画像処理法考案

ステライメージ10に『邪崇帝主』の機能が実装④

ステライメージ10に『邪崇帝主』の機能が実装④_f0346040_17455857.jpg
★ダーク減算でもホット除去フィルタでも消せない謎のノイズ
星雲撮影を楽しんでいるとき、画像に非常に明るいひっかき傷の様な突発ノイズが飛び込んでくることがあります。
ステライメージ10に『邪崇帝主』の機能が実装④_f0346040_17511839.jpg
その形状がガイドエラーのベクトルと全く異なることから、随分と悩んできたのですが、自作霧箱を用いた実験やトリウムレンズの放射線をセンサーに照射する実験などを通じて、どうやら宇宙線二次粒子など自然放射線の荷電粒子がセンサー面をダイレクトヒットした影響ではないかと推測しました。

ここでは、この突発ノイズを『宇宙線ヒットノイズ』と称することにします。
※前述のように、宇宙線以外の放射線にも『感光』します。


★通常のノイズ処理では消しにくい難敵
では、開発中のステライメージ10(2025年3月発売予定)を用いた画像処理の流れで、宇宙線ヒットノイズがどのように現れてくるか見てみましょう
ステライメージ10に『邪崇帝主』の機能が実装④_f0346040_18033263.jpg
上は、ASI294MM-Proを-10℃まで冷却し、ゲイン390・32秒露光で撮影したバラ星雲の拡大画像です。
左の画像は、ライトフレームのみを16コマ加算平均コンポジットしたもので、赤丸がホットピクセルによる輝点ノイズで、黄丸が宇宙線ヒットノイズです。
これをダークフレームを用いて補正すると、右のように大半のホットピクセルが消失します。
ただし、右画像で青丸で示した黒いノイズは、(近年ドライバの仕様変更がなされた気配がある)現行のASI294MM-Proの弱点でもある『ダークが合わない』ほど暴れるホットピクセルの影響です。ここではダークの過補正が起こりホットピクセルが『にせクールピクセル』に変身してしまっています。
また、黄丸の宇宙線ヒットノイズは突発的自然現象なのでダーク減算では消せません

では、今回ステライメージ10に実装された『クールファイル補正法』と『ソフトウェアピクセルマッピング法』で残存ノイズを攻撃してみましょう。
ステライメージ10に『邪崇帝主』の機能が実装④_f0346040_18131500.jpg
すると、上の右画像のように見事に『にせクールピクセル』が一掃され、非常にきれいな画像になりました。
ところが、黄丸の宇宙線ヒットノイズはしぶとく生き残っています

また、宇宙線ヒットノイズはあくまでも突発現象のため撮影時のディザリングなどは当然無力です。
さらに、その形状が『点』ではなく『線』あるいは『面積体』であることも多い(センサー面に対して斜めに入射した場合やエネルギーが高かった場合など)ため、ホットピクセル除去フィルタなどの定番処理はほとんど効果がありません


★王道の処理はシグマクリップ
さて、宇宙線ヒットの殲滅方法として一般的なのはシグマクリップだと思います。基本的に星雲画像に人工衛星が割り込んできた場合と対処法が似ているからです。
では、実際にシグマクリップを併用した加算平均コンポジットを実行してみましょう。※経験上、3シグマ程度の閾値で弾けます。
ステライメージ10に『邪崇帝主』の機能が実装④_f0346040_18260448.jpg
このように、宇宙線ヒットノイズは一掃されました。
ただし、シグマクリップを併用した位置合わせありコンポジットは非常に重たい処理です。
特に、CPUが古かったりメモリ搭載量が少なかったりした場合はコンポジットが完了するまでにかなり時間が掛かるので、イライラする方もいらっしゃることでしょう。
ちなみに、開発中のステライメージ10を用いて「シグマクリップありの加算平均コンポジット」をASI294MM-Proで撮影した256コマの画像に施してみたところ、Corei5 6600(4コア4スレッド)+メモリ16GBのデスクトップPCでは(前処理をのぞき)約1時間45分を要しました。


★あぷらなーとの別解『コスミカット法』
非常に強力なPCをお使いの方にはあまり関係ないのですが、この重たいシグマクリップに代わる別解として2020年に開発したのが『コスミカット法』です。


詳しいことは上記の記事をお読みいただくとして、要するに呆れるほど簡単な処理で宇宙線ヒットノイズを除去できる処理メソッドということです。

3月発売予定のステライメージ10には、この『コスミカット法』が実装されています。

発売前なのであまり詳しい操作は書きませんが、コンポジットするときに「加算平均コンポジット」ではなく「加算平均(コスミカット)」を選択するだけです。他に特殊な設定は必要ありません。

では、早速、開発中のステライメージ10で先ほどの画像を「コスミカット法」ありで加算平均コンポジットしてみましょう。

すると・・・

ででん!!
ステライメージ10に『邪崇帝主』の機能が実装④_f0346040_18452599.jpg
忌まわしき宇宙線ヒットノイズが見事に一掃されました。
しかも高速です。シグマクリップでは1時間45分掛かっていたコンポジットが、なんと13分で完了しました!

日頃から「シグマクリップは良いけど、時間掛かりすぎ・・・」とお悩みの方は、ぜひステライメージ10に新規実装された『コスミカット法』の軽快さを楽しんでみてください。



さて、次回はステライメージ10に実装された機能の内、「ダークの温度が高すぎたのに、補正不足になる」というパラドキシカルな怪現象を回避する『手動ダーク減算法』を紹介予定です♪


★★★お約束★★★
①本記事で掲載した画像は「開発中」のステライメージ10によるものです。
リリース版とは仕様が異なる可能性があります。
②全ての放射線ヒットノイズに『コスミカット法』が有効である保証はありません。
③ダークフレーム中に生じた宇宙線ヒットノイズは、一種の固定ノイズ化して深刻な影響をもたらしますが、ダークフレームのコンポジットには位置合わせが不要なため、シグマクリップに比べてライトフレームの処理ほどの差は出ません。
④私が提供したのはコードやライブラリではなく処理ロジックです。できるだけ『邪崇帝主』のオリジナルメソッドに寄せた出力が得られるように要望は出していますが、処理速度が同等というわけではありません。
⑤実際の作業では、色々とノウハウが必要ですが、それについてはまたの機会に紹介できると思います。


名前
URL
削除用パスワード
by supernova1987a | 2025-02-09 18:58 | 画像処理法考案 | Comments(0)

あぷらなーとの写真ブログ


by あぷらなーと
PVアクセスランキング にほんブログ村