画像処理法考案

ステライメージ10に『邪崇帝主』の機能が実装⑤

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★難敵カメラ
現在は色々なメーカーさんから様々な天体用CMOSカメラが発売されていますが、その中には画像処理に難儀する『難敵』もいます。
その1つがZWOさんの非冷却カラーCMOSカメラASI482MCです。

たとえば、下記はStarQuest80+ASI482MCの組み合わせで、ゲイン300・30秒露光したM31の画像32コマをコンポジットしたものですが、画面全体を覆い尽くすような縮緬ノイズ強めのアンプグローで、大変なことになっています。
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※ダーク・フラットなし ノートリミング

では、開発中のステライメージ10を用い、ダーク減算に加えて必殺技の「クールファイル補正法」「ソフトウェアピクセルマッピング法」「コスミカット法」などを投入するとどうなるか見てみましょう。

でで・・・んぎゃあ!
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なんということでしょう。必殺技をフル投入したにもかかわらず、画像が完全に破綻してしまいました。

では、今回テストに用いたASI482MCが不良品だったのかというと、そうとは言えません。

詳細は上記リンク先に書いたのですが、実測してみるとリードノイズやゲインやダイナミックレンジ、さらにはリードノイズをガクンと低減させるHCGモードの挙動についても、カタログスペックを満たしていたからです。また、独自解析の結果、出荷時のピクセルマッピング(ZWO用語で言うHPC機能)で約3400個もの不良ピクセルが無効化されている気配も観察されました。

でも、アンドロメダが写りません。


★実は大切な『マイナス輝度値』
ASI482MCほど酷くはないですが、実はこの「ダーク減算してもホットピクセルが消えない」あるいは「ダーク減算で画像が破綻する」怪現象は、ASI1600MM-Proなどでも観察されていました。色々と解析した結果、どうやらその原因はホットピクセルの性質から生じる大きな輝度揺らぎであることが分かりました。そのせいでダーク減算を行うと『マイナスの輝度値』が生じるコマがあるのですが、それが画像処理時には非常に重要であることに気がつきました。また、撮影時よりもダーク撮影時の方が気温が高かった場合などに正常ピクセルに生じたダークカレントの輝度がライトフレームの背景輝度を上回ると、ダーク減算に『マイナスの輝度値』を無視することによってシグナルが破壊されることも分かりました。

そして、2018年に考えついたのが『手動ダーク減算法』です。

ステライメージ9に限らず他のソフトでも耳にしたことはあるのですが、一見すると『マイナスの明るさ』はあり得ないように感じられるため「ダーク減算した際にマイナス輝度が生じた場合はそれをカットして0に丸める」という処理は珍しくないようです。ところが、実際のホットピクセルは大きく揺らいでいるため、下記のように「ダークの補正不足」(過補正ではない)が生じてしまいます。
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また、なんらかの事情でダークフレーム中の背景輝度(ホットピクセル以外のダークカレント)がライトフレームの背景輝度よりも高い条件下で「マイナス値カットありのダーク減算」を行ってしまうと、背景が全部抜けてしまったのっぺり像になり、酷い場合は天体のシグナルごと消されてしまいます


★『手動ダーク減算法』の正体
従来のステライメージでは(自動処理モード・詳細編集モードを問わず)ダーク減算する際には『マイナス輝度値のカット』が強制的に働いています
そこで『手動ダーク減算法』では、自動処理やバッチ処理に頼らず、通常のコンポジット機能(こ、の場合はマイナス値カットの可否を選択できる)をワークフロー登録することでダーク減算を行います。そうすると、先述の不具合は全て解消します。


上記記事ではステライメージ6.5を用いた『手動ダーク減算法』を文字通り手動で行う方法を解説しましたが、正直めんどくさいと感じる方も多いかもしれません。

3月発売予定のステライメージ10では、この『手動ダーク減算法』と同等の効果がワンタッチで行えるようにしていただきました。

要するに、自動処理モードでも詳細処理モードでも強制的に行われていた「マイナス値カット」が任意で外せるようになった、というわけです。
そうなると、めんどうくさい『手動ダーク減算法』の儀式は不要ですので、以下『マイナス輝度値保護』と呼ぶことにします。



★『マイナス輝度値保護』の効果はどうか?
では、さっそく開発中のステライメージ10で『マイナス輝度値保護』の効果を試してみましょう。

ででん!
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あまりにもノイズが多いカメラですので完璧とは言えませんが、左右を見比べると飛躍的に画質が改善されたことが分かります。


★ノイズの少ないカメラにも効果あり
ASI482MCの例は極端ですが、行儀の良いカメラにも『マイナス輝度値保護』は効果があります。

手持ちの4台のASI1600系カメラのうち最良個体であるASI1600MM-Proを-15℃までキンキンに冷やし、BORG89EDに装着して撮影した馬頭星雲(Hαナロー)の画像でテストしてみましょう

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左の画像は普通のダーク減算のみの120コマコンポジットです。黄丸で囲んだ宇宙線ヒットノイズと、赤い四角で囲んだ部分などに白い縮緬ノイズが見られます。この白い縮緬ノイズが、ダーク減算時に生じたマイナス輝度値をカットしたために生じた補正不足です。

中の画像はクールファイル補正法とコスミカット法を付加したものです。コスミカット法によって宇宙線ヒットは一掃されましたが、クールファイル補正法は黒い縮緬ノイズ専門なので、白い縮緬ノイズは消えていません

そして左の画像『マイナス輝度値保護』を指定した画像です。全てのノイズが消失したことが分かると思います。
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※上記「右」画像のトリミング前画像

このように、ASI482MC+80mmF5アクロマートによる画像の処理は、あくまでも極端な例を示しただけですが、ASI1600MM-Pro+BORG89EDの画像のように本格的な機材による画像でも『マイナス輝度値保護』が有効であることが分かると思います。



★★★お約束★★★
①本記事で掲載した画像は「開発中」のステライメージ10によるものです。
リリース版とは仕様が異なる可能性があります。
②ダーク減算時にマイナス輝度値をカットすることが誤りというわけではありません。
③十分に冷やしたASI1600MM-Proなど高性能なカメラの場合は、マイナス輝度値をカットしていても、ソフトウェアピクセルマッピング法を用いることで白い縮緬ノイズは消せます。
④ASI482MCのピクセルマッピング効果が不十分に見えるのはあまりにも不良ピクセルが多いためです。全体の10%のピクセルを無効化しても不十分でした。
⑤『手動ダーク減算法』『マイナス輝度値保護』は、あぷらなーとの造語です。開発段階のステライメージ10では「補正後にマイナス値になるピクセル値を0にする」と表記されたオプションのチェックを外すことで発動します。
⑥今回テストしたASI482MCの画像は、以前シベットさんからお借りした個体で撮影したものです。
⑦今回の画像処理では『マイナス輝度値保護』の効果を明確にするため、ホット除去フィルタやバックグラウンドスムースなどのいわゆる一般的なノイズ軽減処理は一切行っていません。
⑧本記事内で言及した各カメラの特徴については、あぷらなーと個人の感想であって、アストロアーツさんは一切関与していません。

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by supernova1987a | 2025-02-12 00:33 | 画像処理法考案 | Comments(0)

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