★今回は『クールファイル補正法』のご紹介
私が考案した各種の画像処理メソッドを実装した
「ステライメージ10」が3月にアストロアーツさんから発売予定です。
現在、リリース版に向けて動作テストとチューンのお手伝いをしているところですので、まだステライメージ10で処理した画像はお見せできませんが、代わりに元ネタである拙作『邪崇帝主(ジャスティス)』の処理結果を用いて、ステライメージ10の新機能を予告紹介します。
というわけで、今回は、開発までに相当苦心した労作『クールファイル補正法』です♪
<2025年2月1日 追記>
「開発中」の結果であることを明記することでステライメージ10による画像を掲載する許可をいただきましたので、本記事の末尾に「開発中のステライメージ10」による実際の処理結果画像を掲載しました。
★クールピクセルという魔物
天体用の冷却CMOSカメラは、一般的なデジタルカメラとくらべ非常に低ノイズであるとされていますが、機種によっては非常に難儀なノイズを吐くことがあります。
ZWOのASI1600MM-Coolもその一つで、黒点状の「クールピクセル」(コールドピクセル)が盛大に発生する個体が存在することが知られています。
※上記は、天文リフレクションズさんの記事へのリンク
一般的には、正常よりも明るすぎるピクセル(ホットピクセルやアンプグローなど)を補正するためにダーク減算、正常よりも暗すぎるエリア(周辺減光やゴミの影や感度不良ピクセルなど)を補正するためにフラット除算が用いられますが、困ったことにクールピクセルはそのどちらでも退治できない魔物です。その原因は、他のノイズと異なり、ノイズの背景にある天体の明るさの影響を受け非線形に輝度が変化する点にあります。(正常ピクセルとの輝度差が一定でないため減算処理が効かず、正常ピクセルとの輝度比が一定でないため除算処理が効きません。)
このクールピクセルを放置すると、赤道儀のピリオディックモーションや鏡筒の撓みなどに起因する追尾エラーによって下記のような『黒い縮緬ノイズ』を発生させます。下記は、手持ちのASI1600MM-Coolで撮影したシャボン玉星雲の画像ですが、恒星を基準点として位置合わせコンポジットすることにより、クールピクセルが残像のように流れて『黒い縮緬ノイズ』となっていることが分かります。

また、従来からステライメージにはクールピクセルを軽減する「クール除去フィルタ」が実装されていましたが、暗い天体を撮影した場合は、
天体の光子ショットノイズが支配的なため、クールピクセルがそのザラザラに埋もれて弁別困難となり、フィルタ処理では十分な補正が不可能となります。また、ノイズを散らして目立たなくするディザリング撮影という特効薬はあるものの、ディザリングが困難な環境(たとえば多連装撮影など)で撮影する場合や、ディザリングでも薄めきれないほど強烈なクールピクセルが生じる個体などもあり、非常に頭の痛い問題でした。
★『クールファイル補正法』
運悪くクールピクセルが異常に多い個体を引き当ててしまったことから、なんとかせねばと悪戦苦闘した結果閃いた『クールファイル補正法』は、光子ショットノイズを排除することでクールピクセルの弁別を可能とし、その構図で必要となる補正量を算出可能とする仕掛けです。細かいロジックは本記事末尾に貼ったリンク先をご覧いただくとして、とにかくその効果を見てみましょう。

前述のように「開発中」のステライメージ10の画像を出すわけにはいきませんので、
元ネタである『邪崇帝主』での処理ではありますが、上記左画像に見られる
おびただしい量の『黒い縮緬ノイズ』が右の画像では一掃されていることがわかると思います。
ステライメージ10には、この『クールファイル補正法』のロジックが実装されています♪
ディザリングやシグマクリップやクール除去フィルタなどの定番処理が使えなかったり、効果が不十分なケースでは特に重宝すると思います。
★『にせクールピクセル』にも効果大
先ほど、『黒い縮緬ノイズ』の発生原因はセンサーのクールピクセルであると述べましたが、実は他にも発生するケースがあります。
その一つが、非冷却CMOSカメラで、かつピクセルマッピングが十分なされていない機種や個体を用いた撮影シーンです。
特に、気温の低い屋外でライトフレームを撮影した後から、気温の高い屋内でダークフレームを取得した場合などに『黒い縮緬ノイズ』がよく発生します。
下記は、先述の条件に合致するCMOSカメラQHY5Ⅲ585Cで撮影した画像です。

上記左の画像はダーク減算無しの画像ですのでホットピクセルに起因する『白い縮緬ノイズ』(カラーカメラなのでR・G・Bの各色)が盛大に出ています。ここで通常ならダークファイルを減算することでこのノイズが消えるはずなのですが、実際は
右の画像のようにダークの過補正で生じた『にせクールピクセル』起因の『黒い縮緬ノイズ』(カラーカメラなので、補色であるC・M・Yの各色)が生じてしまっています。これは、ライトフレームを撮影した屋外よりもダークフレームを撮影した屋内の方が気温が高かったことが原因です。センサーの温度を自在にコントロールできる冷却カメラと異なり、非冷却カメラの場合はライトフレームを撮影したその場で(気温が変わらないうちに)ダークを撮る必要があるということです。
※QHY5Ⅲ585Cと同じセンサーを搭載していてもDPS機能によって大半のホットピクセルを無効化しているUranus-Cなどの機種なら、この弊害は少なくなります。
このような『にせクールピクセル』にも『クールファイル補正法』は有効です。下記は『邪崇帝主』で『クールファイル補正法』を実行した場合の効果です。

まださらに(パラメータなどの)調整余地が残っていますが、上記左の画像のように
『撃沈』したかのように見える画像であっても『クールファイル補正法』なら救済できる可能性があります。
すでにFlatAide-Proには拙作『クールファイル補正法』が実装されていますが、原則として「モノクロ画像限定」の機能です。
今回ステライメージ10に実装された『クールファイル補正法』はカラー画像にも対応しています!
クールピクセルが多いカメラや、非冷却カメラをお使いの方はご期待ください♪
次回は、ステライメージ10に実装された『コスミカット法』『手動ダーク減算法』『センサーノイズ時系列解析法』『ソフトウェアピクセルマッピング法』のうちどれかを紹介します。
★★★お約束★★★
①あぷらなーとが提供したのはコードやライブラリではなく「演算ロジック」です。
②動作確認は慎重に行い、設計通りの性能になるまでバグ取りを依頼していますが、まだリリース版ではないため具体的な画像は出せません。
③リリース版での作例は公式情報をお待ちください。
④ステライメージ10の具体的操作については、ニーズがあれば別の機会に紹介できるかもです。
⑤『縮緬ノイズ』はあぷらなーとの造語です。海外では「ウォーキングノイズ」と呼ばれているようです。
⑥本記事内で言及した各カメラの特徴については、あぷらなーと個人の感想であって、アストロアーツさんは一切関与していません。
※クールピクセルの性質や『クールファイル補正法』の詳細は、下記まとめページをご参照ください。
<2025年2月1日 追記>
「開発中」の結果であることを明記することでステライメージ10による画像を掲載する許可をいただいたので、
テスト版ステライメージ10にて『クールファイル補正法』をテストした画像を紹介します。
クールピクセルが異常に多い個体を用いた撮影時に生じる『黒い縮緬ノイズ』も、ダークの温度が高すぎたために生じた『にせクールピクセル』に起因する『暗い縮緬ノイズ』もSI10に新規実装された『クールファイル補正法』で消失したことが分かります。
※上記テスト結果は「開発中」のステライメージ10によるものですので、リリース版とは仕様・精度などが異なる可能性があります。