★ようやく念願の実写チャンスが訪れました9月末まで骨折の治療のため入院していましたが、9月末にようやく退院することができました!
これで、SVBONYさんからお借りしていた冷却CMOSカラーカメラSV405CCも(肝心の)実写テストができそうです。
さて、前回は「実写以外にできるテスト」として、基本的なノイズ特性や出力bit数の変化などについて解析ごっこし、レビューしました。
詳細は上の記事を見ていただくとして、おおよそライバル機ASI294MC-Proと似た特性を持つことが分かりました。
ただし、ダークフレームの特徴を観察していた時、非常に強い『違和感』を感じました。その正体がなかなか掴めなかったため、天体を実写するまで評価を保留としていたというのが本音です。
まずは、ASI294MC-ProとSV405CCで撮り比べたゲイン300での30秒ダークフレームの様子を見てみます。

※左:ASI294MC-Proのダーク 右:SV405CCのダーク (ピクセル300%拡大 輝度レベル幅800で切り詰め)
ともに 0℃ ゲイン300 オフセット10 露光30秒 (SharpCapで撮像)
パッと見ただけでもSV405CCの方が圧倒的に輝点ノイズ(いわゆるホットピクセル)が少ないことが分かります。
ただし、なんとなくモジャモジャしていたり、まるで二重星のように似た輝度のペアが多く見られるように感じられます。
では、もう少し詳しく見ていきます。
★ダークフレームの違和感?
あぷらなーとは、カメラに関しては全くの素人でCMOSに関しては勉強したことがありません。ですので、あくまで素人の目線から独自の解析方法を編み出して、性能評価したり、画像処理の方向決めを行っています。その一例が『ダークフレームの時系列解析』です。通常、ノイズの評価は1コマの画像を見てピクセル毎のバラツキを統計処理することにより行われることが多いようです。ただし、同一のピクセルであっても時間とともに(フレーム毎に)その挙動が変わる可能性もあり、個人的には(輝度値などの)「時間変動」を統計処理することで何か特徴が見えるのではないか、と模索してきました。これが『時系列解析』と呼んでいる手法です。具体的には、数十フレームの画像を解析し、その輝度が(時間とともに)どのように変化していくのかをセンサーのピクセル1個1個について統計処理することで、ノイズの特徴を観察しようというものです。
当然、今回もSV405CCのダークフレームについて、いつもの時系列解析を行ってみました。
予想としては、「同じセンサーなのだから、当然ASI294MC-Proと非常に似た結果になるだろう」という当たり前のことを考えていたのですが・・・
ちなみに、0℃に冷却してゲイン300で30秒露光したASI294MC-Proのダークフレーム32コマについて、各ピクセルの輝度メジアンと輝度揺らぎをプロットするとこんな感じです。

あくまで自己流ではありますが、このグラフの見方はおよそ次のようになります。

当然、
同じセンサーを搭載しているSV405CCも同じような傾向を示すと思ったのですが、実際に同条件で見てみると・・・

このように
「まるで別物」かと思うような傾向を示しました。
ASI294MC-Proとの違いは主に下記の通りです。
①通常のホットピクセルが非常に少ない
②酩酊ピクセルに相当する群が非常に少ない
③全体的に揺らぎが小さい
④自然放射線のヒットが異様に少ない
これらのうち、①や②はノイズを吐く主なピクセルが決まっているため、例えばPlayerOneの非冷却CMOSカメラに実装されているDPSのような一種のピクセルマッピング(あらかじめ不良ピクセルの座標を登録しておき、そのピクセルを消すイメージ)で除去されているのかも知れません。
ところが、どうしても④が不思議なのです。自然放射線のヒットは文字通り自然現象で神出鬼没なノイズです。したがって、ピクセルマッピングなどの「座標決め打ち」では補正できないと考えられます。ひょっとすると、撮影の都度なんらかのノイズ判定を行い補正されているのかもしれません。
★実はASI294MC-PROはピクセルマッピングされてる?
過去記事にいただいたコメント(※鍵コメのため一般の方は見られません)で、「非冷却版のASI294MCは公式サイト↓にホットピクセルを消す機能らしきものが実装されていると解釈できる記述がある」との情報をいただきました。本家のサイトで確認してみると、たしかに非冷却版のASI294MCには「HPC」なる不良ピクセル除去機能が実装されていることが謳われていました(下記リンク先参照)。
これにはビックリ仰天しました。あいにく、非冷却版のASI294MCは手元に無いため、実機をお持ちのSamさんにお願いしてダークフレーム画像をお借りしました。詳細はいずれ書きたいと思いますが、ざっくりと見比べただけでも、冷却版の294よりも非冷却版の294の方がホットピクセルが非常に少ないことは確認できました。
となると、当然「冷却版のASI294MC-Proはホットピクセルを除去するような機能は実装されていないだろう」と考えるのですが、念のため確認してみることにしました。
今回は本題がSV405CCの特性についてですので、詳細は割愛して解析結果だけ触れておくと・・・

この図は、
任意の対象ピクセルについて「同じチャンネル(ベイヤー配列中の同じポジション)の上下左右に隣接するピクセル4個の平均値を小数点以下切り捨てで整数値化した値で置き換える」演算がなされていると解釈できるものが15コマのうち何連続で出現するかを解析したものです。
具体的には、G1チャンネルのうち画面中央の25万ピクセルを観察対象とし「対象ピクセルの値が参照ピクセルの平均値(を丸めたもの)に一致」したものを『当たり』として、それが何回連続で起こるかを数えてみました。実際には丸め計算を四捨五入に変えたり、計算を平均ではなくメジアンに変えたり、参照ピクセルの配置パターンを色々と変えたり・・・など下記の35通りの想定で解析を行うという苦行のような作業の結果、ヒットしたのが上記のパターンです。
※今回の解析で想定した35パターンの補完モデル
当然、単なる偶然で値が一致することもありえますので、確率的に偶然発生すると期待される個数を青いラインで示しました。それに対して赤いラインは実際に解析して得られた個数です。その結果、冷却版のASI294MC-Proは偶然起こると期待される場合よりも「9.94×10の29乗倍」という極めて高頻度で『演算で消されたと解釈できるピクセル』が発生していることが分かりました。また、ヒットしたピクセルの個数が完全に収束する結果を見る限り、「随時異常判定しているのではなく、事前に消すピクセルの位置をメモリーしておき、常に消している」ことが推定されます。つまり、意外なことに冷却版のASI294MC-Proでもピクセルマッピング的なノイズ処理がなされているのだと想像します。
ここで「ああ、なるほど。では同じセンサーを積んでいるSV405CCも同様のピクセルマッピング的処理を(強めに)おこなうことでホットピクセルを消しているのだろうな。」と思ったのですが、実際に同じロジックで解析してみると下記のような結果になりました。

このように赤いラインが青いラインに乗っています。(3点目から切れているのは個数が0となり対数グラフにプロットできないため)
つまり、SV405CCは「ASI294MC-Proと同じノイズ除去処理は施されていない」と推定されます。
★SV405CCの違和感の正体を探る
前述のように、ASI294MC-Proよりもホットピクセルが少ないSV405CCのダークに感じた違和感は「なんだかモジャモジャしている」というものです。例えるならば「正方形のピクセルが並んでいるのではなく、長方形のピクセルが多数混じっているような感じ」に見えるのですね。ただし、これではあまりにも感覚的なので、微恒星を実写したライトフレームを1000%に拡大し、恒星の周辺輝度を手作業で実測したものをお見せします。
※ディベイヤー前のライトフレーム(RAW)のG1チャンネルを抽出し、1000%拡大で恒星近辺の輝度を実測したもの。左:ASI294MC-Pro 右:SV405CC ともに0℃ ゲイン300 30秒露光の1コマ
このように、ASI294MC-Proに比べるとSV405CCは「同じ輝度のピクセルが隣接しているケースが多い」ことが分かります。ただし、この一例だけでは偶然そう見えているだけかもしれませんので、画像中央の25万ピクセルそれぞれについて「上下左右のいずれかのピクセルと何フレーム連続で輝度が一致するか」を解析してみました。

青いラインは確率的に偶然発生すると予測される事象数で、赤が実測です。このように
ASI294MC-Proでは同じ輝度のピクセルが隣り合う現象は完全に偶然だと言えますが、SV405CCの方は偶然起こると期待される場合よりも約780倍ほど頻度が高すぎることが分かりました。
ちなみに、隣接ピクセルと同じ値になるケースが多いことから想像されるのは、母集団が奇数個のデータで構成される場合のメジアンを充てる補正ロジックです。(母集団が偶数個の場合のメジアンは元の値と一致しないから。)そこで、G1チャンネル中の上下左右に隣接する4個を母集団とし、輝度が大きい順にならべ、2番目に輝度が高いピクセルの値と自分自身が一致しているケースを抽出してみました。これは、対象ピクセルがホットピクセルであり全ての隣接ピクセルよりも値が大きい場合に、隣接4個と自分自身を含む5個のピクセル輝度のメジアンを取ることに相当します。

実測値である赤いラインを見ると、確率的に起こると期待される青のラインよりも実に
4.29×10の5乗倍という高頻度でこの条件にヒットしていることを示します。
どうやら、ホットピクセルと判定されたピクセルが生じた場合にはメジアン補正がなされている気配が濃厚ですね。
では、対象ピクセルが周辺よりも暗いクールピクセルと判定された場合の補正痕跡が見られるか試してみましょう。
今度は、G1チャンネル中の上下左右に隣接する4個を母集団とし、輝度が大きい順にならべ、下から2番目に輝度が高いピクセルの値と自分自身が一致しているケースを抽出すれば良いだけです

はい。今度は
統計的に有意な値が出ず、完全に偶然にしか起こらないと解釈できる結果となりました。ただし、これは座標決め打ちでは無く随時ノイズ判定をしていることを想定すると不思議ではありません。実際のライトフレームはバックグラウンドが暗く、
光子ショットノイズによる揺らぎの中にクールピクセルが埋没することで弁別困難になるケースが多いからです。(そのため、拙作『クールファイル補正法』などの特殊な演算を使わないとクールピクセル起因の黒い縮緬ノイズが消しにくいのでした。)
このタイプの補正がなされているかを観察するには、光子ショットノイズによるゆらぎよりもクールピクセル輝度が大きく外れている画像を用意すれば良いはずです。そこで、別撮りした適正露光のフラットフレームを同様に解析してみました。

要するに、目視でもクールピクセルが弁別しやすいような充分に明るい画像を解析したということです。15フレーム連続ヒットするイベントは少なかった(イベント数が1を切ると対数グラフから消える)ため連続6回ヒットまでの解析に止めていますが、暗めのライトフレームには見られなかった補正痕跡が明瞭に見えてきました。やはり
参照ピクセルよりも暗すぎるクールピクセルの補正に関してもメジアンが用いられている可能性が濃厚と見えます。
ただし、先ほどASI294MC-Proのノイズ補完処理ピクセルの発生頻度のように値が完全に収束していないことから、どうやら「常に補正されているのではなく、随時ノイズ判定をして必要時のみ補正している」と予想できます。
では、判定条件(ノイズの弁別閾値)は如何ほどでしょうか?
もちろん制御回路の構造も制御プログラムの中身も全く不明ですが、実写画像を観察するだけでもある程度の予想は可能です。今度は、連続10フレームに渡り「たった1回もメジアン補正されなかった」ピクセルの特徴を見てみれば良いのです。さっそく解析プログラムを書き変え、10連続で補正ロジックをすり抜けて生き残ったピクセルについて、そのX座標と最終フレームの隣接4ピクセルを含む5個を母集団として、自分自身の輝度が母集団から何シグマ外れているのかをプロットしてみました。

ああ、ハッキリと閾値が見えてきました。1ピクセルの例外も無く
「無補正のピクセルはその輝度が母集団の±2σ以内に収まっている」ことが分かりました。
要するに、素人目にはSV405CCのノイズ補正は
「同一チャンネル中の上下左右4個の隣接ピクセルと自分自身を含む5個の母集団の中で、自分の輝度が偏差値70を越えた場合はホットピクセルと判定、偏差値30を下回った場合はクールピクセルと判定し、それぞれ5個のピクセルのメジアンを求めて自分自身の輝度と置き換えている」
というものであるように感じました。(くどいようですが、あくまで素人の感想です)
結局、前述のSV405CCのダークフレームに宇宙線ヒットノイズが異常に少ない件に関しては、それをノイズだと判定して随時消されていたからだと想像できます。
★★★追記(重要)★★★
本記事へのコメントでnekomeshi312さんに指摘していただいたとおり「2σでカットは誤り」です。対象を含む5ピクセルでの偏差は統計上2σを超えることができないからです。また、母集団を対象を含まない隣接4ピクセルとした場合は5σ~10σの極めて高い外れ値も生き残っていることを確認しましたので、全く異なる閾値判定を用いているか、隣接ピクセルの値が閾値判定の後に(そのピクセルにも補正が作用して)書き換えられている、など色々な可能性が考えられます。
★弊害はあるか?
あくまでも個人の価値観ですが、ASI294MC-Proに見られるような「座標決め打ち」で不良ピクセルを常時マッピングして消す方式の処理は嫌いではありません。
経験上、クールピクセルや酩酊ピクセルはダーク減算やフラット除算では消せませんし、通常のホットピクセルも高輝度になるほど揺らぎが大きくなるために『ダークが合わない』確率が上がります。また、高輝度のホットピクセルは言わば『あらかじめ砂が積もったメスシリンダー』のようなものですので、そもそも天体から飛来した光子がこぼれてしまい、輝度情報が(完全にあるいは部分的に)失われているため正確なダーク補正が物理的に不可能だからです(ちなみにこの要因も黒い縮緬ノイズを誘発します)。また、ダークフレームやフラットフレームに施された補正とライトフレームに施された補正が完全に一致するため、ダーク減算やフラット除算で不具合がおこることは無いと考えます。
ただし、今回見られたような「随時ノイズ判定をして、その都度メジアンで補正する」形式の場合だと、撮影対象の明るさが邪魔するために、ダークフレーム・フラットフレーム・ライトフレームのそれぞれに掛けられた補正が異なることになるため、運が悪いとダーク減算やフラット除算に失敗するケースもあるのではないかと予想されます。
私のように、ゆるゆる適当に天体写真を楽しんでいる分には良いのですが、高画質を求めて真面目に画像処理している方々には、歓迎されない仕様かもしれませんね。
では、最後に、とりあえず天体が写るのかどうかを実写した結果をお見せします。

天文復帰戦では、上記のように、
SE120の三連装砲にQBPフィルタを装着し、ASI294MC-Pro・ASI294MC-Cool・SV405CCのサイドバイサイドテストを行いました。また、StarQuest80の三連装砲にはDBPフィルタ(1本はLeXtreme)を装着して、ASI174MC-Cool・ASI482MC・Uranus-Cのサイドバイサイドテストを行いました。今回は、上記6台のカメラのうち、
SV405CCで撮影した天体画像をお見せします。※3等星がようやく見える程度の市街地での実写テストです。
★M42の実写例
★M31の実写例
★M45の実写例
※共通データ
望遠鏡:ケンコーSE120(12cmF5アクロマート)
補正レンズ:ケンコーPro1D ACクローズアップレンズNo3
フィルタ:サイトロン QBPⅢ(48mm径)
カメラ:SVBONY SV405CC
赤道儀:ケンコーEQ6-Pro(PHD2でオートガイド) ※ディザリング無し
撮像温度:0℃に冷却
オフセット:10
ゲイン:300
露光時間:30秒
ライトフレーム枚数:128コマ
ダークフレーム枚数:256コマ
フラットフレーム枚数:256コマ
フラットダークフレーム枚数:256コマ
撮像ソフト:SharpCap
画像処理:ステライメージ9+FlatAidePro+Nikcollection+シルキーピクス7Pro
★まとめ
SVBONY初の冷却カラーCMOSカメラSV405CCについて、下記のように感じました。
①ZWOのASI294MC-Proと同仕様に見えるが、RAW画像に施されたノイズ処理の方法が全く違うように見える。
②自分のように気楽に天体写真を楽しむ分には『とても良く写るカメラ』。
③真面目に画像処理をする方にとっては『かなり難敵』かもしれない。
④もしノイズ処理機能のON-OFFができるようになれば、非常に歓迎されるのではないか?
★★★お約束★★★
①本レビューはSVBONYさんからお借りしたテスト機を用いたもので、現在流通している個体と同一かどうかは不明です。
②あぷらなーとは素人のため、各種の解析結果や解釈が正しい保証は全くありません。
③本体の分解や制御コードのリバースエンジニアリングなどは一切しておらず、実写画像の解析のみからレビューしています。
④使用するキャプチャソフトの種類やバージョン、制御ドライバのバージョンなどにより、撮影結果は大幅に異なる可能性があります。