解析ごっこ・検証ごっこ

カメラとフィルタの「ねじ込み相性」検証ごっこ

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★ねじ込めるはずがダメ?
あぷらなーとは『中庸なサイズ』CMOSカメラが好きなので、ASI1600系やASI294系のマイクロフォーサーズセンサーや、ASI174MC-CoolやXena-Mなどの1インチ(前後)センサーを愛用しています。フルサイズやAPSーCなどのカメラと比べると、併用するフィルタがいわゆるアメリカンサイズと呼ばれる小型タイプで済むのも魅力のひとつです。なにしろ大型のフィルタはお高いですからねぇ。

ところで、ケラレを回避するのに必要なおよそのフィルタ径は簡易的な作図をすることにより容易に求めることが可能です。
直感的にはセンサーサイズが大きいほど・F値が明るいほど、大きなフィルタが必要になると予想されるのですが、実際に幾何的に解いてみると
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このようになり
 r:センサーからフィルタまでの距離
 D:対物レンズ口径
 d:センサーサイズ(対角長)
 fl:焦点距離
とする際に、必要なフィルタ口径は
r × (D-d) / fl + d
となりました。

式の途中が D /fl ではなく (D-d)/fl となっていることから、F値とセンサーサイズだけでは求まらず、大口径の望遠鏡になるほどフィルタに求められる条件がシビアになることが分かります。また式の頭にrがあることから、同じフィルタであってもできるだけセンサーに近づけた方がケラレが少ないことも分かります。
具体的には
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このように同じF5の屈折であっても、口径が5cmの場合と15cmの場合を比較すると、
マイクロフォーサーズセンサーにアメリカンサイズフィルタを用いる時には
 5cmF5の場合  →センサーから20.68mm以内
 15cmF5の場合 →センサーから13.5mm以内
フィルタを設置する必要があることが分かります。

つまり、F値が明るくかつ大口径の望遠鏡の場合は、カメラスリーブの先端ではなくスリーブ内部にフィルタを設置する必要があると言えます。
そのため、各種の天体用CMOSカメラには、2インチスリーブの内部にアメリカンサイズのフィルタを格納するための変換リングが用意されています。
たとえば、こんな物ですね。
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これを2インチスリーブの奥までねじ込むことで、結果的にはフィルタからセンサーまでの距離を縮めることが可能です。

もちろん、より小さな口径・より大きなF値・より小さなセンサーを用いる場合には、スリーブ内部ではなくアメリカンサイズスリーブの先端にねじ込むのが楽ちんです。
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さて、話は2017年の2月頃にさかのぼりますが、私が始めてモノクロ冷却CMOSカメラを入手した際に
「いつかはL-RGB撮影なるものにチャレンジしよう♪」
とばかり、フィルターホイールを買ってしまったことがあります。
買って『しまった』と表現したのは、その後は多連装とかビームスプリッタとかに走ってしまい、このホイールは一度も投入すること無く冬眠しているためです(笑)。
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それはともかく、このホイールにフィルタをセットする際に、おかしな事に気付きました。上の写真の「2番」ポジションにセットしているのはケンコーの光害カットフィルタAstroLPR-TyzeⅡです。不思議なことにこのフィルタだけキッチリとねじ込めずに途中でネジが噛んで止まってしまうのです。
たとえば、これは2インチスリーブ内にアメリカンフィルタを設置するためのZWO製アダプタの例ですがAstroLPR-TypeⅡをねじ込もうとするとこんなに浮いてしまいます
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もちろん、多少浮いてしまうのを承知の上で優しくねじるだけにすれば実害があるものではないので気にしてはいなかったのですが、CP+2022のサイトロンジャパンさんセミナーに登壇した際に、新商品のアメリカンサイズQBPⅢ(これも途中で噛む)に言及する際に随分と悩みました。もしも初心者の方がこのフィルタを買って思い切り力を込めたらねじ切れてしまいそうだったからです。
このように、どうやら一言で「アメリカンサイズ」といっても、厳密にはネジの規格が異なるケースがあることが分かったのです。


★なぜこんなことが起こるのか?
実は、Twitter上ではこのフィルタネジの不一致に悩まれている方も多いようで、ブラック☆パンダさんからはこんなコメントも頂いていました。


要するに、アメリカンサイズのネジは本来インチ規格であるべきところ、ミリ規格の製品も市場に広まってしまったという事情らしいです。

では、一体どのメーカーのカメラとどのメーカーのフィルタの相性が悪いのでしょうか?
どうもネットで検索する限りでは明確な答えがヒットしません。
となれば・・・
よし。せめて手持ちの機材についてだけでも「検証ごっこ」せねばなるまい!


★予想をはるかに上回る複雑怪奇さ
はじめは甘く考えていました
「恐らくは日本製のフィルタだけ規格が異なり、海外メーカーのカメラ(やパーツ)とネジ相性が悪いだけでしょ?」
と思ったからです。当然「検証ごっこ」など一瞬で終わる油断していたのです・・・

現実には不可解な事例が多数発見されました。
たとえば、下記はZWOのアダプタリングなのですが・・・
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なんと、手持ちのものだけでも3タイプが存在することが判明しました。
 ①表面がザラザラで4穴貫通型(写真左上)
 ②表面が滑らかで4穴貫通型(写真下)
 ③表面がザラザラで2穴非貫通型(写真右上)
これが形だけの違いなら問題無いのですが、なんとそれぞれフィルタとの相性が異なるのです!

しかも、調べれば調べるほど不可解な例が出るわ出るわ・・・
<ZWO同士なのにねじ込めないケース>
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 ※これはASI294MM-Proの例ですが、ロットによりねじ込めるスリーブもありました。

<同じシリーズのフィルタなのに相性が異なるケース>
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  ※不思議なことにSⅡとOⅢはねじ込めました



ひぃぃぃぃ!


★全部調べるしかない
もう、こうなったら気合いです。ひょっとしたら、誰かの役に立つかも知れません。
フィルタ19種類・カメラやアダプタ13種類の組み合わせ247パターンを全てチェックしてみることにしました。

評価は下記の3ランクとしました。
 ○:最後までねじ込める
 △:途中でネジが噛んで止まる
 ×:全くねじ込めず装着不能

では、結果発表です。

ででん!!
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ああ、疲れた。
もうフィルタなんて見たくない(笑)

★★★お約束★★★
①素人の検証ごっこに過ぎませんので、勘違いや記録ミスが含まれているかも知れません
②同型パーツの場合、どのカメラの付属品だったかを取り違えてる可能性もあります
③評価△の中にも(何度回せるかなど)差異があります
④評価○の中には「グスグスで最後まで締め込んでようやく安定する」ものも含まれます
⑤あくまでも手持ちの個体です。同一製品でも個体差があるかもしれません


Commented by imarin0321 at 2022-11-07 10:55 x
沢山の方が重宝するマトリクス表、完成までの労力をお察し致します、相当貴重な表では無いでしょうか?

手元のフィルター2枚、重ねる順番を
・SVBONY UVIRcut
・サイトロン QBP(Ⅱ)
の順に付けようとすると重ねられません

しかし
・サイトロン QBP(Ⅱ)
・SVBONY UVIRcut
の順で取り付けると、重ねることが出来ます
=>何でだろう?と、不思議で仕方ありませんでした
このような理由があったんですね!納得
ありがとうございます!!
Commented by supernova1987a at 2022-11-07 19:16
> imarin0321さん
コメントありがとうございます!
おかげさまで、なんとか検証ごっこが一段落しました。
当初想像したよりも色んな相性があるものだなぁと驚きました。実際には、これに個体差も加わるでしょうから、最終的にはユーザーの皆さんがご自身の機材の相性をチェックする必要があるのだと思いますが、解決のヒントとなれば幸いです。
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by supernova1987a | 2022-11-06 18:29 | 解析ごっこ・検証ごっこ | Comments(2)

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