解析ごっこ・検証ごっこ

「補足の補足?」①

★前回で完結したハズの・・・・

サイトロンジャパンさんのCP+2021オンラインセミナー「アクロマートで星雲を撮る」に関する画像処理上の基本的説明は、前回の「補足⑤」で一応完了したのですが、


自分で読み返してみていくつか追加説明が必要そうだなぁと感じました。

①30秒露光とはいえ、100コマ以上のコンポジットに意味があるのか
②ダークファイルは本当にライトフレームと同等数必要なのか
③カラーカメラだけでLRGB合成ってどうよ?

あーあ、初心者向けの基本的(ガチ系の方が見ると、そんな単純な処理じゃダメだろ?的な)画像処理に止めるつもりだったのに、少し深い話になっちゃいました。


★今回の補足テーマは・・・・
①30秒露光とはいえ、100コマ以上のコンポジットに意味があるのか
です。

光子ショットノイズを退治するために一般的な画像処理は加算平均コンポジットです。
光子ショットノイズは統計学的に露光時間の平方根に反比例するとされています。つまり撮影対象の明るさを揃えた条件下で露出時間をN倍するとショットイズは 1/√N に減少するいうことです。少々ややこしい話になってしまいますが、このノイズ低減の本質は「露光時間を伸ばすことによるノイズの増え方よりも写った対象の明るさの増え方の方が大きい」ことにあります。具体的には露出時間をN倍するとショットノイズは√N倍に「増える」のですが、対象の明るさはN倍になるため、あとで同じ明るさの絵になるように調整(加算『平均』)すると、ショットノイズが差し引き1/√N に減少したように見えるだけです。つまり、減少したのはノイズ自身ではなくシグナルに対するノイズの比です。結局、長時間露光した際に改善するのはノイズではなくS/N比なのですが、これを一般的には便宜上『ノイズが減った』と表現します。

さて、加算平均コンポジットの目標は「枚数を増やすこと」ではなくて「総露光時間を増やすこと」です。
要するに、天体からパラパラ飛んでくる光子がまばらに写ってしまったのが光子ショットノイズなので、露光時間を長くすることでセンサーを十分な数の光子が埋め尽くすまでためる必要があるのですが、実際は光量がオーバーして真っ白けになったり追尾エラーで星が流れたりするので、仕方なく露出を短くした上で枚数を稼ぐわけですね。

実際にコンポジット枚数を変えて、ノイズ量を実測してみると
「補足の補足?」①_f0346040_17044514.jpg
このように、ほぼ理論通りの結果が得られました。


とはいえ、問題は、画像を鑑賞している人間の目にもそう写るかですね。
では、今回の題材(BKP150750+QBP+ASI294MCP 30秒露光の網状星雲)についてコンポジット枚数を変えて観察してみましょう


★コンポジット枚数と画像の変化
撮影の条件と基本的な画像処理は、下記の記事を参照してください。

ただし、純粋に光子ショットノイズの変化を実感しやすいように、ダークフレームを480コマ用いてダークノイズの固定成分とバイアスノイズの固定成分はあらかじめ排除してあります。また、評価がややこしくなるのでフラット補正は行っていません。

では、網状星雲のなかでも個人的に大好きな領域↓について観察してみます。
「補足の補足?」①_f0346040_17204638.jpg
<1コマのみ>
「補足の補足?」①_f0346040_17261035.jpg
<2コマコンポジット>
「補足の補足?」①_f0346040_17263059.jpg
<4コマコンポジット>
「補足の補足?」①_f0346040_17264370.jpg
<8コマコンポジット>
「補足の補足?」①_f0346040_17265636.jpg
<16コマコンポジット>
「補足の補足?」①_f0346040_17271153.jpg
<32コマコンポジット>
「補足の補足?」①_f0346040_17302347.jpg

<64コマコンポジット>
「補足の補足?」①_f0346040_17275038.jpg
<128コマコンポジット>
「補足の補足?」①_f0346040_17280348.jpg
<256コマコンポジット>
「補足の補足?」①_f0346040_17281545.jpg
コンポジット枚数を増やすごとに、画像がどんどん滑らかになっていく様子が分かりますね。


★128コマあたりで頭打ちでは??
網状星雲は比較的明るい星雲で、特にQBPやNB1などのデュアルナローバンド系フィルタと相性が抜群(HαもOⅢも明るい)なため、ある程度の枚数でもう十分のようにも見えます。具体的には128コマコンポジットあたりです。

例えば、上記よりもさらに狭い下記のエリアで比較してみると
「補足の補足?」①_f0346040_17404768.jpg
「補足の補足?」①_f0346040_09144210.jpg
※左から順に1・2・4・8・16・32・64・128・256コマ
次のように、一見128コマコンポジット像と256コマコンポジット像の差が分かりません
「補足の補足?」①_f0346040_17424723.jpg
 ※左:128コマ 右:256コマ

実は「この先」があって、あぷらなーとは本来月面や惑星専用とされるアプリ:レジスタックスのウェーブレット処理を星雲に施して解像感を飛躍的に向上させるのが得意です。ところが、このウェーブレット処理は少しでもショットノイズが残っているとそれが原因で像が乱れます

では、上記の画像2つにウェーブレット処理を施して比較してみましょう。
「補足の補足?」①_f0346040_17481712.jpg
 ※左:128コマ 右:256コマ

このように、(最大エントロピー法やルーシーリチャードソン法などの)デコンボリューションが効かないほどシャープに写っている画像ですら、十二分なコンポジット枚数を確保することでウェーブレット処理が効果的に働くことが分かります。上記の例で見る限り128コマと256コマの差は明らかで、欲を言えば256コマでもまだまだノイジーであると言えますね。



★次回は・・・・
②ダークファイルは本当にライトフレームと同等数必要なのか
についてお話しします。

つづく


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by supernova1987a | 2021-03-29 17:55 | 解析ごっこ・検証ごっこ | Comments(0)

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