★ポンスブルックス彗星が人気らしいあっぷらなーとは出不精なので、基本的には「お庭で手抜き星雲撮影を楽しむ専門」なのですが、どうも天文界隈では12Pポンスブルックス彗星の話題で持ちきりです。あまりに皆さんが楽しそうなので、我慢できずにプチ遠征することにしました。
とはいえ、近場ではなかなか西天が(地平まで)見渡せるところはありませんし、(南天と異なり)光害の影響も大きそうです。それに加えて日が沈んでからわずかの時間でポンスブルックス彗星は沈んでしまうところが問題です。赤道儀の極軸設定やアライメント、そしてカメラのピント出しなどをしている間に彗星が沈んでしまいそうだからです。
★短いシャッターチャンスを逃さないために
普段主力として愛用している数々のアクロマート鏡筒は、あくまでナローバンド系のフィルタと併用することを想定したもので、ナローバンドが使えない彗星に対しては無力と言わざるをえません。そこで、真っ当なEDアポの出番なのですが、先述のように撮影時間がタイトで十分な露光を稼ぐことは難しそうです。
そこで、下記のようなセットを組んでみました。
望遠鏡はBORG60EDに純正0.85レデューサを装着したものを3連装
赤道儀は
SkyWatcherのEQ5 GOTO
カメラは
L画像を得るためにASI294MM-ProとASI1600MM-Proの2機
RGB画像を得るためにASI294MC-Pro
フィルタは
ASI1600MM-ProとASI294MC-Proには光害対策としてケンコーASTRO-LPR Type1を装着しました。このフィルタはすでにディスコンですし、あまり使っている方をお見かけしませんが、メジャーなところで言うとサイトロンジャパンのCBPフィルタなどと似たような感じのフィルタです。要するに光害をカットしつつも彗星の光は大切にするというタイプです。
<ASTRO LPR Type1の特性>

※引用:ケンコートキナーさんのサイト
https://www.kenko-tokina.co.jp/optics/tele_scope/eyepiece/4961607377697.html
<CBPの特性>

※引用:シュミットさんのサイト
https://www.syumitto.jp/SHOP/SY0094.html
なお、ASI294MM-Proは14bitADCのダイナミックレンジに期待して、光害はカットせずIR/UVカットフィルタのみとしました。
ねらいとしては、2機のモノクロカメラで輝度を稼ぎ1機のカラーカメラで色情報を稼ぐ
ことで大幅な時短を実現しよう、というものです。本音を言うと、あぷらなーとが普通に撮ってもネタになりませんので、ちょっと他人と違う装備で臨みたいということもありましたが、決して悪いチョイスではないはずです。
★まさかの大失敗
さて、薄明るい内に撮影地に到着して、機材を組み上げます。
三連装砲の扱いは本来むずかしいのですが、そこは普段から三連装砲ばかり愛用している身ですから、3本のアライメント(3本の鏡筒を正確に同じ方向を向くようにする)などは、ファインダーすら使わずに目視で各鏡筒の傾き具合を見ながら適当に微動雲台を調整するだけでCMOSカメラの視野内に基準星が入るように日々トレーニングしてますので楽勝です。
というわけで、現地到着からわずか40分後には、極軸合わせ・赤道儀のアライメント・3本の鏡筒のアライメント・カメラのピント出しなどなどが完了し、あとはポンブルックス彗星を探すのみ、となりました。
・・・が、「居ない!?」
ビクセンのスマホアプリ「Comet Book」で彗星の位置を確認しておき、「比較的近い恒星までは赤道儀に自動導入させ、そこから星図を見ながらたどる」という作戦だったのですが、いくら探してもライブビュー画面に彗星らしき天体が見当たりません。
そんな中、刻一刻と時間が過ぎて行きます。
そこで、「はっ」としました。なんと、スマホアプリの「日付」が今日の3月15日ではなく4月15日になっているではありませんか!!よくよく思い返してみると、アプリを起動したときのデフォルト日付が4月20日だったものを3月20日だと誤認して、「あぶねえ、5日ズレてるじゃないか」と日だけずらして満足していたのです。
★まもなく木の枝の中に沈んでしまう
やらかしました。彗星が自動導入できるようにはシステムを組んでいない上に、ファインダーすら搭載していないので星図から恒星をたどるのも時間が掛かります。もう彗星が木の枝に掛かるまで時間がありません。仕方が無いので、最も近いと思われる基準星までは自動導入させ、そこから意を決して赤道儀のクランプをフリーにし、ゲイン上げ上げのライブビューで視野内を観察しながら手で鏡筒を動かして『捜天』します。すると・・・
「居た!!」
ライブビュー画面では非常に淡いですが、恒星とは明らかに異なる滲んだ像を発見。きっとこれがポンスブルックス彗星なのでしょう。しかし、西空の光害で写野内が真っ白けです。当初想定していたゲイン390・16秒露光では完全にサチってしまいます。大急ぎでゲインを300まで下げて3機のカメラで16秒露光の連写を行います。
すると・・・
ででん!!
※BORG60ED+純正RD×3ASI294MM-Pro+IR/UVcut ASI1600MM-Pro+AstroLPR_TypeⅠ ASI294MC-Pro+AstroLPR_TupeⅠ 各0℃・gain300・16sec露光×32 Dark・Flat・FlatDark×128 EQ5Gotoノータッチガイド ステライメージ9で彗星核基準コンポジット
やりました。ついに「対彗星用・60mmEDアポ三連装砲」のファーストライトに成功です!
★こうなると悔やまれる
さすがは、EDアポ三連装です。あの悪条件下でたった8分ほどの撮影でもこんなに明瞭にポンスブルックス彗星が写せました。しかし、こうなると序盤でスマホアプリの日付を誤認したミスが悔やまれます。せめて、あと30分早く撮影に入れていれば、もっと素敵な彗星像が撮れたかもしれないのです。
GPVを信用するなら、次の日も20時までなら晴れそうです。
よし、再出撃しよう!
★セットアップに掛かる時間をさらに短縮するために
やはり、彗星は「いかに短時間でセットアップを切り抜けられるか」が勝負です。昨夜の反省を下に、対象の赤経赤緯座標と星図、そして極軸合わせ用の北極星の時角はあらかじめスマホに入れておきます。万が一赤道儀のコントロールが不調だった場合に備えて、今回はファインダーも載せておくことにします。そして、主要なパーツはすぐに組めるように「ある程度組んだ状態」で車に積み込みました。さて、今度こそ、上手く行くでしょうか??

※この状態のまま車に積み込みました♪
★速攻でセットアップは完了、しかし
2回目ですから、要領は分かっています。現地到着からものの30分で設営完了♪
これならあっという間に撮影体勢に入れることでしょう。
ところが・・・
「ズガガガガガガ!!!」
アライメントしようとした瞬間、EQ5GOTOくんが断末魔のような叫び声を上げて止まりました。
げっ!赤緯軸の故障かっ!!
経験はあります。ギアの噛み合わせ不良や接点トラブルなどにより、(EQ5のような格安赤道儀だけではなく)ケンコーのEQ6ProやビクセンのnewATLUXでさえ突然赤緯軸が空転したり動かなくなることがありました。この手の不具合のリカバーのためには、モーターハウジングやウオーム軸受けなどをバラして調整したり、(ATLUXの場合は)本体内部のロータリー接点を分解清掃したりしないとダメなのですが、さすがに修理する時間はありません。しかも、西から雲がどんどん流れてきて、もはやファインダーを使っても対象付近の恒星を辿ることすら不可能な状態。本来は自動導入が生命線となる状況ですが、肝心の赤道儀が赤緯軸故障したのでは「万事休す」です。
★小学校時代の自分なら・・・
ここで、半泣きで撤収してもよかったのですが、ふと天文を始めた頃の小学生時代を思い出しました。当時はフリーストップの6cm屈折経緯台であるミザールのメシエデラックス型を愛用していました。手動の微動ハンドルすら付いておらず、貧弱な2cmファインダーでは星雲星団の導入は至難の業でした。でも、対象天体のおよその位置(赤経・赤緯ではなく、方位と高度)を頼りに、望遠鏡を覗きながら「捜天」することで、市街地からでも多くの星雲星団を観察できたものです。
実際、昨夜も(近くの恒星までは自動導入したものの)最終的にはクランプフリーで彗星を手動導入したではないですか。
もう、ダメ元でチャレンジするしかありません。
故障した赤緯モーターを守るため、赤道儀のアライメントは無効にしたまま恒星時駆動だけ行い、クランプフリーで「彗星があるらしい方角」を大胆に捜天します。
すると・・・
「居たッ!!」

※上記スクショは撮影の終盤の状況ですが、捜天しているときも、この程度の淡さでした
「もう、存在確認だけでもいい」
と割り切って、雲間に垣間見える彗星が木々の間に沈むまで三連装砲で連写しました。
★ダメ元で画像処理してみる
リベンジどころか、返り討ちにあった状況の遠征でしたが、とりあえず画像処理をしてみました。比較的雲が少なく木の枝が本体に掛かっていない画像は、各カメラでおよそ30コマ程度(1コマ16秒露光)でした。
まずは、L画像です。
ASI294MM-Proで撮った32コマとASI1600MM-Proで撮影した合計64コマのライトフレームを(昨夜と撮像パラメータが同一なので)昨夜取得したダーク・フラット・フラットダークで補正して、彗星核基準でコンポジットしてみましょう。
すると・・・
ででん!!

おおおお!これは凄いッ!
うねりながら伸びた尾っぽが画面からはみ出しそうじゃないか!!
と、喜んだものの・・・
★冷静に考えて、なんかおかしい
幸運にも絶体絶命のピンチから脱出できたときこそ、正常化バイアスの魔の手が伸びるもの。たしかにポンスブルックス彗星は尾っぽが暴れ狂ったようなハデな作例がネットに溢れています。しかし、先ほどの画像はどこか変なのです。
一夜明けて冷静に画像を観察してみると、大変なことに気付きました。
下記は、先ほどの画像の一部を90度回転させたものですが・・・

尾っぽだと思っていた部分にちょうど重なるように
「アーク状のなにか」が写り込んでいます。
さらに、その部分を詳細に観察してみると

このように、
明るい偽構造と暗い偽構造が同時に生じていることが分かります。
「あっ!これ、フラットがマズいやつだ!!」
普段、フラット補正に苦慮しておられる方はピンときたと思うのですが、これ、実際のライトフレームに生じたゴミの影などとフラットフレーム中に再現されたそれの位置が(ゴミの移動やレンズの回転などにより)一致しない場合に生じる症状と酷似しています。つまり、フラット補正の失敗で生じた偽構造を彗星の尾っぽだと思ってぬか喜びした可能性が浮上してきました。それならば、昨夜のフラットフレームを使い回したのが犯人だということになります。
★犯人はフラットフレームの使い回しか?
では、この推測が正しいか確かめるため、もう一度フラットを撮り直してみます。
実は、なんとなく嫌な予感がしたもので、昨夜は主要な撮影機材は組んだまま撤収したので、そのままフラット撮影に移行できるのです。
では、さっそくお家でフラットを撮り直してみましょう。
さて、あとは簡単です。今取得したフラットフレームを昨夜の画像処理で用いたフラットファイルで補正(除算コンポジット)してみれば良いのです。
すると・・・
でで・・・でたぁ!偽構造じゃぁッ!!
※今回取得したフラットを前回使ったフラットで補正アーク状の上半分が白く下半分が黒くなっているところなどは、まさにソックリです。
撮影機材もパラメータも同一の場合はフラットフレームの使い回しも可能なハズなのですが、それはゴミの位置が変わらないことが前提です。要するに、二回目の出撃でカメラの(接眼部に対する)回転角が少しズレたためにレデューサ上のゴミの位置がセンサーから見て回転移動してしまった、と考えれば辻褄が合います。
★撮り直したフラットで再処理
では、新規で撮り直したフラットで、怪現象が解消するか試してみましょう。さらに、せっかくですから雲が写ったフレームも排除して雲の影響による偽構造も排除することを試みます。
すると・・・
ででん!!

※左:前回の処理 右:再処理
おお、見事に変な構造が消えました。
ちなみに、偽構造ほどはハデではなく非常に淡いですが、一応、彗星の尾っぽが長く伸びていることも分かります♪
というわけで、「みなさん、フラット撮影は真面目にやりましょう」ということを再認識させられたポンスブルックス彗星撮影レポでした。
めでたし、めでたし(笑)
<補足>
上記文中にも出てきたビクセンのスマホアプリ「Comet Book」は非常に便利なアプリですが、日付の設定がやりにくい点で悩んでいました。
ところが、こんなポストが!!
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