
一般のカメラ用望遠レンズと異なり、天体望遠鏡の対物レンズにいわゆる「保護フィルター」を付けられる方は極めて少数だと思います。せっかく高精度の天体望遠鏡であっても、面精度が悪い保護フィルタを取りつけてしまうと性能が落ちてしまうからです。
では、デュアルナローバンドなど星雲撮影用のフィルタはどこに取りつけられているかというと、たいていはカメラのスリーブやカメラ直前のフィルタドロワー、あるいはフィルターホイールに取りつけられていることがほとんどだと思います。もちろん、対物レンズ側に設置するよりも遙かに口径が小さなフィルターで済むのが第一の理由ではあるのですが、フィルターによる副作用が軽減できるという意味合いもあります。
★乱暴な単純化
かなり乱暴なたとえですが、半分が平面なのに残りは(断面が)くさび形に変形してしまった劣悪なフィルターがあったとします。
この場合、変形してしまった部分を通過した光束は不正に屈折してしまうことになります。ただし、センサーまでの距離が近い場合は結像に与える影響はわずかですので無視できます。

★それでも対物レンズの前に付けたい場合がある
このように、天体用のフィルターは極力センサーに近いところに配置するのがセオリーではあるのですが、構造上接眼部側にフィルターを装着することが困難なケース(一般の望遠レンズはもちろん、流行のスマート望遠鏡なども)も考えられます。
そんな中、シベットさんが「SV220-3nmをスマート望遠鏡S30Proで運用するために対物レンズ前に装着したところ、著しい星像の乱れが観察された」とのレポートをブログに書かれていました。
ここで、シベットさんが使用されたのはアメリカンサイズのSV220-3nmフィルターです。
果たして、これは48mm径の個体でも見られる現象なのか?
また、他のフィルターでも同様の現象は見られるのか?
早速、手持ちのフィルターをチェックしてみることにしましょう。
★迅速にテストするための邪悪な兵器
残念なことに、年度末は本業のお仕事が繁忙期なので、なかなかテスト撮影する時間が取れません。
そこで、少ないチャンスを活かすため新しいセットアップを考えました。
その名も
「対フィルターテスト・BORG45EDスペシャル」
です!


もちろんSV220-3nm(48mm版)が主役ですが、対抗馬としてSV220-7nm(48mm版)とDBP(48mm版)を用意しました。
果たして、3種のフィルター間に差異は見られるのでしょうか?
また、禁断の「対物レンズ前装着」でも使用可能なフィルターは現れるのでしょうか?
★実写開始

今回は中心部の星像を観察するため、撮影対象として十分に高度が高く非常に明るいアークチュルスを選定しました。
テストの手順は下記の通りです
①DBPを接眼側ドロワーに装着し合焦像を32コマ撮影
②DBPを対物前ドロワーに移動させ合焦像を32コマ撮影
③SV220-7nmを接眼側ドロワーに装着し合焦像を32コマ撮影
④SV220-7nmを対物前ドロワーに移動させ合焦像を32コマ撮影
⑤SV220-3nmを接眼側ドロワーに装着し合焦像を32コマ撮影
⑥SV220-3nmを対物前ドロワーに移動させ合焦像を32コマ撮影
⑦DBPを接眼側ドロワーに装着し焦点内外像を各128コマ撮影
⑧DBPを対物前ドロワーに移動させ焦点内外像を各128コマ撮影
⑨SV220-7nmを接眼側ドロワーに装着し焦点内外像を各128コマ撮影
⑩SV220-7nmを対物前ドロワーに移動させ焦点内外像を各128コマ撮影
⑪SV220-3nmを接眼側ドロワーに装着し焦点内外像を各128コマ撮影
⑫SV220-3nmを対物前ドロワーに移動させ焦点内外像を各128コマ撮影
赴任地から実家に帰省したのが午前1時すぎでしたので、初期セットアップが完了したのは午前2時30分頃。
薄明までの約2時間で、上記12ステップの作業を速攻でこなしていきます。
※3連装で組めば一瞬で終わるタスクなのですが、ドロワーを3つしか保有していないので単筒勝負にしました。
★フィルターを接眼部側ドロワーに装填した場合の合焦像
まずは、セオリー通りのセットアップ・接眼部側ドロワーに配置した3種類のフィルターによる合焦像を比較してみましょう。

一見すると、DBP→SV220-7nm→SV220-3nmと進むにつれて星像がシャープになっているように見えますが、これは単に透過半値幅が狭くなることにより捕捉光子数が減っている(暗くなる)だけのお話です。もちろん、どのフィルターでも不具合は見られません。
では、いよいよ「禁断の領域」に踏み込んでみましょう。
★フィルターを対物レンズ前ドロワーに装填した場合の合焦像
像が崩れる可能性のある対物レンズ前ドロワーに配置した3種類のフィルターによる合焦像を比較してみましょう。

DBPがほとんど変形していないのに対して、SV220-7nmは星像が三角形、SV220-3nmはさらに複雑な変形像となってしまいました。
推測される要因としては、DBP→SV220-7nm→SV220-3nmと進むにつれてフィルター自体の面精度(平面度)が悪いということなのでしょう。
数十層におよぶ複雑な干渉膜が蒸着されているであろうこれらのフィルターは平面度を保つのが困難であることは予想できます。もちろん前述の通り(セオリー通り)センサー近くにフィルター配置すれば問題は無いのですが、逆に言うとDBPは対物レンズ前に配置しても実用になるほどの高精度であるとも言えそうです。
では、次に焦点内外像を観察してみましょう。
★フィルターを接眼部側ドロワーに装填した場合の焦点内外像
まずは、セオリー通りのセットアップ・接眼部側ドロワーに配置した3種類のフィルターによる焦点内外像を比較してみます。

★フィルターを対物レンズ前ドロワーに装填した場合の焦点内外像
では、いよいよ3種の間で大きな差が生じることが予想される対物レンズ前ドロワーにフィルター装着した場合について見てみます。

DBPは鏡筒本体に起因すると思われる非点収差が観察されますが、他の2フィルターは複雑な内外像乱れが観察されました。
※厳密にはSV220-7nmの内外像は、納得がいきません。原理上内像と外像は90度回転もしくは180度回転したような外形の差が見られるものですが、ほぼ同じ外形をしているからです。この点については、後日追試験を行ってみようと思います。
①接眼部側ドロワーに装着した場合は、DBP・SV220-7nm・SV220-3nmともに良好な星像が得られた
②対物レンズ側ドロワーに装着した場合は、DBPは問題なしだが、SV220-7nm・SV220-3nmともに顕著な星像悪化が認められた
したがって、SV220フィルタは3nm版も7nm版も対物レンズ前への装着運用は不能だと判断します。
★お約束
①あぷらなーとは光学の専門家ではありませんので、各種解釈には誤りが含まれている可能性があります
②本テストは3種のフィルターにつき、それぞれ手元の1個体について実写したに過ぎず、個体差については全く不明です
③テスト作業中にヒューマンエラーが生じた可能性はゼロではありません。本記事の結果を根拠としてメーカーさんや販売店さんへのお問い合わせはご遠慮ください
④<重要>通常の使用においては、3種とも無問題です
⑤フィルタではなくプレート型ビームスプリッタの例ですが、面精度が星像を左右する点・センサーまでの距離を詰めると劇的に改善する点などは、下記記事で実写・シミュレーション・測定などを行い確かめています。(ご参考まで)
by supernova1987a
| 2026-03-22 10:53
| 機材レビュー
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