※注意:本記事中に書いた内容はメーカーさんの想定外の『間違った』運用法です。機材が破損したり事故が発生する恐れがありますので、参考にはしないでください。
★全国各地で陥落者が続出!?事件は4月頭に起こりました。いつもお世話になっているサイトロンジャパンさんの直営店シュミットで、とんでもないバーゲンセールが開催されたのです。その名も「GW天体観測フェア」。あぷらなーとはバーゲンセールに弱いので、元々欲しかった機材を調達するチャンスにするのはもちろんのこと、購入候補として計画していなかった機材も「このお値段なら冒険してみるか」とポチってしまうことがあります。今回のバーゲンでは「冗談か?」と思うほどお買い得な商品が多かったのですが、今回心を鷲づかみにされたのが「ACUTER OPTICS トラバース + MAKSY GO 60 ターコイズ 自動導入・追尾セット」です。超小型軽量の60mmマクストフカセグレン「マクシー60」と専用のドブソニアン風架台、そして、これまた超小型の自動導入経緯台「トラバース」と専用三脚などなどが全部セットになって税込み19,800円という信じがたいバーゲン価格にお財布のひもがバグってしまい『陥落』してしまった天文ファンがネット上では多く観測されました。ええ、かくいう私も陥落した一人です(笑)。
★まるで福袋のようなワクワク感
「このチャンスを逃してなるものか」と、ほとんど後先考えずにポチってしまった「マクシー60+トラバースセット」ですが、ついに届いてしまいました。

開封して感じたのは
「福袋や幕の内弁当のようなワクワク感」です。とにかくこれでもかというくらい色んなアイテムが入っていて、目移りしてしまいます。
特に驚いたのはマクシー60の方なのですが、そちらはまたの機会に書くとして、今回はトラバースについて書きたいと思います。
★かねがねやってみたかったこと
正直言って、自動導入経緯台としてすでに名器AZ-GTiを保有しているため、トラバースにはあまり興味が無かったのですが、強いて言えば「『できないはず』の赤道儀化をしてみたい」という邪悪な野望はありました。そこで(本当はいけないのですが)到着早々正しい使い方を試すまでもなく、こんな姿になってしまいました。
念のため補足しておくと、トラバースには「赤道儀モード」は実装されていません。またAZ-GTiとは異なり、赤道儀化するためのファームアップも公開されていません。ですので、おとなしくコンパクトな自動導入経緯台として楽しむのが正解なのですが、かねがねやってみたいことが1つありました。それは「原理上、北極点や南極点では経緯台と赤道儀は全く区別できない」ということから着想したアイディアで、具体的には「トラバースの水平軸を天の北極に傾け、アプリ中の観測地座標に北極点を指定することで、赤道儀として機能させる」という邪悪なものです。
上の写真は仮組みしたものですが、
①観測地座標をスマホのGPSからの転送ではなく、手動で設定できること
②各種パラメータが発散したり不定になってしまう筈の極地観測が禁止されていないこと
③スカイメモTなどと異なり、多少重心バランスが崩れていてもフリーズせずドライブしてくれること
④赤経方向(水平軸)にはクランプが無く、手動での粗動は不可能なこと
などを確かめました。
もちろん、このままでは実用にはなりませんので、種々の問題点を1つづつ解決していくことになります。
★立ち塞がる種々の困難
さて、AZ-GTiと異なりトラバースには水平軸にクランプがありません。もちろん、通常の正しい運用法では問題にならないのですが、赤道儀化を試みる際には大きな障壁になります。今回のアイディアはトラバース自身を「経緯台として北極点に立っている」と誤認させるというものです。ところが、北極点は言うなれば『特異点』で、どの方角を見ても南になってしまいます。したがって「観測地の経度」が不定になってしまい定義できません。つまり、最初の自動導入時に鏡筒がどの方位を向くか予想できないのです。(※アプリのアルゴリズムが不明のため)
したがって、突然鏡筒が三脚に衝突したり、アライメントが不能になったりする危険性が予想されます。それを回避するには両軸ともクランプフリーにしてある程度まで手で導いてやる必要があるのですが、トラバースの水平軸にはクランプが無いわけです。この不具合を回避するために、ポラリエ用に愛用しているビクセンのパノラマヘッドにトラバースを載せることで、クランプ機能を持たせることにしました。また、予想外の方向に鏡筒が向く際に衝突しないように赤経方向には360度回転できる構造にしました。そして、前部に突出した重心を緩和するために後部にカウンターウエイトを取りつけ転倒事故を防止できるようにしました

本当は、鏡筒の反対側にもカウンターウエイトが欲しいところですが、マクシー60は非常に軽量なので、とりあえず、そもそも
この状態で自動導入や自動追尾ができるのかどうかを月面を題材にして試してみました。結果は上々、
思いの外うまくいきました♪
※マクシー60+UranusーCで撮影。自動導入+自動追尾は赤道儀化したトラバース
★星雲を撮影するとなると、問題山積
さて、シーズン的に夜半過ぎに上ってくるいて座のM8干潟星雲を撮影してみたかったのですが、ここで3つの大きな壁にぶち当たります。
<問題その①>極軸あわせをどうするか?
トラバースのアライメントがどのようなロジックでなされているのかは不明ですが、仮に1点アライメントだったとすれば、極軸合わせの精度が重要になります。ノータッチガイドで星雲撮影を楽しもうとすればなおさらです。ここでぜひとも極軸望遠鏡が欲しくなるところですが、トラバースは経緯台ですから極軸望遠鏡は存在しませんし、汎用品を装着できそうなスペースもありません。
<問題その②>そもそも干潟星雲は導入不能?
赤道儀化したといっても、それはあくまでも人間側の見方。トラバースくん本人は「北極点で経緯台として働いている」と認識しています。そのため「北極点で地平線の下にある天体を導入しようとすると停止する」のです。これを高度制限機能と言いますが、原理上モーターの運転速度が無限大に発散してしまう天頂付近と、天体が見えるはずの無い地平線付近でリミッターが掛けられています。トラバースの場合は純正アプリの他SynscanProも使用できますが、どちらも下方制限は「地平線の下10度まで」しか緩められない仕様でした。北極点における地平線以下10度は赤緯-10度に相当します。つまり、これよりも南にある天体は導入不可能なわけです。冬場のM42オリオン大星雲などはセーフですが、今回チャレンジしたいいて座のM8干潟星雲は赤緯がおよそ-24度のため、完全にアウトです。
<問題その③>赤経軸周りのカウンターウエイトが欲しい
月面撮影では無理を承知でウエイト無しでの撮影を試みましたが、これはトラバース本体に負荷が掛かる大変危険な運用です。そこで普通の赤道儀と同様のカウンターウエイトが欲しいところですが、残念ながらトラバースにはそれを可能とするねじ穴などはありません。一応、鏡筒のアリ型プレートに長いシャフトを刺してウエイト軸にする手も考えたのですが、それだと、赤緯軸方向の回転で架台衝突しますので、せっかく赤経・赤緯ともに360度回転可能とした工夫が死んでしまいます。
★「北極がダメなら南極だ」作戦
ふと閃きました。「トラバースくんに南極に行ったと思わせれば良い!」
経緯台のままで赤道儀として機能するのは北極点に限った話ではなく南極点でも同様です。この場合の高度制限は南極点での地平線から-10度となるはずですから、南天の星雲撮影に好適だと考えました。要するにトラバースの極軸(水平軸)を天の南極に向ければ良いのではないか?
さらに極軸望遠鏡は鏡筒の隣にスカイメモTのものを外付けすれば<問題その②>が、トラバース本体に鏡筒バンド状のものを取りつけてそこにカウンターウエイトを取りつけることで<問題その③>が、それぞれ解消するという一大作戦を決行することにしました。
そこで・・・
ででん!!

どうです、この禍々しさ。
膨大なパーツに埋もれて、一体どこが本体なのかすら曖昧になるという邪悪さです。
よし・・・デンドロビウムと名付けよう。
さて、問題は「本当に意図通りに動くか」です。
まず、トラバースの水平軸と極軸望遠鏡の光軸を調整しておき、通常の赤道儀と同様に北極星を用いて極軸セッティングを行います。
そして星雲撮影時には、こんな感じでバランスを保ちつつ動かせるように調整しました。

カメラは軽量でノイズが少ない
Uranus-Cを
FMA135に装填し、フィルタは(せっかくの3枚玉EDアポに失礼なので)いつものQBPではなくケンコーの
AstroLPR-TypeⅡ(いわゆる普通の光害カットフィルタ)をセレクトしました。
さて、果たして目論見通り作動するでしょうか?
そして、自動導入や自動追尾は十分な精度で実現するのでしょうか?
★デンドロビウム、出撃!!
慎重に極軸セッティングを済ませた後、アライメントに使用するアンタレスがちょうど良い位置にきたタイミングで純正アプリの観測地の緯度に「南・緯度90度」を入力して実戦開始です。
このときトラバースくん本体は「自分は南極点にいて経緯台としてはたらいている」と思い込んでいますので、前述のように方位が不定となり、とんでもない方向を向くことが予想されます。そこで、赤経軸(実際はパノラマヘッド)と赤緯軸の両方のクランプを緩めた状態でアンタレスの導入命令を実行し、意図的に空転させます。
導入完了メッセージが出たところでクランプフリーのままファインダーでアンタレスを導入してクランプを閉め、ライブビューを見ながらコントローラーで視野中心に導入してアライメントを完了します。(※実を言うと、この「クランプフリーでアライメント」は、手持ちの主要赤道儀全てでいつも愛用している技です。)ここまでは順調。さて、問題は干潟星雲の導入ができるかどうかです。
さて、コントローラから干潟星雲をセレクトしてGOTOすると・・・
でで・・・ん???
ダメでした。お隣さんの家の壁を向いて「ここが干潟星雲だよ」と大嘘を言ってきます。
ただ、これは経緯台あるあるで、赤道儀風の表現をするならば1点アライメントした恒星がテレスコープイーストなのかテレスコープウエストなのかを誤認したと考えられます。
ならば、解決策は単純です。ここで再び基準星のアンタレスをGOTOし、そこでクランプをフリーにして手動で子午線反転を行い、再アライメントします。これで、トラバースくんが信じている鏡筒の向きと現実の方向が一致したはずです。
では、気を取り直して、干潟星雲をGOTOだ!
すると・・・
おおおおお!!!
なんと、一発で干潟星雲が導入されました。しかもど真ん中です!

いったい何年ぶりだろうという
凄まじい感動で、鳥肌が立ちました(笑)
いやー、コレですよコレ。邪道流天文の醍醐味は♪
★干潟星雲は撮れたのか?
はやる気持ちを抑えながら、Uranus-Cをゲイン390・露出16秒に設定し、16bitFITS出力で128連写します。
128コマ目もほとんど構図が変わっていないことを確認してテンションはマックス。
ふはははは。どうやら勝ったな・・・。
早速、『勝利の儀式』フラット撮影に移行します(笑)
ちなみに、光源は最近導入したバッテリー内蔵型のA4版LEDトレース台。小型軽量でコードレスなので使い勝手抜群です♪

その後、Uranus-Cは非冷却カメラなので極力ライトフレーム撮影時と似た気温が望ましいため、
屋外でダークを撮影開始して仮眠を取りました。
仮眠を取ってから画像処理を行います。仕様ソフトは『いつもの』ステライメージ9。ただし今回はナロー系ではなくブロードバンド系なので地表付近の光害勾配を拾ったので、FlatAideProでカブリ補正も加えました。仕上げとしてNikCollectionで軽くストラクチャ強調を♪
すると・・・
ででん!!
※FMA135+AstroLPR-TypeⅡ+Uranus-C ゲイン390・16秒露光×128コマ加算平均コンポジットステライメージ9で、ダーク処理・フラット処理・コンポジット処理・オートストレッチ・デジタル現像・マトリクス色彩強調・Lab色彩調整
FlatAideProで光害カブリ補正
NikCollectionでストラクチャ強調・デノイズ
目論見通り、写野回転の無い鮮明な干潟星雲が撮れました!
ああ、とんでもなく面白かった♪
★補足(本物の赤道儀ほどではない)
念のために補足しておくと、今回の試みは、あくまでも『無理っぽいことにチャレンジする』という壮大な遊びにすぎません。
期待以上に高精度な自動導入と自動追尾が行えましたが、トラバースは本来、撮影用の機材ではありません。
下記のように、通常のしっかりした赤道儀と比べると、その追尾の安定性には雲泥の差があります。
※EQ6Proと赤道儀化トラバースについて、同等構図で比較した約1000秒間の追尾エラーの様子左:EQ6Pro+SE120+Pro1D-ACNo3+QBPⅢ+SV405CC
30秒×34コマの比較明コンポジット
右:赤道儀化トラバース+FMA135+AstroLPR-Type2+Uranus-C
16秒×64コマの比較明コンポジット
★ご参考
自動追尾経緯台を普通に運用した場合に生じる写野回転と追尾エラーに関する考察ごっこ(理論的シミュレーション)は、下記に書きました。
★★★お約束★★★
①今回の運用方法は、正しいものではありません。チャレンジされる方は自己責任でお願いします。
②メーカーさんの想定外の『お遊び』につき、メーカーさんやショップさんへのお問い合わせはご遠慮ください。
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