解析ごっこ・検証ごっこ

Xena-MとASI174MC-Coolの謎<最終章?>


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※長いです。前半はこれまでの流れを紹介した内容なので、面白そうだと思ったネタだけリンク先をご参照ください♪
★人生初の冷却CMOSカメラを手にして、もう6年
非常にお高い冷却CCDカメラの代用品として、格安の「冷却CMOSカメラ」なるものに手を出したのは2016年のことですから、もう6年も前のことになります。
たしか、
フィルムカメラ→冷却CCD→無改造デジタル一眼→天体改造デジタル一眼
と進行したところで、次のステップを探るためにニコンのD810AとZWOのASI174MC-Coolを同時導入したのでした。

1/1.2サイズのグローバルシャッターセンサーIMX174を搭載した235万画素の冷却カラーカメラですが、なかなかの『じゃじゃ馬』で、たとえば普通に撮っただけだと、キンキンに冷やしてもこんな感じの芸術的な絵になります(笑)
ホットピクセルの多さ以前に、右下のアンプグローと全面に生じた橫嶋ノイズ(バンディングノイズ)が凄まじいですね。
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※VMC260L+レデューサVMC+LPS-P2
ASI174MC-Cool -15℃ ゲイン300 15秒露光1コマ
 ダーク・フラットなし ノートリミング

これがASI1600MC-Coolだと、同様の設定で撮ってもこんな感じで、格段に素直な画像になっていることが分かります。
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※VMC260L+レデューサVMC+LPS-P2
ASI1600MC-Cool -15℃ ゲイン400 15秒露光1コマ
 ダーク・フラットなし ノートリミング


★思えば、174MCには色々と『実験台』になってもらった

ではASI174MCにはあまり活躍の場が無かったのかというと、そうではなくて、むしろ色々なテーマで実験台になってもらいました

<冷却の効果を確かめる実験>

<月・惑星撮影への転用実験>



<D810Aと写り具合の比較実験>

<AS!2による橫縞ノイズ除去実験>

<ミルククラウンとローリング歪みの検証実験>

<センサーのベイヤー構造を観察する実験>


<自宅周辺の光害の点滅周期検出実験>

<LEDトレース台のフリッカームラの検証実験>

 
<放射線がカメラに写るかどうかの実験>

このように、各種セミナーや雑誌記事連載に用いたネタのかなりの部分は「ASI174MC-Coolと楽しく格闘する中で見いだされたものだ」と言っても過言ではありません。もちろん、FITSファイルのデータ構造の解析ごっこや、各種ノイズの解析ごっこにも大活躍しました。

ただし・・・


★まだ判明していない謎が・・・
ところで、今年の3月に開催されたCP+2022ではサイトロンジャパンさんのオンラインセミナーに登壇させていただきました。

この際は、PlayerOneの新鋭カメラXena-Mと戦わせる相手として(姉妹センサー搭載の)ASI174MC-Coolを登場させました

要するに「ほぼ同じスペックの姉妹センサーであっても、Xena-Mはキンキンに冷やしたASI174Mc-Coolよりもノイズが少なく、星雲撮影にも好適」というお話です。

ただし白状すると、このセミナーで用いた資料の中で1点(謎解き時間が足りずに)『半熟』状態のまま出してしまったものがあります。

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まず、この資料は正しいです。非冷却のXena-Mは独自の「DPS機能」によってホットピクセルやクールピクセル(PlayerOne用語ではコールドピクセル)が軽減されていると謳われていますので、その効果がASI174MC-Coolを冷やすよりも効果的に機能しているというイメージです。

問題は、ココです。
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上の図で記されたXena-Mには出現しない群を弁別して、その座標を特定してみると下記のようにASI174M-Coolのアンプグローの位置に集中することが分かったため「Xena-Mは何らかの仕掛けでこのアンプグローを抑制している?」と表現しました。
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しかし、ココにはチョッピリごまかしが入っています。
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両機種に共通して見られる『不思議な』群の正体が不明のままだったからです。


★Xena-MのDPSの正体を探る試み
最初にお断りしておきますが、ここで書くことはあくまで素人目線による独自推理にすぎません。公式ページの説明とは相反する部分がありますので、あまり信用しないでください

これまで、ZWOやSVBONYの一部機種やSharp-Capに実装されているノイズリダクション方法について、考察ごっこしてきました。
今回は、いよいよXena-MのDPS機能の謎に迫ってみたいと思います。

まずは、出荷前に不良ピクセル座標を特定して対象ピクセルに対して何らかの演算で補完処理を施す「ピクセルマッピング」の一種ではないかと想像して、下記の21パターンの補正方式を考えました

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当初、『本命』は、上記のうちパターンA④・パターンA⑤・パターンD①・パターンD②だと予想していました。
モノクロセンサーにおける最短距離を持つ隣接ピクセルの参照パターンであることと、公式ページの機能紹介の中にメジアンの利用と解釈できる表現があったからです。

<パターンA④の解析(ハズレ)例>
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これは、Xena-Mの全ピクセルについて「隣接する上下左右のピクセル輝度のメジアンを取り(母集団が4個のメジアンは上位2位と3位の平均値となりますが、16bitFITSは整数で書き込む必要があるので)小数点以下を切り捨てで丸めて整数化して対象ピクセルの値と置き換える」というロジックを想定して、何コマ連続でそのとおりの結果になっているかを解析したものです。当然『単なる偶然』で値が一致することもあり得ますので、確率的に偶然起こる頻度を水色のラインで示しました。グラフ中の赤いラインが実測値ですが、ほとんど水色のライン上に乗っていることから、値がヒットしたのは単なる偶然だと解釈できます。
※途中で赤のラインが消えているのはヒット数が0になったため対数グラフだと負の方向に発散してプロット不能なため。

実は、ここで相当に難儀しました。公式ページの文言を参考にして「なんとかメジアンを使った補正形式を考えよう」とがんばったのですが、どう工夫しても一向に統計的な有意性が見つかりません。そこで「実際にはメジアンではなく平均で演算されているのではないか」と考えて、方針を変えました

<パターンA①の解析(当たり)例>
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これは、Xena-Mの全ピクセルについて「隣接する上下左右のピクセル輝度の平均値を取り(16bitFITSは整数で書き込まれるので)小数点以下を切り捨てで丸めて整数化して対象ピクセルの値と置き換える」というロジックを想定して、何コマ連続でそのとおりの結果になっているかを解析したものです。
これはもう疑いようが無いほどの様相を示しています。確率的に偶然起こりうる理論値の実に6.3×10の21乗倍という天文学的高確率でヒットしているのはもちろんですが、今回解析した全ピクセル中でヒットしたピクセル数が5947個に完全収束したからです。なお、SV405CCの解析時に見えた「条件がヒットしたピクセル数がダラダラ下がり、完全収束しない」という現象が見られないことから、ノイズの判定は随時行われているのではなく、出荷前に不良ピクセルを判定してあらかじめ本体に記憶されていて、対象ピクセルにのみ強制的な補完演算がなされていると想像できます。

一応、この解析ごっこが正しいと仮定すると、Xena-Mは約230万ピクセルのうち5947個の異常ピクセル(ホットピクセルなど)の位置が事前にメモリーされており、隣接4個のピクセルの平均値(小数点以下切り捨て)を用いて消されていると解釈できます。


★ASI174MC-Coolには実装されてない・・・ハズだが?
前述の「Xena-MはASI174MC-Coolとくらべて圧倒的にホットピクセルが少ない」件については、このピクセルマッピング的な処理によってホットピクセルが事前に消されているからだと解釈できます。すると、ホットピクセルが出まくりのASI174MC-Coolはピクセルマッピング的な処理がされていない素のRAWだろうと予想した・・・のです

Xena-Mで検出された補正パターンと同等のロジックを仮定してASI174MC-Coolのダークフレーム15コマにも同様の解析を掛けてみます。ただし、ASI174MC-Coolはカラーカメラのため、ディベイヤー前にあらかじめR/G1/G2/Bの4チャンネルにデータを分離してから解析作業を行いました。

すると・・・

ででん!!
<Rチャンネル>
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<G1チャンネル>
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<G2チャンネル>
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<Bチャンネル>
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なんということでしょう。
ホットピクセルが多いため、ピクセルマッピング的なノイズ消し機能は実装されていないと予想していたASI174MC-Coolにも、Xena-Mと同様の補正機能が実装されているように見えます。これは、非冷却のASI294MCにだけ実装されているとされる(ZWOのいうところの)「HPC機能」かもしれません。

興味深いことに、検出された補正痕跡の数はカラーチャンネルによって大きな差があります。
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どうやら、元々は青のピクセルに非常に多い不良ピクセルが存在しており、あらかじめそれを消したのでしょう。それに対して緑のピクセルは補正痕跡が少ないようです。ひょっとすると、現像後の解像感に最も影響するG1・G2チャンネルに関してはノイズ量よりも解像度を優先した味付けなのかもしれませんね。

なお、全色を合わせると、SI174MC-Coolで消された不良ピクセルは4687個と判定されました。
これは、Xena-Mの5947個と比べると1000個以上少ない数ですので、残存ホットピクセルが多いという結果とも一応矛盾しません。
※補正対象ピクセルの数よりも、何を異常と見なすかの閾値の方が寄与している可能性もあります。


★時系列解析の『群』を見直す
こうなると、ASI174MC-Coolの時系列解析(輝度メジアンと輝度揺らぎをプロット)グラフの解釈が大きく変わります。
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ASI174MC-Coolの時系列解析グラフのおおよその見方は上記の通りですが、
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問題は、この不自然に乖離した群です。
当初はアンプグローに関係するのではないかと想像していたのですが、この群がピクセルマッピングされたものなのではないか

そこで、この領域のピクセルのみを弁別し、その座標を先ほど検出した補正痕跡と照合してみることにしました。
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その結果が下記のグラフです。黒の□は補正痕跡の座標、赤の●はピクセルは上記の赤エリア、水色の●は上記の緑エリアです。

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このことから、下記の2つが示唆されます。
 ①乖離した奇妙な群は、そのほとんど全てがピクセルマッピングされたもの
 ②乖離した群のうち、Xena-Mには見られなかった部分はアンプグローの位置に一致する

ああ、なるほど!!

なんとなく、カラクリが見えてきました
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ASI174MC-CoolとXena-Mの時系列解析グラフが大きく異なるプロセスには、ピクセルマッピングの閾値が(Xena-Mの方が)シビアであること以外に、ASI174MC-Coolの方には上図のような作用がはたらいていると推理します。

なお、細かいことですが、かねがねASI174MC-Coolの輝度揺らぎ(標準偏差)ヒストグラムを求めると『奇妙な2山』になる謎も解明されました。今回判明した補正演算だと、元の値が参照ピクセル4個の算術平均と置き換わることになりますが、これは言うなれば4コマ加算平均コンポジットすることと似ており、補正対象のピクセルだけはショットノイズ量が1/√4=1/2になることを示唆します。
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ふはははは。
ASI174MC-Coolにまつわる長年の謎、ついに解けたわ!

ああ、6年間も費やしてしまったけれど面白かった♪

★★★お約束★★★
①素人目線での解析ごっこのため、結果の正しさは保証できません。
②個体差に関しては全く不明です。
③この形式の補正(補正対象が完全固定のため再現性が高く意図せぬ画像破綻が生じない)であれば、冷却版のカメラにも実装されることを(個人的には)歓迎します。
④メーカーさんが公言していない内容を含むため、この記事をソースとしてメーカーさんにお問い合わせすることはご遠慮ください。


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by supernova1987a | 2022-11-13 22:38 | 解析ごっこ・検証ごっこ | Comments(0)

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