
★これまでのレビューで・・・
サイトロンジャパンさんからレビュー用にお借りしている口径125mmF2アストログラフ「HAC125」ですが、とうとうこれまでのレビューで個人的に主張していたことを確かめる時がやってきました。
<レビュー①での個人的主張>
HAC125の使命は
「小サイズセンサーのカメラで大センサー搭載カメラをやっつける」こと
<レビュー②での個人的主張>
HAC125を最もオススメしたいのは、
惑星用もしくはガイド用の『スティック糊タイプ』カメラにさらなる活躍の場を与えたい方
これらに共通した価値観は、次のような基本原理に基づきます。
①センサーサイズ(ピクセルピッチではない)が小さくなると、同じF値でも光子ショットノイズが大きくなり星雲が『暗く』しか写らない。
②望遠鏡の口径が同じなら、センサーサイズに関わらず同等の光子ショットノイズになり、同等の『明るさ』に写せる。
※ここでいう『明るさ』とはS/N比を示します。光子ショットノイズではなくスカイノイズの例で言えば、深夜の月よりも真昼の月の方が暗かったり、都会よりも田舎の天の川の方が明るかったりする例に相当します。
要するに、小サイズのセンサーで滑らかな星雲を撮ろうと思えば、大サイズセンサーよりも明るいF値が要求され、その条件は「口径が同じ」ことだという主張です。
というわけで、論より証拠。それを確かめるため、あぷらなーと保有の邪悪な強敵達に登場していただきましょう。
★対戦相手①『ギルガメッシュ』!
『ギルガメッシュ』は、ケンコーの12cmF5アクロマートSE120を3連装化した邪悪兵器で、現在の主力です。
もしこの機材に出会わなければ、星ナビギャラリー初入選もCP+への登壇も星ナビへの記事執筆も無かったと思われるので、まさに一生の宝物なんですが、今回は『敵役』として登場です。

今回の比較では
SE120にクローズアップレンズを転用した自作レデューサを併用して450mmF3.75相当にしたものに、
Hαナローバンドフィルタを装着したASI294MM-Proを装填して撮影したバラ星雲の画像を用いることにしました。センサーサイズもF値も異なる異質な相手ですが、対物レンズの口径に関してはHAC125と同等なので、なかなか良い勝負になると目論んだわけです。
さて、それでは(主張①で述べたとおり)HAC125を用いることによって「小サイズセンサーで大サイズセンサーをやっつける」が可能なのか見てみましょう。
ででん!!

※ASI294MM-Proはゲイン300・30秒露光 Xena-Mはゲイン300・16秒露光で撮像
ピクセル300%拡大(像の大きさを揃えるため、ASI294MM-Proは約40%に画像を縮小)
さて、この実写テストの評価は難解ですので補足します。
まず、F値が明るい分だけHAC125の方が総露光時間が少なくて済みそうですが、それはセンサーサイズが同じカメラを同一焦点距離で運用した場合のお話です。
今回はSE120に用いたカメラの方が相当に大きなセンサーサイズであるためF値の暗さが打ち消されています。
逆に言うと、本来4/3センサーのカメラとは勝負にならないはずの1/1.2サイズセンサー機Xena-Mが、HAC125のパワーによって、同一露光時間でもどこまで肉薄できるかがポイントです。そこで、口径が効いてきます。HAC125の口径はSE120とほぼ同じ口径ですので、個人的にはどんなサイズのセンサーを用いてもほぼ同じ滑らかさ(ノイズの少なさ)で写ると考えています。ただし、実写比較の結果は上記の通り、同じ総露光時間では少しノイジーになっています。
ただ、これは矛盾するものではありません。
まず、口径に関してはSE120は遮蔽物が無いため正味の120mmですが、HAC125はプライムフォーカス機のためカメラを接続する接眼部が対物側に付いています。この大きさ(直径約53mm)による遮蔽を計算すると、有効な口径は約113mmとなります。
次に、カメラに関してはセンサーサイズやピクセルピッチではなく、量子効率が大きく異なる点が効いてきます。公称グラフからザックリと読み取ると、今回比較に用いたHα光の量子効率は、ASI294MM-Proが約75%なのに対してXena-Mは約62%です。
この2つの差異を元に計算すると、HAC125+Xena-MはSE120+ASI294MM-Proと比べて約73%の光子補足能力であることが分かります。
すなわち、その逆数である1.37倍の総露光時間が必要なことになります。つまり、SE120+ASI294MM-Proで480秒露光した画像とノイズが同等になると予想されるのは、約657秒露光だということになります。この条件に比較的近いコンポジット枚数を求めると16秒露光×41コマ=656秒となりました。先ほどの比較画像の右がそうですが、なかなか良い結果が得られたのではないでしょうか。
同様の考察で、補足光子数がほぼ同等になったと思われる他のパターンでも比較してみましょう。

※ASI294MM-Proはゲイン300・30秒露光 Xena-Mはゲイン300・16秒露光で撮像
ピクセル200%拡大(像の大きさを揃えるため、ASI294MM-Proは約40%に画像を縮小)
量子効率の差が効いて少々不公平な対戦になってしまいましたが、小サイズセンサーであるXena-Mが「HAC125の威力で4/3センサー相手に大健闘した」と言えるでしょう。
★対戦相手②『メザシちゃん』!
『メザシちゃん』は、SVBONYの格安ガイドスコープSV165のうち、口径40mmタイプを3連装した邪悪兵器です。
いつか、この子を主役に据えた記事をブログに書きたいと思いますが、今回は『敵役』として登場です。

先ほどの対戦では、異なるセンサーサイズのカメラを同等口径の望遠鏡で運用した場合についてを検証ごっこしました。そこで、次は
同一センサーを異なる口径の望遠鏡で運用した場合についてを見てみましょう。HAC125の口径125mmに対してSV160の口径は40mmです。
F値だけを比較すると1/4の露光で済みそうに思えますが、(HAC125の開口部遮蔽率も考慮した)
口径に着目すると1/8の露光で済みそうに思えます。さて、どちらが本当でしょうか?
ででん!!

※SV165のXena-Mはゲイン300・32秒露光 HAC125のXena-Mはゲイン300・16秒露光で撮像
ピクセル等倍(像の大きさを揃えるため、SV165のXena-Mは約145%に画像を拡大)
上段のSV165に比べて下段のHAC125は1/8の総露光時間しか与えていませんが、ほぼ同等の滑らかさ(ノイズ量)になっていることが分かります。
これは、F値の明るさというよりも口径の威力と言えそうですね。
★すかさずセカンドライト決行!
ああ、疲れました。
私物の自慢なら適当なことを叫んでOKなのですが、さすがにレビュー案件ともなると極端におかしな事も言えませんので、一応、自説が大外ししてないか確かめたとういうだけです。ここまで読まれた方はお疲れ様でした。(もちろん、異論は認めます♪)
さて、ここまで来れば一安心。
難しいことはゴミ箱にポイして、とにかくHAC125を楽しもうではありませんか!
あぷらなーとの環境ではだいたい1ヶ月に1回程度しか星雲撮影できないのですが、なんとファーストライトからわずか1週間後にセカンドライトのチャンスがやってきました。ファーストライトではHAC125のHαナロー運用についてレポートしましたので、次はOⅢナローに進むのは既定路線です。
HAC125には物理的にフィルターホイールが付きませんし寂しいことに鏡筒が1本しかありませんので、セカンドライトは「OⅢ決め打ち」で臨みます。我が家で飼育しているXena-Mは3匹いるのですが、実はそれぞれ名前をつけています。「ジーナHα号」「ジーナOⅢ号」「ジーナSⅡ号」と呼んでいるのですが、ホコリの侵入を防ぐためそれぞれに装着したナローバンドフィルタは年中外しません。また、撮像PCからリモートで書き込む先のフォルダも専用の場所を確保してデータを取り違えないように工夫しています。というわけで・・・
出でよ!ジーナOⅢ号ッ!!
HAC125に12nmOⅢナローバンドフィルタを装着したXena-Mを装填して、セカンドライト決行です。
さて、ここでOⅢで撮った画像を見ても面白くないので、アレを出しましょう。
HAC125は、その厳しい適合条件により手持ちのカラーカメラが1機も付けられないのが難点なのですが、ファーストライトでゲットしたHα画像に今回撮影したOⅢ画像を組み合わせると、まるで高品質なデュアルなロー系フィルタで撮ったカラー画像のような「AOO合成」画像が得られるのです。
さて、HAC125ではどのようなAOO画像が楽しめるでしょうか?
ででん!!
<バラ星雲>

※Hα:16sec×128 OⅢ:16sec×256
<M42オリオン大星雲>

※Hα:16sec×64 OⅢ:16sec×128
<M31アンドロメダ銀河>

※Hα:16sec×128 OⅢ:16sec×128
<北アメリカ星雲>

※Hα:16sec×256 OⅢ:16sec×256
<共通データ>
HAC125+Xena-M(gain300・offset159)
StarAdventurer-GTi(ノータッチガイド)
Optlong 12nmナローバンドフィルタ
ダークフレーム各128コマ使用・フラットフレーム無し
ステライメージ9+Photoshop2020+NikCollectionで画像処理
うひゃー! 楽しすぎるでしょ、コレ♪
★奇跡のサードライト
さて、通常は1ヶ月ほどインターバルが開いてしまうファーストライトとセカンドライトですが、幸い1週間のインターバルでセカンドライトに成功しました。これは、ほとんど経験が無い珍事です。ところが・・・・・・!!
なにぃ! 昨日の今日で、また晴れた、だと!?
なんと、セカンドライトの翌日も晴天に恵まれるという奇跡的チャンス。
これはもう、某・黒いパンダさんか誰かが「四国から退散せよ。ヤツにSAO合成させるのだ!」と雲にプレッシャーを掛けられたのに違いありません。
全国のHAC125ファンの皆様の期待に応えるべく、「ジーナSⅡ号」にスクランブル命令を下し、HAC125のサードライトに臨みます。

月明かりが強烈ですが、OⅢと異なりSⅡは月光の影響をほとんど受けません。また、OⅢの様なゴーストが発生する心配もないので、気にせず撮影に入ります。
ただし、経験上SAO合成が失敗するのは「SⅡ画像の総露光時間が不足」することが多いので、対象を絞り込み、長め露光時間を確保する作戦にしました。
その結果・・・
ででん!!
<バラ星雲>

※Hα:16sec×128 OⅢ:16sec×256 SⅡ:16sec×256
<北アメリカ星雲>

※Hα:16sec×256 OⅢ:16sec×256 SⅡ:16sec×512
<共通データ>
HAC125+Xena-M(gain300・offset159)
StarAdventurer-GTi(ノータッチガイド)
Optlong 12nmナローバンドフィルタ
ダークフレーム各128コマ使用・フラットフレーム無し
ステライメージ9+Photoshop2020+NikCollectionで画像処理
いやはや、わずか1週間程度の間に単筒でこれだけの戦果が得られたのは驚愕です。
HAC125、楽しいですぞ♪
★★★お約束★★★
①本レビューは、サイトロンジャパンさんのご厚意でお貸しいただいたレビュー用個体を試用した個人的な感想です。
②光軸調整などは行っておりませんので、今後さらに良好な像が得られる可能性があります。
③作例の一部に一文字の光条が写っていますが、開口部を横切る撮像ケーブルの回折に起因すると思われます。
④作例の一部にゴーストが出ていますが、ナローバンドフィルタと補正レンズとの間で何らかの反射起こるなど複数の要因が考えられます。
⑤今回のテスト撮影は全て透過幅12nmのナローバンドフィルタを用いて行いました。
⑥これは主にフィルタ側の問題ですが、OⅢ画像には強烈なゴーストが生じます。『魔の星』アルニタクのような輝星が入る構図で撮影する場合は、より高品位(ゴーストが防止された)かつ広めの半値幅を持つフィルタを探す必要がありそうです。※下記は今回SAO撮影した馬頭星雲の例。

※Hα:16sec×160 OⅢ:16sec×128 SⅡ:16sec×177
⑦HAC125とSV165のノイズ比較画像において、HAC125の画像に縦縞ノイズが見えますが、これはHAC125ではなくXena-Mの仕様です。一般的にグローバルシャッター搭載カメラはローリングシャッター機と異なり強いバンディングノイズが乗ります。その発生位置はランダムなため、この手のカメラの運用には総露光時間の確保とは別に極力コマ数を稼いでノイズを散らす必要があります。そのため、捕捉光子数に起因する光子ショットノイズとは異なった退治アプローチが必要です。
⑧HAC125は、その構造上フラット撮影の難易度が高いです。ただし、Xena-Mに対しては周辺光量が十二分に確保されている印象だったので、今回は全ての画像でフラット除算処理を省きました。また、フラット処理を省くことでゴミの影は補正不能となるため、用いるカメラにはホコリが付着しないよう細心の注意を払いました。※一般的にはF値が明るいレンズほどホコリの影響が緩和されますので、それに助けられた側面もあるかもしれません。
⑨今回「同一口径なら同等のノイズになるはず」と表現したのは、あくまでも「鑑賞時の対象像が同じ大きさ」になるようにした場合のお話です。
像の大きさを無視した場合は、当然「同一F値で同等のノイズ」になります。
⑩HAC125に関する製品詳細は、下記シュミットさんの商品ページをご参照ください