機材レビュー

PlayerOne Poseidon-C Pro インプレッション①

★久々に「大物」に手を出しちゃいました
あぷらなーとのキャラは、「お高いの1機」よりも「お安いの沢山」が好きな天邪鬼なのですが、最近あまりにも天気が悪くて天体写真撮影ができないストレスからウッカリ『似合わないもの』に手を出してしまいました。

それは・・・
ででん!!
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なんと清水ダイブして、PlayerOneのAPS-C冷却CMOSカメラ:Poseidon-C Proを降臨させてしまいました!!
APS-Cサイズであることはもちろん、ADCが16bit駆動のCMOSも初経験です。





★そもそもAPS-Cなんて必要なのか?
さて大変です。これまで「望遠鏡の口径さえ同じであれば、画角が同じになるよう(レデューサなどで)調整すれば、センサーサイズは画質に関係しない」と主張してきましたし、それを証明するための簡易的な図面まで作成して自分を納得させていました。
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ところが大変です。なんとかしてお高いカメラを生やしてしまったことを正当化せねばなりません。
しかたないので、ここで我が主砲:ビクセンVMC260Lにご登場いただきましょう。
VMC260Lには(すでにディスコンですが)非常に高性能な専用レデューサ「レデューサVMC」が用意されています。これは本来F11.4のVMC260LをF7.15にまで明るくする逸品なのですが、実はその良像範囲はAPS-Cと定められています。要するにVMC260Lの真価を発揮するにはAPS-Cが最適なのです(笑)
また、来年明るくなると予想されている某彗星を攻略するには、ある程度画角が広い方が好ましい可能性があり、そういう意味でもm4/3や1インチセンサーよりも広いフォーマットの冷却CMOSカメラが強力な武器になりそうです。

まあ、アレです。海皇神ポセイドンの商品写真を見てその独特なフォルムに一目惚れしてしまった、などという不謹慎な理由ではないのですよ・・・たぶん。
では、冗談はさておき、さっそく解析ごっこしてみましょう


★テスト①ゼロアンプグローは本当か?
まずは、いつものダークフレームの観察からスタートです。
Poseidon-C Proを0℃まで冷却し、ゲイン125・30秒露光で撮像したダークフレームを観察してみましょう。
セールスポイントのひとつ「ゼロアンプグロー」は本当でしょうか?

比較対象は名機ASI294MC-Proです。
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※左:ASI294MC Pro(ゲイン300) 右:Poseidon-C Pro(ゲイン125) ともにレベル幅32に切り詰め(ノートリミング)

なんとビックリ仰天です。相当キツくレベルを切り詰めたのですがPoseidonにはアンプグローが視認できません。さらにホットピクセルもほとんど目立たないことが分かります。これだけダークが暗くて一様なら、ダークフレームの減算も最小限で済みそうですし縮緬ノイズも発生しにくいかもしれません。
※ASI294MCPの方がゲインが高そうに見えますが、Poseidon-Cのユニティゲインが非常に低い(ひょっとするとゲイン0でもユニティゲインを超えているかも)ために意図的に差をつけました。(本当はASI294MCPのゲインを240にするとほぼ同等のコンバージョンファクタになると想像します)


★テスト②ダークフレームの時系列解析
ダークフレームを1コマ観察しただけでも、Poseidon-C Proの特異性がうかがえましたので、いつもの時系列解析をやってみることにしましょう。
解析対象は0℃・30秒露光で連写したダークフレームです。
ちなみに、あぷらなーと流・時系列解析グラフの見方は、およそ下記のようになります。
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では、名機ASI294MC-ProとPoseidon-C Proについてダークフレームの時系列解析結果を比較してみましょう。

すると・・・
ででん!!
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ほ、細ッ!!
思わず叫んでしまいました。ASI294MCに見られた右上に伸びるホットピクセル群や、酩酊ピクセル群がほとんど見当たりません
ただし、SV405CC(の旧ドライバ運用)などで消滅してしまった荷電粒子ヒットイベント(これは自然現象なので、写るのが正しい)がきちんと残されていることから、メジアンフィルタや随時判定による強引なホットピクセル補正とも事情が異なるようです。
(注)そもそもASI294MCPは14bitADC出力データを16bitに散らしてFITS出力するので、そもそも解析上揺らぎが大きく見えるというカラクリもあります。


★テスト③DPS機能は効いているか?
Poseidon-Cに限らずPlayerOneのCMOSカメラには不良ピクセルを無効化するDPS機能が実装されています。素人目には、出荷前の個体を1台1台検査して、不良ピクセルの座標を本体に記録し撮影時にはその座標のピクセルが無効化されることでノイズを防止するという、一種のピクセルマッピングだと想像しています。では、その効果が如何ほどなのかについては(DPS機能がOFFにできない以上)推測すら不可能なのですが、撮影したダークフレームを注意深く観察することで「気配を占う」事くらいはできます。それでは、Uranus-CやNeptune-CⅡで観察された気配と同等のロジックを想定して解析ごっこしてみましょう
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この辺のロジックは一切公開されていない事なので、あくまでも素人の妄想だと解釈して欲しいのですが、
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一応、各チャンネルごとに上記のような数のホットピクセルがDPSで無効化されている気配が観察されました。
これなら、ホットピクセルがほとんど見当たらないことも一応合点がいきます。

※ASI294MC-Proに実装されているピクセルマッピング系の機能と、SharpCapに実装されている随時判定型のホットピクセルリダクション機能についての推測ごっこについては、下記をご参照ください。(SV405CCのノイズリダクションについては、最新ドライバで挙動が変更されましたので、ここではリンクを貼りません。この件については、後日記事を書きます。)


★テスト④HCGモードは効いているか?
これはPlayerOneに限った話ではなく、近年のCMOSセンサーの多くに実装されている機能ですが、あるゲインを閾値としてリードノイズがガクッと減少するHCGモード(ハイゲインモード)というものがあります。この機能の発動により、淡い星雲がより鮮明に写ることが期待される有用な機能です。必ずしもHCG発動ゲイン以上で運用することが正しい訳ではありませんが、少なくとも「どのゲインでHCGが発動するのか」は実際に検証しておく必要があります。ロットの違いやドライバの更新により仕様が変わったケースも見られますし、販売店さんのサイトでも微妙に閾値がズレていることもあるからです。(PlayerOneのカメラについては公称値と実測値の違う可能性について報告して調査していただきましたので、現在の公式サイトでは正しい値が記載されています。)

まずは、30刻みでゲインをシフトしながらリードノイズの様子を観察してみましょう
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公称スペックとよく似た傾向が観察されました。確かにゲイン120から150の間でガクッとノイズが減っていることが分かります。どうやらこの間にHGCモードの発動タイミングがありそうです。では、その正確な閾値がどこなのかを特定するために、ゲインを1刻みでシフトさせてリードノイズの変化を観察してみましょう
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ああ、ハッキリと見えてきました。
Poseidon-C ProのHGC発動タイミングは「ゲイン125」と判明しました!
※これは公称スペックと完全一致しましたので、まずは一安心♪


★テスト⑤2つある駆動モードで差は出るか?
IMX571センサーを用いた天体用カメラは他メーカーからも出ていますが、Poseidon-C Proの場合は、なんと全ゲインに関して「Normalモード」と「LowNoiseモード」が選択できるという必殺技が実装されていると謳われています。要するに、フレームレートを稼ぐか画質を優先するかをユーザーが選べるという興味深い機能です。では、さっそく、その差が観察できるか解析ごっこしてみましょう

ででん!!
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おおー!
R・G1・G2・Bのそれぞれのチャンネルについて、全てLowNoiseモードの方がNormalモードよりも低ノイズであることが観察されました
すげー♪

ここで、各チャンネルについて別々に解析したのには理由があります。これが個体差なのか仕様なのかは全く不明なのですが、我が家のポセイドンには、どうやらチャンネルごとにノイズの多寡が異なる気配を発見したからです。
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この解析ごっこが正しいと仮定すると、どうやらPoseidon-Cにはシグナルの出力(と処理)に関して2系統の流れがあるように見えます。具体的には「RチャンネルとG1チャンネル」は「G2チャンネルとBチャンネル」よりも全体的に低ノイズであるようです。ちなみに、下記のようにデモザイクの方式を4通りに変えて画像処理した結果、Poseidon-C Proのベイヤー配列は「RGGB型」であることが判明したので、ちょうど低ノイズの行と高ノイズの行が交互に並んでいることになりますね。
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これが意図的な工夫なのか調整不足による事故なのかは全く不明ですが、以前記事に書いたASI1600MM-Coolのような致命的な調整不良↓(モノクロカメラなのにベイヤー構造が写っちゃう)とは異なり、実害はほとんで無視できると思います。

★テスト⑥ユニティゲインは実測できるか?
ユニティゲインとは「光電子が1匹入ってくるとシグナルが1出る」というゲインの事ですが、実際にはユニティゲインにこだわる必要性は特にありません。ただし、ここまでやった各種のノイズ解析においては、ノイズ量を最終的に光電子数に変換する必要があるため、システムゲイン(コンバージョンファクタ)を測定しておくことは重要です。ここまでのノイズ測定では公称グラフから「ユニティゲインは6付近であるらしい」と仮定して処理しましたが、本当のシステムゲインはどうなっているのかを調べてみましょう。一般的にはSharpCapに実装されているセンサー分析機能などを利用すればフルオートで計測してくれて便利そうなのですが、実はこれは極めて簡易的なもので「ゲインの調整が理論値通りである」ことを前提としてフルウェルやシステムゲインの値などを推測しているに過ぎないからです。また、手持ちの個体が正常であるかどうかを検査するためにSharpCapのセンサー分析を推奨しているメーカーさんも見られることから、そもそもメーカーさんの公称データ自体が簡易的なものである可能性も十分考えられます。

テスト⑤で、G1ピクセルはG2ピクセルよりもリードノイズが少ない優秀なチャンネルであるらしいことが判明しましたので、システムゲインの測定でもG1チャンネルを用いることにしましょう

システムゲインの測定には、ショットノイズ量が光電子数に起因したポアソン分布に従うことを利用し「ノイズ量から実際の光電子数を逆算」することで、「入射光電子数 VS 出力輝度シグナル」を見積もります。光源にはLEDトレース台を(フリッカーを避けるため)フル発光で用い、減光フィルタ(ND400)とセンサー面の距離を調整しました。
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また、ゲイン0~450まで変化させたときにどのゲインでも低輝度側と高輝度側がサチらないような露光時間を求めて下記のような計画表を作りました。
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あとは、それぞれのゲインについて低輝度ギリギリ(青色セル)から高輝度ギリギリ(黄色セル)まで段階露光していき、データ解析するだけです。とはいえ、これは結構難儀な作業で、解析に用いる画像を撮り終えるのに5時間も掛かってしまいました。

さて、仕様通りのグラフが得られたのか、見てみましょう。
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高ゲイン領域については公称値と相当に良い一致を見ますが、低ゲイン側が合いません
ただし、これは想定済みです。そもそもHGCモード発動前後でアンプが切り替わっているなど、なんらかの仕掛けが働いているはずなので、全てのゲインを1本の指数関数で表現するには無理があるからです。
では、アンプの種類(?)が途中で切り替わっていると仮定してフィッティングを試みてみましょう。切り替わりが見やすいように縦軸も対数表記にしてみます。

すると・・・
ででん!!
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HCG発動タイミング付近(よりも少し左側??)でアンプの挙動が変わっているように見えますね♪
これを信じる限り、Poseidon-C Proはゲイン0でもすでにユニティゲインよりも高い感度になっているのかも知れません。もちろん、なんら実害はないでしょうけれど。

★ともかく・・・
あまりにも天気が悪い日が続くので、各種の解析ごっこが一気に進んでしまいました(笑)
とにかく感じたことは、各種の解析作業が非常にやりやすかった(変なノイズが極めて少ない)ということです。
まだ1枚も星雲を実写していませんが、あえて言おう。
「さすがは海皇神。良く写る予感しかせぬわッ!!」

★★★お約束★★★
①各種の結果は、あくまでも素人による解析ごっこに過ぎませんので、信用しないでください。
②信頼性の無い遊びのため、本記事の内容をソースとしてメーカーさんや販売店さんにお問い合わせすることはご遠慮願います。
③「良く写りそう」なのは、単なる「予感」です。

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by supernova1987a | 2023-07-03 02:56 | 機材レビュー | Comments(0)

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