★『大物』新兵器のファーストライト色々な思惑があって、思い切ってポチった『大物』・PlayerOneのAPS-C冷却CMOSカメラPoseidon-C Proですが、基本的な特性の解析ごっこは前回完了しました。
その後、なかなか天候には恵まれていなかったのですが、7月中旬にようやく好天に恵まれました。
早速実写テストといきたいところですが、ここはやはり『あぷらなーと らしい』邪悪なテストを行いたいところです。
色々と悩んだ結果、ファーストライトは手持ちのカメラ群から非常に強力なライバルを選定し、同時刻にサイドバイサイドテストをすることに決定。
というわけで、ZWOのASI294MC-Pro・ニコンのD810Aという強敵と競わせてみましょう♪
★フォーマットの違いをどうとらえるか?
さて、ここで悩んだのはセンサーフォーマットの違いです。
Poseidon-C ProがAPS-Cフォーマットなのに対して、ASI294MC-Proはマイクロフォーサーズ、D810Aはフルサイズです。
センサーフォーマットの違いによる差異は諸説ありますが、よくある誤解として
「200mmF2.8の望遠でもm4/3なら400mmF2.8相当になるので、機材が軽量化される」
「同様の環境ならフルサイズの方がボケが大きくて美しい」
「同様の環境ならフルサイズの方がノイズが少ない」
という類いの言説があります。
あくまでも個人的見解なのですが、光学的には小サイズセンサーは大サイズセンサーの中央部をクロップ(トリミング)しただけなので、言ってみれば『無収差のテレコン』と同じ作用しかもたらしません。したがって、200mmF2.8をm4/3で運用したとしても、それは400mmF2.8相当に化けるのではなく400mmF5.6相当の描写になります。また、いわゆるISO感度はゲインのみを表しているのではなくピクセル自体の受光面積なども考慮された値のため、小サイズのセンサーは大サイズのセンサーよりも高いゲインを与えることで同等のISO感度に見せかけています。要するに(同等の画素数の場合)同じF値であっても小サイズのセンサーは大サイズのセンサーよりもヒットする光子数が少ないため、いわゆる『高感度ノイズ』(カメラが悪いのではなく、その正体は、露光不足に伴い飛来する光子数のゆらぎが観察される光子ショットノイズ)が効いてザラザラになるという理屈です。また、ボケ量に関してもセンサーサイズが異なる場合に揃えるべきはF値ではなく口径なので、同一の換算焦点距離で同一F値であっても小サイズのセンサーの方がボケ量が少なくなります。要するに、ザックリ言って「フルサイズセンサー+300mmF2.8」と同等の画を得るには「APS-Cなら200mmF2」「m4/3なら150mmF1.4」という結構難儀なレンズが必要となります。また、いわゆる回折ボケの影響も一般的にはF値のみに起因するとされていますが、実際には「鑑賞する画の拡大率がフォーマットによって異なる」ことが効いてくるため、結局は(同じ構図なら)F値ではなく口径のみで決まることになります。
この辺りの詳細は面白いので、そのうち検証ごっこ&考察ごっこしようと思いますが、とりあえず今回は「淡い星雲を効率良く写すには?」というテーマで考察ごっこしてみます。結論から言うと「同じ構図・同じ画素数で撮影する際は、望遠鏡(やカメラレンズ)の口径さえ同一であればセンサーフォーマットの違いは出ない」です。
上記のように、
同一口径の望遠鏡で同じ構図になるように(レデューサなどで)焦点距離を調整した場合は、小サイズセンサーが捕らえる光子数が大サイズセンサーと同等になるため、光子ショットノイズ量が一致します。(厳密には、ここに収差の差異が加わりますが、簡単のためここでは無視します。)
というわけで、今回はちょっと変わったサイドバイサイドテストを行ってみることにしました。
用いる望遠鏡は、あぷらなーとの主力:ケンコーの12cmF5アクロマートSE120×3本です。
今回工夫したのは、補正レンズ系で、フルサイズのD810AにはBORGの1.08xマルチフラットナーを、m4/3のASI294MC-Proには笠井の0.6x汎用レデューサを、そしてAPS-CのPoseidon-C ProにはケンコーのPro1-D ACクローズアップレンズNo3を充てます。もちろん手持ちの補正レンズを適当に充てただけなので換算焦点距離がピタリ一致するわけではありませんが、何もしないよりは『かなり良い線』を行くはずです。
★クローズアップレンズの調整
以前、星ナビさんの連載記事にも書いたのですが、アクロマートには色収差以外に非点収差が残っていることを逆用して、像面がフラットになるようなクローズアップレンズの位置(センサー面からの距離)をチェックすることが容易です。
上記のように、
周辺の恒星像が放射方向(メリディオナル方向)に流れる場合はクローズアップレンズをセンサーから離し、円周方向(サジッタル方向)に流れるときはクローズアップレンズをセンサーに近づけます。
そして、上記のように周辺の恒星像が『十文字』になったところがベストというわけです。
色々と試行錯誤した結果、下記のような構成でセットアップに落ち着きました。
なお、パーツ構成図中に出ている「マクロエクステンションチューブ」とは、アマゾンなどで非常に安価に売られている接写リングの代用品なのですが、ニコンFマウント用の商品を選択すれば、偶然M57規格のネジになっているため、高価なBORGパーツの代用品として重宝します。(他のマウント仕様のリングネジ規格は不明ですのでお気を付けください。たとえばペンタックスマウント用だとM57ではなくM60でした。)同等の商品は色んなブランドで出ていますが、一例としてパシュポのものを貼っておきます(リンク先はアマゾンです)。
さて、では星像確認用の等倍チャートでクローズアップレンズの補正効果を確かめてみましょう。
ででん!!
目論見通り、
周辺部の恒星がきれいな十文字に写せました!!
厳密には、あとほんのチョッピリセンサーに近づけた方がいい(サジッタル方向のボケ量がちょっと多い)気もするけれど、大きなセンサーのカメラに対して1600円の補正レンズを組み合わせたにしては、大健闘です♪
★いよいよ決戦の時!
では、さっそくサイドバイサイドテストを決行しましょう。
我が家の花形カメラが3機装填された三連装砲の姿は、我ながら壮観です。
なお、アクロマートの色収差を駆逐するためにQBPⅢフィルタを用いました。
では、いて座のM16わし星雲をターゲットにして、30秒露光1コマ(ダーク・フラット無し)ノートリミングで勝負です。
ででん!!
※左から順に ASI294MC-Pro ・ Pseidon-C Pro ・ D810A
(ASI294とPoseidonはゲイン300、D810AはISO1600)
手持ちのパーツを流用したので厳密にはチョッピリ画角が異なりますが、なかなか良い勝負となりました。
※ちなみにポセイドンだけ横位置なのは、カメラの装填角度を間違えたから(汗)
星雲の部分だけトリミングすると、こんな感じです。
※左から順に ASI294MC-Pro ・ Pseidon-C Pro ・ D810A
どのカメラも市街地から30秒露光の1コマ画像とは思えないほど良く写っていますが、強いて言えばその中でもPoseidon-Cの写りが最も良さそうです♪
では、ダークやフラットやフラットダークも取得して、30秒露光×128コマのコンポジットで軽く仕上げてみましょう。
おお、さすがは海皇神ポセイドンさま!!なかなかの写りとなりました♪
★第2回戦は「網状」
QBPなどデュアルナロー系フィルタに最適な星雲といえば、なんといっても網状星雲です。Hαで光る赤い星雲とOⅢで光るシアン色の星雲がバランス良く分布していて、非常にカラフルに写せるからです。
今こそ「SE120+Pro1D AC No3+QBPⅢ+Poseidon-C Pro」という邪悪コンボの威力を発揮するがいい!
ででん!!
※Poseidon-C Pro 0℃ ゲイン300 30秒×200コマ ダーク・フラット・フラットダーク各256コマ
EQ6-Pro赤道儀をSV165+Xena-M+PHD2でオートガイド
ふはははは。
大成功じゃ♪
ここで、同等の処理で仕上げたカメラ3機種の画像を拡大して比較してみましょう。
※左から順に ASI294MC-Pro ・ Pseidon-C Pro ・ D810A
どの子も甲乙付けがたい写りと言えますが、少なくともPoseidon-C Pro についてはSE120+クローズアップレンズと相性が良いことは分かりますね♪
というわけで
Poseidon-C Pro のファーストライトは大成功!
めでたい♪
★★★捕捉とお約束★★★
①厳密には3つのカメラが同条件だったとは言えません。
②できるだけ画角を揃えましたが、画素数の関係で、網状星雲のアップに関してはASI294MC-Proはアンダーサンプリング気味です。
③対ピクセル倍率を揃えて比較するなら、センサー面に対する画角ではなく、ピクセルあたりの画角を揃えるべきです。
④Poseidon-C Proには色々な駆動モードがありますが、今回はLowNoiseモードで、HCGモード発動のゲインで撮影しています。
⑤あくまでも個人の感想ですが、Poseidon-C Pro は低ゲインでの撮影は苦手なのかも知れません。下記は低輝度下の対象について露出時間を同一にし、テスト撮影した物です。左から順にゲイン0・ゲイン180・ゲイン550ですが、ゲイン0の画像だけ「横方向のバンディングノイズ」などが顕著で画質が大幅に低下しています。
⑥詳細は後日追試した上でレポートしますが、
ゲイン550での星雲撮影ではゲイン0とは逆に「縦方向のバンディングノイズ」が出るという現象に遭遇しました。このカメラに関しては、ほどよいゲイン設定が有用なの「かも」しれません。
※VMC260L+レデューサVMC+QBPⅢ+Poseidon-C Pro 0℃ ゲイン550 30秒×62コマコンポジット ダーク・フラット・フラットダーク各128コマ使用
⑦M57規格リングの「代用品」についての詳細は、下記の記事をご参照ください。