★ホントは好きなグローバルシャッター機CMOSカメラには「ローリングシャッター機」と「グローバルシャッター機」があるのですが、ほとんどのカメラは前者です。ただし、ローリングシャッター機には欠点があって、高速で移動する対象を撮影すると、「コンニャク現象」とか「ローリング歪み」と言われる像の歪みが生じてしまいます。
愛用している赤缶のうち最初に入手したのはASI174MC-Coolですが、これはグローバルシャッター機で高速移動対象を撮影しても歪みが出ません。いつかはモノクロ版のASI174MM-Coolを入手しようと企みつつも、横シマノイズ(バンディングノイズ)の厄介さやASI1600シリーズの写りの良さによって、モノクロ版のグローバルシャッター機導入計画は凍結されていたのでした。
★神のお告げが・・・
そんな折、TwitterのDMでシュミット公式さんから「新製品のXena_Mを使ってみませんか?」とのお誘いが。
最近恐ろしい勢いで新商品を展開しているPlayerOneのCMOSカメラですが、Xena_M(ジーナM)はグローバルシャッター搭載のモノクロカメラです。センサーはIMX249、これはIMX174の廉価版(低速連写版)とのことですが、まさに使ってみたかった仕様のカメラです。しかも、「ノイズ解析しても実写テストしても良いですよ」とのありがたいお言葉。さっそく試用させて頂くことにしました。
★開封の儀
さて、まずは「開封の儀」です。
PlayerOneシリーズは、すでにNeptune_CⅡをポチっていたのですが、相変わらず化粧箱がオシャレです。性能そのものには関係ないのですが、開けるときにワクワクしてしまいます。
中身を取り出してみました。
○Xena_M本体 ○1.25インチスリーブ延長筒 ○エアブロア ○USB3ケーブル ○ガイドケーブル
の豪華5点セットです。個人的に実用的なブロワが同封されているのは良いと感じました。
Neptune_CⅡの時も、ZWOの赤缶(ASI1600MM_Coolなど)と比べて非常にコンパクトだと感じましたが、今回のZena_Mは1.25インチスリーブに差し込むタイプなので、さらにコンパクトです。まるでアイピースのようなサイズですね。
センサーはスリーブの先端付近に配置されているため、バックフォーカスに余裕の無いカメラ用レンズやオフアキシスガイダーなどに装着する際の自由度が高そうで、他のカメラでは不可能だったことが色々とできそうです。
★ノイズ解析ごっこの前に必要なこと
天気が悪いので、早速リードノイズやダークノイズの解析ごっこに入りたかったのですが、肝心のユニティゲインがいくらなのかが不明でした。ユニティゲインが分からないと輝度値を光電子数に変換できないので、客観的なノイズ評価ができません。
そこで、まずはユニティゲインを測定するところから始めることにしました。
まず、LEDトレース台を光源とし、SharpCap4を用いてゲインとシャッタースピードを色々に変えながらレンズ無しのフラット撮影を行います。
収集した画像それぞれについて、「平均輝度と輝度分散の相関」を解析すればコンバージョンファクタ(輝度値を1上げるためには何個の光電子が必要か)が求まります。以前、手持ちのニコンのデジタル一眼レフのユニティゲインISOを推定するためにMATLABで解析コードは書いていたので、そのコードをXena_Mに適合するように書き直します。
途中、色々と紆余曲折がありましたが、ゲインを60~240まで30刻みで変化させた場合について、良質なデータが収集できたようです。
これを整理したのが上の図です。デジタル一眼を解析したときには、しばしば変なグラフ(直線上にならずにクネクネするなど)が見られましたが、さすがは天体用のCMOSカメラ。画像処理エンジンが余計なことをしていないお陰か、非常にすなおな相関が得られました。
次に、解析したコンバージョンファクタとゲインの関係を指数関数で近似することで、コンバージョンファクタが1になるゲインを探ります。
すると・・・・
ででん!!
Xena_Mのユニティゲインは約174だと推定されました♪
ちょうどその結果をTwitterで呟いたら、cockatooさんが公称値が掲載されたページ↓を教えてくれました。
これを見ると、
公称ユニティゲインは180手前くらいに見えますので、今回のユニティゲイン推定ごっこは大成功のようです。
★モノクロカメラといえば・・・
さて、星ナビ連載中の「Deepな天体写真」でも10月号記事で触れたのですが、同じ画素数でもベイヤー処理が不要なモノクロカメラはカラーカメラよりも解像度が高くなります。そこで、手持ちのASI174MC-CoolとXena_Mの解像感勝負を行ってみることにしました。ちなみに、両カメラの画素数とセンサーサイズは全く同じです。
ビームスプリッタを装備したBORG89EDにASI174MC-CoolとXena_Mを装着し、同時露光で日中の電柱を撮影してみます。
すると・・・
ででん!!
※左:ASI174MC-Cool 右:Xena_M
同時に撮影した1コマ画像をピクセル400%で拡大表示したものですが、
明らかにXena_Mの方がシャープです。やはり、モノクロカメラだけのことはありますね。
では、次に今後の展開も考えて、両方の画像を最大限活かすことを試してみましょう。
それぞれ128コマの画像をAS!3で良像40%スタックし、モノクロ画像にはステライメージ9のルーシーリチャードソン画像復元を施します。
そうして得られたモノクロ画像をLに、カラー画像をRGBとして、ステライメージ9でL-RGB合成してみます。
※左:ASI174MC-Coolのみのスタック 右:Xena_Mの画像をLとしてF-RGB合成
すると、上記のように解像感の高いカラー画像が得られました。この手法は、月面撮影などに活かせそうです。
★グローバルシャッターの威力を試す
Xena_Mの魅力のひとつは、「コンニャク現象」が生じないグローバルシャッター搭載機であることです。
この効果を試すために、大好きなミルククラウン撮影を行ってみました。
まず、BORGやK-ASTECのパーツなどを組み合わせて、上記のような「ニコンFマウントメス→1.25インチスリーブ」に変換するアダプタを作ってみました。
Xena_MはNeptune_CⅡなどと異なりカメラ三脚用のネジがありませんので、アルカスイスプレートも取り付けてあります。
これをニコンのマイクロ60mmF2.8に取り付け、Xena_Mを接続すると、こんな感じです。
自作のミルク滴下装置からミルク滴をボタボタと垂らし、これをXena_Mで狙います。
Xena_MのセンサーであるIMX249はIMX174の廉価版のため、フレームレートが小さいのですが、1280x1024でROI(クロップ)し2x2ビニングを施すことで63FPSまで向上させることができました。
一般的なCMOSカメラはローリングシャッター搭載ですので、高速で落下するミルク滴を撮影すると滴が歪んで写ります。上図は、ASI1600MM-Coolで撮影したミルク滴ですが、左右の写真の違いはカメラの向きが90度異なる事です。
左の写真は、上図のようにローリングシャッターの走行方向が左から右ですので、それによって滴が斜めに歪みます。
一方、右の写真は、ローリングシャッターの走行方向が上から下ですので、滴が縦に伸びます。
このように一般的なCMOSカメラの場合は、画面中の位置により撮影時刻が異なるため歪みが生じるのが難点です。
グローバルシャッターを搭載したXena_Mの場合は、全画素を同時に露光できるため、歪みが生じないはずです。
では、早速試してみましょう。
ででん!!
おお、見事に「まん丸」です!!
では、ミルククラウンを色々と撮影してみましょう。
※ニコンマイクロ60mmF2.8→F11 ゲイン300 露出1/10,000秒 1280x1024ROI+2x2ビニング 16bitモノクロSer出力
※上記のミルククラウン作例は、特定の滴についてその成長変化を連続撮影したものではありません。
FPSが低い(35~65FPS程度)ため、複数回撮影した動画からタイミングが異なるシーンを抜き取ったものです。
(連写性能が低いフィルムカメラ時代に多用されていた手法です)
★まとめ
①光子ショットノイズを解析した結果、 Xena_Mのユニティゲインは約174と推定された。
②Xena_Mは、同サイズ同画素数のカラーカメラASI174MC-Coolよりもシャープな像が得られる。
③Xena_Mは、ローリングシャッターモノクロ機のASI1600MM-Coolと異なり、コンニャク現象が皆無のため、ミルククラウンなど高速移動体の撮影に好適。
★★★お約束★★★
本レビューは、シュミットさんからお借りした個体を用いて、あぷらなーとが独自にテストした感想です。
テスト結果に関しては、正確性を保証するものではありません。