画像処理法考案

ステライメージ10に『邪崇帝主』の機能が実装③

★ステライメージ10に実装していただいた『目玉機能』
アストロアーツさんから3月に発売される予定の「ステライメージ10」に実装していただいた拙考案の画像処理ロジックのうち、今回はいよいよ『目玉機能』である『センサーノイズ時系列解析機能』と『ソフトウェアピクセルマッピング機能』についてご紹介します。
フォロワーさんの反応を拝見する限り、非常に期待されている処理メソッドのように感じるのですが、紹介を後回しにしたのには理由があります。
すでに紹介した『ハイパーイーブンオッド法』や『クールファイル補正法』は、その気になれば現行のステライメージ9でも手作業で実現可能なほどシンプルな演算ロジックなのですが、『ソフトウェアピクセルマッピング法』はセンサー上の不良ピクセルを時系列解析で特定するという特殊な工程を含むため、どうしても拙作『邪崇帝主(ジャスティス)』での処理結果を紹介したのでは「同等の処理がSI10で実現されているのか怪しい」と感じられてしまいそうだったからです。
本来は開発中の画面は(リリース版とは仕様や性能が異なるため)出すべきではないのですが、このたび「『開発中の画面だ』という文言を明記すれば、テストバージョンの画像を出してもよい」との特別許可をいただいたので、予定より早めに紹介記事を書きます


★カタログスペックからは読み取れないカメラのノイズ特性
個人的に、ホットピクセルやクールピクセルなどの『異常ピクセル』により生じるノイズは殲滅優先度が高いと感じているのですが、購入前のカメラについてこれらの特性を推測することは極めて困難な現状です。
たとえ仕様上のダイナミックレンジ(メスシリンダーの目盛り数のようなもの)が広い機種であっても、『メスシリンダーの底に砂が溜まっている』ような現象が起こり実際のラチチュードが狭いケースがあったり、仕様上のダークカレントが低い機種であっても(これはあくまでも正常ピクセルの特性に過ぎず)異常ピクセルがその特性を台無しにするケースがあったりするからです。

手持ちのカメラ群について「ダーク減算やフラット除算を施してもなかなか思うようなノイズ低減ができない」という困った現象を数年間孤独に解析した結果、次のような事が分かりました。
①同一センサーでもメーカーにより、異常ピクセルの無効化処理の方向性が異なる
②『時系列解析』を用いることで、センサー内の個々のピクセルの特性を視覚的に把握することが可能となる
また、手持ちの個体のノイズ特性が気に入らなければ、本来はメーカーさんが出荷前に施している『ピクセルマッピング』かなにかの処理に相当する作業をユーザーサイドで行えば、好みのノイズテイストに育てることができるということを見いだしました。それが『邪崇帝主』に実装した『ソフトウェアピクセルマッピング法』です。

★バラエティ豊かなカメラたち
では、時系列解析により視覚化される「カタログスペックでは判断できないノイズ特性」について少しだけ(実際は手持ちのカメラ53機+αについて解析していますが)ご紹介しましょう。
まず、時系列解析によるノイズ特性スキャッタプロット(散布図)のザックリした見方は下記の通りです。
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また、応用的な見方としては、下記のようにメーカー側の補正痕跡らしきものを大まかに感じることも可能です。
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<自分的には『標準機』ASI294MC-Proの特性>
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ホットピクセルがある部分からゴソッとカットされている様子とともに、メーカー側の攻撃から逃げ延びたホットピクセル群が小数生きていることが分かります。
また、ホットピクセルと正常ピクセルとを行ったり来たりする『酩酊ピクセル』が存在することが明瞭に分かります。
宇宙線ヒット群がシャープに出ていますが、これは自然現象なので正常です。(これが出ない機種は随時ノイズ補正している可能性があるため、星喰いなどが懸念されます)

<手持ち機種の中では『最強機』Poseidon-C-Proの特性>
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もう、なにも言うことはありません。初めて解析したときに「うそだろ!?」と思わず声が漏れました。
この子でよく写らないならあきらめて撤収した方が良いと言えるほどパーフェクトなカメラです。
ただし、ほんの僅かに生き残ったホットピクセルを一掃できればダーク減算が不要になるポテンシャルを秘めているとも言えます。


<同一センサー機にみるメーカーの差異>

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左はUranus-C、右はQHY5Ⅲ585Cのノイズ特性です。
とちらもIMX585を搭載した非冷却CMOSカメラですが、ホットピクセルの大半が無効化されているUranus-Cに対してQHY5Ⅲ585Cは大量のホットピクセルが元気よく暴れている様子が分かります。なお、酩酊ピクセルは同等のようです。

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これは一眼レフの実測ですが、ホットピクセルが多数残っているD810(上図)に対して、天体用カスタムモデルのD810A(下図)はホットピクセルがほとんど無効化されていることが分かります。



<ドライバの仕様変更と思われる例>
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これはASI294MM-Proの同一個体による実測ですが、2020年から2022年までの間になんらかのドライバの仕様変更がなされた気配で、購入当初は非常に低ノイズだった個体がいつの間にかホットピクセルまみれになってしまった様子が分かります。(※パターンマッチングによる独自解析の結果、経年劣化ではなく処理ロジックが変更された可能性が極めて濃厚です。)


★手持ちの個体を大切に使うための必殺技
ちなみに、あぷらなーとは一度手に入れた機材は(多少の不具合があっても)工夫しながら末永く使うのが好きです。
先述のようにカタログスペックが同等でも個性が異なるカメラは多いのですが、時系列解析スキャッタプロットで弱点が分かる機種であればステライメージ10の『ソフトウェアピクセルマッピング法』で高性能機に変身させられる可能性があります。

<ご注意>以下掲載する画像は『開発中』のステライメージ10によるものです。リリース版では異なる仕様・異なる性能になる可能性がある点にご留意ください

では、先述の色々な個性を持つカメラのうち、今回は『ある時を境にノイズが増えてしまった』ASI294MM-Proの個体を題材に、ステライメージ10で画像処理をしてみましょう。

①ダークファイルを15コマ用意し、「ピクセルマッピング解析」を実行する
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このように、ノイズ特性が視覚的に把握できます。この場合は、ホットピクセルが盛大に残っており、酩酊ピクセルも明瞭です。

②補正対象ピクセルの候補をセレクトする
一例として、難敵『酩酊ピクセル』エリアを選択してみましょう。
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このエリアは、高輝度値と低輝度値を行ったり来たりする奇妙な特性を持っている異常ピクセルです。
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時系列解析すると分かりますが、「平均値をすっ飛ばして」高輝度値と低輝度値の間で2値振動しますので、ダーク減算で補正できる訳がありません。
早速全部無効化してしまいましょう。以下同様に、行儀の悪いピクセルを選択して無効化していきます。

ここまで見ると「めんどくさそう」に見えますが、それは「個々のピクセルに対して、1個ずつ活かすか殺すかを決めたい」こだわり派のためのプロセスをお見せしたからです。実際には、先述のPoseidon-C-Proのような無敵のノイズ特性に寄せるだけなら簡単です。下記のように「ダメそうなエリアをガバッと指定」して全部無効化しちゃいましょう♪ 
心配いりません。(ASI294MM-Proの場合)これだけガバッと選択しても、無効化されるのはたったの0.045%に過ぎませんから、解像度には全く影響しません。
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※赤い部分が無効化したピクセル群

後は「ピクセルマッピングファイル保存」を実行すれば「半永久的に使える」補正ピクセル情報がゲットできます
つまり1回だけこの作業を行うことで、手持ちの『じゃじゃ馬カメラ』が、いつ撮影してもユーザー好みの特性で活躍する『お利口さんカメラ』に化けるのです!
我ながら邪悪だなぁ・・・。


★実写結果はどうか?
さて、特殊な機能だけに、話が長くなりました。では、ASI294MM-Proで撮像したゲイン390・32秒×128コマのバラ星雲ライトフレームに対して、ダークフレーム256コマとフラットフレーム&フラットダークフレーム128コマを用いた通常のコンポジット処理結果を見てみましょう。
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一見よく写っているように見えますが、拡大してみると高輝度のホットピクセルなどが暴れた痕跡が『黒い縮緬ノイズ』として散見されることが分かります。
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これは十分な補正がなされていた2020年以前のASI294MM-Proではめったに見られなかった不具合です。

では、いよいよ『ピクセルマッピング』の出番です。
操作は超簡単で、事前に作成しておいたピクセルマッピングファイル(センサーが大幅に経年劣化しない限り、半永久的に使えます)をドラッグするだけです。
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あとは実行ボタンを押すだけで完了。楽ちん♪

では、『ソフトウェアピクセルマッピング法』の効果を見てみましょう

ででん!!
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ドライバの仕様変更(と思われる)によって異常ピクセルまみれになっていた可哀想なASI294MM-Proくんが、全盛期の性能を取り戻しました♪


★非冷却カメラでも効果絶大
前回の記事で『クールファイル補正法』によってノイズを低減したQHY5Ⅲ585Cくんですが、別解として『ソフトウェアピクセルマッピング法』を用いる方法も有効です。どうせダークが合わないのなら、いっそのことダーク減算はあきらめてステライメージ10の『ソフトウェアピクセルマッピング』で処理すればどうなるのかを見てみましょう。

ででん!!
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ダークの過補正による『黒い縮緬ノイズ』を回避できるどころか、(うるさいことを言わなければ)もはやダーク減算自体が不要となるほどの有効性が認められました。
冷却カメラはもちろんですが、出荷時にピクセルマッピング系の処理を施されていないタイプの非冷却カメラには、特に有用だと思います。

※この実写例では、オートガイド・ディザリング・シグマクリップ・ホットクール除去フィルタなどなどの定番テクニックを全て封印した手抜き撮影&手抜き処理での結果を示しています。


さて、次回はステライメージ10に実装された機能の内、ピクセルマッピングでは消せない宇宙線荷電粒子ヒットなどの突発ノイズをシグマクリップよりも高速に排除する『コスミカット法』か、「ダークの温度が高すぎたのに、補正不足になる」というパラドキシカルな怪現象を回避する『手動ダーク減算法』のどちらかを紹介予定です♪


★★★お約束★★★
①本記事で掲載した画像は「開発中」のステライメージ10によるものです。
リリース版とは仕様が異なる可能性があります。
②全てのカメラに『ソフトウェアピクセルマッピング』が有効である保証はありません。
③一度作成したピクセルマッピングファイルは、多少撮影条件が異なっても半永久的に使えるよう設計していますが、極端に撮影温度が異なる場合や経年劣化が激しい場合などでは、再度作り直す必要があります。※ライブラリ化できます。
④私が提供したのはコードやライブラリではなく処理ロジックです。一部『邪崇帝主』のオリジナルメソッドとは異なる演算部分がありますが、テストの結果、処理結果に目視できる差異が無いことは確認しています。
⑤実際の作業では、色々とノウハウが必要ですが、それについてはまたの機会に紹介できると思います。
⑥本記事内で言及した各カメラの特徴については、あぷらなーと個人の感想であって、アストロアーツさんは一切関与していません。


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by supernova1987a | 2025-02-01 18:04 | 画像処理法考案 | Comments(0)

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