機材レビュー

PlayerOne Uranus-C-Pro インプレッション①

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★大好きなUranus-Cに冷却モデルが!?
PlayerOneの非冷却カラーCMOSカメラUranus-Cは、CP+2023・CP+2024のサイトロンジャパンさんセミナーにて2年連続でトークしたとおり、お気に入りのカメラです。

Uranus-Cは非冷却でありながら、非常によく写るカメラなのですが、なんと冷却版の「Uranus-C-Pro」が登場しました。いつか使ってみたいと思っていたところ、今回、天文仲間から実機を借りることができましたので、早速レビューしてみましょう♪


★冷却の効果はいかほどか?
もともと高性能なUranus-Cですが、強いて弱点を上げるとすれば、高温時に『酩酊ピクセル』が多発する点です。そのため、涼しい季節には問題なくても暑い季節だと少々不利になります。今回の「Pro」では冷却機能が実装されたことで、この弱点が解消したことが期待されますので、得意のダークフレーム時系列解析にて、冷却の効果を確かめてみることにしましょう。
Uranus-C-Proについて、ゲイン240・30秒露光のダークフレーム32コマを時系列解析した結果は下記のようになりました。
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ちなみに、このグラフの簡易的な見方は下記のようになります。
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冷却の効果として、下記の点が注目されます。
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まず、PlayerOneのカメラにはホットピクセルをピクセルマッピング的ななにかで無効化するDPS機能が実装されているのですが、なんらかの条件でDPS補正を逃れた高輝度のホットピクセル群が存在します。これはPlayerOneに限ったお話ではなくZWOのカメラにもよく見られることですが、上記のように冷却が進むにつれてこの異常群がどんどん正常群に吸い込まれていく様子が分かります。高輝度のホットピクセルは、天体の輝度情報をトコロテン式に押し流す作用をもたらすため、たとえダーク減算しても失われた天体の輝度情報は取り戻せないばかりか、原理的に過補正となって『偽クールピクセル』を誘発しがちです。そのためPlayerOneのDPS機能やZWOのHPC機能のような一種のピクセルマッピング処理は大歓迎なのですが、おそらく異常ピクセルの座標を特定するために出荷前に行われるテストをすり抜けた異常ピクセル群が生き残っているのは個人的に感心できません。これが冷却によって相当に緩和されているのは嬉しいことです。
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さらに、原理的にダーク減算でも消せない難敵である『酩酊ピクセル』についても、冷却することで、上記のようにどんどんおとなしくなっていき、0℃まで冷やしたところでほぼ消滅することが分かります。

また、嬉しい誤算として外気温が28℃という条件下でも余裕で-10℃まで冷却できた点も秀逸だと思います。


★リードノイズの測定ごっこ
公称によれば、非冷却版のUranus-Cと冷却版のUranus-C-Proとでは、リードノイズがガクンと減るHCG(ハイ・コンバージョン・ゲイン)
モードの発動タイミングが異なる仕様のようです。非冷却版ではゲイン180で発動するのに対し冷却版ではゲイン210で発動とのこと。HCGモードの発動前後のゲインでは大幅にノイズ量が変動しますので、正確な発動ゲインを知ることは実写時のゲイン設定に欠かせません。経験上、公称データであったとしてもミスプリや予告無しの仕様変更がなされることもあるため、実際にはどうなのか実機でテストしてみましょう

ゲインを0~600まで30刻みでシフトしながら撮像したバイアスフレームをMATLABで書いた自前のコードで解析した結果、設定ゲインとリードノイズの関係は下記のようになりました。
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たしかにゲイン210付近でガクッとノイズが減っている様子が観察されます。
それでは、具体的にどのゲインでHCGが発動しているのかを特定するために、ゲイン210付近を1刻みでシフトしながら解析をしてみましょう。すると・・・
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おお、公称値ドンピシャのゲイン210で発動していることが確かめられました♪


★ユニティゲインを測定ごっこしてみる
ユニティゲインとは、大まかに言って「輝度値が光電子数と一致するゲイン」のことを指しますが、公称グラフを見る限りどうやら非冷却版と冷却版とでその値が異なるようです。
果たして本当にそうなのか、早速ユニティゲインを実測してみましょう♪
詳細は過去記事で触れているので割愛しますが、光(正確には光電子)が粒子性を持つことを利用し、そのショットノイズ(到来個数揺らぎ)を測定することで実際にどれだけの光電子を捕らえたかを推測できます。その結果から、実際のゲイン(言わば増幅率)を推測するという作業になります。
ゲインを0~480まで30刻みでシフトさせながら、各ゲインにおいて低輝度側も高輝度側もサチらないような範囲で露出時間を7段階に変えてフラットフレームを撮像します。
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ここで適切な露光を行わないとショットノイズが正確に測定できないため、LEDトレース台とセンサー面との距離・減光用フィルタの選定とともに、下記のような「撮影計画表」を作成して、各ゲインについて色を付けた範囲(ヒストグラムの両端が欠けない露光量)の撮影を実行します。SharpCapのシーケンサ(撮影ジョブ管理機能)では仕様上0.1秒未満の設定はできないので、大変ですが手作業で順次露光していきます。
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撮像したフラットフレームそれぞれについて、周辺減光やホコリの影響が無いフラットなエリアを抽出して、自前のコードで解析した結果、次のような「輝度VS分散」の相関グラフが得られました。
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ちなみに、このグラフにおける直線の傾きの逆数がコンバージョンファクタ(輝度値を1アップさせるのに何個の光電子が必要か)となります。それらをまとめると、次のような結果となりました。
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なかなかいい線を行っていると思いますが、低ゲイン側がちと不気味ですね。対数グラフに直すとわかりやすいのですが
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低ゲイン側ではノイズの影響が大きいため乱れているか、そもそも高ゲイン側とは異なるアンプで作動しているか、によって特性が異なるようです。今回の主目的はあくまでもユニティゲインの推定ですので、低ゲイン側は捨てて再度グラフ化してみましょう。
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この範囲ならば、指数関数で美しくフィッティングできました♪
このグラフの縦軸の数値が1となる横軸の値がユニティゲインとなりますので、それらしき近傍を上記の解析で求めた指数関数で補完して探ってみましょう
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その結果、どうやらUranus-C-Proのユニティゲインは204~205付近にあるようです。
以前解析した非冷却版のUranus-Cでは、ユニティゲインが188付近だと実測されたので、公称の通りユニティゲインが異なることが確認できました。いわゆるデジカメのISO感度と異なり天体用CMOSカメラの「ゲイン」なるものは相対的なものですので、どこを「ゼロ」にするのかによって如何様にも表記できます。要するにそのカメラで最も低感度となるゲイン設定値を「ゼロ」と呼んでいるだけなので、冷却版のUranus-Cはある意味で『非冷却版よりも低感度で撮影することが可能になった』とも解釈できますね。ただし、それがアナログ処理なのかデジタル処理なのかは不明です。

★DPS機能の挙動はどうか?
PlayerOneのCMOSカメラの特長として『ピクセルマッピング的ななにか』で不良ピクセルを無効化するDPS機能が上げられます。個人的にはZWOのHPC機能と同等なものだと妄想しているのですが、SharpCapのホットピクセル除去機能やSVBONYの旧ドライバに見られたノイズリダクションのような随時判定型の異常値弾きではない(ように観察される)ため、いわゆる星喰い現象や色ズレ現象が起こらず、ライトフレーム中のホットピクセルとダークフレーム中のホットピクセルの相関が崩れる心配もない点で、大好きな機能です。
では、冷却版のUranus-C-ProのDPS機能は非冷却版のUranus-CのDPS機能と異なるのか、観察してみましょう。
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まず、上記のような不良ピクセルを消す(補完する)パターン35種類を想定し、それぞれのロジックに15コマ連続でヒットしたピクセルを『当たり』と判定するという気が遠くなるような探検です(笑)。ただし、これまでに観察したZWOとPlayerOneのCMOSカメラは1機の例外もなく「パターンAの①」にヒットしたので、今回もそれを本命として解析ごっこしてみます。

すると・・・

ででん!
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明瞭な補正痕跡が観察されました。あくまでも個人の妄想の範囲ですが、パターンヒットしたピクセル数が完全に収束したので、たぶん合ってると思います。

以前観察した非冷却版のUranus-Cと今回の結果を比較すると下記のようになり、それぞれのDPS設定は酷似していることが想像されます。
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どちらも800万画素中の約9000個もの不良ピクセルが退治されている気配ですから、ホットピクセルが少ないのも納得です。
前述のようにUranus-C-Proではさらに冷却によるノイズ低減効果が加わりますので、星雲などがとても良く写るのではないかと期待が膨らみます


★実用的な最高ゲインはいくらか?
私個人は、ダイナミックレンジの低下よりもリードノイズの低減効果と量子化ノイズの低減効果が大きく効くケースで撮影をしているために『ゲインは高ければ高いほどうれしい』という価値観を持っています。ただし、これまでの経験上、Poseidon-C-Proのように「ゲインを上げすぎると縞ノイズが発生する」ケースやASI294やSV405のように「あるゲインよりも上げると出力bit数が一気に低下する」ケースにも遭遇しているため、安心して使える最高のゲインはどこかを調べておきたいところです。Uranus-C-Proの場合はむやみにゲインを上げすぎると不気味なヒストグラムになることが観察されたので、その閾値がどこにあるのかを確かめておきましょう

ゲイン500付近のフラットフレームの輝度ヒストグラムを観察すると、下記のようにゲイン501からデータが欠損しているような気色悪さを感じました。
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ひょっとすると、このあたりからはデジタルゲイン(いんちきゲイン)でデータをストレッチして高感度に見せかけているだけなのかもしれません。ASI294系のように「閾値を境に情報量が一気に半減する」ような極端な不具合ではありませんし、この手の現象は色々な機種でしばしば遭遇するので、それほどこだわる必要は無いと思いますが、今回の種々の解析ごっこの結果をふまえ「Uranus-C-Proはゲイン210~500の範囲で運用するのが美味しそうだ」ということにしておきましょう。

ああ、早く星雲の実写テストをしてみたいぞ♪

★★★お約束★★★
○本レビューは天文仲間からお借りした個体を元にして行ったもので、『企業案件』ではありません。
○あぷらなーとは専門家ではありませんので、解析結果については一切保証できません。
○本記事の内容に関しては、あぷらなーと独自の解釈や価値観が含まれていますので、あまり信用しないでください。

Commented by 風邪ぎみ at 2024-07-26 21:36 x
2ヶ月ほど前にこのカメラを購入しました。小銀河をライブスタックで撮影していますが、ASI294MCではノイズが多くて気になるのでこの機器を思い切って購入しました。確かにノイズは少ない印象ですが、天気も悪くなかなか使いこなせていません。次回の実践撮影編を楽しみにしております。最適な撮影条件を決める手がかりとしたく思っています。
Commented by supernova1987a at 2024-07-29 07:41
> 風邪ぎみさん
コメントありがとうございます!
冷却カメラは熱ノイズが少ないため、画像処理が楽になるのが良いですよね。
これから実写テストも行っていきますので、なにかご参考になれば幸いです。
Commented by ぽんこつ1号 at 2024-08-01 20:47 x
機械ヲンチなぽんこつ君の素朴な疑問ですが、
ペルチェから出た排熱で露取りヒーターとかできないんですかねぇ。
Commented by supernova1987a at 2024-08-18 13:26
> ぽんこつ1号さん
最近は結露防止ヒーター内蔵のカメラも増えてきましたが、おっしゃるとおり廃熱利用というのもうまい手かもしれませんね!
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by supernova1987a | 2024-07-16 02:13 | 機材レビュー | Comments(4)

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