★テスト機をお借りして、随分時間が経ちましたがPlayerOneの非冷却モノクロCMOSカメラApollo-M-Maxは本当に面白いカメラです。テスト機をサイトロンジャパンさんのご厚意でお借りしてから随分と時間が経ちましたが、いよいよレビュー記事第2弾です。
第1弾レビューでは、ApolloM-Maxの基本的特性についてと霧箱を用いた宇宙線の動画撮影性能について、楽しくレポートしました。
詳細は上記のリンクをご参照いただくとして、ザックリとした特徴は下記の通りだと感じました。
①グローバルシャッター搭載機で高速移動体の撮影でもコンニャク現象(ローリング歪み)の影響を受けない
②ピクセルピッチが9μmとずば抜けて巨大なため、感度が高い
③リードノイズを減らすHCGモードの発動タイミングは公称でゲイン145だが、実際は146のようだ
④ユニティゲインの値は公開されていないが、274付近にありそうだ
⑤グローバルシャッター機は横シマノイズ(バンディングノイズ)が盛大に出ることが多いが、
ApolloM-Maxの場合はかなり少なく感じる
では、今回はさらに色々な可能性を試して遊んでみたいと思います♪
★歪まずFPSが高いことの活用
FPSとは1秒あたり最大で何コマ連写できるかを表す数値です。
公称だと、ApolloM-MaxのFPSはフル画素で約126コマ/secとされています。
たとえば、スペック的に似ているXena-Mだと48コマ/sec、Uranus-Cだと(ADC10bit駆動で)47コマ/secとされていますから、相当に高性能であることが予想されます。ちなみに、とくに高速転送がウリではないASI1600MM-Proだと公称でも14.7 /secに過ぎません。
もちろん、ROI(クロップ)によって転送範囲を絞るとFPSは上がりますし、撮像用PCのスペックによっても実際のFPSは大幅に変動します。ApolloM-MaxではありませんがASI1600MM-Proの実測例は下記の記事でレポートしましたので、興味のある方はご参照ください。
また、グローバルシャッター機の特長としてイチオシの「コンニャク現象が発現しない理由」については、CP+2022のオンラインセミナーでXena-M(これもグローバルシャッター機)の解説時に詳細を述べましたので、ぜひご参照ください。
※グローバルシャッターについてのお話は、24分45秒あたりからです。
このようにコンニャク現象が出ないこととFPSが高いことを活用した撮影対象としては、ミルククラウンの撮影とか昆虫の羽ばたき動画撮影とかが考えられますので、さっそくやってみましょう♪
★ミルククラウンの撮影実験
最初に誤解無きように補足しておきますが、実はグローバルシャッター機以外(ローリングシャッター機)でもミルククラウンは撮影できます。特に、ミルク滴が着水した後にクラウンが開く過程は比較的ゆっくりしているため、歪みに影響があまり目立たないからです。ただし、落下途中のミルク滴は高速移動していますので盛大に歪んでしまいます。
今回は、ニコンの85mmF1.8Dを撮像用レンズとして用いました。こんな感じのセットアップですね。
接続アダプタとしてSVBONYのパーツ(本来はカメラレンズを眼視観望用に転用する用途)を用いました。本来の用途と異なりますので普通はピントが出ません。(Xena-Mのようなセンサー面がアダプタの中まで差し込まれるタイプは合焦する)ところが、ミルククラウンの撮影を全群繰り出し型のレンズで行う場合は、マクロ用の中間リングの役割も兼ねることができるので、むしろ好都合です。
撮像パラメータは下記の設定にしました。
[Apollo-M MAX (IMX432)]
Binning=1
Colour Space=MONO8
Capture Area=640x480
Output Format=SER file (*.ser)
Offset=0
Frame Rate Limit=Maximum
Analogue Gain=277
Exposure=0.0500ms
※絞り値はF11。IR/UVカットフィルタ併用。
ちなみに、以上の設定によりFPSがデフォルトの約2倍の250FPSまで向上しました。
では、果たしてきれいなミルククラウン動画が写せたのか見てみましょう
ででん!
なかなか美しく写せました。
ApolloM-Maxの威力絶大ですね♪
※なお、RAW画像出力を16bitではなく8bitに押さえているのには理由があります。どういう原理かは不明ですが、16bitのままで撮影すると照明がミルクに反射した高輝度部が暗転(ソラリゼーションしたみたいに)する怪現象が認められるためです。「16bitの方が階調が豊かだから有利に決まっている」と安易に考えていると失敗しちゃう特殊ケースですね。(ちなみに、これは他の機種でもしばしば見られます)
★アゲハ蝶の羽ばたきを捉える
※最初に言っておきます。下記はApolloM-Maxで赤外線撮影ができるかどうかもテストするために、あえてサイトロンジャパンのIR720フィルタを併用しています。昆虫撮影でこのフィルタが特に有利な訳ではありません。
昆虫の羽ばたきは人間の目にも止まらないほど高速なので普通は観察できませんが、ApolloM-Maxの高速グローバルシャッターのパワーでナミアゲハの羽ばたきをスローモーション動画として撮影できるか実験してみましょう。
ミルククラウンよりも、遠くの被写体を写すことになるので、接続アダプタは色々なパーツを組み合わせて自作しました。
さて、ではお庭に遊びに来たナミアゲハさんをスローモーション動画で撮影してみましょう。
撮像パラメータは下記の通りです
Binning=1
Colour Space=MONO16
Capture Area=1608x828
Output Format=SER file (*.ser)
Offset=80
Frame Rate Limit=Maximum
Analogue Gain=200
Exposure=0.3300ms
※少し縦方向にROI(クロップ)して上下をカットしていますが、これには理由があります。センサーの読み出し方向に関係するのではないかと想像しているのですが、ApolloM-Maxは左右をカットしてもFPSは上がらない反面、上下をカットするとFPSが向上するからです。ちなみに、上記の設定でFPSは145/secまで向上しました。
では、アゲハさんの羽ばたきを観察してみましょう!
ででん!!
おおー。大成功!!
スローモーションで見ると、アゲハさんが「よっこらしょっ」と一生懸命羽ばたいて飛んでいる様子が分かって可愛らしいですね。見ている方も羽とか空気の抵抗が感じられて、思わず「がんばれ」と応援したくなります♪
※撮像したRAW動画(16bitSer形式)はフリーソフトのSerPlayerを用いることでAVIに変換できるのですが、それでも少々重かったのでmp4に変換しました。なおAVIをmp4に圧縮するソフトは色々ありますが、メーカーロゴが入ったり操作がややこしかったりして面倒くさいのでMATLABで変換スクリプトを書いて圧縮しました(笑)
★月夜のアレは撮れるのか?
あぷらなーとが流星写真を真面目に撮ったのは、2001年に奇跡的な大当たりを記録したしし座流星群だけです。
この撮影に成功した後、精神的にも経済的(笑)にも燃え尽きてしまって10年ほど天文界隈から遠ざかってしまったという黒歴史があるのですが、それはそうと、フィルム時代から語られていた秘術に「赤外線だと月夜でも流星が写るぞ」というものがありますよね。たしかに、月光が太陽光と似た連続スペクトルを持つとすれば月に照らされた夜空も(肉眼では分からないけれど)『青空』になっているハズですから、赤外線透過フィルタを用いることでバックグラウンドを押さえることができそうです。デジタル化が進んだ現在では、ここに画像処理を加えることもできますから、月齢の条件が悪くても、流星写真が楽しめそうな気がします。
もしも、高画質の流星動画を撮影できたら楽しさ満点です。
というわけで・・・ピークは過ぎていますが、11月19日の夜に「お気軽赤外線動画撮影」を試してみることにしました。
白状すると、あぷらなーとは星野系の動画とかタイムラプスとかの類いは全く未経験の超ど素人です。
ApolloM-Maxにサムヤン14mmF2.8とサイトロンIR720フィルタを装着して、固定撮影を試みます。
ちなみに、サムヤン14mmは、俗に『おみくじレンズ』とも揶揄されているほど個体差が大きいのが有名ですが、うちの個体は片ボケが盛大に出る『大ハズレ』ちゃんでした(笑)
ちなみに、ウワサでは内部にアルミホイルとかを噛ますことでスケアリング調整できるという愉快な情報があったのですが、あんまりオススメしません。下手すると、あぷらなーとのように、分解途中で部品が勢いよく射出されて行方不明となり、原状復帰にすら難儀するという悲劇を生む恐れがあります(笑)
それは、ともかく方ボケしたサムヤンでもセンサーサイズの小さなApolloM-Maxなら大して問題無かろう、ということで、数年ぶりにこのレンズを持ち出してセットアップしたのでした。(ApolloM-Max自体にもスケアリング調整機能が実装されていますが、それはまた今後の課題とさせてください。)
本当は15FPS程度で流星の動きも写したかったのですが、今回は解像度を優先したので比較的流星自体の写りが良かった2秒露光の動画をお見せします。
撮像パラメータは次の通りです。ええ、ゲイン『上げ上げ』です♪
Binning=1
Colour Space=MONO16
Capture Area=1608x1104
Output Format=SER file (*.ser)
Offset=200
Frame Rate Limit=Maximum
Analogue Gain=625
Exposure=2.000s
※サムヤン14mmF2.8は絞り開放で運用しました。
ででん!
※これも、元データだと200MB以上、AVIに変換しても100MB以上あったので、MATLABで書いたスクリプトで15MBまで圧縮したmp4に変換しています。
お月様のゴースト群と人工衛星と流星の愉快な共演(笑)
まだまだ、色々な設定を試す必要がありますが、おおいに可能性を感じる実験でした♪
第3弾では、いよいよApolloM-Maxのノイズ特性と星雲撮影への可能性についてレビューしたいと思います。
おたのしみに♪
★★★お約束★★★
①素人測定のため、定量的な数値の信頼性は保証できません。
②測定ミスや個体差の影響については不明です。