最後だったかなあ、、これももう前世紀ですね。
BJ30Cも懐かしいですね。1画素=1諭吉が当たり前でしたものね。ST8なんて150万円コースだったことを考えると、今、ToupCamとかARO130カラーカメラが1~2万円程度で買えちゃうなんて隔世の感があります。

ステライメージ、、「ファイルから追加」知りませんでした Σ(゚д゚|||)ガーン
Ver6.5でも全部画像開いてから使ってました、、、、。

・撮影時刻が最も早いコマを選択し、基準点を指定する

これですが、SI7だと撮影時刻が最も早いコマを探さないと駄目なんですが、SI6くらいまではアクティブ画像から指定でどの時刻でも上手くいった気がするんですよね。
SI8でもアストロアーツさんに問い合わせて、UpDateで対応していただいたと思いましたが、どうだったかなぁ・・。
ラッキーイメージングとかだと案外このアクティブ画像から指定モードが便利で重宝しています。が、多数枚あるだけに、ますます、「ファイルから追加」があると便利ですね。
ううむ、こりゃ、真面目にSI6.5インストールしてみようかな・・。
Commented by supernova1987a at 2020-12-27 16:23
> にゃあさん
いやー、皆さんのように次々と新しい物に乗り換えるのが苦手でして・・・。
特にSI6.5のような神バージョンに出会うと、ずっと愛用してしまいます。
でも、SI9なら乗換ても良いなぁと思いました。

※バッチ処理した画像が保存できないバグを見つけたときは青ざめましたが、すでにアップデータが出てました。
Commented by supernova1987a at 2020-12-27 16:38
> UTOさん
おお、一太郎Dashとは懐かしい!
私は一太郎4(生まれて初めて買ったアプリ)の時代からATOKに慣れてたので、今でもPCやタブレットにはATOKを入れてます。

コンポジット時の読ませ順なんですが、SI6.5でたまたま位置合わせに失敗する時があって、色々と調べるうちに時系列とロード順序が狂っててコマ間のズレギャップが大きいときにロストしていることを確かめました。もちろん、ファイルから追加でバッチ処理した場合のケースです。
このあたりの仕様はマニュアル読んでもよく分からない事が多いので実験あるのみですね。

とにかくSI6.5は一番オススメのバージョンです。(デコンボリューションなどの高度な処理は安定性がアレなんですが、コンポジットのルーチンは枯れた感じで良いです)

※蛇足ですが、SI6.5をガンガン使う場合は、時々キャッシュ(スワップ)をクリアした方が吉かもです。
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by supernova1987a | 2020-12-26 21:01 | ソフトウェアレビュー | Comments(8)

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