解析ごっこ・検証ごっこ

ASI294MC-Proはピクセルマッピングされてる?

★ASI294MC-Proは謎がいっぱい
思い起こせば、ASI294MC-Proをポチったのは2018年の12月ですから、もう4年近くも愛用していることになります。とても使いやすい名機だと思うのですが、使えば使うほど謎が出てきて飽きさせません。

たとえば、輝度が平均値付近で揺らぐのではなく2値の間を行ったり来たりする『酩酊ピクセル』が多数存在することが観察されたり・・・

ASI1600系の冷却CMOSにナローバンドを組み合わせて撮影すると頻発するサッポロポテト現象が出ない「クワッドベイヤー構造」を持ちながら、赤外域ではサッポロポテト現象が発現していたり・・・


ADCが14bitで駆動しているはずなのに、ゲインを391以上に上げると出力ビット数が低下していたり・・・

このように、あぷらなーとはASI294MC-Proの色々な謎について考察ごっこして楽しんできました。


★ASI294MCのRAWは『RAW』じゃない?
一般の写真とは異なり、天体写真は対象が非常に暗い上に画像処理の工程が特殊なため、通常のデジカメが画像処理エンジンで行っているような各種の加工が嫌われる傾向にあります。いうなれば「ノイズ処理とかは自分が後で好きなようにやるので、カメラは余計なことをしないでくれ」という感じでしょうか。それゆえ、天体専用の冷却CMOSカメラの売り文句のひとつに「本物の(無加工の)RAW画像が得られます」というものがあります。その結果、天体用の冷却CMOSカメラは一般のデジカメと異なり無加工のRAW画像が得られるので良い」という先入観があるのですが・・・・・・。

前回のブログでも書いたのですが、過去記事にいただいたコメントで「非冷却版のASI294MCは公式サイト↓にホットピクセルを消す機能らしきものが実装されていると解釈できる記述がある」との情報をいただきました。本家のサイトで確認してみると、たしかに非冷却版のASI294MCには「HPC」なる不良ピクセル除去機能が実装されていることが謳われていました(下記リンク先参照)。


これはまさに盲点とでもいうべきもので、非冷却とは言え天体専用であるCMOSカメラが吐くRAW画像に強制ノイズ処理が施されているというのにはビックリ仰天してしまいました。これは早速検証ごっこしてみなければ・・・とはいうものの、あいにく非冷却版のASI294MCは手元に無いため、実機をお持ちのSamさんにお願いしてダークフレーム画像をお借りしました

少し温度が異なりますが、冷却版のASI294MC-Proと非冷却版のASI294MCをそれぞれゲイン117(ユニティゲイン)で30秒露光したダークフレームを16コマ加算平均コンポジットした画像を比較してみます。
ASI294MC-Proはピクセルマッピングされてる?_f0346040_23533700.jpg
※左:ASI294MC-Pro 右:ASI294MC
撮像温度はASI294MC-Pro:約26℃ ASI294MC:約20℃ それぞれレベルを2500-3500に切り詰め

詳細な解析を行うまでもなく、明らかに非冷却版のASI294MCの方がホットピクセルが少ないことが分かります。特に『非常に明るいタイプ』のホットピクセルが相当に消されている気配がします。

では、次に得意の『時系列解析』を行いピクセル毎の特性分布を見てみましょう
ASI294MC-Proはピクセルマッピングされてる?_f0346040_23593528.jpg
※左:ASI294MC-Pro 右:ASI294MC

あぷらなーとがセンサーの性能評価に用いているこの独特なグラフの見方は、ザックリ言って次のようなものです。
ASI294MC-Proはピクセルマッピングされてる?_f0346040_23140248.jpg
先ほどのグラフを見ると、非冷却版のASI294MCは冷却版に比べて(模式図中で赤の領域で示した)ホットピクセル群のうち明るいものが非常に少ないことが分かります。やはり、寄せられた情報は本当のようです。では、一体どのようなカラクリでホットピクセルを軽減しているのかを考察ごっこしてみましょう。



★無意識のうちに自前のソフトにも実装していたという偶然
実は、先ほどの結果を見た瞬間に「ああ、ひょっとすると・・・」と思ったことがあります。以前「天リフ超会議 ガチ天」に出させていただいたのですが、その際のトークテーマは「冷却CMOSカメラのノイズと格闘する」でした。

上記はその時のアーカイブ動画なのですが、その中の40分あたりからお話ししている『ソフトウェアピクセルマッピング法』がそれで、あらかじめ画像を解析して不良ピクセルの座標を特定し、画像処理する際に該当ピクセルを消してしまうというアイディアです。一般のデジカメにおいてメーカーさんが出荷時の調整として行っているピクセルマッピングを後から(撮影時では無く画像処理時に)行ってしまおうという邪悪な作戦ですね♪

詳しい経緯は、本記事の冒頭でリンクを貼った先に書いたので興味のある方はご参照いただくとして、ともかく過去に試行錯誤した経験があるために「もし自分が処理するなら、こうやるなぁ」とアタリをつけることが可能だったわけです。

要するに、あらかじめテスト撮影でセンサー内の全ピクセルの個性を分析して行儀の悪いピクセルの位置を特定し、画像処理する際に無効化するだけのお話です。
ここで問題となるのが、無効化する方法です。あぷらなーとの場合は

 ①ベイヤー画像(RAW)を現像前にR・G1・G2・Bの4つのチャンネルに分離する
 ②各チャンネル内で不良ピクセルの上下左右に隣接する正常ピクセル4個の平均値を求める。
 ③求めた平均値の小数点以下を四捨五入して整数値に丸める。
 ④異常ピクセルの値を③の値に書き換える。

というロジックを用いましたが、メーカーさんがカメラ内に仕込んだ仕掛けは②と③の部分が全く異なるかも知れません。

そこで、下記の35通りのロジックを考えて、どの演算がなされたと解釈するのが(確率的に)妥当なのかを総当たりで解析ごっこしてみることにしました。
ASI294MC-Proはピクセルマッピングされてる?_f0346040_07065361.jpg

★非冷却版ASI294MCの『HPC』機能の正体
この解析ごっこは、本当に難儀なもので、無い知恵を色々と絞った結果「35パターンの演算方式それぞれを想定して複数コマの画像を解析し、何コマ連続で想定値と一致するか」で判定することにしました。

本当は35パターンの試行結果全てを載せたいところ(もう、汗と涙の結晶・・・)ですが、それだと情報量が多すぎて本題がなんだったのか自分でも分からなくなるので、特に重要な結果だけを載せますね。

<全くヒットしない例>
ASI294MC-Proはピクセルマッピングされてる?_f0346040_01533914.jpg
これは、G1チャンネルのピクセルについて「隣接する上下左右のピクセル輝度の平均値を取り(16bitFITSは整数で書き込まれるので)小数点以下を切り上げで丸めて整数化して対象ピクセルの値と置き換える」というロジックを想定して、何コマ連続でそのとおりの結果になっているかを解析したものです。当然『単なる偶然』で値が一致することもあり得ますので、確率的に偶然起こる頻度を水色のラインで示しました。グラフ中の赤いラインが実測値ですが、ほとんど水色のライン上に乗っていることから、値がヒットしたのは単なる偶然だと解釈できます。
※途中で赤のラインが消えているのはヒット数が0になったため対数グラフだと負の方向に発散してプロット不能なため。

<微妙な例>
ASI294MC-Proはピクセルマッピングされてる?_f0346040_02010230.jpg
これは、G1チャンネルのピクセルについて「隣接する上下左右のピクセル輝度の平均値を取り(16bitFITSは整数で書き込まれるので)小数点以下を四捨五入で丸めて整数化して対象ピクセルの値と置き換える」というロジックを想定して、何コマ連続でそのとおりの結果になっているかを解析したものです。
実は、当初の本命はコレでした。なにしろ、あぷらなーとが自作した画像処理ソフト『邪崇帝主』に実装したソフトウェアマッピング法のロジックそのものですので、これがメーカーさんの手法と一致したら素人としては、この上ない光栄ですもの(笑)
さて、結論としては『微妙』です。確かに実測値である赤のラインは理論値である水色のラインよりも相当に高頻度(上にカーブ)であるものの、値が収束しておらず、解析コマ数を増やす毎にヒット数が減少し、ついにはヒット数ゼロとなりグラフから消えてしまっています。もちろん、コレがアタリの可能性もあります。いわゆるピクセルマッピングのように『補正対象のピクセルを決め打ちで固定化する』のではなく、一般のデジカメのノイズ処理のように『随時ノイズ判定しながら消すかどうか決める』方式ならば全コマで補正が行われていなくても不思議ではないからです。しかし、さきほどリンクしたメーカーさんの説明を見た限りでは、出荷前にどのピクセルを消すのかをメモリーしているように感じられたため、このような解析結果でアタリだと判定されたピクセル数は、解析コマ数を増やせば増やすほどメーカーさんが事前設定した補正対象のピクセル数に収束していかないと合点がいきません。どうやら、メーカーさんの整数化ロジックは四捨五入ではないようです。

<的中したと思われる例>
ASI294MC-Proはピクセルマッピングされてる?_f0346040_02123684.jpg
これは、G1チャンネルのピクセルについて「隣接する上下左右のピクセル輝度の平均値を取り(16bitFITSは整数で書き込まれるので)小数点以下を切り捨てで丸めて整数化して対象ピクセルの値と置き換える」というロジックを想定して、何コマ連続でそのとおりの結果になっているかを解析したものです。
これはもう疑いようが無いほどの様相を示しています。確率的に偶然起こりうる理論値の実に1.36×10の15乗倍という天文学的高確率でヒットしているのはもちろんですが、今回解析したG1チャンネル内の1000×1000ピクセル中でヒットしたピクセル数が971個に完全収束したからです。


★ここから意外な展開に・・・
ここまでの解析で、非冷却版のASI294MCは製品出荷時に不良ピクセルの特定作業を行っており、不良ピクセルに対しては出力値をカットして同チャンネル内の上下左右に隣接する4個のピクセルの平均値を切り捨てで整数値化した値で書き換える、というのがHPC機能の正体であるらしいことが示唆されました。

ふっふっふ。なるほどなるほど。では、冷却版のASI294MC-Proは『冷却』という技がある上に想定ユーザーがハイアマチュアのはずなので、無加工のRAWを吐くのだな、と思ったのです・・・・・・。

ちなみに、こういう酔狂な解析ごっこをする際に大切なのは「先入観を捨てる」ことだと考えています。たとえ、それがカタログスペック上の仕様や説明書に明文化されていても・・・です。というわけで念のため冷却版のASI294MC-Proでも同様の解析を行ってみましょう。

<念のため冷却版のASI294MC-Proに同じ解析を行った例>
ASI294MC-Proはピクセルマッピングされてる?_f0346040_02352541.jpg
な、なんだと?!
なんということでしょう。非冷却版とは異なりメーカーさんが公言しておらず、イメージ的にも一切補正されていない『素のRAWを吐く』と期待されていたASI294MC-Proでも、明らかな補正痕跡が発見されてしまいました。偶然起こると考えられる頻度に対して、8.73×10の15乗倍という高確率でヒットしていますので、さすがに勘違いとは思えないでしょう。ちなみにG1チャンネル中で解析対象にした1000×1000ピクセルのうち、補正されていると判定されたピクセルは815個に完全収束しました


★暫定的な結論として・・・

ZWOのASI294MCシリーズは

 ①冷却版も非冷却版も同様の補正ロジックで不良ピクセルが消されている
 ②補正対象の異常ピクセルは出荷前に検査してその座標がカメラ本体にメモリされているようだ
 ③補正ロジックは同一チャンネル内の上下左右に隣接する4ピクセルの平均を取り、切り捨てで丸めた整数値で書き換え、らしい
 ④補正されたピクセルは冷却版で全体の0.082%、非冷却版では全体の0.097%と推定され、非冷却版の方が2割ほど多いようだ

ことなどが示唆されました。

要するに、非冷却の方がホットピクセルが少なく見えるのは、補正対象となる異常ピクセルの弁別基準が異なり、2割ほど多く補正しているからだと推測されます。
※ホントは全チャンネルの全ピクセルについて同様の解析を施す必要がありますが、かなり解析に時間が掛かるので、今後の課題とさせてください。

なお、この機能がカメラメーカー独自のものなのか、センサー自体に実装されているものなのかは不明です。
ただし、前回のブログ記事で述べたように、同一センサーを用いたSVBONYのSV405CCは全く異なる補正ロジックが実装されているようです。


★★★お約束★★★
①素人目線での解析ごっこのため、結果の正しさは保証できません。
②個体差に関しては全く不明です。
③この形式の補正(補正対象が完全固定のため再現性が高く意図せぬ画像破綻が生じない)であれば、冷却版のカメラにも実装されることを(個人的には)歓迎します。
④メーカーさんが公言していない内容を含むため、この記事をソースとしてメーカーさんにお問い合わせすることはご遠慮ください。


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by supernova1987a | 2022-10-27 03:02 | 解析ごっこ・検証ごっこ | Comments(0)

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