機材レビュー

新機材が生えてきた②

★またアクロマート?
前回は先日ポチった機材の中からNeptune-CⅡカメラについてのファーストインプレッションを書いたのですが

今回は、一緒に到着したSky-Watcherの80mmF5アクロマートStarQuest80についてのファーストインプレッションについてお話ししてみます。

この機種は、1諭吉強という激安望遠鏡で、発売以来「いつポチろうか」と長らく悩んでいたブツです。
一般的にはアクロマート屈折はお気軽観望用として人気があるようですが、あぷらなーとは天邪鬼なので、「それ以上」の活用方法を模索するのが楽しみなのです。

以前、CP+2021のサイトロンジャパンさんのオンラインセミナーでお話ししたとおり

ある種のアクロマート(C線とF線について色消しの古典的設計によるアクロマート)の場合、QBPやNB1などのデュアルナローバンド系フィルタの併用によって星雲撮影用の高性能な撮影鏡に「化け」ますし、そうでなくても、シングルナローバンドで多連装化すればフォトコン入選レベルを狙える機材に変身する可能性があります。ただし、そのどちらが有効か、あるいは両方に活用できるかは実際に試してみるまで分かりません。
また、もし鏡筒を強化(接眼部換装や鏡筒バンド交換など)する必要に迫られた場合は、ある程度の汎用性(市販のパーツが転用できるかどうか)が求められるため、なかなか決心できなかったというわけです。

★開封の儀
では、さっそく開封の儀を執り行いましょう。
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はやる気持ちを抑え、プチプチに包まれたご神体を慎重に取り出します。
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格安機なのに、思ったよりもしっかりとした作りです。
また、少々チープではあるものの、天頂ミラーやドットサイトファインダー、そして2本のアイピースが付属しています。そして鏡筒にはあらかじめビクセン規格のアリ型レールが固定されています。

なかなか豪勢です。

★全体的な質感
別に金属信仰が強いわけではないのですが、なんとなくプラスチック部品が多いと不安にはなります。

さて、鏡筒の材質としては
フード・鏡筒・接眼部が金属製で、対物セルがプラスチック製でした。

詳細に見てみると上手にコストダウンがなされている様子が分かります。

フードはねじ込みではなくかぶせ式ですが、某望遠鏡のように接着剤で対物セルにくっつけてあって外すのに難儀したり、逆に、別な某望遠鏡のようにスカスカで設営中にポロリと脱落したりの不具合はありません。
その秘密は(私自身、ユルユルのフードを固定するのによく使う手ですが)対物セルとフードの間に噛ませてある「植毛紙状のなにか」で、これでテンションを与える仕組みです。
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対物セルの内側はつや消し無しのピカピカですが、フードの内側はボコボコとした微少な凹凸を伴うつや消しで、なかなか良い感じ。また、対物セル内のピカピカは鏡筒内の遮光リングで殆どカットされており、実害は少なそうです。

接眼部はケンコーのSE120やSE102あるいはSky-WatcherのBK150750などの兄貴分のものとそっくりな構造で、これをちょうど小型にしたような印象でした。
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※左:StarQuest80 右:SE120

ちなみに(個体差かもしれませんが)SE102の接眼部は鏡筒とのクリアランスが相当にタイトな上に接合面が粗っぽく削られているので慎重に分解しないと噛んでしまって取れなくなる弱点がありますが、StarQuest80では接合面まで塗装されている上に若干ゆるめのクリアランスなので着脱が容易です。

ラックピニオン合焦部の構造は、なかなか巧みで、ラックピニオンのギアレールにテンションを掛けずに、周辺三方向から押さえ込む仕組みです。また、三方向の押さえのうち1つはピントロックネジとテンション調整ネジが当たっており、他の二方向には「プラダン状のなにか」があてがわれておりこれでドローチューブを滑らせる仕掛けです。
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合焦操作が若干「メリメリ」といった感触ですが、バックラッシュやドローチューブの撓みは少なく、個人的には好きな機構です。他社製の接眼部だと、合焦操作自体は滑らかでもピントロック時の撓みが激しく難儀したり、カメラの自重で勝手にピントがズレたりすることも多いからです。


★接眼部を換装するか否か?

さて、この手の小型の接眼部の最大の難所は、ドローチューブが「細い上に長い」ことによる周辺減光ですね。ここでは(使用するカメラのフランジバックなどによって条件が異なるので)明言は避けますが、考え方としては、
 ①センサーからドローチューブ先端(対物側)までの長さ:r
 ②ドローチューブの内径:x
 ③対物レンズの口径:D
 ④対物レンズの焦点距離:fl
 ⑤カメラのセンサーサイズ(対角長):d
の5点が分かれば、初歩的な作図(もしくは幾何計算)によって試算は容易です。
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※F値とセンサーサイズのみではなく、実は対物レンズの口径も影響する点に注意してください。

たとえば、口径80mmF5の理想光学系の場合は、試算結果は下記の通りとなります。
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※注:これはあくまで単純に光路遮蔽の有無のみに着目した試算で、実際には過去に検証ごっこしたように、センサーのクロスセクション・フィルタのパスレングス・センサー面までの光路長差などなどが複雑に作用すると推測されるので、上記の条件を完全に満たした場合でも周辺減光は出ると考えています。

ちなみに、簡易的に計ったドローチューブ内径は約43mmで、ドローチューブの長さは約153mmでした。
※実際には、ここからさらに幾ばくかの延長が必要です。


★「化ける」タイプか?
おおよその試算によって、たとえば下記のような使い方(センサーサイズが小さいカメラとの組み合わせ)が正しいのは分かっているんですが・・・・
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少し対物レンズそのものの潜在能力を試してみることにしました。
要するに、デュアルナローバンド系のフィルタで「化ける」タイプの設計かどうかということです。
「化ける」ためには、CP+セミナーでお話ししたとおり、中途半端にg線の補正などに浮気せず、本来のアクロマートの定石に忠実にC線とF線について色消しされている必要があります。星雲を光らせている主要な波長はC線とF線付近のみですし、デュアルナローバンド系フィルタではそれ以外の波長は(g線はもちろんのことd線すらも)カットされていて関係が無いからです。

さて、今回は新たに生えてきた新機材Neptune-CⅡとL-eXtreamフィルタを用いて『電柱テスト』で検証ごっこしてみましょう。
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 ※左:ノーフィルタ 右:L-eXtream併用

上記のように、ノーフィルタでは全体的にボケボケで盛大な青にじみと黄色にじみが出ていることが分かります。経験上、日中撮影で生じる色ニジミが「青+黄色」の筒はアタリで「シアン+赤」の筒はハズレです。
実際、デュアルナローバンド系フィルタを用いることで、右のようにかなりシャープに化けることが分かりました。一応アタリだと判断して良さそうです。

※左の像がボケボケなのは、Neptune-CⅡの赤外感度が非常に高いために赤外ハロを盛大に拾っている影響も大きいです。

アクロマートなら何でも化ける訳ではないことの証明として、ケンコー製のMILTOL200と比較をしてみましょう。
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 ※左:MILTOL200+L-eXtream 右:StarQuest80+L-eXtream

上記のように、C線とF線付近のみを透過するデュアルナローバンド系フィルタを併用した場合でも、MILTOLはC・Fのピント位置が異なるためにシアンと赤の像が乖離するのに対して、StarQuest80の場合は像がほぼ一致していることが分かります。


★となると・・・・・
前述のように、あぷらなーとが考えるアクロマートの活用法は

<C線とF線について色消し>
→1本の鏡筒を強化してデュアルナローバンド+カラーカメラでAOO一発撮り

<C線とF線について色消しではない>
→3本の鏡筒それぞれにシングルナローバンドフィルタ+モノクロカメラで多連装作戦

そういえば、以前(CP+2021直後に)シュミットさんが「MILTOL3本セット」バーゲンセールを展開されていましたが、流石だなぁ・・・と舌を巻きました(当然か)。

え?あぷらなーと自身はどうかって??

それはもう、元々MILTOL200は「6本持ち」です(笑)

・・・話がそれました。

とにかく、予想以上にStaraQuest80が良い感じなので、一発撮り用に強化することに決定しました。

目指すは「まさかのフルサイズ対応」です。

というわけで・・・

ででん!!
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接眼部は笠井のSTマイクロフォーカス接眼部に換装
アリ型プレートはビクセンの鏡筒バンド+SVBONYのプレートに換装
さらに、BORGのマルチフラットナーを装備で、ニコンD810Aを使用可能とする邪悪な作戦です。

鏡筒の残存撓み量を見積もるために(流儀に反するけれど)オートガイダーも装備

お気づきのように、実はこれが本格的な天文復帰戦(半年ぶり)となります。なおMILTOL+冷却CMOSらしきものが脇を固めているのは、また別なネタ用なので今回はスルーしてください(笑)

では、行くぞ!
StarQuest80よ、アクロマートの潜在能力を解放するが良い!!


ででん!!
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※StarQuest80+QBPⅡ+BORGマルチフラットナー+D810A
EQ6Pro・オートガイド
ISO1600・30sec 268コマコンポジット ノートリミング
ダーク・フラットあり

拡大すると・・・
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ふはははは。
まさかこれが80mmアクロマートだとは思われまい。

★今後の課題
今回のファーストライトでは、色々と課題が出てきました。
 ①オートガイドが若干ズレる
 ②D810Aの写野上方に星像が流れるエリアがある
イメージサークルを拡大するために接眼部を換装したとは言え、実はこれが災いして結構撓みが出てしまったのが主要因のようです(ピントロック時にガクっとズレるし、D810Aやファインダーの自重でピントがズレまくる・・・ああ、ケチって「いつもの」V-Powerにせずに安いSTマイクロフォーカスにしたのが失敗かなぁ・・・)。また、接眼部の換装によって、鏡筒内の迷光が増加しました。
もちろん、メーカーさんの想定範囲外の使用ですから、自己責任です♪

次回は、久々となるMILTOL200の実戦投入と、StarQuest80のさらなる強化、そのいずれかについてお話ししたいと思います。

★★★お約束★★★
①StarQuest80は1本しか保有していないので、個体差については全く不明です
②接眼部のドローチューブは「太ければ良い」というものでもありません。実は本気で周辺減光を減らしたい場合は、あえて細いドローチューブを使う手もあります。(カメラの絞りを絞ると周辺減光が減るのと同じ原理。当然露光時間は延ばす必要があります。)
③STマイクロフォーカス接眼部の強度が絶対的に不足している訳では無く、諸般の事情でファインダーをドローチューブに装着したので、その影響も大きいです。
④各種の評価は、個人の感想です


Commented by マサ at 2021-10-23 23:28 x
楽しく拝見させて頂いております。貴重な情報ありがとうございます。。
これから天体望遠鏡を買ってみようかな、と考えていろいろネットで調べて、Starquest80を候補にしています。そこで質問したいのですが、
 ①SkywatcherさんのWEB情報では、接眼部にTネジが有ってカメラ接続可能と有りますが、あぷらなーと
  さんも、笠井のSTマイクロフォーカス接眼部に換装されるときに、このTネジ部を利用されたので
  しょうか?
  (本当にTネジ部有るのかな?、と不安に思ってまして、確認したい質問です)
 ②NeptuneC2と接続する際、何か延長筒など使われたのでしょうか?
  どのように接続されたのでしょうか?
  (Starquest80のバックフォーカス情報が見当たらないものですから、購入したとしてもどの
   ような周辺機器が必要か分からず、教えて下さい)

以上よろしくお願いします。
Commented by supernova1987a at 2021-10-24 18:19
> マサさん
①純正接眼部のTネジは、アイピース差し込み口の周囲にねじ切りされています。
笠井のSTマイクロやV-Power接眼部は、純正接眼部を丸ごと取り外し(プラスドライバーでネジを外すだけ)鏡筒内径に合致した専用アダプタを接続して換装用接眼部を差し込みます。

②各種の延長筒は様々な長さの物を『無尽蔵』に保有しているため、特に意識していないのですが、純正接眼部のままなら、とくに延長筒は不要です(ドローチューブがかなり伸びるので)。反面、STマイクロ(繰り出し量が極端に少ない)に換装した場合は、鏡筒本体を延長するパーツ(笠井から出てます)を用いるか、2インチ接眼部をBORGのパーツでM57に変換し、BORGの延長筒を追加しています。(※V-PoerⅡLは製造ロットによって2インチ差し込みだったり、M57ねじ込みだったり仕様が異なることがあるので、販売店さんに現在の在庫がどちらのタイプか確認した方が安全です。)
Commented by マサ at 2021-10-25 16:32 x
あぷらなーと 様
今、あぷらなーとさんの動画「アクロマートで星雲を観る」を見終わったところです。クローズアップレンズを使ってのレヂューサー作り、凄いですね。システム・部品番号まで紹介されていますので、まずはコピーして体験してみよう、と思えばすぐに実行に移せます。これも勉強になる大変ありがたい動画です。

さて、お忙しい中、早々のご回答を頂きまして誠にありがとうございます。
大いに助かります。
まずは純正から始めます(笠井のものは品切れの様ですし、いずれにせよまだそこまで考えるレベルでは有りませんので、、)。
今後とも、楽しく、有意義なブログ、動画を楽しみにしています。
以上
Commented by supernova1987a at 2021-10-26 00:46
> マサさん
CP+2021動画もご視聴いただきありがとうございます。
おっしゃるとおり、まずは純正セットで試してみて、不満が出た時点で色々と工夫するのが楽しいと思います。

※なお、動画で説明したクローズアップレンズ転用のレデューサは2インチアイピースに対応した接眼部用に組んだものなので、2インチアイピースが使えないスタークエスト80に取り付けるには別な工夫が必要です。
Commented by @なかのん at 2022-02-18 16:21 x
初めましてこんにちは。
2021/03/05Youtubeご投稿の「アクロマートで星雲を撮る(あぷらなーと)」ともども楽しく拝見させて頂いております。
以前、AZM80(MEADE)を購入して、写りが悪かったので使わずにいたのですが、記事を拝見し、改めて、使うことに決めました!(もちろん真似させて頂いて! お陰様で復活楽しめそうです^^;)。

写真を拝見していると、手元のMEADEのAZM80は、拝見するスタークエスト80に細部に至るまでそっくりで、OEMなのかなと考えています。

で、本題です。既に1枚遮光環が入っており、拝見する写真の大きさと同じ様です。しかし入れてある遮光環の幅が、少々幅広過ぎやしないか?(URL:普段投稿しているPicmateのページです。遮光環を追加しようと原寸の断面図で線を引いてみたら、幅が大きいなあと気が付いた次第です)と。

実物で鏡筒を覗いてみても、やはり狭くし過ぎている気がします。

開口有効面積って重要だと思っていたのですが、収差を減らすなど意図的なものかとも考えてみたのですが、どうも腑に落ちません。如何でしょうか?

Commented by supernova1987a at 2022-02-18 23:55
> @なかのんさん
コメントありがとうございます!
アクロマートを楽しく活用していただけると嬉しいです。さて、絞り環の件ですが、収差を軽減したり周辺減光を軽減したりする目的で結構狭い物が使われているケースがありますね。また、本記事で触れたようにドローチューブが細くて長いタイプも同様の効果を狙ったものだと思います。有効径を大きくして明るい像を得るか有効径を小さくして整った像を得るかは、ちょうどカメラレンズの絞り値選択のようなものだと考えます。ただしナローバンドフィルターを用いると根本的な収差量が激変するので、ユーザーサイドで絞りを調整できる望遠鏡が出てくると嬉しいですね。
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by supernova1987a | 2021-07-29 02:03 | 機材レビュー | Comments(6)

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